『vs古き女神たち④』

『vs古き女神たち④』




 そして、やや遡っては一方の残り者たちサイド。

 作戦の予定通りなら今し方に別行動を取った暗黒の奇襲——それに際して"あぶれるだろう光以外の神"とは即ち『ウィンリルへ若い二者での対応』となるのだが。




『——四方への地雷じらい、設置完了です』

『了解。私の方でも急ぎます』




 開幕から殆ど間を置かず、頭から下げる機器マイク越しの会話。

 既に遠方で"極神同士の接敵"があったと爆音で知って直ぐに若い此方も行動は開始していた。




『そうしては未だ敵の気配——なく』

『……』

『即応態勢にて警戒を続けます』




 場所は荒廃して模造のつたも絡む擬石コンクリ建築物を横。

 上では何か"乗り物を走らせる"イメージだろうか、傾いた高架こうかの一部は水没して終末無法の雰囲気が上手く醸し出される中。

 "神は何処からも攻めて来られるのだろう"が一応に立てた鉄板のさくの物陰から、作戦それらしく小銃を構えて哨戒クリアリングする青年と。




『……了解』




 その間に急ぎで進める準備に何やら設備端末を操作するイディア。




『……』

『……』




 二者が最低限に必要を話し終えては競技場に鳥の声さえなく。

 くき葉脈ようみゃくを上がる流れの動きも、虫一匹の息吹さえ波長で感じられぬ隔絶が妙に静か。




「…………」




 だが、その周囲に誰も居ない静まり返った事実が却って配慮すべき者も少なく。

 心情で落ち着く青年。

 面頬の下が精神統一の呼吸で——吸って、吐いて。

 己の動作に関連して思うのは呼吸指導もしてくれた恩師のこと。



(……だ。緊張感を持って遊びを……)



 のぞむならば勿論に油断なく立ち向かうけれど、『相手は自力で上回る古き神ぞ』というのが恩師の忠告。

 故には『単純な力押し』だけでも敵側にとっては立派な戦術と成り得て、残される神で"早々に光へと加勢したいだろう"ことも加味すれば——。





『(——"!") ——正面から!!』





 ——『通常では決して敵わぬ』ことを強固に刻めば、碧眼の超感覚がを知って友へと叫ぶ。




『——暫くは正攻法での迎撃となります。言われた通り極力、"我らで勝利に色気を出してはなりませぬ"』

『——はい!』

『"ただっては勝てぬ"ということを忘れず、"最優先は此方に戦力を割り当てさせる"のを主眼に』

『了解!』




 と。

 認識の共有理解を言っては、幾ら勝ち目が薄いからとて仕留められるのを神妙に待つだけでもいられず——"接敵"からの"開戦"だ。

 準備を急げ、美の女神。

 牽制の弾幕で多少なりとも『時を稼ごう』と、先ずは青年が柵の陰より撃って出る。




「——……っっ"!!」




 まだ数キロ以上も離れている顕現の予測地点へは、玉の強肩で可能とする遠投。

 閃光発音筒スタングレネードを両手で二つ。

 放られては光を先に、続く音で——染まる世界。



(——次!)



 耳に障るだろう響音も水神で感覚器を調整しては射撃への移行も円滑。

 正に滑るよう大地に立て付けて扱うタイプの重連射式機関砲台へと跳び乗り、まだ歩み寄ってくるような光景の歪みへと連射——連射。



(っ! これぐらいじゃ時間稼ぎにもならないか——!)



 大方の予想通りとは言え『攻撃が効いた気もしない』と苦く思っては、次に投げる範囲攻撃が癇癪玉かんしゃくだま




「——? ……——っ!?」




 その敵上方から散らす弾薬は、けれど"不可視の刃"に刻まれて不発のままの塵と化す。




(よく分からないけど——!)




 諦めぬ次では、対抗する力の行使が身近にあった都市の池より立ち昇らせる水流——水龍すいりゅうとなりて。




「——なっ……!?」




 上り詰める空から下に、柱を立てるよう。

 未だ見ぬ敵を水圧にて押し止めんと降り注げば——命令をしていないのに渦を巻くのが水。

 遠心による散逸も、その突如として巻き起こり。

 周囲に波及の力は震わす直線の大通りや念の為で屋内に隠していた地雷の数々も"爆ぜさせての処理"とされる。



(——"水が自分から離れて行く感覚"、制御権を奪われた……!)



