『vs古き女神たち②』

『vs古き女神たち②』




 斯くしていざの、開戦。

 対戦することになる両陣営は双方を視認できない開始地点から動きを見せようというのだが——。





「——"!"」





 すると、早々に高層建築群の只中ただなか

 ウィンリル率いる古き女神たちのがわでは——"開幕からの天より降りるとばり"。





「女神"——っ"!」





 その日食の如きは急降下の少女で、暗く。





「——……『私に初めて生傷なまきずを付けたのが貴方で良かった』と、神は心の底から思っています」





 咄嗟に反応できた女神へ、重く——伸し掛かるのが蹂躙拳じゅうりんけん

 周囲でも『天界の光輝さえ潰さん』との衝撃、倒壊する無人無命むじんむみょうの景観。





「よって今にはの"ねぎらい"、"若者が世話になっている返礼"としても——『おつきあい』をしてあげます」





 強襲したのは古い女神から見ても更に古い——"敵の大将たる暗黒大神"。

 感知から即座に前へ出ては、片腕のたて阻止インターラプトのグラウでもぶつかり合う波動の乱舞で他の同輩二柱との距離が空けられる。




「"まるもの"もあろう。相手をしてやる」

「……"魅力的なお誘い"ではありますが、それ以前に"競技の規則"はおわかりで?」

「……?」

「さば……? さば、く……——"銃器を主体とした競技ソレ"で開幕からとは」

「……老婆ろうばでも解っています。ようは『指定の銃火器と弾丸で的を射抜けばよい』のだろう」




 先ずは一撃で打ち合っても、輝きの盾に弾き飛ばされたアデス。




「仮にその規則自体で致命的な不備あながあったとして、我々でいた後にも追々でめていけば良い」

「……」

「此度の為合しあいは、そのためでもある」




 闇と面頬の隠した口元で音声を発しながら、躊躇ためらいもとどこおりさえない動作が様子見的な小銃ライフル射撃。

 鎧の神で真っ直ぐに立つ両耳間りょうみみかんまとを狙い撃ち——会話中の攻撃これをグラウは一瞥いちべつによって粉砕。




「『見流みながすだけ』とは、其方も開始から全力でもって構わないのですよ」

「涼しい印象で欺瞞ぎまんを仰りますが、正直に言って私では『貴方との手合わせ』……"その貴重な一時いっときを只の一瞬いっしゅんさえも忘れたくはない"」

「……」

「鮮明に、記憶へと残して——"だからは私でも手加減をして参ります"」

「……正確には大神わたしの方で『加減をする』のでなく、くびこれで『せざるを得ない』のでありますが……多少なりとも"不公平"では?」

未知あなたなら、どうにか……いえ。"どうとでもしてくれる"のでしょう?」

「……どうだろうか」




 未だ銃口を突き付ける暗黒に対して堂々たる立ち姿は怯みなく。

 二者の間に漂う不気味な静けさは、寧ろいくさの神格にて『戦場での逢瀬』を"みと味わう"ものだろうか。




「それでも、不確かでも幾つかを言えるなら……『私という神は負けず』、『倒れず』——そして何より『壊れない』とだけ」




 しかして今度は対戦相手に向けた挑発、指の引き。

 言い切ってからの無言が動作で『貴方がどのような神、如何様な存在でも構わない』——『曲がりなりにも大神へ臨むならば世界に力を示せ』と。




「…………でしたら御言葉おことばに甘え、遠慮も少なくに」




 その"気取った歓迎"を受けては、対する鎧姿で兜の前面表示が光を失せての沈黙。

 けれど内部から燃え上がる炎が青くもあり、白くもあり。

 宛ら"翼を広げる"ように眼差しで拡大の力は溢れ、拘束を接合する各所からも銀の炎が《あ》がり出す。





「……きますよ?」

「えぇ。私と貴方のような者でも偶には存分に遊びを——」





 見た印象でも立ち昇る狂熱が暗黒に魅力的、惹きつけられるよう揺らいで——いや、光輝神格で"指の振りに神気が引き付けられている"。

 引き付けられ、身を取られもするような感覚から——"極神同士"が再びに、"戦の流れ"へ気を取り直すのだ。





「楽しみまs——」





 "ZTATATATATATATA"——!!

