『vs古き女神たち③』

『vs古き女神たち③』




「——そうです」


「万事に通ずる"世界の神格"が『銃剣聖じゅうけんせい』などは当然の帰結。分かりきったことなのです」




————————————————




 しかし、他所で王がそうは言っても——銃身を刀身のように。

 いや、実際に刀身の付いた『銃剣じゅうけん』をうごめく黒のさやで構える未知を前にして、早合点はやがてんは"敗北"の意。




「……」

「……」




 例え極まった女神のグラウであっても生まれ持たされた戦闘神格としての才覚や実戦に積んだ膨大な戦略情報を過信してはならぬ。

 "常識を超えてくる相手"へは、それらだけに頼ってはならぬ。

 暗い霧の中で状況も分からぬままに敗北へ叩き落とされぬようには——過去で無という概念を塗り替え、最強の王へ自らが新たな王として名乗りを上げた者。

 また王権を争う激闘の果てに死の法則を打ち立てた偉大が——この世で法の起源たる『暗黒大神』を"敵"として認識。

 目の前でそれが悪徳であっても"世界秩序の化身"たる神に立ち向かうなら、"常なる一分一秒に己の最高最善を貫き通さんとする覚悟"を忘れてはならぬ。

 その無限の研鑽を可能とする極まった心も技も、絶え間ない努めを支える土台としての体だって必要だ。





「……」

「……」





 そうして、今でも自縄自縛じじょうじばくの鎧を着込んだグラウ。

 宛ら"猫ひげの触毛しょくもう"が、狂気の中でも兜に揺れる銀炎で"探知機"の役目も果たす眼光。

 今回は"遊興"であることも相まって先手の攻め落とす『電撃戦』よりも、あとに繋がる材料の探す『警戒』へと比重を置いて眺めもすれば——。




「……——」

「"!"」




 敵で腰元の鞘に手が触れる瞬間。

 揺らぐ炎——またしても不可視の剣撃が飛来して正面からを襲う。




「……御尤ごもっともな意見であります」

「——っ"」

「"宇宙そらを駆ける健脚"の的を狙い撃つにしても、先ずは弱らせねば。あわただしくてかないません」

「相も変わらず重い一撃で」

「ええ。ですのでやはりである我々で、"火器以外を使う"のも仕方のないことなのです」




 その認識さえ困難とする冥冥めいめいの攻撃へは——対してのグラウ。

 迅速の状況判断が鎧の隙間より光の粒子を瞬時に吐き出して周囲へと撒き、その散布が掻き分けられる様子から間接的な認知を可能としつつ攻撃を握り潰しての破壊。





峰打みねうちにて、手足を折って意気をもくじかん」





 そして、攻めの次なるは踏み込んでの剣閃。

 如何に鈍重とて星の内側なぞは大神にとっても『一歩いっぽ』の範疇か。




「"——"」

「——く……ッ"!」




 動作の起こりも静か、極まって無音。

 鞘から引き抜く音も戻す音も置き去りにして神の重みが盾へ。

 伸し掛かり、受け流す衝撃を足から逃しても舞台の端へと固定されるから——反動で跳び上がり天に舞う狼。




「『先ずは隙を作って無敵を剥がさねば』と分かっているだろうに——」




 避け際に真上から銃弾怒涛を浴びせ掛けられ、それでも迫った弾丸が素粒子以下に分解される暗色無敵の様。

 重圧に満ちて蠢動しゅんどうする暗い輪郭で、今度は二刀のように両腕を交差させる少女の形が大技に身を沈めた——その瞬間のきらめきであった。




「——我が身を焼く、"ひかり"の力」




 "燃える黄金"を側面に受けての、たじろぎ。

 纏うとばりひるがえしてコマのように光を弾き飛ばした魔王が紅の魔眼で見遣る先には。





「"おうの声が聞こえる"」





 視線で見合う酷似した赤色が——伏兵ふくへいとして光景に潜んでいた女神ラシルズ。

 今に眼光を放った一対の邪視が高層建築の谷間から怪しく、魔を注視して輝いている。




「"私を見ろ"」

「不意に誰かと思えば、本当に競技規則を理解しているのか疑いの残る柱もいるよう」

「"その闇に潜む真実を我が光こそが暴かん"」

「幾分か立ち直ったようでも、それは何よりなのですが……」




 その後も挨拶に言葉を交わしつつ飛来する光線の二、三を手で弾くアデス。





「女神。例え貴方の光を幾ら受けようと、その攻撃自体は有効打に成り得ぬと——」

「なら『彼女には言っても聞かぬ』と踏み、"戦神こちらで勝手に持ち味を活かします"」





 それでも話を遮るようには、渦をえがく銃撃と打撃。

 鎧の光が突っ込んで来て、少女の形が急ぎ丸まって回転に避ければ——逃避の先で身を押すのが再びの光線ビーム

 浄・不浄も区別せずに焼く神聖の力が暗黒で苦しく。

 突き刺さる線で正に"められる"ような身の硬直には、主戦力となるグラウが銃撃も織り交ぜた神速の格闘術でアデスに対応を強い——またその隙間を縫う幾度もの眼光強襲で厄介に極まって行く。