 因りて、波を差し向けられては逆算に敵の所在を確信する者。

 宛ら現場は"発生の予測するもない台風"で、透明な渦の中心から姿があらわされる。




(水を水でない何かにされて、しかも身を守りながら難なく罠の処理を——やはり! "権能勝負じゃ敵わない"!)




 そのまま気流を身に纏うよう、上背うわぜいのあって緑髪の美少女。

 世に見えた輪郭からは薄く透き通って緑の部品パーツ

 高くも色褪せぬ威容は成熟の樹葉じゅように似て、その年を重ねて持続する様はやはり神で永久とこしえはる

 柱で頭や肩や腰に、未だ緑の光の透過は何やら"回路に熱の走る"其処から物質の流れを生じ、固め——自身に創り出した装甲を着込む。





「……"積年のなんだの"もありませんが、私で退のも事実ですので多少の息抜にはなるように頑張って——うぉ"わ……っ"!?」





 しかし、ウィンリルで登場のしたては——なんと遠目から不意を撃ってくる流れ弾。




「お、おも"……っ"! それになんです、今の馬鹿げた弾道は——女神、アデスッ!?」




 "光の神格に対応しながら別の戦場へと狙撃さえ寄越す大神"に悪態を吐き、ウィンリルで更なる力を披露せざるを得ず。

 女神は完全球体の主軸に艦の砲塔を備え付けたような浮遊装甲を追加で、背後に展開。




「う、っっ"……! ぐ、ぅ……ぬ、ぉぉ"——!」




 其の両手に続く第三や第四の持ち点としても機能に銃火器を搭載し、色は深い緑であって擬石建築群コンクリートジャングルの作る死角にも紛れられる暗い色。

 宛ら龍めいた気流を兵器の形に落とし込んだよう重く厚みのあって、けれど大神の力に襲われては送風口も全開に。

 追尾と誘引の効果を持った恐るべき弾丸へ風の刃で必死に対処しながら——ウィンリルでもし崩しに若者たちとの交戦状態へと移行する。





「ぐぬ"、ぬ! ——ぉ、っ ぬ"、ぉぉ"ぉ"……!!」





『アデスさんが援護してくれてます! ——けれど様子見では"周囲に乱流らんりゅう"のようなものがあって、やっぱり只撃つだけでは駄目そうです……!』

『恐らく高位の有する"無敵性"の表出。やはりそれを突破出来なければ我々で有効は取れないのでしょう』

『では——予定通りに?』

『はい! 『神の謎多き乱流』で原理を探る暇も普遍的な法則も調査の余裕などありませんから、変わらずのが第一で——』





「——きゃっ"!」

「イディアさん!」





「待ちなさい! 美の女神ともども! もっと余裕だと思いきや、大神で力の制限を受けても無茶を——っ! "流れ弾が正確すぎる"!」





 ウィンリルで余裕を削ぐのは遠方から光神に避けられた・また弾かれた攻撃を上手いこと誘導してくる巧者の大神。

 照準器なんて勿論に使ってもいなければ、それでも的へと正確無比に向かって対処を強いる強力ごうりき

 このように大体は若者たちでアデスの広範囲に及ぶ馬鹿力に助けてもらえるのだが、しかしではらちが明かないのも"団体競技"の難しい趣きであり。




「——ッ"!!」




 貢献する為では決定打にはならずとも青年が再び仕掛ける。

 その川水で小銃が見当違いの方向に撃ったと思われた弾は、しかし流れ弾に引かれる敵の動きを先に読んで利用した偏差射撃。

 この手慣れた技をウィンリルでは無限物質生成で上手いこと間に防弾硝子ぼうだんガラスを立てて防ぎ、その鏡面とする後ろに隠れた己で徐に景色から飛び出しては反撃が水を狙う。




「っ——"みず"で猪口才ちょこざいな……!」




 だが、道路上で氷を滑るよう華麗に避けて見せる水。

 恩師が気を逸らしてくれるが故にも、然程に神秘の載らぬ通常の弾速を見切ることはそう難しいものでなく。

 そうした"暗黒の護ってくれている事実"を信頼して前進する動きでは、水の容器たる己から袖に取り出して見せる小型機関銃で弾幕を張りつつ詰める距離。




(少しでも警戒心を抱かせるためには——"攻めの意思表示"を!)




