『見えざる厄介なもの⑥』

『見えざる厄介なもの⑥』




 再度に歩き始めてから数分と至るのは最後の第四。

 奥へ向かう四人の二組で周囲に壁の景色が途切れては細長い道に。

 地下でも高所なのだろうか、眼下には覗ききれぬ深淵の色が満ち満ちて。





「——『そうして、成り果てる我が身を古き女神に捧げよう。さすれば相応しき器に救世のあるじが降臨する』」





 不意に立ち止まる先導の、後に続く者たちへと置く言葉。





「「「……?」」」





「"動かないで下さい"」

「それは、どういう——」

ので」

「——"!!"」





 仕上げとなる段階は闇に葬られた真実として『卑しき孤高の試練』。

 "一人は高く、一人は下に"——『埋められぬ差をあってしかるべきものとして諦念に受け入れ、他者の犠牲を省みることなかれ——フォハハ!』




「こ、これは——"地震"!?」

「——"!!" 来た道の足場も崩れて……!」




「——! 、っ……?!」





「——大丈夫です! あくまで"仕掛けの一種"ですから、この場は直ぐに収まります!」





 その危機を煽る状況へ招かれては、けれどこれまで通りに各種段階が凄惨なものとならないよう気を使うのが青年。

 彼女の発言と相違なく何らかの仕掛けが作動して分離する足場が『キャットウォーク』のようにで、騎士たちは咄嗟と身を屈めてやり過ごすも、組み替えられる地下内部の構造で二つの組には相当の距離が空いた。





「……本当に、収まった」

「……しかし、先を行っていた二者があんな遠くに——"大丈夫ですか〜〜!!"」





「——"大丈夫です〜!!"」





「"距離が離れてしまいましたが、この後でどうすれば良いのでしょうか——!"」





 青い光では上部に、盾の朧げはそれを見上げる下に。

 その変事と遭遇しては今尚に冷静さを失わぬ年長の騎士と青年の掛け合いが広大の闇にて反響する。




「でしたら実を言って——! 今の振動で『出口』も開きましたので、"自然の光を辿って頂ければ外の地上に出られる"と思います——!」

「え! あ——"そうなのですか!?"」

「"はい〜! そちらの足場で壁に隣接していると思うのですけど、其処にある人の大きさの空洞を覗いてもらえれば、もう直通で見えると思います——!"」




「……壁、壁——あ、ありました! "上に光も見えました"!」

「なんと……! ほ、本当なのですね!」




 よって接する足下は兎も角に、上も左右も物が在るか怪しい暗中模索。

 薄氷を踏む思いにもサイ=ワンが探る手に石の感触を覚え、のみならず在った穴へ伸ばす頭では斜め上方に光を捉えた視界——緊張のを照らして緩ませる日光の温度。

 元より『二人一組』でしか執り行えない試練の儀で、故にも"参加資格のない後追いの二人"では制限なき自由な出入りが可能であるのだ。





「……"けれどそして、ではどうするのですか——!"」

「"それも大丈夫です〜! 此方は此方で脱出の算段がありますので、どうぞ御心配なく〜!"」

「えぇ……それも、本当なのでしょうか……?」





 故に依然として細く頼りない高所の足場へ残された者たち。

 踏むべき最後は——"渡り廊下での試練"。





「……し、使者さま——」

「……言ったようにこちらでも進む先には出口が開くでしょうが、"一緒には行けません"」





 人の身に馴染ませる小声で虚偽なく。

 元来であれば『二人の内の片方しか生きて渡れぬ決闘けっとう』の場。

 試練の段階として『体』・『心』に——続く『技』も見て、"あん"には『世界を滅ぼす破滅の神格に寄れ』と。

 




「"貴方一人でも進まねばならぬ時がある"」

「——え……?」




 けれども今で、本来の神殿機構ならそれら兼ね備えることによって『器』としての完成度を高めんとする儀式の大詰めに抗うのが川水。

 目の前では十と少しを生きてきた中で一番の不安げに眉根を寄せる少年へ、急激に冷温を漂わせる青が状況についてを説く。




「簡単には、"外へ出る為に"遥か下で浅く張られている『水面をで染める』ような手順を踏まないといけない」

「?、? ……でも、"一緒"に?」

「見てください。こちらでも直線に覗く光——ここから"出口に続く道"では、『先に一人が渡り切ると後続の足場がなくなる』ようになっているのです」

「……"!"」

「道幅も狭く、時間と空間の細かい間隔で何か触れて『熱い壁』みたいな物が展開されては……"一人ずつしか進めない"ように」




 けれど、"これまで良くしてくれた相手"と『まさか生き残るべきを選ばないといけないのか』の重大な懸念。

 少ない年齢にしては十二分に気丈であった少年も必死に首を横に振りながら、何を言うべきか分からずも口を結んで『受け入れたくない』との安定を欠く心の働きで手指からは赤の電撃が迸る。




