『未だ知れぬ法の在り処②』

『未だ知れぬ法の在り処②』




 しからば——とりあえず宣伝にせよ何にせよ。

 "助ける方法"を探すならで先ずは『良く知らぬもの』の実態を見なければ。




「最初は大人しくしててくださいよ。目立った権能も使わずに、『平均的な人』の範疇はんちゅうで動いてください」




 場所は公園と隣接して丈夫な金網で仕切られた運動場へと変え、マジカルベースボール部の人で準備をしようと一帯に立てる看板などには『五十』や『八十』や『百』を意味する数字に、他では『一死』や『二死』などの文字も。

 その眺める『打席』では一応に必要な『捕手』を安定感のある大神で自前の防具を着ても務め、屈んだ小玉体の横で此方も『つえ』を構える青年が『攻め』の順番を待ちながらにささやく恩師と話し込む。




「はい。青年の打ち方を間近に見て、『初めての打球』も必ず私で見逃しなどしませんから——頑張るのです」

「宜しくお願いします」

「勿論、仮に疾走したとて地面に神の体重おもみを載せられる訳もなく……よっては『星の崩壊』なども気にせず」




 これより師弟の二柱で美の女神を金網越しの待合席に置いて参加と臨むのは、一般に『野球やきゅう』と呼ばれる物とはおもむきの変わって——『杖』で投げて、『杖』で打っての謎のスポーツ。

 打った球を場内に置かれた立て札の領域へ入れることで得点となり、書いてある数字が付与される。

 そうして『死』が『アウト』、『二死』が『ツーアウト』ともなって三つが重なればの攻守の順番が交代。

 転がってどの表記にも至らぬまま球が静止するなどでは『仕切り直し』の『ファウル』に。

 見回す空間の高い場所や低い場所にも得点獲得の狙える領域の広さも様々な線引きがあって——要は『盤上ばんじょうの野球』に近いものなのだろう。




「……でも、本当に『杖』でそんなに投げたり打ったりが出来るものなのでしょうか?」

「疑念がお有りで?」

「はい。彼女——ハルさんで言うには『予め杖に必要な機能を仕込んで、軽いそれを持つだけでも色々が出来るように』、『振りかぶるのも強打きょうだという強打を狙う時以外では特に必要ない』」

「……」

「『杖に球を触れさせるだけでも結構な飛距離は出るから』……とのことらしいですが、あまり自分で『杖を使った術の行使』にも馴染みがありませんので」




 よっては通常の『野球』と『マジカルベースボール』を比較した時に見える顕著な差異が一つ。

 前者では『バット』や『グローブ』に相当する役割が『杖の一つ』に集約されていることについてが青年で気にかかり、人が手に持つ"棒の形"を注視しても世界を広く知るのだろう大賢へと投げ掛けた質問。




「ですからいまいち、実感も湧かなくて」

「ならば、『杖』についても多少の説明を私からしておきましょうか?」

「……それこそアデスさんはこういったことにも詳しそうですので、お願い出来れば」

「うむ。しからば一部で『魔術師』や『魔法使い』と呼ばれる者たちが特別視する『杖』とは——それで色々を起こすのは、何かその『形式』を取ることに『合理的な意味合い』があるのでしょう」