「——っ"……!」




 眼光を避けて、せまる鎧に撃たれ、今度は眼光に炙られ、詰められた至近距離では鎧に打たれ——容易に反撃の隙がない。

 例え発端は独善的な訴求的行動スタンドプレーからでも、高位神の即興に行う連携は実際として人知の光速を超えて素早く。

 容赦もなく、創世神話に語られる伝説の『光』が老体に対しても苛烈かれつに波状で畳み掛けてくるのだ。




「最低限に的を見える位置で着けているなら良しとしてやりますが——」




 だが、その一対一から変化した戦況。

 敵として光の神を二柱同時に捉えては、光を苦手とする暗黒で絶えず閃光弾が炸裂するような激戦の場。

 だと言っているのに"暗殺"を狙うような女神に対しては、彼女程度の光線であれば難なく受けられるので涼しげに数発を貰いつつ。

 推進力としても利用しつつ看板を吊るす柱で触手が掴んで回転し、離しては小銃を吹かせながら女神の盾に重い蹴りを入れに行って。




「——それでも、胸が焼けてしまうでしょう」




 また弾き返されては転がって立てる煙中えんちゅうより、駆け出す四足——攻撃としても風を斬って飛び出す軍衣の装いに上から恐竜めいての装甲を増やしたのが魔王。




「——!」




 目で光が良く見えず耳で聞こえずが、何のその。

 相手側にとっても不可視の暗黒老婆は余裕が減って口数は少なくも、何度となく破壊されては代替で取り出す銃の動作も鮮やか。

 黙々適当と撃ち出す弾丸だって、それでも恐ろしい誘引ゆういん効果を伴って。




「——!? う"、ぐ、、っ"……!」




 光速に回避しようとしたラシルズを射線に引き戻し、手早く弾倉から切り替えた貫通性能の弾丸。

 間を置かず撃つそれ、此処にも暗黒の重さを載せて『的ごとを抜かん』とすれば——割り込んで弾を滅するグラウが未だ圧を受けて重苦しい筈の鎧のままに向かってくる。




天光てんこうの女神! これにて敵のあたまを撃ち抜けば勝利への賞賛もより一層のものに——」




 しかし、その重く鋭い足取りは鎧姿で『私が攻め込む』と地鳴らしに誇示こじしながらも——実はの見せかけフェイント




「使いません」

「あ——そうなのですか」

「火器など暗黒あれには軟弱も過ぎる」




 事実として『踏み込む自分へ気を集中させた間に女神ラシルズで撃たせる』とグラウでも画策していたから、散弾銃を投げ——ことが結果的に功を奏して二重にじゅうの見せかけ。




「使わないのですか」




 敵を騙すなら味方から? ——いや、"どころか戦術家グラウ自身でも外れた目論見"に対して即応を求められる大神。

 敵の伸ばす長い金髪で足に絡み付かれた状況から、漆黒の炎を宿す手刀でその束縛を断ち切って。

 光速が成せる同時に四方八方からの弾幕を、土竜もぐらのように掘る地面へ潜って回避して。

 それでも地面さえ抉られる弾速の雨霰あめあられ

 急いでの掘削が離れた地下駐車場にて白髪赤目の顔を出すも——既に眼前で追い付く光の女神たちが眼から光線を放ちながらに走り寄ってくる。




「一応は老体、年長者ですよ。うやまって、息つくひまぐらいは——」

「"十分に御若い"のですから、必要もないでしょう」




 なので、老少女。

 的を残しつつ早急に己を手の糸鋸いとのこで切ったのよう解体バラしたり、先に再構築する乙女の形で残る的の着いた断片を引き寄せ回収。

 その曲芸で以ては機関の連続狙撃をすんでの所で躱し、追撃の聖なる槍突きには自身も腕に黒き盾を展開しつつ吹き飛びながら——それでも背を打つ透明な壁が競技舞台きょうぎフィールドの端であるのだ。




「"——"」




 なんと協調の色味は薄くとも荒々しく厄介な連携だろうか。

 故には魔眼の内部で夢見に映していた星『十』字から『X』に傾く象形で起こさんとする認識改変。

 "都合のいい命令"によって謂わば『同士討ち』を狙いもするが、目を合わせた隙で比較的下位の女神ラシルズに掛ける術——その精神に伸ばさんとした毒も、瞬時に射線へ割って入る銀の炎で燃やし尽くされる。




