『vs古き女神たち⑦』

『vs古き女神たち⑦』




 然り。

 青年で身に染みて知る『人の肉体』と『水神の玉体』は何方も"主要な成分は水"であったから、高位の神より遥かに落差は少ないだろう。




「"————"」




 空間に待ち受けていた青で柱の如く立ち昇る闘気は纏う粒子で泡の弾けるように——秘匿された場での"秘奥義限定開放"。

 淡々に切り替わった色味は温和な青年をこの短時間に『競技戦士』と変え、髪の裏地と瞳で紺碧は幻想的に。

 目付き鋭く、胸を平たくする今では『美少女』であっての『美少年』のしゅも乗せて、元はの男子高校生。




(——"攻める")




 迷いなく握る両手の二丁で弾丸を吹きながら敵に向かう疾走。

 先から言うように強大な光の神二柱に手を焼いて残る高位を仕留めに来れない暗黒——その恩師に代わり、今で役を担う『刺客』の姿が其処にはある。

 青年にとっては馴染みのある暗闇の中、更には配慮しなければならない要素を極限まで削られた状況が一対一いったいいちに促す専心。




「——っ"っ"!!」




 今や敵の神格でも弾丸を無力化する乱流のような障壁はない。

 故に攻め込まれる側となったウィンリルで『回避する』か・『的以外で被弾する』かの二択に即座で選ばれた防御行動が頭頂の的を隠す腕となって現れる。





「"——!!"」

「くっ"————」





 被弾面積を減らす為であろう構えには体の軸を逸らして斜めとするようの駆け付け足。

 その青く尾を引く光跡と向き合っては、対する女神も急ぎで迫られる対応。

 未だ目眩の感覚が残る身を押しながら、更に撃たれる腕や肩で揺さぶられながらも。

 緑の麗神は放棄した装甲の後ろに倒れ込みつつも滑り込み、遮蔽物とした其処から剥ぎ取って手にした小銃に弾丸装填の間。

 弾幕を張りつつ追走で迅速に回り込んで来た青年に対しては、見せ付けるように衣服の前面——開閉機構を下ろす動作が晒したのは女神の胸元。

 身振りを大きく、胸の大きく。

 その実に収納ともなっていた谷間から隠していた拳銃を取り出して。




「——」

「————"!"」




 だが、間もなくの反撃で発砲をしても。

 軽く銃弾は手で後ろへと逸らされ、目を見開く驚き——今で青年に示した『乳房の揺れ』や『胸の強調』に

 よっては思考の早いウィンリルで"川水が以前に見せていた女神の胸に執着の所作"は『この機を見越した暗黒仕込みの演技フェイクなのか』と推し量っても隙はなく。




つめ——"きば"をっ、隠して……!」




 今に取得された情報でも補正の暇を与えぬ流麗の動作。

 確かな真相は兎角に事実として顔色一つ変えずに次を撃つ者が、平時の穏やかな時は優柔であった青年。

 現在では『暗殺者』のようにも勝利もくてきを見据えた冷徹の面構えで攻め立てる。




(今は楽しむ、楽しんで構わない時に己で出来る全てを——"全力でってイディアさんを守る"!!)