「"合理的な"……?」

「俗に『黄金比おうごんひ』や『完全球体かんぜんきゅうたい』と呼称される物と似て、『すわりのい』意味合い」

「……その『座りが良い』と何がかなっているのでしょう?」

「平たく言えば『使つかやすい』、『認識も容易』で何かと便利なのです」




 そうして世界に『冥界』及び『死』の概念を持ち込んだ魔性の王からの講義。

 暗色を基調とする地下街の朝で、人で術を行使する『杖の在り方』について。




「時に『単純であって完成の見える形』だからこそ、『更なる概念の基礎』とする其処から幾らでも各種の応用は利いて」

「……?」

「例えるなら『線』を引いて『文字』を書く。『文字』を連ねては『文章』に、『文章』を重ねて『小説』なら——いつしか其の『作品』にのが似た形で『ふで』の働き」

「……ではつまり、『先ずは分かり易い単純な物』から始めて、その『積み重ねで複雑なことも出来る』ようにと?」

「そうですよ。我が弟子は利口です。まさしく形で似たような『杖』でも、その『延長線を引いて行く』のです」




 褒められては気恥ずかしい思い。

 舗装された足場の平坦を確認するような動きで軽くほこりが舞った。




「そうして『方法』や『過程』を記せれば後は形而下けいじかで実体を補い、何らかの結果を目指す方式が『術』と呼ばれるようにで作り出される」


「また目指す結果への、其処へと必然的に辿り着かせる誘導的な要素を書き加えてやれば……何れ『回路かいろ』と呼ばれる構造も見えましょう」




「……なるほど?」

「具体的とするなら、先に例として挙げた『文章作品』もと言えるでしょう」

「『小説』などが、"術式"?」

「書いた作品もので読み手の心に『面白さ』などと、個々で言語化の難しくも微細な動きを呼び起こしてやれれば……"その影響"は例え少しでも受け手の言動に表れ、延いては世界に僅かともの『変化』をもたらす結果と相成あいならん」

「……確かに『本』を読んで学んだら、それが『教科書』や『参考書』のようなものであれば、得られた知識の実践が時に『出来ないことを出来るよう』にもなりますが——! が、『式の齎す変化』、『結果』……?」

「概ね相違なく。他でも仮に『破滅』の結果を目指すなら、『不安や対立を意図してあおるような文』が具体例でしょうか」




 語りと合わせて動作でも示される結果には、アデスで円を描くよう振り回したのが髪——『杖』に見立てるのだろう白い髪の毛先。

 その繊細が勢いよく回っては『風』を起こし、弟子声の響きを阻む先述の埃を場から吹き飛ばしても言う。




「また『筆』では当然に絵をえがく『絵筆えふで』や『画筆がひつ』でも同様に、良き悪しきは兎角と見る者に"感動"を呼び起こして」


「個人や複数で思うままを表した作品を通しても『私はこうした。お前はどう思う?』などと訴え掛け、受け手に考えを起こさせる……"行動の起点を作る"のも世に珍しくない『け』——『じゅつける』ということにも、この世界では繋がりを見せる」




「"——"、"——"」

「……まぁ。発言者や作者に必ずしも狙った意図があるかは都度で判断の難しく、悪い方に推し量っても『存在しない悪魔を証明する』ようで仕様がないからと……『気をつけろ』との注意が一つ」

「はい」

「そして、今のよう『言葉』が誰かの心に『忘れられないもの』となるのも、元を辿れば簡単な『表記』や『音』の組み合わせから『未来に多大な影響を及ぼすもの』でありましょう?」

「それも……確かに」

「そのそのほかでも昨今は各種端末機器の『あぷり、けーしょん』? ……などが単純な『ゼロ』と『イチ』の並びからでも複雑な仕組みがどうのと、結果的に『単純な形の積み重ねが多機能に至る』ようにも出来るのですから——即ちが『杖』も、そういった『様々な可能性を有する道具』なのです」




(それなら、『携帯ケータイ』——『スマートフォン』みたいなことでもある?)


(……言われて見れば形も『杖』とような気がしてきたし、思えば『リモコン』とかも手に持つ形式が押すだけで映像や音の出る仕組みに干渉できるから……そういうものだろうか?)





「だからには結論として——"出来る"。球技で投げたり、打ったりとも」


「残るは実際として物質に作用する力、総じて『えねるぎー』なるものが在ればで、その点でも皆は既に『いのち』や『たましい』と呼ばれる機関ものを内に有するのですから——『杖』はその思い描く結果に導線を引いてやる『補助』の役割も果たすのです」