 そうしては連鎖の駆動音。

 応じて向かい合っていた神も光の操作によって隠したままの得物が敬愛の相手へ躊躇ちゅうちょなく一斉に火を吹き始めた。

 それは引き金を引いた状態を維持し、続く機関銃——盾の内側に実物を取り付けた『ガトリングシールド』からの攻勢。

 両腕の何方にも装備で大きく二つの機関式ガトリング

 銃身から帯めいた次弾たちの繋がる先では鎧と適当に溶接して肩に担ぐたる状が弾倉。




「——いいですね、『銃火器じゅうかき』とやら。威力がおさえられて」




 強く確かに固定せねばならぬ物を神は自身の腕に備え付け、一先ずの撒き散らしを終える。

 その行いは安易に人が真似すれば恐るべき反動によって肉体の四散も免れないのだろうが、"星より強固な神の玉体"は無反動の台座として十二分に役目を果たせた。




「扱うのは初の試みでありましたが……確かにこの程度なら『競技用』というのも頷ける」




 だから、鋭利の先から覗く銃口が円を歯車のように入れ替わり、立ち替わり。

 動作の起こりが光で速く。

 対面で何百何千の射撃に晒された神は——それでも"不可視の防壁"が頭頂の的を守り切って。

 対角の高層建築で壁や家具を突き抜けながらに長椅子ソファへと暗い少女の形でり込んでいる。




「しかし、装填も撃ち出しも遅く。得てして弾丸はかみの速度に耐えられず」




「——……けほ」





「その分で射法しゃほうや加速に優しく気を使ってやらねば壊れてしまうのですが——」





 その常人なら草臥くたびれたKOノックアウトの様へは——『その程度では足りぬ』と知っているから、追い撃つ女神。

 "先ずは敵の意気を削がねば的を落ち着いて狙うのも困難"であるからとして——近接きんせつ




「——ようなら構いませんね」




 一足に迫っては一対の盾腕で片や平面を・片や側面を敵に見せ——最強の『盾』と『矛』を単身で備えた攻防一体。

 受け攻めも分かりやすく極まった単純明快の型は、先に"蒼炎を纏う槍"めいて暴れさせる片方で無敵を剥ぎ——続く後からの左右同時。

 此度、"銃弾の嵐で敵を呑まん"とする流派ストリームにて。




「——利く……利くのですよね?」

「……"組み立てただけの道具"。我らで後に"どうとでも"なりましょう」

冥界神あなたが言うのなら一安心ひとあんしんです。御墨付きを得ました」




「そして——自分でも考えました」




 軽く少女頭頂の的を狙う動作を起点としつつ、回避されては機関射撃の反動で段階的に加速の玉体。

 そう、段々と加速しつつも構造の都合上では動きに円を描くようでもあって。

 弓形ゆみなりった平面を建築の階層ごとに下へ突き抜ける肘打ちが——衝撃波が渦を巻くよう連続で撃ち・打つ脅威の技巧で多段に襲う格闘術も見せて。





「よっては『消耗品』。予定通りに使方向で性能の発揮も——"!"」





 しかし、光の激流に呑まれていた小玉体。

 敵の腕の振りは兎角に、銃弾はからくも的でない身に受けた暗黒が埋没まいぼつしたと思えば——漸くの反撃が地中深くより"不可視の一閃"で来る。





「地中から大気さえ退しりぞける剣筋これは——『剣聖けんせい』の……!」

「……」

貴方めがみもやはり、『けんひじり』だったのですね……!」





 一太刀、盾から伸びていた機関銃の身を二つに裂いて。

 その反撃を受けたグラウが跳び退いても——連射によって残存していた熱の均衡崩壊で銃が爆ぜながらも袖口から新たに同様の物。

 仕込む戦神、油断なく炎の見据える先に。





「……やはり女神グラウでも射撃や銃撃どうのでなく、先ずはしようとしている」

「それは勿論です。兎にも角にも"空間さえ歪む力"を使わせては、"基本的に直進の弾丸で力不足もいい所"でしょうから——はい」

「……」





 弾幕を斬り抜けて、爆風の中。

 右の腰に下げた長身ロングバレルに右手を添え、残り添えの左は鯉口こいくちを切るような抜刀仕草。

 相変わらず『銃が主体』だと言っておろうに立ち昇る煙の中心より現れる"謎の剣士風"の構えが——"詳細不明の次元流じげんりゅう"であるのだ。





————————————————





 それと同時には、遅れ馳せながら競技へ解き放たれた世界秩序ワールドオーダー

 大神が新たに建てた学舎まなびやの、その竣工記念の演説を為済しすませた折にて。




「——『目の前に世界が在る』と、それをただのとのとでは……まるで、違うのだ」




 生きた人の心臓がある辺りを二、三回で小突き、肉体は無傷なれど突き抜けた衝撃で背後の岩や星が砕ける光景。




「だのに何ら知らず、今のを"放射線のようなもの"とさえ思わず……まったく」


「それ程までに"強大の熱量や質量を近くして生きている"——"生きられている"ことは一重に『大神かみの温情』とだけを、せめて知れ」




 掴んだ胸ぐらからを離して、その学知がくちを舐め腐って暴言を吐いた不良をマイクで説き伏せた王が仲間の下へと歩む。




「……むぅ。暗黒あやつがこそこそと隠れるものだから此方にばかり襲って来おって……して、狙われた学校の方は無事か?」

「勿論。降り注ぐ光で誰もが守られ、撃ち抜かれ……しかし、の領域外で此処まで王が『学府がくふの建設』を容認するとは」

「打ち建てる願いを口にした者とて"愛しき吾が子"なのだ。その『教育を広めん』と、『人には教えが必要』との切望を時にはおやで支援だってしたくなるのだから……可笑おかしいことなどはないさ」




