『未だ知れぬ法の在り処④』

『未だ知れぬ法の在り処④』




「……? どうにも、この人物が『魔法』や『魔術』やの学区の創設者みたいですが——『ロックスター・クライロリー』?」




 ついては競技を他者に教えるそのために大前提として『自分が知らないと』で、『魔法でする野球』やその『研究する学校』や、抑の『魔法とは』を深く調査の成り行き。

 女神たちで悩める少女と共に立ち入ったのが人の叡智の宝庫たる図書としょやかた

 内部では杖をかざすことで『貸し出し』や『返却』の申請をする者たちの横を過ぎても自習用の机と椅子の置かれた空間。

 その音で物言わぬ文章に包まれた静謐の最中で、本の詰まった棚の数々を横目に青年でも台に載せて押し歩いた本の山は一般的な図書館の公開資料と併せつつ今回で必要となるだろう不足分の補充が『魔法』や『魔術』に関する書物の数々。




「『彼女はまた同時にを扱うじゅつ方法論ほうほうろんを取りまとめた同研究分野の開祖とでも言うべき碩学せきがくの人であって——』……肖像画しょうぞうがもありますけど、"これ"は……」




 神の資料室から確かに初期の魔法魔術の研究家たる『クライロリー』と関連する著作を新たに複製してもらって今に寄贈で読めるように。

 当の『魔導の王』とも名高いアデスの協力も受けて持ち出し、どうにも『マジカルベースボール』を起こしたのは『ハル少女の通う学校の創設者らしいから』と、その謎めいた人物にまつわる研究の歴史や変遷を真新しい装丁そうていの本と睨めっこで探求しながらの会話。




「『髪が白』で『目が赤く』て、ような気もしますけど……まさか」

「ふむ」




 日も差さぬ地下の沈んだ寂寞せきばくの中、魔術で灯る火の照明の下。

 座席に座って読み込む青年女神ルティスと立つ横から助言のアデス。

 共に黒衣でも碧眼と真紅眼で対比も鮮やかな師弟は名花めいかの如き顔を見合わせてけんを競うようでも二者で親しき様。

 離れた場所に美神の培った検索能力の高さを活かして人へと資料の探し方を教授している一方でも探し当てた『目当ての人物』についてを師弟にて交わさん。




「それなりと時代を遡って各所に見られる魔法研究の祖は『ロックスター・クライロリー』であり——彼女もまた『わたし似姿にすがた』であった」

「……"アデスさん自身"では、ない?」

くの如きに名乗って人の歴史に記録を残した覚えもありませんから……はい」




 開いた一つの紙面では、青年が訝しいと思ったのもそのはず。

 書で残された絵にゆったりとした『黒の衣服を纏った白髪赤目の女性』の肖像があって、けれど疑われた当事者曰くで『神そのものではない』と早くもの否定。




「ですが、今では『彼女の研究実績』と『私の一つの異名に付随した伝承』が共通の要素たる『魔』の重なりにて同一視もされ、人で半ば『神格化』がされても『神の私』に近く」


「話題の人物は自身の生涯を『世に敷かれる神秘と法』の研究に費やして、次世代たちに己の見出した『文化の情報』を残した者……魔術や魔法のにとっての『伝説的な存在』であることには違いもないのでしょう」




「……伝説?」

「主要な研究としては『神を認識可能の領域へと降ろす』——謂わば『召喚しょうかん』と伝説に呼ばれる魔術的なことへ関心のあったようですが、今で力を借りて部分的にも『召喚それを可能とする青年』に記述を読まれるとは……『奇妙な巡り』もあったものです」




 その厳かな語りは師から、弟子へ。

 旅中の人助けに際しても『良い機会』と見ては先程から頻出する概念についても学習のいちとして直々に——『魔の王』から『魔術的な知識』さえもが授けられる。




「『召喚』……いった?」

「ええ。青年では『悪魔』を呼び起こす術式ですが……いった」




 力も与えた者では赤く化粧をした長爪で相手の口元に有する『黒子ほくろ』、次いで右手人差し指に巻く『輪』に指遣いを向けても触れずの暗い微笑みが言う。




「では、場合によって自分のも『魔術』と言える?」

「はい。『召喚魔術』、その使う『魔術師』と名乗っても大した間違いはないでしょう」

「……あと、今更なんですけど」

「?」

「此処に来て『魔法』や『魔術』などの言葉が出てきますが、呼び方も違えばその二つでも『意味に違い』があったりはするのですか?」

「……そうですね。簡単に神の視点から、それらの実際に使用される場面を参考として再度に定義を行うならば——『広く不思議な・神秘的な・また奇跡的な事象や力』を意味するのが『魔法』であって、それを行使する者が『魔法使い』」

