『vs古き女神たち⑨』

『vs古き女神たち⑨』




 その終戦から間もなくの後では、双方も気楽に。




「——……これにて大丈夫でしょう。綺麗な背姿せすがたも私で確と隠しておきました」

「……すみません。自損した物までつくろい頂いて、恐悦に存じます」

「苦しゅうない」




 アデスからは膨張の力に弾け飛んだグラウの下着を補填し、艶冶えんやに輝く背を塞いでは装いの破れても自動に次の出てくる予備も付けておくとする。




「…………」

「…………(——ま、"まずい"……!)




 また一方、流れで馬乗りとしてきたウィンリルへ。

 取り押さえる必要もなくなった今で緑の女神が上から退いてくれても、沈黙に気を揉んでいるのが青年。




("この状態"で、女性が……"胸が近くにある"のは……っ——)




 女神と横に仰向けの休む青年で、"奥義を使った後の反動"か。

 凄まじく情動も敏感に内心で荒げる息。

 なれど、その競技中で意識に蓄積された乳揺れのダメージは幸い(?)にも勝利を告げに場を戻って来てくれた美の女神イディアの方へと集中。




「——"我が友"〜〜!」

「(——い、イディアさん……!)」

「やりましたよ〜! 勝ちましたよ〜!」

「っ、っ"……(これはこれで、まずい……! せめてあと数十秒すうじゅうびょうを待ってくれないと……す、きに——)」




 上々の勝ち星を喜ぼうとして近寄ってくれる笑顔にも昂奮こうふん

 共に難局を越えて、後引く戦後の高揚でも狂おしく。




「イディア、さん……イディアさん……♡(——す、"好きになってしまいます"、"もっと好きになってしまい——)」

「? 大丈夫ですか、我が友? 何やら目に"情熱的"のような——……はっ! まさか"今の装いを気に入りに"? ならば撮影の後にも買い取れますでしょうかの確認も……」

