『女神サーの姫は彦?⑤』

『女神サーの姫は彦?⑤』




「……ならば、『我がほのお』で生地きじくのに使って頂けませんか?」




 それでも、食に適し難いグラウのような者もいて。

 鎧姿に佇む彼女は『自分だけ特別にしてもらうだけでも気は引けるから』と、自らの"銀炎の尻尾"を『料理に使ってくれまいか』と差し出す奇妙の提案。




「『破壊神格わたしの力で』のも……"役割それ破壊それおもむきのあって楽しい"のですから」

「そ、それでしたら、お言葉に甘えて……」

「はい。どうぞ遠慮なく、使ってやって下さい」




 その燃え盛る厚意によっては本来ならば一時間ほど掛かる加熱の手間を神秘の力で短縮し、『親子でも観られる場面を体験という形ではどうか』と地母へ言った青年。

 半端で不安な心持ちを抱える彼女自身も調理を通して皆に笑顔でいて貰えるような心配りが出来て、その実感する今の表情では自然と浮かび上がる笑顔に。




 ・・・





「——では、どうぞ遠慮なく頂いて下さい」





 一通りが完成しては、自然と皆の分もで交流。

 今回で助けてくれる者たちの分までも用意し、身を近くしては気まずい距離感にも複数で分けた机の上に其々で膨化食パン饅頭まんじゅう餡蜜あんみつやの甘味も自由に食べ放題として振る舞う配慮。

 また飲み放題の冷えた清水きよみずを注いでは各位を用意した歓迎の席へと案内に気遣う青年。




「見たか、女神。あれもまた、"自らに流れを作り出す河川かせんの如きが在り方"だ」




 よっては遠巻きにされてから呼び出しに寄らんとする古き者たちで、ウィンリルとグラウに囲まれるアデスも鼻高はなだかには自身の教える子の自慢話。




「理不尽に流れる世にあって、あらがいつつ皆の安らげる場所を守らんとするのが川水。正しく"渡りの先導者"よ」




「大してえん所縁ゆかりもないいのちを背にして、『それでも退かぬ』と震えながらにも身を起こしては……云々うんぬん

「"うんぬん"……?」

「例え私のような神へおそれても、"恐怖を抱えながらでも他者を想って踏みとどまれる"、『自分でなくとも誰かの幸福がために』と困難の渦中へ踏み出すことさえ出来るなら——ついついに映す眼差しを向けて、の中央にえたくなってしまうもの」

「……俗には『主役しゅやくの持つ補正ほせい』なるものでしょうか?」

「そう、宛ら魔の視線それすらも魅き付けるような力。故に私の手元に置いても、我が都合の良し悪しに関わらず世界で物語を動かす者——物語を"希望的な前進"に向かわせんとする者よ」




 しみじみにふける思いに瞑目となっては席に。




「"私には持ち得ぬ何か"の、しく——。私だけでめて、でも……"してはいけない"?」

「これまで見せた"同好どうこうへの歓迎"から急遽きゅうきょに"拒否の姿勢"へと転じられては……最早もはや、それは"わな"ですよ」

「……難しいのですね」

王剣おうけんという刃物はものを持ったまま言うのも何か恐ろしく、雰囲気のある……使わなければどうぞ、お返しを」

「いやはや『青年の同好会』が"世界の最大勢力"となってしまうのかもしれませんが、それでもしんに有する思想の違いで有事に於いては対立もまたあたうのでしょうから……うむ」




(……あっちはアデスさんに任せて大丈夫そうかな?)




「そうしてはあんみつあんみつもありますよ——女神グラウでは本当に眺めているだけでも構わぬのですか?」

「【^-^】」

「では、食を楽しむ神の姿を見せてやろう。『頂きます』と皆で年長に気を使わせては私から第一に。貴重の様を存分に其処で楽しむと良い——美味おいひいです」




(多分、大丈夫そう)




 だから、そのよう大神を中心とした年長者たちの輪が机の一つに移って物に手を付ける様を捉えては、改めて自身の身近に向き直る青年。




「そうしたら此方の皆さんも、是非に召し上がって下さい」




「レイママさんも、どうぞ食べて頂いて……のちほどまた落ち着いた時に感想などを」

「! は、はい!」

「それに用意も、お手伝い頂いて有難う御座います」

「いえ、感謝するのは私の方こそであって……果たして女神の御目おめに適うといいのですが」

「……きっとあの方も悪いようにはしないと思いますが、一応に自分もその辺りで伺いは立てておきますので——今は少しでも安心して、お食事を」




 レイママへは盛り付けた小皿を手渡して実食を促し、残りの女神たちへ向ける意識にも開幕式で互いにお目見めみえしたとはいえ改めての『ご挨拶』と『お詫び』も兼ね、此処に再度が歓待の表意へと向かう。




「そうして、ちゃんとした挨拶は初めてとなる女神の方々にかれましても……御迷惑をお掛けしました」


「元はと言えば『自分が頼りない』ことは今回の一因としてあって、"その誰よりも頼りない様"が結果的に周囲を刺激する形で巻き込むことにもなってしまい……責任を感じている所存であります」