「それは、なんとなく……分かるような気がします」

「然らば『魔術』とは、その『魔法』の大きな枠組みに含まれての『誰かの意図的に奇跡的なことを起こさんとするじゅつ』、故には『術の成り立つ式を明確に記して再現性のあるように取り扱う者たち』で『魔術師』でしょうか」




 若者で神秘の膜に覆われたように感じていた『魔法』や『魔術』に興味が湧いては簡単にも質問や解説やの一対一。

 先述からの笑み顔は疑問を前にしての遣り取りが正に『指導者と教え子』の適切な距離感に思えたか。

 果たして『未知の神』で内心も計り知れぬが、その実現が出来たなら『良き先生』であろうと努める神でも少なからずに喜ばしく思っての朗色なのだろう。




「……では、『魔法』は『ふわっと凄いこと』を表すことが多く、でも『魔術』は『その凄い部分や理由を分かり易く・また扱い易くした感じ』……といった?」

「うむ。この世界では貴方の認識に概ねの相違なく。双方の呼び名を包括した意味合いでは『思い描けることは全て実現可能なもの』と『想像によって式を成し、それを実際のものとして創り出そうとする試み』——正に『夢を実現しようとする』数々が広く『魔』のついて呼ばれるものでしょう」

「……つまり、『夢を叶えようとする行動』?」

「ええ。皆が夢見る広義の『魔法・魔術』は多くが『いまだ叶わぬことを叶うよう』、『出来ないことを出来るよう』にと——即ち『不可能を可能にせんとした願いの実践』とも言えるでしょう」




「またつまりは『想像できることなら、きっと実現も出来るかもしれない』と誰かの言えば」


「延いては『少なくとも想いに描ければ、それはどれだけ中途が欠けていても結果に向かわんとした式』であり——」




 そうしては『話の寄り道も程々に』と、若者と語らえて楽しい時間でも分別を忘れぬのが女神。





「『想像さえできない時よりは実現に近付けるのだろう』ということで、強く思い描いたものは『実現してやる』と意気込んで止まらねば——何れは『空想も現実となるかもしれないとの歩み』」


「平易には『夢を叶える為には先ず以って夢を見なければ』と、『意識的により良い世界を導こうとした』のが『魔術』に『魔法』といった……単に皆の心でも宿る『希望のあらわれ』なのかもしれませんよ」





 魔を統べる筈の王でも胸元から取り出す『黒塗りで何をも描かれていないふだ』のようなもの。

 儚くも『夢見る少女』のように言ってから、底知れぬ神は青年や人で求める望みの情報を捲ったページに指で指し示してやる。





「……なんです? それ? 何かの?」

「それこそは『未完の術式』——『だ見ぬ魔法』やも」

「……『魔王』のアデスさんにも、そんなものが?」

「『全能』でなければ当然と私にも見通し利かぬものがあって、しかしそれでも『叶うことなら見てみたい』と純真な心で想い願う景色はあるのです」

「……?」

「うむ。叶うなら、我が弟子にも是非と見せてもらいたい世界ものなのです」

「……何かまた期待が重そうですけど、あまりに酷いこと以外で手伝える機会があれば、言ってくださいね?」

「……うむ。『他者への気遣いを忘れず』でも大いに助かっているのです」





 ・・・





 そう、今回の目当ては魔法や魔術の深奥に迫ることではなくて『件の球技について』が主題。

 目的とする記述を示されても読み進める当時の記録で現状の好転に繋がるだろう材料として『魔法でやる野球の成り立ち』も見え、その関連性の高いと思われる箇所を前には青年でも魔の野球少女ハルを呼び寄せて確認の読み上げを行う。




