『古き女神たちとの邂逅⑤』
『古き女神たちとの邂逅⑤』
「……(色々と考え過ぎでもあるのかな)」
そうして、少し過敏な精神が素直に助言を受け入れて拠点へ戻ると。
「——"我が友"?」
「……! イディアさん……?」
「すいません。ちょうど今、私でも外へ向かおうと思っていたのですけど」
「いえ、そんな。今日も時間や予定にこれといった決まりもありませんし、それでしたら入れ違いにならなくて良かったです」
利用者の出入りを報せる何かしらの駆動音で察したのだろう。
青年の踏み入って間もなく、正に何やら外に改めて出ようとしていたイディアの声が友の往来に際して聞こえる。
「今は取り敢えず、何か『イディアさんで時間が掛かっている』とのことなので様子を見に来ただけでして……大丈夫ですか?」
「でしたら、手間を取らせてしまいましたね。お気遣いも有り難く、けれど私は元気です」
「それなら良かったです」
「はい。何か新たに問題が発生したという訳でもなくて——」
時に玉声の主の明確な姿は青年の立つ出入り口付近から未だ確認の出来ないが——しかし、当事者が『無事』を明言してもの一安心。
声の調子も弾みは良いから『何処かの物陰にいるだけだろう』と一息を吐く青年。
ならば、『外に出る前の準備で化粧は兎も角に着替えでもしていたら迂闊に探すのも危険』と踏み出しかけた足を止めて。
「——寧ろ折角の
「……あ、お着替えの最中でしたか。すいません。変な時に」
「いえいえ。此方も声だけにて失礼」
待機の道を選んでいれば、その予感は的中。
(……? 確かに
「そうして着替えるのも終わりましたので、我が友の前に姿をお見せしたいのですが……宜しいでしょうか?」
「……? あ、はい(?) それは勿論」
「分かりました。では、其方へ向かいますね」
「はい——(……? みず、ぎ……?)」
しかも考え事をしていては、事態は予想の斜め上。
言語化による認識の前で込み上げる警戒心の高鳴りに、咄嗟で身構える青年の前へと鏡の間から進み出てくる友の姿——。
「お待たせしました」
(…………まさか——"
「そして、どうでしょうか? 良ければ『我が友に感想を頂きたい』のですが……」
「え"」
青年への刺激にも先回りして配慮をしてくれたのだろう。
水着としては青年が真っ先に想像したものより露出が控えめの——謂わば
形式は水着に重ねて防寒用の上着を羽織り、下半身にも短い脚衣を履いたものであった。
「あ……(——でも良かった! これは割と露出が少ないやつd——)」
「あ、ですが下に着用する物としましたので大丈夫ですよ」
「へ?」
「『我が友を追い詰めるようなことは流石にどうか』と思いましたので——はい。"内側に着ているのです"」
「で"————!??"?"」
「? ——"!" あぁっ……我が友……!」
だが、"麗しき美の女神"でふとした瞬間に見せた『ちゃんと下に水泳に適した物は着ていますよ』の証明。
胸元の開閉を下ろす仕草が刺激的——いや、観測者にとっては『微笑み掛けながら見せてくれる谷間』の光景があまりに刺激の強過ぎて反射的に水の神格で奇妙な動きを始めてしまう。
「っ"……"しまった"……!」
目指した先は避難区域。
共用空間で調理場も近いことから、流れる水が内からも外からも見通しの効かない不透明な水筒に飛び込んで隠れる。
「"浅はか"でありました。私でもついついと気が
『——イディアさんは何も悪くありません。ただ勝手に自分が、自分で……"狂ってる"だけなんです!』
「我が友……」
それは機能もそのままに"
今や整えられた環境は、記憶から"人間時代の姿形"の再現も可能であり。
その読み取って形とする作業が
だけど、"川水の女神の形で出会った"まま交流を続けて来た手前で今更に『男』を前面と出すのも何か形容の困難な恥じらいは消せず。
その自分を『その状態でも愛してほしい』と迫るようでも、選択肢を自ずからに絞っているのが今。
「……ですが驚かせてしまったのも事実のようですので、良ければ直ぐにでもまた着替えを——」
『それも、大丈夫です。何より『イディアさんが着てみたい』と思ってしたことでしょうし、自分でも貴方の行動を縛り付けるようなのは……な、『"何様"《なにさま》なんだ』という感じがしますから』
「……では、ご厚意にも甘えて暫くはこのまま」
「……」
「ですが、次に脱ぐようなことがあれば事前にお教えしますね」
『……すいません』
己が有する水の女神の体に慣れても、青年の内なる心で広がる動揺。
その表層で見るからに揺れる様でも変調を感じ取った美神は胸元を閉じて、遊ぶ間も上着を羽織ったままでいてくれることとなり——だけどそれでも逃げ際に見えた友の御姿。
軽やかな装いの長身で伸びる生足、何時も増して
身近にいてくれて既に慣れた筈の大きな乳房も更に肉感的、どころか煌めく尻も太腿も均整の取れ過ぎて"
(いや、待って"更に大きい"——しかも今日は、"特に大きい日"だ……!)