「——い"、いや……」

「……」




 だからには身近で『力が傷付けてしまう者』もいなくなって思うがままにさせる放散のまばゆきを背に。

 神の支援が『電撃の落ち着くまでも危ないので万が一にも騎士の方々で暫くは近寄ろうとしないで下さい』と、発声機構を友のそれと真似た美神からの警告も背景で宛先へと。




「そんな……こ、と……」

「……大丈夫です。そうした先でも自分に考えが——」

「だったら、私……"自分"が——」

「その必要もありません」

「しかし、伝え聞いたのでは『此処で身を修めれば偉大な神の力が手に入る』と……なら、それを使って——」




 原型たる神に見せない悲観の色を浮かぶ少年で、二者択一の迫る実感では僅かとも自棄に。

 しかし、断片的に彼が生誕の地で聞いた『自ずから神を降霊させる儀式』で以て"自己を犠牲"に終わらせようとする姿勢を止めさせる。




「大丈夫です。本当に」

「で、でも……!」

「驚かせるようなことを言ってもすみません。でも、『もう酷いことや嘘は言わない』と約束しますから——"信じてください"」




 その幼い憂慮ゆうりょの表情へは『それでも任せてほしい』と影ありの笑顔に言う青年。

 元にあった試練の形式については恩師の調整で心配いらずに、"これからの先を行く者"に"激励"の意を伝える。




「……私なら落ちても大丈夫ですから、特殊な訓練を受けていますから」

「……本当、に?」

「はい。不思議な力を持つことの証明は今も示したように"ちょうの付く純水じゅんすい"に電気は流れず」

「……」

「貴方の方では電気を起こすしきを、『しき』として認識する間もなく力が溢れているだけ」

「……?」

「だから原理を知って状態を俯瞰ふかんできれば、後は『使う』のも『止める』のにも必要な要素が自ずと自然に見えてくる——そうを言っても難しい話を、この短時間で覚えてもらうのも少し厳しいですよね」

「……は、はい」

「よっては一先ずに秘宝これを、貴方に授けます」




 話の中途では少年にとって"目当ての物"である秘宝も恩師から投げてもらって呆気なく。

 一応に先達からは『これも力に対処する一つであって、けれど他にも扱う術はあるだろう』とを簡単な"化学"でも提示しよう。




「……これは……?」

「踏破の報酬として奥にあるのは絶縁ぜつえんすなわち『えん手袋てぶくろ』——("厚手のゴム手袋"では?)——例え道のりが簡単に思えても、『より良き未来へ進み出した者』へ確かにお渡しします」

「そんなものを……よ、宜しいのですか?」

「はい。これで"その腕"も落ち着くでしょうし、一人でも頑張りました」

「あ——わ……"!"」

「だから、今言った最後の試練も免除です」




 しからば暴れる気を問題とせずに近付き、そっと両手へ触れてはなみの勢いも微弱に。

 優しく握って誘導してやる丸い手で、受け取った『絶縁の手袋』を嵌めてやれば——ついに赤いいかずちも失せた。

 



「……これで、もう?」

「はい。着けていれば急に溢れ出すこともないでしょう」

「あ、有難うございます……!」

「いえ。そしては『後に合流する』と約束して、新たに道を進む者へ——与える勇気に、送り出す言葉を」




 また仮に破けてしまった時の予備も『ごっそり』とで、黒衣の衣嚢いのうに入れてあげてからの『道行きを助けん』との添え言。




ちからちから


「それによって『当事者あなたが何を成すのか』、また『どう成りたいのか』は他でもない『"その人自身"が決められたらいいな』と思い……私は其処へほんの少しの助力を貸しただけのこと」




「は、はい」

「その生まれ持ったものや、新しく手に入れた物を『どう使う』のか・また『使わない』ことさえ自由に……それでも、『将来の自分が進むことの出来るみち』は意識しなければ中々見えてこないものでもあります」