 "何故に生きているのか"・"何故に競っているのか"をはじめ、状況が分からない面も常にあり。

 けれど、今は『友の美神を守る』——延いては『その為に此処で襲い来る敵を仕留める』と目的意識の一元化いちげんか

 内でまし、まして。

 緑の回転して避けつつ起き上がりながらの反撃を、腕の交差が弾きつつ突進して距離を離させず。

 迎え撃つ的への射撃は身を急速に落としての滑り込みで対処しながらに接近。

 寄っては斜め上に自身と同じよう生物発光で暗い周囲をほのかに照らす緑の発色を捉え、絶え間なくの射撃をその掲げる的に目掛けて。




「——ッ"!」

「、——"!!"」




 けどしかし、追われるウィンリルでも冴える判断が敢えて青年に自ら身を寄せて行くことで予定を狂わす。

 きめ細かくたまほおに自ら率先して弾と銃本体へ肌をかすらせて行く程に前傾。

 懐に潜っては直ぐさま的に向けようとする小銃抱えの腕もしなやかに——怯まぬ対応の青年でも敵の腕ごとひじの内側に抱え込むようにして弾道逸らしの乾いた音。




「"斯様な細腕"に——抱え込まれるとはっ……!」




 直線の位置取りを曲げられてはウィンリルでも掴まれた腕を引き戻そうとする動き——それを青年で顎も深くして逃さず。

 掴む側で空いていた片手の銃で狙わんとすれば投げ出すような腕の大振りに転がされ、しかし即座に距離関係を戻す後転からの立脚が速い。




「"——"」

「ッ——ぐ……ッ"!"」

「——、——、」

「ッッ"——ッ"!」




 転瞬の立ち上がりにて敵の目前に背面を晒した格好でも肩越しに真横で捉えた小銃を殴り飛ばし、武装を手放させる。

 そうして敵の手持ちを拳銃の一つとしては、振り返り際に蹴り離された自身でも右手の放つ連射を敵の銃持じゅうもちの手に集中。

 残る左の射撃にて的を狙う分担とすれば——『撃ち合っては手数の少ない』と見て近接格闘の起こりに回転蹴りが飛来。

 その旋風の起こすような軌跡は上体を反らして避け——からの続けて上から振り下ろされた拳を交差の腕で受け止めては、言葉をも交わしての遣り取り。





「なん——ッ、です!」

「"——"」

「なんなのですッ——"その動き"はっ! 一体、何処で——」

「『暗黒次元流あんこくじげんりゅう』にて、参る」

「っ"——っ"〜"〜"〜!!」





 先手で強襲の選択を取り、今尚も主導権を握る青年。

 組み合いの中で敵の耳元に置くささやきが温度を感じさせぬ機械的に冷淡の音。

 でも、言ったような流派りゅうは? そんなものはありません。

 ありませんけど、此処ぞで言うなら——思考へと余力リソースを僅かでもかせるのが適当の物言い。




「"うそ"! ——でしょう……っ!?」

「"……"」

「仮に実在したとしても確かめようのない適当を——言ってっ!」

「"……"」

「洒落の言う余裕も生まれては——それにしてもっ! "順応"が——ッ! !」




 女神の驚きも当然である。

 交差する二者でそもそもの習熟が始点スタートからして違う。

 片や『初めての疑似人体順応』に。

 もう片や『かつてを思い起こしつつ玉体の下地が支える洗練追求』の動きで、"の道筋を先に走り出していたのが青年"であり。





「っ! あなたっ——"影で頑張って練習を重ねる性質タイプ"ですね……!」

「"……"」

たばかり——"めてくれましたね"!? "怪しくも言い寄る魔性"と……っ——!」

「"……"」





 けれど、追いつ追われつ。

 環境適応では追う立場の女神でも努力が性能さいのうと併さって、両者は共に滑らかな動作。

 熟練の殺し屋めいた動きで応酬。

 相手に先んじて的へと銃口を差し向け、遅れた者がその射抜く着弾を阻止するのが基本の流れ。

 一例には緑色から固い銃の底で敵のを叩き落とそうとし——青色の右で受け止める敵の細腕で、もう片方の左に持たれた拳銃がガラ空きの女神腹部へと発砲。

 そうして痛み僅少なりとも力の配分を狂わせ、間を置かず続け様に頭部ヘッドへと向ける左銃。

 しかし射撃ショットは首の引き戻す動作に避けられ、円滑に移行した頭突きと腹へのひざと蹴りとでも押し出され——それでも同時に身を立て直す二者で時には真っ向から放った弾丸が宙で両者の間に火花を散らしあったり。




「——"、——"、」

「ッ"——」




 また傾ける首で銃弾をほおかすめた青年が、敵の放って腕の伸びきった隙に的を撃ち抜かんとする素振り——その"見せ掛けの振り"では留守になった足元へ一射・二射と、涼しい顔でも両足を挫いて。