"好みも好み"を前にして溢れる愛欲、暴れる水筒——ひとりでに倒れ、戻り。
宛ら
「……大丈夫ですか?」
『ひっ——ひゃい大丈夫、です』
「……」
『悪いことはなくて、寧ろ此方で大それた反応のお詫びを——お詫びしますからもう少しだけ、お時間を」
「……ゆっくりで大丈夫ですよ」
(……落ち着け。"こんな時"こそ『
("彼女を傷付けたりしない為"にも、この場で自分が取るべき最善の行動を自然と……先ずは設定すべき目標をそうと決めて……)
それでも、却って自分の奇行で驚かせても申し訳ないと必死に這い出る水。
未だ完成ならずの極意を胸に、青と黒の髪を持つ少女の形で一先ずは調理台の高さを背に座り込めば——。
「……私の方でも焦っていたのかもしれません」
「……?」
「見守ってくれる神々がいて、故に私の権能も多少の行使であれば彼女たちで大事にならぬよう取り計らってもくれますから——」
「……」
「——ですので"我が友への融通"も利き、"騙すようなことを嫌う貴方"に対しては『私の色々を曝け出してもいい』と」
「(——イディアさん……?)」
「"色や大きさなどで貴方の要望"を叶えても『その偽りない評価をお聞き出来るのではないか』と"期待"に足が……早まってしまったのやも」
「(お、落ち着かせてくれる筈では……!?)」
しかし何より『我が友になら自分を自由に出来る』との——"やたらと厚い信頼"が当事者の口から畳み掛けてくるのだ。
「まさか、"心当たり"があると言えば——『春画の破壊』でそんなに仲良くしてくれるように、
「……ふふっ」
「え……そ、そこまで凄いことはしてませんよ? 自分はただ一緒に——」
蓄積した叡智や状況から青年の心中を予測することは出来ても、"人の欲心"を神で完全には解せず。
よって社交辞令的な気遣いよりかは——"真に美の女神で伝えたい言葉"が来る。
「——『貴方のそういったものを処分する』のに力を貸しただけで……」
「……いえ。それが少し"自身でも以外"なことに、我が友の言う『それだけ』が『私で嬉しくて
神話に謳われる"宝飾の如き目"では星も嬉々と
しおらしくも言葉が波状攻撃的に続き、髪の基調とする黄褐色の中にあって——けれど『赤』や『青』や『紫』に燃える
「イディアさん……」
「時に社会において軽蔑されがちなことにも"真剣に捉えよう"として……"自分なりの考えを精一杯に話してもくれる"のですから」
「……」
「そんな我が友になら、"そういったことをはじめとした色々な私"も『今までよりもっと、お見せしてもよいのでは』と」
「……」
「自分を教えさせてもらって、それに対する友の評価を聞くのが楽しみ——"私の考える
「……だから端的に言っては『知ってほしい』、『知ればどのように解釈するのかと好奇心』——『見せてくれる反応からも貴方の考えを更に知りたい心』」
「……それは」
「このような気持ちは自分でも新鮮で、それこそ勝手に盛りがっているのは私の方なのかもしれません」
見える色の解釈は兎も角に。
そのよう好意を示す言葉を親しみある友から口にされ、青年でも憎からず想う相手に
「そして今も『嫌わないでいてくれた』ことが一つ。『確と見て頂けると更に嬉しい』とも……未だ思いは続いて」
「……」
「……ですがやはり、自己本位の振る舞いが我が友のご迷惑となってしまうのであれば……"自ら慎む"方向に舵を取ることも出来ますのでどうか遠慮なく——」
「……まさか。寧ろ『見たい』とさえ思います」
「! 我が友……!」
青年で"本心を語ってくれるのだろう相手"へ出来ること——それは、"己も同様に偽りなく向き合う"ことであるのだ。
「では——"我々で互いに知りたい"と……?」
「そ、そう言えなくも……ない?」
「その"互いに相手を知りたい感情"は、もしかして……」
「……(え——え……?)」
「……けれど、何か言葉で定まった形を与えてしまえば——"今の胸に宿る言い表し難いものまでを
「っ…………」
「……ですから今は、"我らの間にある不思議な関係"を楽しみませんか?」
「は、はい」
「……迷惑にならない範囲で今後も貴方のことを想わせて頂いても?」
「そ、それも勿論……悪い気は全然しませんので、はい」
けれど、その見知らぬ領域では適切な言葉も見つけ難くに。
「では、また貴方の表情を私の前にお見せ頂いても……?」
「うっ……其処まで言われると断る理由も特にないので……でも、本当に宜しいのですか?」
「はい。嘘を述べたつもりはなく、先ほど言ったように私を見て
「い、イディアさん……!」
「何故なら、『貴方の見て想う美の女神をもっと私に教えて欲しい』のですから……!」
そうしては——なんであるか、この関係は。
よく分からないが"当事者たちで明確に定義せずとも良好の繋がりを幸福と思っている"なら、多く言葉は必要だろうか。
言葉が思いつかないなら、時に曖昧な"それ"に数多の可能性を見るだけもいいのではなかろうか?