「……そうしたら『通常の野球と違う理由』の締めが——『つえであるからには、重量の多い物を持てない者にも野球が楽しめるように』」


「『仮に振り抜いた弾みで物が身より抜けてしまっても、周辺の人間に危険がないようにの軽量を』——」




「……元来は、そういった意図が?」




「『先ずは野球盤やきゅうばんのような遊びから気軽に興味を持ってもらって、でも実際に体を動かすことにも興味が湧いた人などで楽しんでもらえれば』——とのこと、らしく」




 そうして、今は亡き魔術師ロックスター・クライロリー本人の口述と思しき文字列から魔法の歴史と共に一同で知ったのが——『思い遣り』の真相。





「……他にも『歩行困難な人への手引き』では『塁へ出るにも走者を特に必要としないよう』、また『認知機能に困難を抱える人へ』は『予め杖に術式を読み込んで瞬間的に球へ当てるだけでも飛距離の出るように』などと……云々うんぬんもあって」

「……?」

「……これは、まさか——"障壁のない"で『バリアフリー』……!」





 何時しか後世の人々に忘れ去られていた真実に触れると、何か青年で心に染みても上擦うわずる声。





「——とは、少し違う? いえ、違わないかもですけど、こうした『より広く範囲を取って多くなるべく色々な人にも扱い易いようにの設計』が……な、何でしたっけ??」

「……もしや、『理想として万人ばんにんにとって不便のないように』などの——『ユニバーサル』?」

「そうです! 多分、『世界的それ』です……!」





 傾げた首には、理想を追い求めて千年を超える博学の美の女神にも助けられる。

 そうしては行間や紙背しはいにきっと恐らくで『人を想う真心』が記述を残した人間たちによって込められているとも知って、水の化身で胸の奥には心地よく波立つ感慨。




「だって『成る可く誰でも公平に』、『成る可く使用にも自由度の高く』、『成る可く使用法が簡単で理解し易い』など——などとも書かれてありますし、きっとそうですよ……!」

「では、続くそのほかでも各種の原則を満たす件の球技は……『生涯を通じて取り組めるユニバーサルなスポーツ』として設計がされたのかもしれないですね」

「は、はい……! ——ぅ……ぅ"……ぅ"ぅ"……!」




 書に『そうだ』という同義の明記のなくとも個々に怪我や病や、また老化や複雑な事情などの有り無しでも楽しめる『生涯ユニバーサルスポーツ』だったのかもと思い至る時。

 場合によって推測すれば、少なからず奇異の目で見られる『神の似姿』の役割で創始した人も何か『多様な人と手を取り合える手段が欲しかった』のだろうかとも思え——しかしの今は理解しきれぬ個人の心中も闇に消えた。




「……我が友?」

「……立派です、凄いのです……そのような意図が人であったなんて——なん"て……!」

「……はい」

「そんなこと簡単には出来なくて、自分でも尚更で——それをさっきまで、少しでも『野蛮』と思っていた自分が……なんだか恥ずかしくなってきました"……!」

「……実際として『危険に改変されていた』訳でもありますから、その思いも間違ってはいませんよ」

「ぅ、ぅ"……『鉄球』の記述もなくて、安心しましたぁ"〜〜!」

「よし、よし」




 よってからには残された情報遺伝子の形式に『人々の他者を思える姿勢』を見て感銘を受けた青年が突然と泣く。

 間を置かず気を回す恩師が啜り泣く音や泣き姿を隠してくれる中で、先までは内心に競技への怒りを抱えていた者でも水道の制御弁せいぎょべんが馬鹿となったように泣いて流す水は暗黒に。

 それも何故なら彼女自身は往々にして『自分のため』で動いてきたから、本当に『誰かのため』で何かをしようと努めてきた人々に『己では到達の難しい境地』も見ては深く敬意を抱かざるを得ず。

