『vs古き女神たち⑥』

『vs古き女神たち⑥』




 そうして、再び舞台を空から地に移した競技は再起した女神ウィンリル主体で継続的に事を運ぶ優位。




「——ッ! はぁ……ッ"!!」




 徐々に追い込まれて行く青年たちでは打って変わって真新しく破損のない機械的な建築群に囲まれる中。

 路面の窪みに『なべ』のように溜められたいずみの浅瀬にて陣を構える防戦、その心許こころもとなくも"本拠地ほんきょち"を支えとして。

 位置さえ絞れぬ変則的な狙撃から暗黒の妨害に何度も助けられつつ水で美神を守っているのだが——長く劣勢も続けば敵の攻勢に格下で神気の回復速度も上回られよう。




「ッッ——ぅ、くっ"……!」




 腕にて弾き、振る脚にて飛ばす衝撃波——打ち漏らす幾つかは玉体の側面を晒してらい、水圧での咀嚼。

 後ろには"守るべき友"がいる、避ける訳にもいかない。

 しかしは粉と砕く弾丸で無力化が出来たとて、その絶えぬ連続で"息切れ"のような感慨も青年で胸に。

 研ぎ澄まし続けてきた精神も肩の上下で疲弊の色を明らかとする。




『……でも全然、"痛くない"です。良く飛ぶのに本当、"不思議な弾丸"もあるんですね』

『それは確かめられて良かったのですが、けれど、このままでは』

『はい。恐らくそろそろ"厳しい"と思います』




 故には弱音よわねからも『我が友の限界が近い』と確定的に読み取るイディア。

 彼女を参謀とする二者は『若者らで暗黒大神に助けてもらわないと直に押し切られる』だろうが、しかし『助けて貰ってばかりでもアデス自身が目前の光に押し流される』状況。

 "背水どころか既に水へ身を浸す"苦しい現状で出口のないよう思える閉塞に策謀の時をもらっていた美の女神が言い出すこととは。





『……ならば、女神ウィンリルを連れて大神へ放る力などなく、我らで暗黒の彼女をこれ以上に呼び付けるのも苦しい』

「ッ、! ッッ"——はい!』

『ならやはり、以外に勝機の道筋はありませぬ。逃げて間もなく追い詰められるなら——"最後に我らで仕掛けます"』

「了解! 自分は何時いつでも——っ"ッ"! ですがっ、を!」

『我々で"同時に二枚にまい"を、私と貴方の何方どちらかで『』を使います』

「"!" ——はい! 重ねて了解!」

『何方も望みは薄く、成功したとて稼げる時間も少ないでしょうが——上手く運べば"決定的な時空"を作り出せる』





『何より今は"遊んで構わぬ時節"であって、我らにとっての最終局面なら此処は——"試す意味でも賭けるべき所"です!』





「今より二つを試し、"より上手く転んだほう"で!」

「はい!」

「行けますか?」

「最善を尽くします!」

「では——"決行"です!」





 共通理解を言い合って内密に意を同じくした仲で防衛続行の青年は深く息を吐き、更に高めんとする集中。

 その青く気の背後でイディアはおもむろに放つ銃撃で泉の水底に紋様もんようを描き始めた。





「——"?"」





「——"われ、女神の受けざらなりて、此処に処女しょじょ流水りゅうすいささぐ"」





「……今度は……"何を"?」





 走らせた銃の筆によっては足下に"斜線の交差"を描いて見せ、『ぼそぼそ』と不明瞭な音だけが聞こえるようにでは何かしら『魔術まじゅつ』のいしずえ

 巫女めいてとなえるは美の女神。

 差し出す掌に"飛び散る水"を受け取って、明らかに面妖めんようと。





「"原初暗黒げんしょあんこく。我、そのたまわした女神の概念に連なるもの"」


「"その中にあって暗き要素を持てば、より身近に。未知に恐ろしくもやみの安らかなる側面を知る"」





「"そうして定まらぬ形を持てば、今は許しを得て最も近き者。それこそが我、美の女神にて——限り無く"」





 窪地の泉に水を垂らせば水面はくらく、うるしの光沢ようでも発色する線から渦を描いて粒子を巻き込むように。

 その暗色は宇宙の色めいて、"推定魔法陣"の中心に立つ女神で瞑目に。

 異彩の髪は白く、黒く、灰色からを無限の色彩へと変え続ける。





「……『結界』や『領域』を広げるたぐい——にしては、"向かう銃弾を一つ覚えに川水で防ぎ続けている"」





「——」





「……まさか、噂に聞く『魔術まじゅつ』? いや、その本質を冥界めいかいの『それ』とするなら"こんな所"でそのような——」





「"——"」





「……"大神"ならやりかねず——そうこうしていれば、"何か哲学女神が千六百八十万せんろっぴゃくはちじゅうまんを超えて愉快に輝き出している"ではないですか……!!」