「ですから、その節は本当に——申し訳なく」




 予測しがたい結果の遠因であって青年にの在り処を問うのは酷でも、事実として『関係者』の心に責任感で下げる頭。




「……いえ。川水の貴方こそ此方の地母に殆ど一方的に好かれ、振り回される形でありましょう」

「……大神からの圧を軽く、配慮もしてくれた」

「ええ。女神ヒキの言う通りにも貴方は『場をなごませよう』と歓迎の意で馳走だって用意をしてくれたのですから……寧ろ『お心遣いも痛み入る』ものと我々も責める気の毛頭なく」

「……暖流だんりゅうの如く、染み入る」




 すると頭を下げられた二者でも、同様は低頭ていとうの動作に。

 背丈も青年と近しく。

 仕草に垂れる長髪は片や黒混じりの『赤』と、もう片や黒混じりの暗い『青』で何方も若々しく。

 当然の如くで麗しい彼女らも場の最年少たる青年へと謝意も表し、下げあった顔でもらちが明かないと視線を上げた者たちは見合わせる微笑がこの場を一先ずに収めても、浮かべ合う苦笑い。




「……そうまで言って頂けると本当に、助かります——そうしたら、お名前は確か……」

其方そちらの二者は女神『カノン』と、同じく女神の『ヒキ』であります」




 青年の横でイディアが補い助けようとしてくれる支援も受けつつ、共通の知神としての彼女から互いを簡単に紹介する場も此処で改めてに設けられる。




「では、イディアさんの……お知り合い?」

「はい。前者で主に"火山の神格"は学生時代の同級生で、共に『美術』などを学んでいたり——後者で"みずうみの神格"は以前に訪ねた時は間が悪く不在のようでしたので、私もこうして直接にお会いするのは初めてです」

「それはまた……改めまして、どうもこんにちは」

「そして此方が川水の神格。信仰を捧げる人々に名を『ルティス』と呼ばれる"我が友"」




 各位に固有の名称を美声で呼ばれては再三に辞儀を。

 続く真っ先にはイディアの作った流れで女神カノンとの名を持つ赤髪が、青い年に話題を持ち掛けてくれる。




「では、貴方が……"例の"」

「?」

「私で以前から評判も聞いていました。美の女神曰くで『共にいることが冒険であり、しかして同時に心の落ち着く場所』とすこぶる評価も高く」

「ど、どうも」

「非のなくとも詫びようとする物言いでうそを嫌い、その正反対の神とは真心まごころのある——で。『偽りのない真実を探す女神』が貴方を気に入るのも分かるような」




 その神、この世界で『火口』から転じて『大きな筒』は『カノン砲』の語源でもある有名火山の化身——手指の一つにリングを嵌めて、その実が過去に"人を愛した既婚"の身。

 "それゆえに"だろうか。

 共に"人への愛"を有する『カノン』と『青年』の二者は出会って間もなくも、その営みに興味がある者として波長の合う感じ。

 印象の肌に共振を知り、後者の青年が見せた前述の周囲を重んじる対応からも"助け合って支え合い生きて行く人々"を思わせ、温もりのある赤の眼差しから好感度は高く。




「そうして、行いが『人の守護者』とも聞いて立派と、個神的にも"話が合いそう"に思っていました」

「そうです。我が友は『人の都市を護る者として対象の色々を知っておかねば』と殊勝に、それなら『人の言う概念を調べる女神わたし』とで共に"人間を学んでいる"所なのです」

「でもそれなら、美の彼女との付き合いで妙なことに巻き込まれていたりはしませんか?」




「? いえ、特に」




「というのも昔からイディアはこのように。方々を行っては一言目にも二言目にも、寝ても覚めても『美の探求』。私が出会った入学のあの頃もそうで……けれど当時の姿は『おさげ』で『瓶底びんぞこの眼鏡』でありましたね」

「……何だか暴露ばくろされるようで気恥ずかしいのですが、あの頃はあれが『正体を隠す学生』として『美的びてきにも最適』と思っただけであって」




("学生時代"の……イディアさん)




 空想の中では今の美神にまことの知る制服を着せて、その青年が物思いに絵を浮かべるそばで偶発的にも起こったのが今や二柱だけの同窓会。

 彼女らで過去を想っても、歳を重ねた"かつての女学生"に枯れぬ話で花の咲く。




「"美の女神が美術の成績で進級が危ぶまれた過去"もありました」

「だって、納得のいかない、"自他を偽る"ようなのもどうかと思い……なんでしたら今だって提出した物の全てに納得はいっていません」

「相も変わらず求道者。けれど見目に関しては最後に会った時から背丈の小さく、でも胸は大きく……え——今日のそれ、"相当大きいほう"では?」

「そうです?」

「そうですよ。傍目はためには顔よりもで、これは……私でもかつての学び舎時代に見た覚えのないくらい。あの時だったらまた絶対に制服が入ってませんでしたね」

「いや、ギリギリは……潰す要領で何とか。きっと入ります」

「……何時ぞやの休み時間に"サイズの上がったそれで制服が弾け飛んだ時"はどうしようかと慌てたのを思い出します。あれぞまさ爆発的ばくはつてきの、あの衝撃を前にしてはこれこそが『ばく——」

「——わ、わ〜〜"! 我が友の前でそれ以上は! 私にも『頼れるお姉さん』の立場が……!」

「その点でも"奇異の神"。微細な点も含めれば姿とは……我ら老いを知らず、時に『不変』の象徴だと言われるのに貴方はこうも変化を見せ——」




「かと思えば何時だってにあるのですから……まったく、今日も色褪いろあせることを知らないのですね。美神あなたは」


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