「ええ……! 我が友の為なら、あんな側面やこんな側面もお見せ出来ます——鍛え直しましたのでこの様に
「え……! "玉体"で筋力的なものは鍛えてどうにかなりましたっけ……?」
「何か女神の指導の下で頑張っていたら出来るようになりました」
「えぇ……」
「私自身も自らで良く分からぬ"謎多き女神"ですからね……詳細を知りたくば其れこそ一緒に
「……き、機会のあれば」
「はい。機会のあれば」
言いながらでは鋼鉄の
その正に意識が魅きつけられよう魅力的の情景へは、勢いの熱に浮かされて万が一にも済し崩しに
「——そ、それなら(?)今日はイディアさんと自分でイルカと泳ぐ体験、"イルカの
「まぁ! イルカ!」
「さっきメロンの波があったので此方からも応答を返せば寄ってきてくれると思うのですですけど」
「はい! それも『我が友と見るイルカ』が初めてで楽しみです……!」
「でも興奮したままなのもアレなので、ちょっと自分で風に当たってから
「分かりました。……それまで私は中で待っていた方が?」
「お願いします。……またご迷惑もお掛けします」
「いえ。楽しみに待っていますね」
「はい。では——」
そそくさに今度は拠点から外へと飛び出るように脱出して、其処は保護者たる女神たちの御前。
「……今日は、いい天気ですね」
「【・・?】——今は
「はい。本当に天気が最高すぎて何だか
「……」
「……? どうしたのですか、女神? 急にこれまでの
「……失礼。其処に、"
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因りて居間に残されるのは仕切り直しで再度に
燃える異彩の毛先を整え、手櫛。
耳の飾りも波に取られるような
静謐にも熱気の残って漂うこの場所にいるのは、下に履く水着の紐を確認する彼女のみと思われたのだが——。
「……♪」
「——
「……! 女神アデス」
「"今の
"若者たちで物陰に活気付くとは何事か"。
表にいながら裏にも——『警告』で顔を出しに来られる神が怖い。
「共用空間での遣り取りは全て
「それは……」
「"
「い、いえ。だからこそ。"間違っても合意が不確かに一線を越えぬよう"、貴方の目の届く範囲で披露を——」
番犬の如く闇に燃える眼。
室内の壁を作る鋭角から朧げな煙を纏い、"
「近々で『青年の前に水着で現れる』とは聞いていない」
「うっ"……
「"個神で水着の
「も、申し訳ない……」
「もし仮に青年がある機を
「……割と駆け引きに、"引きに出てしまった"のは反省します」
「……」
「自らの願望を優先して青年の動揺を楽観的に捉え過ぎていたかもしれません。寧ろ『動揺する様も見たい』などで……勢いもつけ過ぎました」
「……理解が早くて助かる」
「……はい」
「なれば……我々で反省すべき点が共有できている以上、貴方を責めることも此処までに」
だがして、寛大でもある大神。
厳格な面を見せたかと思えば、柔軟な物言いが早々に矛を収める。
「……私でも『青年の
「……」
「けれど、よく考えれば青年は私のものではなかったのです」
「……?」
「故には『いつ』・『何処で』・『どの様に』・『誰を想って』・『何をしよう』の記録を付けたいことも甚だ苦しく……迫る勢いを強めてしまったことも詫びよう」
「……いえ」
「今回のことは
「……女神の慈悲に感謝を」
「寧ろ私では往々にして青年へ打算でばかり物を捉えてしまいますから、やはり『
収めて、しかし。
大船に乗って緩んだ気へと、今一度に冷厳の
「だが
「……はっ」
「牽制も兼ねて諸神には近日中に『
「了解しました」
「……本当に解しているのですか? 美の女神で『性愛の神格』として覚醒しようものなら一旦本気で
その後では大切にされる若者で漸くに美の女神と遊ぶ海。
約束の
————————————————
そのよう、このよう。
しては同地点に立ち並ぶ
「——あぁ〜〜っ"!!」
「折角何年も掛けて作成した『都市開発計画書』に承認が下りたのに……支給の資金に資材で物まで揃えたのに——"どうして人が来てくれない"んだ〜〜!」
「"安全にドンパチやる"のは刺激的で、絶対——楽しんでくれる人がいる筈なのに〜〜!!」
「……うむ。先日の私が話に出していた
「"大きな都市を丸ごと舞台としての
悩みの解消で信仰の獲得を狙っては『好きに遊ばん』との神で、"発破を掛ける"物言い。
「
「これで
求める良き競争に対戦相手も立てて——『サバイバルゲーム』の幕が上がる。
「
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