 対して光景に潜むウィンリルでは『狙撃でじっくり』と思う矢先に異様コレだ。

 見えては露骨に『怪しめ』と言われるようなもので、当然に訝しむざるを得ない彼女は只の『はったり』の可能性も高いと寄らずに引き撃ちし——弾は跳ねる水に阻まれ、美神に届かず。




「……っ」




 けれど未だに暗黒の残存する力が自分を追い続けるのも事実で、万が一にも光でアデス本体を撃ち漏らすことがあれば『残る自身で大神になど敵わず』の懸念。




("守る"——"護る"!)




 また先からの"狂気"は美神を背にして暴れ狂う水の奮闘。

 "とても太刀打ち出来ぬ"と知っていように凄味すごみさえ感じさせる執念は、身の一部たる水分物質を敵の一瞥や一閃に払われながらも追い撃つ銃撃さえ忽ちに位置を戻っての防御。

 例え鉄道模型に突っ込んでも、街頭の液晶に激突しても、ビルの倒壊の最中でも崩落物を守るべき者から遠ざけつつ——防御、防御、防御。

 そのつい先日に穏やかな表情を見せながら、今で正気を感じさせず只管ひたすらと事に打ち込む様は




(——"イディアさんを守る"!)




 "温柔に話す時でも胸奥には鏖殺おうさつの決意を秘めるのだろう神"と——即ち『アデス』に似ていた。

 接点も現実に直接とあれば疑いは色濃く。

 青年では徐々に追い詰められている筈なのに——"追い込まれれば追い込まれるほどに敢然かんぜん"と一挙手一投足で鋭さが増して行く様も相まって、真に。




("守る"! ——"絶対に"!!)




 高まりを見せる未知の狂気。

 "指導者は世を破滅"へ、"教え子は自身を破滅に投じる"ようで何方も得体の知れず。

 謎めいておぞましき様は多識にして暗黒と面識のあるウィンリルで、眼下に諦めを知らぬ神格が『彼の女神の真なる血肉ちにくを分けた者』と——"暗鬼あんきの影"を見出させるには十分に神の疑心もうごめいて。




「……何を其処まで」




 だから組み合わさって厄介な『美神』と『川水』の何方を先に攻め落とすかの二択なら。

 後者で今に影のある瞳の奥で浮かぶ星の泡沫ほうまつは、弾けるたびに増す明度で目の覚めるよう。

 苦闘の中では"日焼けも知らぬ"と思わせる少女の柔肌やわはだも溶けて龍化進行。

 推定魔法陣を囲み荒ぶる水の雄姿は『あの気の抜けていた様子が?』と神で落差に驚くほどのものさえある。

 美神を中心に防壁としてのとぐろを巻きながら、開口が水の息吹激流によって辺り一面を薙ぎ払う自然暴威の化身——それこそが、今の青年女神。




「何が貴方を……そうまで?」




 それでも『軍師がいなければ所詮は上から下に従わざるを得ぬ水』、しかし同時には『気にかけてやって欲しい』との庇護者からの言葉もウィンリルでぎり——『どうせなら』と。




「……」




 ——いや、"女神たちに守られる"ようでも、『、この若者の方にこそ何かある』とも。

 また『この者の狂気の源泉は何処に?』、『何故に其れを持つに至ったのか?』ともで気に掛かる心はあり。

 ついには『やはり格上に対しても勝機に繋がる何かが、例えその秘密で虚を突かれる何かがあったとして』——『不意を打たれるにしても』との算段が冷静。




「……」




 思考を何順させようが"警戒"で先に落とす為にも"長期的な神の視点"から見ても『悪くない賭け』が眼前。

 安全性も大神で二枚舌が発動されない限りは保証がされ、『川水』と『美で謎の術式』は何方も詳細や危険の度合いで未知。

 なれど、"神の補正式"たるウィンリル自身で気に掛ける理由の多く、その疑心を晴らす機会を得られて魅力さえ感じるのは——今で前者であった。





「その身を尽くすまでの——"衝動"とは」





 故には合理を求める心が前者に優先を取って肉薄にくはく





「ぐ——!? グォォ"ッ"——(なに、が——)!??」





 "次にこそ確実に仕留める"ためには副腕の如き装甲を分離から先に龍へと飛び付かせ、その備え付きの銃火器で的を狙っても我武者羅に首を振るなどで足掻く者へ。





「グ、ッ ガッァ グ——ぅッ!? (つめた————!)」





 途中では掴んだ水を暗黒の流す弾からの肉壁にもしながら、流体を瞬間氷結で固体に変えても停止フリーズ

 元の少女の形にまで押し留め、あとから首を大気の集合で掴むほど近寄った女神ウィンリル自身も照準を外す訳がないだろう至近距離では——やはり、青年に『秘密』が隠されていたのだ。