 そうしては『杖』についての説明をアデスが結んだ所で頃合いも程よく。




「——お待たせ致しました。そうしては準備も終わりましたので、これより簡単に『マジカルベイス』の体験を」

「あ——はい。準備も有り難うございました」

「いえ。相談に乗ってもらっているのですから当然に——そうしては、どうぞ打席にて杖を構えてください」

「杖を?」

「はい。『個人で特別な道具を必要としない』のも、『この競技の魅力』らしく」

「……杖」

「何より自前の物の方が手にも良く馴染んで扱い易いのでしょうから……はい」

「……それなら、少しお待ち頂いて——」




『「今日の一番を選ぶゆえ」と言いなさい』




「——今日の一番使い易そうなのを選ぶので、お時間を」

「分かりました。それにしても『複数持ち』とは、羨ましい限りであります」

「あはは……すみません」




 戻って来た隠れ目の人の姿が投手の位置に着いての声。

 実技を行う場所の用意が済んでも『付近の者なら杖を持っているもの』との知らぬていで話を進められては咄嗟の笑顔も内心で苦しい。




「……アデスさん?」

「この学区では原則として立ち入りに学生以外でも『杖の登録が必要』なのです」

「聞いてないのですけど、え——そんなのも、した覚えはないのですけど」

「取り出して扱う場面のなかった故であって……けれど、『杖』のそれについても御安心ください」

「『当て』があるのですか?」

「然り。小狡こずるく不正によって誤魔化してもおらず。真面目の青年が魔法や魔術の学びへと進むような未来さきも想定して……ちゃんと私で登録を進めており、こういった時の用意もあるのです」

「でしたら早く、それを」

「はい。はい……おちなさいな」




 そうしては神で進める杖の用意。

 人に認識の出来ない時で、青年に急かされても微笑の暗黒が空間に開ける渦穴から取り出して見せる物とは。





「なるだけ『私から与えられる最高の物を』と思っては……認めざるを得ない不承不承で『こんなもの』は如何でしょう?」

「これは——『けん』では?」





 恩師を疑問の視線に見返す青年で大神から受け取りかけた杖が——いや、刀身で燃えるように凄まじく光を放って刺々とげとげしく。

 持ち手だろうの形ものが『聖剣』の表出。




「これは『けん』です」

「どうにせよ長物ながもの。似たようでしょう」

「いや、それにしても、でか——"なんかあつい"ですし……!」

「要は機能が多くさえあれば『好み』の範疇で押し通せる」




 宛ら『龍』が巻き付くようにも赤白い光炎で渦を巻いて。

 見るからにが剣。

 一見ではどう見ても、杖ではない。




「だからと言ってこれは……どう見ても『ソード』、『ブレイド』のたぐいなんですよね」

「問題ありません。の存在を人の目に映させる訳もなく。『未来予知を加速させる機能』などもあって、便利」

「なんですか、その『業物わざもの』は」




 故に弟子で思い出すと『高齢の恩師』の視力や認知機能なども心配に。

 けれど、再三に確認しても受け応えは素早く明瞭に、一先ずの今は『耄碌もうろくしていないだろう』との不安な信を置かざるも得ず。




「また見方によっては『青年に勝ち取った保有の権利がある』とも言えますから」

「どうしましょう。覚えがなくて怖いです」

「よってはこの、『ぶれいど』? ……を従わせる可能性がある者で、状況によりけりは『新たな担い手』へ進呈する物としても使ってやりましょう」

「……その、『少し重い愛情アレソレ』で……どうのと言う訳では?」

「今回は違いますよ。私が青年を思って丹誠も込めて作ったものは、これよりもう少し慎ましやかな出来栄えですから」




(あるにはあるのかぁ……いや、修学旅行の変なノリじゃあるまいし、本当にそんな物騒なものに覚えはないんだけど——いや、見方によっては今も『修学旅行』のような?)




 照覧しょうらんされては再度に見つめる神々しき炎剣で『ゴテゴテ』といかめしい暗色の装甲。

 一応に見目の良さへと興味を引かれて注視しても、持ち手などが暗く冷やして塗り固められていることが流体に詳しい川水でも見て取れる。

 また、その『奇怪な剣』の持つ性質から真実を言えば『奪う魔』の定義と比してもあながち『魔法の道具』と言い表しても間違いではないのだが——やはり青年で『球技で剣を振り回す』つもりなど毛頭なく、取らない。




「私のと比してもこれは、やかましいが過ぎる」

「……いや、でも『出来るだけ性能が良い物』を用意してくれた御気持ちは嬉しいのですが……やっぱりこれは『熱くて使いづらそう』で、ちょっと」

「青年が其処までを言うのなら私も無理には強いません」

「はい。なので、別のに——」

「己で白状はくじょうすると、こうした機会に『試運転』が目的で半ば冗談であって……ですがやはり『試してはみたい』ので此処は一つ——『美の女神』によって『ためき』をしてもらいましょう」