「こ、の——」

「"……"」

「なんとかっ——言ってはっ"!」

「……"——"」

「どうッ! なの————"です!!"」

「"!" ——っ"!」





 それでも衝撃に膝の曲がる勢いで頭部を差し出すように倒れ込む女神——勢い任せが思い切って身を伏せてからの軽業舞踊ブレイクダンス

 両手で軸を支えるままに回転とし、薙ぎ払う長脚で弾丸を阻んでは勢いの終わり際に銃で撒き散らす攻撃。




「——っ" (既に相手でもが——」

「——、——!」

「っ! っ、っ……——く、——ッ!」




 艶姿あですがたに技巧の見せ合いは見目良き美少女の交流。

 両腕を肘から密接させて前面を守りつつも数発を撃たれる固体の水で、側面に回り込んでくるウィンリルへは青年自身も左右対称に転がりをみせて屈んだ姿勢から突きつけ合う銃口。

 純正女神の一射が青年の片足を挫いて、青年の一射は敵の銃本体を弾き落としつつ同時にもう片方で的を守る手を退かせてから——けれど、銃もないのに果敢と飛び付いてくる女神で『胸に抱かれに来る』ような密着が程よい射撃の角度を稼がせ辛く。

 組み合い、組み合い。

 至近距離で撃ち、やはり的へ撃たせぬように動作に於いて重要な体の関節を狙って掴んでは噛み——いや、流石に痛かろうと。

 なので、歯を立てたり銃を持つ近辺以外は強打したりをしない両者。

 故には競い合っても自然と柔らかい型が基礎となり、動きを止めるためや適切な距離を探しつつの攻防。

 頑丈な青年が背負い投げて離された間に、銃を拾いに行くウィンリル。

 再び詰めに行く青年では撃たれるのを覚悟に防弾加工の服裾ふくすそを引き出して衝撃も少なめに勢いの殺されず。




(——"!)




 だが、二丁で引き金を引いても虚しい弾切れの音から一転が、攻められる立場。

 急ぎうずくまるような防御姿勢に腰元から弾倉を取って押し込もうとすれば——体当たりしてくる女神に揺り落とされ、それでも利かす機転が足先で弧を描くような動作。

 長脚を振る足の甲で落とし物を回収、からの対角で待つ銃へと押し込んで装填。

 そうしては復活させた一丁で敵の進撃を押し留める間に、またわざと落とした弾倉を同じく足と手から挟み込むように二丁の再来——そう下方を見ながらに思われた時では先述の一丁を蹴飛ばされ、急ぎ向けようとした残りも回し蹴りで闇の遠くへ見えなくなってしまった。




「っ——!」




 因りては一時的に徒手空拳となった青年で、それでも積み重ねている訓練が腕の防壁を作りつつ小気味良い足取りの跳ねで接近。

 また奪いに行く敵の銃を玉体と奥義の相乗が可能とする精密動作で分解ストリップさせに行けば、なんと即座に"狙いに気付いた"のだろう賢者が技。

 手放して、重力に従って落下させた物をもう片方の腕で下から回収しようと——した所を青年からも回し蹴りによって放逐。





「「"——"」」





 因りては互いに落とし合った得物。

 ただ素手同士に殴り合っても不毛で仕方ない両者で妙な間の睨み合いから——端も見えぬ闇中あんちゅうを迷いなく後ろに跳躍した両者で、場を用意したのだろう暗黒神への信頼が見える。