 そしては暗黒の"ちょっかい"を捌かないといけないのに側面からも銃の圧に押し込まれるウィンリルで装甲が気を吐いて飛び上がり——それでも直ぐに追い水。

 同程度の高さがある建築へ素早く上り詰めた身で平行に撃ち、対する反撃では女神背後の吹く大火。

 榴弾りゅうだんが着弾した足場を崩し、崩落する高所から飛び出る落下の最中も弾倉を切り替えようと——その隙を逃さぬ格上からの狙撃が身を咄嗟に逸らしても持っていた銃本体を貫き、小爆発。




("うまい"——っ!)




 竜巻たつまく嵐のように舞い、空からの狙撃が巧妙。

 その妙技みょうぎに遭っては仕方なく、武装を一つ放棄した青年は着地から弧を描くように何度も跳ねて逃げ回り。

 しかし、一々いちいちに地に足を付ける必要のない敵の追う高機動は殆ど航空機の——そう、高位の神は大きさこそ人なれど飛んで追っては殆どが格闘機ドッグファイター

 ならば生身で川の水が、"空を行く機体"を捉えるのは一層と難しく。




(これ以上は……——"!")




 追い付いたのは機影。

 目前と対しては高位の神ほどの上等な防御手段を持たぬ青年へ——突き付けられる銃口に、その描かんとする弾の進路で目立つ滞りはなく。





「"——"」

「な——!?」





 だがして実際、今回の競技に用意されていた武装の中には"空中戦用の物"も取り置きがあった。

 そして、"現地のを含めた場所も女神で権利を手に入れているからの私有地"——『故には免許も要りませぬ』、『私が許可する』とは師の言葉。





「う"、ぐッ——」

「先ずは——」





 しかして的を狙う乱射を水流で逸らし続けても遂には——身を撃ち落とされて地面に硬直の青年へ。





「"ひとつ"————」






「"——"とも"!! ——"」






 その窮地に駆け付ける巨大な影——機体名を『ゲイザー・レジスト』。




「——"イディアさん"!!」

「お待たせしました!」




 ふくよかな蜻蛉とんぼめいて兵員輸送に適した胴は厚く。

 前方に複眼の意匠が特徴的な怪物の如き様相が準備を終え、美神の操縦によって運ぶべき友軍を迎えに来れば——欺瞞ぎまんする火工品フレア籾殻チャフを目の紋様から一斉に放射。

 加えてはこれまでと比して更に大とした火力が二対四枚の羽根に備え付けの機銃から——とても人の範疇に収まらぬ女神へと向けて掃射そうしゃされるのだ。





「さあ、乗って下さい!」

「はい! 今に——!」





「くっ……!」





 この程度なら未だ乱流バリアを抜かれない女神は、それでも感覚器を多少に乱されて敵の認知をやり直し。

 せめてもの反撃に転じようとしては顎門あぎとを開く龍のよう装甲をもたげ、肌感覚に撃ち込もうとする榴弾も——けれど、風に見える障壁へ何度も水流の拳で殴り掛かる様が正面。




「っ……! 互いに面識がそれほどないのに、"私だけが何か意識させられる"のは——ずるい!」




 壁越しとはいえ一時的に向かい合った美少女がウィンリルとルティスの二柱。

 後者は暗く目が据わり、その異様な眼差しには川底の奥深く。

 目撃した前者で何か"底知れぬ狂気"の一端を感じては、此処で無理に危険を冒してりゅうの頭頂のまとを取ることも見送り。





「"補正それ"が狙いか、魔王! 確かに此処までも見えれば——くっっ"……!」





 攻めの手を休めた僅かな間には機体の側面に開いた昇降口ハッチへ水が飛び乗り、陸を離れて行く。





「……一先ずは仕切り直せそうですね」

「はい。間に合って良かったです」

「……ふぅ」

「ですが、女神の予測にればこの後も間もなく追撃が襲うのでしょうから——」

「——"!" !」

「確認しています! なので引き続き頼みますよ——我が友!」

「——"はい"!」





 だが、若者たちが戦闘機で離れる中で生身に立つ女神。

 地上に残されたウィンリルで頭上に緑の光を放ったと思えば——『いいだろう。此方も乗ってやる』と。





「"えりただしたくなってしまう"のが、"私という神のさが"ではないですか——!!」





 "信号弾"のような物で呼び出す"薄い流線型の戦闘機"。

 合流の瞬間に跳躍から機体へ足を直接に着けて——飛行中にも直立で追う構えが、激しい空気抵抗さえ物ともしない神の所作であるのだ。



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