「"——"」




 高さを合わせた目線に聞き手となる少年は何度も頷き、『自身の目的達成を助けてくれた相手の話す内容を忘れまい』と心に刻む。




「……そう、『将来の見通し』や『己の可能性』と言われるものは今現在の続く先にあるものだとしても見え難く」

「……」

「だから少し前の貴方が示してくれたように、我々は少しでも『今の自分が置かれている状況』を見直して、そこで自分が『何を願って』、それを実現する為には『何が必要か』を考えないといけなくて」

「……はい」

「それとつまり、『生きていく上では考えないと全く分からないことだらけ』ですから——だから、彼女たちのように『騎士団で学ぶ』のは"貴方の選択肢"としても悪くないと私は思うのです」

「はい——ぁ……!」




 しかし、何度言われても消しきれぬのは疑心。

 狭くなった足場の端から遥か下方を覗き込む青年の素振りには、居てもたってもいられなくなった少年で黒い上着の服裾を掴む動作。




「危ない、です……行かないで」

「……いえ。本当に大丈夫ですから。少し下に行って『扉を開けるための石を押す』ようなだけですので」




 その今にも泣き崩れそうな切願に対しては、苦しげにも青年で微笑みが肩に手を置いて安心を与えつつも見据える現実に身を離して行く。




「故には貴方でも『己が何者か』、繰り返しで言うように"どんな力"を持って、また『持てる物をどういう風に扱うのか』は簡単に見えるものじゃなくて」


「だからやっぱり、少しずつ色んなことを知って見通しを明らかに——そう、"その力"は『見えぬ先行きを照らす光』でもある」




 そうして口で言っても信頼に足らぬなら、己で暗中を落下しても無事である根拠の提示を。




「"貴方から受け取った力"では、にもできたり」

「——"!!"」




 目や髪に発色を強める青で、腰に提げていた水筒より弧を描いて散らす飛沫から。

 その軌跡に此処へ来るまでに蓄えていた赤の彩りを走らせ、その進ませる先の下方を『ライン状の照明』のように。

 "不純物のない水が殆ど電気を通さぬ"なら、逆を言って"適当な不純物を混ぜた流体"で電熱の気に方向性を与えた誘導光。




「新しく電気を通し易い物も加えて、下まで照らしてもらうようにしました」




 狙い通りに神殿の底を照らすのは赤と青の共演。

 先回りに恩師が見え易く設置してくれた『あからさまな押す形のスイッチ』の実在を示して、これから己がするのは『命を譲るような行為ではない』と可視化での確認。




『後は——水をいい感じにクッション、"柔らかく出来る物質やつ"をください』

『"水を柔軟とする物質"——大神わたしからの"特製"ですよ』




 他には横から暗黒の渦が排出する物を『ダパダパ』と。

 水と混合に攪拌かくはんに化学反応が柔らかい性質とし、また接した水神の腕から放つ特殊な音波の照射がそれを着地に利用する『安心安全の未知なる素材』へと変えて行く。




「そうして掻き混ぜて、下に垂らす物が——宛ら『脳の脊髄液せきずいえき』のように。クッション? ゲル?」

「……?」

「触ってみてください」

「——! や、柔らかいです……!」

「はい。作ったこれが今では下の水面にも広がり、落ちる私の身を『ふわり』と守ってくれます。こういうのも学んで得られる——かもしれない力の一つ」

「かも、しれない」

「色々な可能性があって、それでも騎士の彼女たちでは『電気』について知見のあるようですから…… 『電気』や『光』の属性なら一部の『うなぎ』や『なまず』や『シャコ』なども参考になるかもしれません」

「しゃ、こ……?」

「それらの生物たる彼ら彼女らも『発電』や『発光』の出来て仕組みの解明に役立つかもしれませんから……そういったことも騎士団に調べるのを願えば危険性にも配慮をしてくれて、きっと貴方のその性質を共に考えては助けてもくれるでしょう」

「……おねおに? の、使者さま?」

「電気を大して通さぬ我が身も『みず』のことわりとして一つ、他にも世界には力を利する沢山の方法があるのです」




『そうして女神イディアは此方に。私と共に脱出します』

『了解です』




「故には貴方でも落ち着いた時に、気の向いた時にで構いませんので自分と身近の周囲から知ることを始めて——『知りたいこと』や『出来ること』が見つかるような幸運を祈っています」