「——ッ!」

「!? く——っ!」





 片や一つ、片や二つを拾っては避けて撃つの繰り返しで両者の銃を向け合いながらの回転動作が激化。

 闇の作る浅瀬めいた環境で水の飛沫みずしぶきは存在せずとも泥臭く。

 極めて特殊な環境であるとはいえ半端な神から高位へと迫る様には目を見張るものがあり——けれど、流石に神で人体への深まる理解も神速に。

 健闘の虚しくも、現実として閉所での戦闘が長引けば長引くほどに不利となって行くのは青年の方であった。

 今に目で見え始めた成熟の結果としても次第に早撃ちへ著しい適応を見せる神が精度も高め、先に拳銃の片方を撃ち落としてくるのだ。





「「"……/……"」」





 そうして付かず離れずの距離で互いに向け合う一つずつ。

 見合ってもの沈黙は外界からの支援も絶たれた状況で互いに『残弾数が不安』と見え、よっては闇雲に腕の防御を撃たぬ選択で膠着が数秒と過ぎたころ。





「——"!"」





 しかしならば、より確実性を得るために外すことのないだろう位置を目指しての走り。

 共に"疑似的な人体への零落"、"銃という物の扱いで精通"、"弾も無限でない"。

 故に殆ど同環境に同条件であっても地力で上回るウィンリルが強気つよきにも突撃を敢行し、後手に回らされた川水の方では致し方なく迎撃で貴重の一発。





「——っ"」

「——"!"」

「——、——"!?"」





 "撃たされて"、それでも素手で弾きながら止まらずが俊足。

 滑らかに襲い来るのが足払い、跳躍で躱しても返すかかとで着地狩りに成功。

 よっては水の使えぬ状況に浮いた身で神なら例え背面から落ちても問題はなかろうが——『』にはウィンリルで青年の身を抱き止める優しい腕。

 けれどそれでも『』の真意が、足場に体を下ろしてやって直ぐに行われた騎乗の"位置マウント取り"である。




(————っ")




 斯くしては女神と女神、攻めと受け。

 腰を腰で、釘付けに。

 念を入れては攻めの方で更に上体を倒して一枚の鉄板越しに突き合わせた胸でも受け側の身動きは封じられ、至近距離も至近距離で『肉が迫る』とは正に。

 その瞬時に流されて構築された状況シチュエーションで向かい合い、見つめ合いもする双方が『決定的なの到来』をさとっては。





「「"——"」」





 押し倒される形となった青年で眼前に見晴らしの良い谷間への注視——いやいや、奥義のもたらす集中によってしかと優先に見据える目標が仰ぎ見る先の『敵の的』へと銃口を。

 押さえ込みに掛かるウィンリルでも長い手足を三本の格子こうしのようにして敵を囲みつつ残る手が素早く眼下の『的』へと銃口を突き付け——互いに外さぬ距離で神秘の防壁もないに、二柱ふたはしら







「「"——/——"」」







————————————————







 何を言わずとも聞こえたのは真に"とどめの銃声"。

 青年の認識では『二つ』の響きが、『一つ』。





「「「……」」」





 なれど、一騎討ちが決着の瞬間に元の青空へと色を戻したフィールド。

 大気の満ちる其処で控えめにも煙を吐いていたのは、"身の重なる二者で"。




(…………脱落だつらく)




 青年には撃てなかった。

 遊びに於いては感情的な問題でなく『的を持たぬ者に的を撃ち抜く資格などない』から。

 よって、参加者を自動認識する銃で引き金も彼女には応えずの沈黙。




(でも……守りきれ、た……?)




 故に青年『ルティス』と『ウィンリル』で前者から然しての間を置かず、"的の破けた二者"。

 今に事実としてその参加資格を失ったのであれば、半ば重なって倒れ込む二柱に向かって『第三者』の銃口がり。





「……最後の最後に、"美味しい所"を持っていきおって」

「……僭越ながら、撃ち取らせて頂きました」





 そう、青年を除き"撃つこと叶った双方"で立ち昇る煙は『ウィンリル』と『第三者』のもの。

 つまり同時と思えるような秒間に的を射抜いたのは、青年が敗北したことで解除の暗黒空間——その二柱の吐き出される外側で所定の座標に待機していた"美の女神イディア"。

 暗黒の重圧から解き放たれたウィンリルの権能の回復するいとますらなく——既に美神の指は引かれていた。

 加えて予測の誤差を補うためでも散弾銃による拡散広範囲の弾丸が、若者たちにとって遥かに格上であった女神の的を破って——若い二者は今の此処で見事に『大物食い』を"大神へと"、現に捧げて見せたのだ。



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