「——え?」





「女神イディア——"聖剣これ"を」

「『"青年と相性が良い物"を審美眼わたしでも見極めろ』と仰るなら、お任せを——"!" は……!!」





「え……? 『試す』ということは何か使が……?」

「一応です、一応。大神で『様々な未来』にも備えておくことが重要なのです」




 そうして物も手持ち無沙汰であったイディアに。

 通す渦穴から渦穴で瞬時に運ばれた柄が握られては——異彩の髪でも真紅に燃えて、熱く。





「急に何かを『勝ち取りたい』気分に——見てください、我が友!」

「な、なんです?」

「その目に焼き付けても下さい! 私の——『炎で照らす艶姿あですがた』を!」

「お……おぉ"——!!」





 目に見えて齎される効果が『戦意』の高揚。

 気が大きくなっては美神で過去に学んでいた『剣舞けんぶ』の披露。

 粒子の散る炎に照らされ、豊かな乳房に尻にももでも明らかとなる陰影のつややかに。

 円を有する持ち手に指を引っ掛けたりしたままの回転が主な動作。

 終わりには上方へ投げた刃物を地上で『バッチリ』と零さずに掴んだ静止では——流石の迫力に『勝ち取られようとした青年』も絶賛だ。




「すごい——プロの技です! 流石のイディアさん!」

「……ふっ。我が友の視線を私で釘付けに出来ました」




「……うむ。喚起かんきされた『戦いの意』で『誰より何を勝ち取ろうとしたのか』は兎角に——『麗しき破滅かみ』の手へ『神々しき破滅せいけん』も馴染んで」




「やはりこの中で一番『聖剣使い』に相応しいのが女神イディアなのかもしれませんね」

「? そうなのです?」

「はい。『水の青年』や『暗黒の私』で『膨大な熱を持つ聖剣』は上手く冷まして扱わないとですが……こと美の女神に於いては担い手に必要とされる各種制限を『無視』できるようなのです」

「……? 何か良く知らないですけど、それもやっぱり凄いことなのでしょうね——やっぱりイディアさんは流石です」





「今『サラリ』と明かされた『未知なぞの真実』……美神わたしでも愈々以いよいよもって自分で自分の才能——『無限の多才』が恐ろしくなってきましたよ……!」





 斯くしては『美の神格それについてはまた追々』とが性質を述べられたイディアへも暗黙の目配せ。

 訳知りの大神で曰く付きの聖剣に一定の効果があることも試しで認めてからに、魔術研究の場で結局は『指輪』や『腕輪』・『素手』でもが広義の魔法使いたち。

 後の青年で言われて無難な思い付きでは指輪から『水』を引き出すようにが自前の杖の形として人と相対する打席に玉体の位置を戻す。





 ・・・





「それでは——いきます」

「はい! 何時でも大丈夫です……!」




(……今の所は普通に面白だけど)




 そうして兎角は『ボロクソに辛辣を言われるほどのものか?』との胸奥。

 碧眼で『折角なら神の動体反応も見せてやるぜ』と鋭くする意気込みが、帽子のつばも麗神たちの手前で『格好付け』に直しても水の杖を構えて。




「そうなりましては杖の『硬質化』など、お好きに行使可能な魔術を使ってもらって」

「は、はーい(一応、水で出来るけど——)」





「では————ふっ"!」





「——! (きた! 兎に角、どんなものか一球は見て——)」




 投手たる人の立場でも振って行使する杖の術式が地面から球を浮かせて急の推進。

 対しては手初めとなるその一球を『人の顔を立てる』意味でも『様子見』と決める青年で——確かに緩慢に捉えられる集中した時の流れに『てつの球』は玉顔の横の高めとなる道筋コースを通過。




「……そうです。あれは、私がまだ因数分解の力に酔いしれていた頃の話」


「『全ては数で読み解けるもの』と学び知っての全能感に駆け出し、いわんやスポーツに於いてもその最適な行動や様式に型を『情報データから算出せん』として……だからにも、我が友の情熱を受け止める構えが私でこういった時でも万全に——」




 その重い質量では捕手の手中で水気の押し潰される感覚。

 水泡たちが弾ける瞬間も正しくの破裂音に似ては、けれどより速くに水の玉体へと衝撃の波が響いた。




「——……」

「——……"変わった野球"ですね」

「……」

魔術的マジカルとの名の響きから多少の差異については察しも付いていましたが……これでは、大して私も友の力になれない」




 故には黙する青年、つい今し方まで格好を付けようとしていた彼女。

 思わず女神たちの手前でも、特に恩師の眼前でまたの間に底冷えを感じてしまっての身震い。

 外から観戦していて『蓄積された知恵が青年を助けられる』と得意げだった美の女神でも、『飛来した鉄球』の様にデータ野球のデータの見直しを迫られた。




「……いい音。重量で空気が沈む……"いい音すぎません"? なんか勢い——が凄くないです?」

鉄球てっきゅうですね」

「て、"鉄球"……そんなの、貴方アデスさんでもなければ、手が」

「私は大丈夫です」




(……き、きっと『演出』?)