 その『深慮』へ至るためには一筋縄ではいかない——もはや誰にも明らかとできない『多大な努力の積み重ね』を垣間見ても心が痛切に震えるからだ。





「……では、『杖の術を使ってやる魔法の野球』も、当初の思想として『色々な人が楽しめるように』との、そうした配慮があったということですか?」

「はい……はい! ——きっと、そうなのです……!」

「成る程……すると思えば、誘ってくれた先輩方から言われた言葉にも『ちょっと可笑しくて面白いスポーツだよ』、『強い力とかも必要ないから安心』、『体力も無理のない範囲で付けられれば』で……明文に継がれずとも競技と関連しての『他者を慮る精神』があったのかもしれません」





 だが、一定の安全まで導くと決めた相手を前に泣き膨れてもいられず。

 流水を気化させて己の内に戻した神速で向き直っては、最後の部員たる人で件の部活動と出会った記憶も想起したよう。




「というのも、実を言えば中学生の頃まで病弱であまり学校に通えていなかったのが私でして、でも幸いに最近で殆ど快方に向かっての高校生活」


「よっては馴染みのなかった学校生活に不安や期待で胸を躍らせ、でも中々に自分からは他の誰かへ『何かをしよう』と言い出せなかった時に誘ってくれたのが先輩方の……その奇妙な野球をしていた部活でした」




 経歴の告白を聞いては、その暫く表に出れなかったが故の『世間知らず』で『ルールの不備や鉄球のような危険性にも考えが及ばなかったのかも』と周囲で思えども——無粋ぶすいとして言わず。




「また実際として自分ではこの部活を始め、軽くでも体を定期的に動かすようになってから健康の維持ともなって……医師の診断で『改善が見られる』と言われて嬉しくなったから、そういった意味でも『運動する居場所がなくなるのが怖かった』のかもしれません」




 各位で腑に落ちての光明が見え始めた前には司令塔たる大神から状況を先へ進ませるための総括をする。




「然り。『競技』とは、その齎す肉体的なことは言うに及ばず『気晴らし』となっても精神面への影響さえ好ましく」


「参加者に要求される能力的な基準が低いなら、稀によくある『他者に打ち勝ちたい』という欲をこじらせて暴力行為に身を落とす者にも健やかな活躍の機会を与えられるだろうかが一つ」


「『運動』の魅力は謂わば『意義の提供』。失意や絶望や諦念の底に沈んで、けれど『単に楽しむこと』に救済された者も決して少なくはない」




「他で『芸術』などもそうだが、究極的には肉体の状態維持に必要のないことへ——いや、そうした『世界からの圧力と然したる関係がないこと』にこそ『解放』を感じて『己の生きる道筋』を見出せた者もいるのだ」




 その『広く人に活躍や躍動の場面を提供する重要性』を説かれては固まりも見せるのが方針。




「なら、その現実的には全員とまでは難しくとも『広く開かれた精神』を現代にも思い出して競技へと取り戻すことが出来れば……他の人々にも魅力を感じてもらえるかもしれません」

「そうして付録ふろくでは『魔導書』のような物も残されてあり……見るに其処から式を引用してやれば今に忘れられた『安全策』の数々も再利用が出来そうです」

「はい。『時と場合に応じて柔軟に、少しでも多くの皆で楽しめるようにルールを変えてよい』、『残す術式はその一案たちだ』と……やはり設計者本人でも残しているみたいですし、ご厚意に与ってはその方向性で」





「——ハルさんも、それで構いませんか?」

「……勿論です。偉大な魔術の祖から精神を受け継いで、またそれを先へ進められるとなっては……これほどの光栄、身に余って打ち震えるものと」





 何故だか『変化を肯定する意』を汲んだが故かの内容が『複雑に危険化』して要求される身体的適正も高くなり過ぎた今に。

 よっては簡略化したものも新たに取りまとめて『幅広い人の種類や層が楽しめるように』で目論む『原点回帰』に『再興』。

 場所柄に合わせては『勉学』や『探求』の最中でも短い時間で気分を変えられる、時に資料や調査研究の対象でないものとも触れ合って『程よく刺激的なスポーツ』と落ち着ける形を整えよう。





「ですので、引き続きに御協力を願えればと思います」

「……分かりました。でしたら早速、現代に合わせた『規則作り』の、その意見を私たちで出し合って行きましょう……!」

「はい……!」





 その日を使って『基本的なルールの整備』と『成文化』を、また残された数少ない日々には学生通りでの宣伝もして——。





 結果は——。



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