「貴方は……そこまで私の行く末を考えてくれて」

「……そうですよ。決して考えなしという訳ではないのですから、貴方を悲しませないためにもちゃんと行って、ちゃんと戻ってきます」

「……絶対、です」

「本当の本当に絶対としてみせます——それに内緒で実を言うと、此処での試練を見守る務めが終わるまで『怪我をしない加護』を貰ってますから」

「……」

「それで無事に一度落ちて、通過の判定を貰った後に戻ってきますから」

「……はい」

「どうか貴方は安全な此処で……待っていてくださいね」




 慈顔じがんを浮かべては、予測し難いことの連続に足腰の緩んで座り込んだ少年の眼前で後を引くよう——。





「それなら怖くないように『貴方が目をつむってる間に用を済ませてきます』ので……"指切りの約束"を」

「……指を?」

「"固い約束を交わす証"として重ねて……『嘘は言いたくありませんので言わない』とも誓います」

「……嘘ついたら『バカヤローーッ!!!!!』ですよ?」

「え、なんですかその言い回しは……でも、嘘にはしませんから——」





「それでも、やっぱり——"大丈夫ですね"」





 軽妙な口を人の耳に置く微細な水の残響としては——指を離した瞬間の投身ダイブ





「っ"…………?」





 するも、着水の音は聞こえず。

 様々な結果を想像して目を開くのが怖くて強張る白黒の少年に。





「——はい。"大丈夫"でした」





 すぐ様に掛かる声が目と鼻の先から、上に残る重い恩師に踏んでもらっていた縄なりで息一つ乱さず。

 平然と上がってきた笑顔が、恐怖を上回る期待で開ける瞼の前に戻っての姿として健やかにあったのだ。





「——"おねおに"の、さま……!!」

「それは別に名前ということでもないのですが……とにかく私で最後の仕掛けは起動したので、もう此処に用も——」





『では、周囲で遅れて潰れるような者たちも避難誘導はとうに完了しましたので——"爆破"します』





 斯くして、役目を終えた判定の遺跡では『二者択一の通路など知るか』と。

 最後までを進んだ二者の側でも闇によって壁が崩れて、いつの間にか差す晴れた空よりの日光。

 大神で適当に触れた箇所を爆弾と変えての指押しが『血濡れの仕掛けが再発見が出来ぬよう』の爆破で、大きく地下世界も揺れに崩壊を始めた。





「——!? また、地震……!」

「しかし、まだ中には護るべき人が——」





「あ——"もう成すべきも済んだので大丈夫です! とっとと脱出しちゃいましょう!"」





「そしたら、カテキンさんは私で運びますね」

「は——は、はい!」

「これも試練を監督する者としての事後補助アフターフォロー。舌を噛まないようには歯と歯でしっかりに口を閉じて」

「——"""」

「そのままの調子です。では、少しおからだへと失礼をして——行きますよ〜!!」

「——"!!"」





 そうこうしては『出口まではすぐだから』と美神の模倣声と背丈でも似た擬態の走る身振りが先に騎士を行かせた。

 残るは立ちあがろうとしても足に震えが残る少年は青年で脇に担いで『絶対に離さぬ』とし——跳び上がる水の軽快な脱出劇が転瞬に昇りのりゅうとなる。





 ————————————————





「——ぅ"〜けほっ、けほ……思わぬ遺跡探索でしたが皆で、無事ですか……?」

「……無事です」

「……セノビちゃんは大丈夫で、他は——」





「——いや〜大変でしたね〜!」

「……び、びっくり、しました……?、?」





 点呼のように安否の確認を取らんとの騎士姿の前で、少年を地に立たせてやる青の姿もあり。

 深刻を緩和しようとの苦笑も、衝撃に巻き上がった埃を湿気に落としながらで冷涼気楽。




「そしてそして! 更に此処へ来ての『隠していた真実』を言わせてもらえば——皆々のお陰様で私も御役目御免」


「試練をちょっと適当に調整しながらも任が無事に終わって、晴れて『自由の身』となれました。は、はっはっは! "地縛じばくどうの"も今日で終わりに気分がいい!」




「……その『解放のため』で我々を奥へと好意的に案内していたのですか」

「そうです。手間を取らせましたね」

「……ですが、危害を加えるようなこともなく。終始で親切に怪我人が出ることもありませんでしたので咎めることも、然しては」




 風もあれば日の明るい恩恵も身に有り難く感じる時で一連の出来事も落着に向かう。




「……それよりかは、我々騎士団からも貴方に礼を言わねばなりません」

「礼を?」

「結果として『探す少年の手助け』を、見れば力を抑える物まで入手を手伝って頂き……難しくなるかと思われていた事態を見事に丸く収めて頂けました」

「いえ。己の利益のために動いていたら結果としてそうなっていただけなのですが……それでも、力になれましたのなら幸いです」

「本当に有り難く。また問答で奇妙に触れても『護るとは何か』の思索へ浸れもしました」

「そうですか?」

「はい。確かに、『移り変わる世界で永遠の繁栄がない』とするなら『其処で肝要となるのは何か』と……『完全なくして万民の安寧や幸福は如何すべきか』と、帰ってからも我々で議論の種に出来そうであります」