「"やってくれる"」




 その神々しき爆光速の突撃からは一対どうしの盾で競り合い、神秘の打つかる火花。

 破壊の戦闘神格は攻守の瞬間瞬間に獣性の力さえ載せて。




けいも重量・速度と両立に相当の手練てだれ」

「"ただ行使しない"、『使えぬようにしておくだけが力の制御ではない』と思いまして」

「見事も見事。おのれおのれじ伏せては極まった神域の技」

「お褒め頂けて素直に恐悦きょうえつであります」

「うむ。我が身に初めて傷を負わせた神なら、それぐらいはしてもらわねば。張り合いもなく——」




 ついては、狩猟の獲物のように追われ続ける不利の流れを変えるためにも。

 アデスは触手でももから取り出した拳銃を己の頭部へ密着させて即座に発砲——"この辺りも青年の目の届かぬ所で良かった"、"見せてしまえば更に色々を狂わせてしまいますからね"。

 左右両面の側頭部を突き抜ける弾丸で対角に迫っていたラシルズを的に達せずとも防壁バリアごと後退させながら。

 また発射の勢いを予測困難な推進力のかてとして肘打ちの角度を変えたり——腕や手や指の動作で描く術式が銃弾を曲げたりで青年たちへの支援が遠方の女神ウィンリルも牽制しつつ。




「——今更でありますが"銃の取り扱い"とは如何なものなのでしょうか?」




 激突して崩落した建築の現場。

 背の上で積み重なる瓦礫がれきからの立ち上がりに、老婆がつえのように地面へ立てて持った長くする小銃。

 握った持ち手から百八十度を反転させては銃口を背後に、前方は銃床じゅうしょうにて殴り——発砲で加速する超重の鈍器で、またも後ろに撃った弾はウィンリルへ。




「まだ使用法もよく分からず、つきましては戦事せんじに詳しい方に御意見を伺いたいのですが」




 何時しか燃える鎧と切り結ぶがんは打突と防御を兼ねて旋棍とんふぁあのように。

 片や長身の狙撃銃、片やどう見ても腕に備え付けるものでない機関銃を添えて。

 極まった神同士は奇しくも似たような構えで殴り合う。




「——何と……言いますか」

「……」

「"扱いの方法"については我々で想定された動きをしないので。仕様通りでは読まれ易く、何より貴方も"未知"を象徴する方なので——互いに手の内も見せるようでも言及の、難しく」

「そうですか」

「延いては『※人の行う実際の競技において鈍器や刃物を取り扱うことは危険です。真似しないで下さいね』——と指摘されるだろう振る舞いの我々で正誤を説くのも筋は違うのでしょうから」

「……」

「それでも所感で宜しければ、"使用感"についてを少し」

「お願いします」

「無限を身に宿す我らで『撃ち出せる弾丸に限りがある』のも新鮮です。装填や放熱、また故障した物を取り替えの否応いやおうなしに隙が出来てしまう」

むべなるかな」




 質量に熱量を打つけ合い、盾でも勢いが殺し難いから内でひしげた武器を敵に投げ捨て。

 内容の方法や量なども不思議な玉体から取り出される弾倉を、両者で操る触手や尻尾に『ガチャンガシャガシャ』言わせながら。




「この急を要する間隙かんげきに"危機感と高揚"を抱くのも確かに味のある遊びです」




 起こる小規模の爆発の中でも切り結んで、白銀と漆黒で盾や銃器に弾丸同士の散らす粒子の花。

 中途で割り込もうとする戻りのラシルズをアデスが縦に回し蹴りして『地面に叩き付けた女神の的を撃ち抜かん』と——その隙を鎧の脚が少女の形を容赦なく蹴飛ばし。

 落下地点への先回りがのろい暗黒の的を目掛けて乱射。

 繰り返す徐々にも破壊神で、敵に"ひびの入る手応えはあり"。




『……ふふっ。じりじりと苦しくなる様子です。逃げましょう』




 笑顔で銃を持って(一名を除く)しばき合う金だったり銀だったり白だったりと、色素しきその薄めでも色女いろおんなたち。





『可能であれば早くに助けてくれ。若い衆』

『——"助けてアデスさん"!』

『もうちょっと助けてやるか若い衆——なんとか隙間を縫って行きますよ〜?』





 打ち撃ち合う度に倒壊する建築群の中心。

 結構な年齢の者たちが、制限を受ける"縛り"の中でも楽しげだ。



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