(『重く速く』をより戦慄的スリリングに感じさせる何か特殊な、特殊な加工でもあって……実際に触っても特に『硬過ぎて危ない』ということは……いや、でも中には空洞らしい空洞もなさそうだから——)





「二球目を——行きます……!」

「——は、はい!」





「投げます——はっ"!」





 また正しく今で戦慄して、考え込んでも知らぬものへと一応は『郷に従え』で。

 確かに腕力という腕力も必要としない握りが『硬化させた水の杖』の術式。

 二投目は念の為が『投手ピッチャーへの返し』とならぬよう、人の前に水の薄膜を張ってから『芯に捉えん』として。





「(次は——!!)」





 間もなく大きく放物線を描いた飛距離では対角の高得点領域に目掛けての飛んだ打球——守り側の魔術行使で軌道を曲げられ、『死』の領域へと向かう。




「……?」

「『死』なので『アウト』です」

「……?」

「アウトが三つ溜まれば『攻守の交代』となります」

「はい」

「それならば、三球目」




(……『術の行使』って、『マジカルな野球ベイス』って——"そういう"?)」





三度みたび、行きます——ふっ"!」





(……なら——"自分こっちも"!)





 ならば次で『そのように魔法を使っていいなら』と。

 打って攻めんとする青年でも再度に読み込んだ式の一覧から『補助推進機ブースター点火』のような水の勢いを打球に付与。





「なんと——『詠唱破棄えいしょうはき』とは、手慣れた様子に」

「("詠唱破棄"?)」

「ならばと油断ならぬ相手へは、私も少し気合を入れて——『エクスペリナントカ』」

「わっ——え"っ、なんです?」





 また球の進行でそれを妨害されて落とされそうに、いやいやとまた球の推進力を増加——次にはなんと『術者本体の青年にまで』少女が何かエネルギーを飛ばしてきた。





「え? (と、とにかく! 自分は打った球を得点の所に運べれば——)」

「『死へと去れナントカカダブラ』」

「ちょっと」

「エクス——『ペリ』、『ペリ』」

「どうして?」





 其の得点領域へ至らせるための『誘導魔術』、またアウトへと導く『妨害魔術』で二者の動く間は宛ら『突いて』・『斬る』——『魔法の決闘』が如く。





「いや、なんで——邪魔をするのですか?」

「? 普通に、そうしてもよいので」

「そう、なのです?」

「はい。それに観客のいる時は対戦相手だけでなく其処からも『妨害魔法』が飛んできたり」

「?」

「その為の『自衛』でも、杖を」

「? (——、"自分で身をまもる"?)」





 そうして魔術師的攻防(?)の両者。

 激しく立ち位置を変えては初心者で勝手が掴めず殆ど攻められる応酬。

 音の鳴り止む結果として——重い鉄球が火を吹きながら、青年の真横の『二死ツーアウト』と書かれた地面で作る埋没の様クレーター





「これで『二死にし』なので、ツーが増えてのスリーアウト」





(……ひとじゃなくて良かった)





「よっては攻守の交代となって、これを繰り返すのが基本の流れであります」

「……」

「どうでしょうか? これが『マジカルのベースボール』です。躍動感に満ち溢れていますでしょう?」

「……色々言いたいことはありますけど」

「はい。部のためにもどうか、率直な意見をお聞かせ願えれば」

「では……まず——」





 故には頑丈の玉体を持つことで『人外の恩恵』が身に染みても。

 体験を果たした頃合いに『確かな身の危険』を感じては——表情の冷える青年。

 声色も何処か冷淡に。

 率直な意見が人と、そこから離れた美の女神までも『万が一に』と水の防御で庇いながらに問い掛ける。






「どうして鉄球なんですか?」




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