 場合によっては『器を完成させる儀』に"血も流れていたかもしれない"後の終わりが爽やかだ。




「そして僭越にも、つきましては貴方で知見も豊富に……何より力や動機のありますようで」

「?」

「それならばと、宜しければ我々『護教騎士団に身を置くこと』を一考して頂ければと思いもよぎったのですが……無理強いのない任意でも、どうでしょうか?」

「……でしたら、実の所で自分は欲の深い方でして『高潔な騎士』というがらでもなく」

「……」

「ですので、お誘いは大変に嬉しくも……それに自分は聖地での役目を終えたとはいえ、未だこの土地に思い入れのある存在でもありますので——今回は、此処で」

「……分かりました」

「明確な返答については、もう少し久方ぶりの外を見て回ってから、その後でお答えできればと思いますので……騎士団のある都市も場所は聞き知り、次の機会に」

「はい。何時でもお待ちしています」




 そうして在野への勧誘を断り、グラウピアに向かうだろう帰還の足取りを見送ることにした青年の手前。




「——で、でしたら! あの……!」

「カテキンさん?」




 遂には"別れの気配"を感じとる少年も何かを言わんと踏み出してが小さな口を開く。




「……どうしましたか?」

「その、私の方では『ごきょうの騎士団?』……初めに言われていたように其処へ向かおうと思います」

「……はい」

「貴方がしてくれた助言にも従って……そ、そういう感じ、です」




 それ、正面から目を合わせるのも何か気は恥ずかしくて。

 故に逸す顔が縦の白い巻き髪を向ける者で『暫くは騎士団に身を寄せよう』と幼いながらにも考えた将来の展望の告白。




「……いいと思います」

「……」

「渡した手袋によっては大きな都市で多くのものと触れ合える機会も訪れるでしょうから……その中で少しずつ、『貴方は貴方の生き方を探していく』のも立派な進路だと思います」




 その切なげを察しては、"それでもずっとは一緒にいてやれない者"。

 だけど『嘘も言わない』と誓ったから、真実の本心からが別れる人で前向きとなれるように後押し。




「……それでも貴方は、別の所に?」

「……はい」

「……また、お会いできますか?」

「できますよ」

「——"!"」

「言いましたように騎士団の所在地へは私で訪れる予定がなくもありませんので、きっと会えます——『一度は会いに行く』と"約束"だってしちゃいます」




 少年の反応で辿々しくも本心は『また会いたい』とだけ?

 語るのも野暮だが小さき人は此処でのさよならが寂しく、『もっとお礼がしたい』と言いたくても喉から出なかった複雑の心境へは——青年の方から次の機会を『今度こそは』と平和に指切りしての交わす証。





「……はい」

「約束」

「約束、です」

「誓って……そうしたら、そろそろと私も主へと成果の報告に出ねばなりませんから」

「…………気を、つけて」

「……はい。気遣いも有難うございます。貴方でも無事でありますように」

「……」

「後は騎士の方々と向かうにも行きの水に食料も、これ。試練の参加者に渡す用の余り物を貴方にあげますので、好きな時にお召し上がりください——涼しい地下に補充していた物なので、腐ったりもしていませんからね」





「……色々と、有難うございます」

「いえ」





「……」

「……」





「……では」

「……はい」

「使者さまへ……さようなら、です」

「……さようなら。また会える日までの——いえ」





 振る手では一時的にも若人の進路を見守った心境で、今回は青年が恩師の立場のように苦しく。





「貴方の行く道にも——末永くの幸福を祈っています」




 

 間もなくは暗い心根で離別に際して要らぬ湿度も醸し出してしまう前に。

 宛ら冷たく透き通る風のように去る者は横に付けていた三本角トリケラに突っ込んで隠す気配。





「あ……——」





 騎士と残された少年でも今の今更に思えば『確かな名前を聞いてなかった』と後悔にも——誓ってくれた『また会える』その時へと、"新たなる希望"を胸に抱いて。






「あ——っ! "ありがとうございましたーーー!"!"!"」






 もはや手袋でも気兼ねない振りと感謝の様に、漣如れんじょたるでも曙光しょこう門出かどでが世界に見送られるのであった。




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