「す、……♡ す——き焼き? す、す——ステーキ、好き……?」

「祝勝の献立ですか? 我が友の用意してくれる物なら、何であっても口で悪いことはありませんが……」




 目に見える髪の色彩変化も温かな黄や緑に安心を与えられて嬉しく。

 一挙手も一投足も、延いては相手の存在そのものが鮮やかに甘く感じられる反響。

 今にものを成し遂げる闘志を使い切った青年で『無事でしたか』・『お怪我はありませんか』とも、友神の健在に喜ぶ心が震えの止め難く。




「——いえ。単にこの者は疲れて上手く舌が回らぬのです」

「女神アデス」

「因りては私に、お任せを」




 色めき立つ弟子へは、駆け付ける恩師の沈静化。

 瞑目に、ただ口角を上げただけの光なき暗黒微笑が迫る。




「っ"、っ……(今度、何処かにでも……♡ いえ明日あす今日きょうにでも……)」

「今日のおくすりですよ、我が弟子。頑張りました。偉いですね——"私の前で私以外を口説かないでください"」




 余所見をされても気に入らず。

 黙々と操る白髪から身動きの困難な者へ、口に含ませる虚空こくうの如き不可視が安定剤。




「……っ(す……てき、今夜こんや——だ、だめ……)……っ♡」

「自制ができても本当に見上げたもの。ですがその通り、まだ駄目ですよ」

「ぅ、ぐ……"!" ——はっ! 有難う御座いますアデスさん。ご迷惑をお掛けしましたイディアさん」

「……」

「相手のかたは……ウィンリルさんも大丈夫でしたか?」

「そうして立ち直っての開口一番にすることが『先に他者をの気遣い』か……ふふっ。悪くない」

「?」

「しかして其処なる女神にも傷の一つさえ見て取ることは出来ず、ご安心されよ」




 保守点検されて立ち上がった後では、暗黒の言うよう直ぐに。

 やはり殺し合いでなく"遊興の仕合い"でもあったから、『思うままされよ、されよ』の恩師に許可を得つつ打ち負かした相手の心配へ参る。




「……だ、大丈夫でしたでしょうか? 女神ウィンリルさんも、怪我などは……」

「……」




 首を傾けては、天を仰ぐ女神へ。

 垂れる髪を掻き上げつつ控えめに覗き込んでくる青黒の少女。




「……水の程度で私が傷を負うと?」

「あ、いえ……お節介でしたら、すみません」

「いや、そうでなく。何よりは川水あなたの方こそ奮闘で身もしなびた様子でしたから……私の方を構う必要もない」

「……?」

「先に話していたのは美の女神へ、其方の彼女へ気を使ってやりなさい」

「は、はい」




 対しては一対一で競技の時空を共にしたウィンリル。

 "丈夫さでも遥かに上を行く私の方は本当に大丈夫"として、少し彼女の方からも何やら"妙な青年の疲労"を察して気遣い。

 "問題ないなら引き続き友と喜びを共有してやれ"とも手を払い、素直に応じる青年でお辞儀をしてから美神の方へと去らせて行く。





「"ちましたか"?」





 そうしては敗者の姿、気の抜けて未だ立ち上がらぬ女神へは大神からも言葉。




「……"落ちる"とは、まさか例の——」




 応じる側では"気を許す"ことの『陥落かんらく』のような意味合いと、今し方にあった格の『零落れいらく』の何方どちらか。

 若しくは"何方も"で二重に掛けた意味なのかを確認しようとして——けれど、口で上手く表意の出来ない"制限"の感覚もあり。




「ようこそ、女神。『同好会』は貴方を歓迎します」

「……」

「今なら会員番号の一桁代ひとけただいに入れてやらんこともなく。因みに"一番は私"。一番初めと最後に挨拶を交わして、もっとものときを注がれる一番」




 勝利へ導いた自分でも正に、自らの教える川水が殆ど金星を勝ち取っても勝ち誇る美少女。




「そのよう"落ちる"、謂わば『知りたい』のとは質感が違って……なんですか、"切り替わるアレ"」

「口外も厳禁です。既に呪いを刻ませて貰いましたからね」

「いつの間に、先から魔眼まがんの恐ろしく。戦いの中で気に掛けてやったのにその仕打ちは……まぁ、"故にも負けた"のですが」

「"……"」




 無言でも誇らし顔がうるさい。




「他にも幾つか気に掛かることがあったのは事実として」

「……」

「『狂気』や『執念』に『鬼気迫るもの』。"暗黒何某あんこくなにがし流々りゅうりゅうどうの"と、アレやソレや」

「……"あの者についてを知りたい"と?」

「……『危なげがある』のか、『ない』のか。"その不安定な影のある様子"が補正式わたしで僅かとも気になりだした次第であります」

「……仮に『深く知る機会を欲しい』と、そのよう申し出る気であれば必ず私を通すのです」

「……承知いたしました」

して知るべし。無断に取れば容赦はしませんので」




 そうして『相手を知りたい』との始まりへは口煩いのも少々に、競い合った者たちで爽やか。

 余裕のある者たちで『やいの』と会話に遊び心も残しつつ——それでも真面目に事の取りまとめだって出来るのが『大神』なる"万能の生き姿"であって。




「……うむ。しかし、"乗り物を破壊する"までは度が過ぎたかもしれません。本番で脱出に手間取るなどすれば流石に危険でしょうから……弾丸や装甲へより安全で特殊な素材に、加工を」


「また『指定外の武装の持ち込み』も殊更ことさらに厳しく。あくまで今回の我々は銃器以外を『自前の素手』と通しましたが此方も危険性が予測し難いこともあり、事前の厳正な確認手順を徹底するとして——」




 などなど『改善すべき点』や『要注意事項』を浮遊する端末で『報告書』と書き、書き。





「——そしては此れで『戦争の道具は戦争の為の道具でない』と示せれば、私や青年でも御満悦でしょうから……うむ」





 結果。

 銃撃の競り合いは遊びであっても勝利は勝利。

 勝ちを得たのはチーム——『ダーク・X・フォース』。





「……では、我々でも、もう少し休んでから絵を撮りに行きましょうか」

「はい。"この衣装で"、ですよね?」

「そうです。私で我が友と肩を並べた記念を残しておきたく……思えば私で全然撃てていませんでしたね。前線は我が友に任せきりで」

「いえ。それでもイディアさんで"的への命中率は百パーセント"のようなものじゃないですか、凄いですよ。自分なんて当たりという当たりは皆無のゼロでしたから、本当に——」





 謎多き彼女たちで世に歴史と力のある高位を破った事実は示された。

 よって、魔王に率いられた新進気鋭の女神たちの評判にも一層の火は付き始めて——残りの二ヶ月に『代表の神』を決める競走レースは続くのである。



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