 真新しい白亜の校舎と、口で戦いながら後ろで最大の出資者の証として作り上げた自身の巨像を背に。




「"無知無学にしか見えぬ地平"、『何もが見えぬ』という"貧困の視点"もあり」

「……」

「けれど『己には選ぶ余地がある』、『興味や能力を示す先がある』と——"知って始まる幸福追求も素晴らしき無限の一部"だから……な?」




 建築に囲まれた中庭で寛ぎ、語らい合うのがディオスとガイリオスで大神の二柱——冷めていた前者の表情には語る次第と喜色の光が差し始める。




「それよりは、少し前から"光の神が何やら奮闘"している気配のあれば……"数秒も梃子摺てこずる相手は即ちの暗黒あんこく"」

「分かるのか?」

「おうとも。"神の光速を秒でも耐えられれば大物"で、数秒を超えて十さえ先に進めるなら『ちょう』の付く——"この世界でそのような偉業が出来るのは奴くらいのもの"」

「"推測で語っている"」

「ああ。酷く嫌われたもので詳細が見えぬ、見せてもらえぬ」

「建造物の倒壊状況、また修繕の要請を見るに……"火器かきで撃ち合っている"ようだが」

「うむ。ならば兎角、『むすめガンバレ』! 『闇を照らして魔術を暴くのだ』——とだけ」




 銃撃戦の行われる地を領有するガイリオスの方では、自身の領地で申請された内容を見るに"銃火器での殴り合い"が"射撃戦"だと分かる。

 また神王ディオスの方では、娘の女神ラシルズが放つ波から逆算で戦況を予測しての言葉や予知や。




「しかしそれにしても……おのれ、アデス。恐らく"見知った手札"しか切らぬつもりか」


「吾ら古き神。皆が消失の危機を裂いて今、『自らが剣聖』とは知れたこと」




 王は尖らせる口で不満げに、でも"気になってしまう"のも大神の心。




「……とは口でいいながら、"眼差しの向きは正直"か」

「それを言われると苦しい」

「……」

「『はこいのちの女』、『破滅にも導く魔性』は……まさまさしくの"ファム・ファタール"」

「複雑な想いを抱く様子」

「そうだ、そうなのだ。少しでも奴に憧れ、『そのように在りたい』と魅力に捉われたが最後——流動の吾で等しき姿は『女子高生』の形が現れるほどに……ぬわー! 言ったそばから女子高生!」




 見てしまう、引き寄せられてしまうのが暗黒の魅力に心を捉われての銀炎——女神外形めがみフォーム




「ですが、大神ガイリオスの方でも産み落とした女神は……"原初の其れに依拠いきょする"と推察していましたが……?」

「……余の方も苦しいか」

「実を言って"吾が身に先んじて貴方が女神を産み落とした"こと……わたくしは今でも"根に持っている"のです」

「ハッハッハ。過ぎた事を許せよ」

「ですが、まぁ……『アレには憧れても致し方ない』と吾が身でも深く思いますから……同じ先走る心を責めず、止められず」

「……」

「"皆の為に尽くす者"は思い焦がれて当然の在り方。"狂気の献身"は誰にも理解をされず、それを求めず——寧ろ『それより欲しいものがある』と不敵にも世界でブチ上げて、"ロックの神様"」

「それは、中々のロック。"ロッカー"なりけり……」

「……はい。つまり暗い彼女が無視できぬ程に光で目立ち、いざ自身でも『神を創ろう』として真っ先に"原案や参考と意識してしまうのも彼女"でしたから——ついつい作り出すのが女神ばかりになってしまったのです」




「その上で『乳房ちぶさ、大きくあれ』と神はこだわり、願い……するとで子らの胸囲きょうい無限むげん膨張ぼうちょうの形を身に宿すことにもなったのですが」




 いつしか『気を抜けば確かに』とガイリオスでも黒髪で黒制服の少女姿に寄せられ——旅中の談話、学びの園にて花が咲く。





「それでも、あの恐るべき平面の奥には引力で凄まじいものがある」


「きっと体重全一たいじゅうぜんいちが彼女という『超重ちょうじゅう』の柱なのです」





 そう、世界の秩序は女子高生であった。



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