「——"?" これは——」





『——イディアさん!!』

『了解! 任せます!』





「何か、"異様"な——」





 既に此処までを来れば引き返せぬ。

 青年の顔のめんと向き合っては龍化の際で面頬を外し、露わになった口元——"口元の黒子ほくろからを展開"。





「——"!?" 身が、更に重く——!!」





 DダークDディメンションのDJでもある神より授かった『円盤ディスク』が現世にて広がりを見せ、敵を巻き込む嵐に。

 規則に配慮しては場内に漆黒の台風が生まれるよう『黒き盾』の変貌。

 継承の様なことはなけれども、それはそれとして『髪留め』を使ったり『黒子』を使ったりと。

 万事に通ずる大神と比較して何かしらで類似点があるのは——"仕方ありませんよね"。

 それは、ただ目的の為に捻出した数あってあらゆる手段の中から適した道を選ぶこと。

 ある意味で誰もが行う、誰であっても時に『強き願いの為には何だって適当にやる』"普遍的なもの"であるからして、似るのも無理はない。





「——我が友!」

「!」

御武運ごぶうんを』

「"——"」





 詠唱の要らなくなったイディアで腿から抜き取った拳銃を投擲し、青年へと譲渡。

 頷きで先の展望を確認しての別れ際。

 結果として二者は先の交流で聞き確かめた"効率を求める相手"へと二択を狂気的に凄みで迫り——その実では













————————————————













「——……っ!? "やられた"……!」





 当然に選ばれた先が円盤の内側。

 その中での出来事は闇に秘されての時空となる。





「暗く、何だ此処は——」


「まさか最後に見えたのは"何かの地平を超えて円盤"のよう——では、……くっ"、ぅっ"!?」





 嵐へ巻き込まれたウィンリルにとっては身を潰されかねない重圧への対処で権能の制限。

 下に引き落とされるような様子から分かるようにも神格の零落れいらく——ただ押し潰すだけでは勝利に繋がらずの簡易結界にて、伸し掛かる重みによっては風を起こせない様子の彼女でも即座に不調へ気付く。




「現実としておもく……っ"! "領域そのものが兵器"! 動かせるのは——」




 権能行使のためには開いて然るべき機構の全てを"上から蓋の如く押さえ付けられ"、"閉じられている"ような。

 また何処かにある重力源を中心として『玉体が円を描くようにも引かれる不快な感覚』は、振り回されて"船酔いの更に酷く悪化したもの"?

 不明の暗所で置かれる現状は何も正確でなくとも、機械技師としての女神に軋む不穏な音も背後で聞こえたからには指示しても動かせなくなった装甲を『只の重し』として放棄パージ

 下に落ちるそれ、足場に落下しては浅瀬で水が跳ねるような飛沫の音——最低限に『上下』や『立つ瀬』の概念はあるようだが。




「辛うじて動くのが……四肢しし、いや、五体ごたい——"玉体"、……?」




 果たしてくらい世界の此処は、まさか伝説に名高き『冥界』か?

 仮に魂を拘束しておけるなら、大神の有する『異能殺し』の側面は粒子の細やかな動きと物質世界への発現を押し留めて阻害する"単なる重さの力"なのか?

 にぶさ極まる感覚で、詳細は分からず。

 女神で身を掌握されかけては深淵を覗き見る余裕など、ある筈もなしに。




「っ……は、ぁ……はぁ……っ"——」




 体感の事実として『恐るべき攻撃と拘束を兼ねた牢屋』では、極限の環境で己の意識を保つことさえ難しく。

 重苦しい眼力で目眩めまいを振り切るように頭を振っても、忙しなく瞬きをしても眼前では金属のつかる火花のように儚い粒子が散るだけ。

 因っては即ち、"神で機能の大部分を使えず"。

 ならば性能で落ちて寄るのは"神を模して作られた劣化の存在"に等しく。





「っ……! これでは、"人体じんたい"——」





 つまり、多知で言う通り。

 此処では殆ど玉体の四肢で動けるだけの——謂わばような"環境設定"にて。






「くっ"……殆ど、『人間にんげん』の————"!!"」






 其処で——"かがやあお"。






("————")






 両手に握るのは領域展開の前に友から受け取った二丁の拳銃——勿論に心意気とで全装填フルチャージ

 "己にも課された人体の感覚"が『果たしてどのようなものであったか』と、実動を確かめる為には水であっても深く——"呼吸"に力がみなぎらん。







("奥義"——)





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