『古き女神たちとの邂逅②』

『古き女神たちとの邂逅②』




 そうして——決まりをみせた二組の同行。

 目的とする地はアデスで何やら『遊びがある』と言うテノチアトランの一都市。

 其処で合同に楽しむためでは競走に本腰を入れていた訳でもないから乗機も用意のなかった女神たち——三本角トリケラ背中かんぱんへと招待がされ、暗黒勢力で『緑』に『銀』に『金』の色に。

 容貌で鮮やかな三柱を連れ立って、和やかに過ごそう移動の時間。




「何かものは御座いますか? 私としては『みず』などが御勧おすすめであります」

「状況の文脈からして冷水それは……"飲むための"?」

「はい。冷えていて美味しいのですよ」

「……いえ。別に」

「美味しいですのに」




 儀礼的に話すアデスとウィンリルで同じ一つの円卓を囲む。

 他の少し離れた場所ではルティスとイディアにグラウで、"椅子を壊すことを懸念した女神"に合わせて平坦な床に腰を下ろす形。

 更に奥を行ったすみでは王に放逐されて気力の失せているラシルズが適当に低反発の寝椅子ソファベッドへと転がされ——その晴れぬ天の寵姫と対照的に交流の意がある者たちで先ずは他愛なく現状を窺う社交。




「……それはさておき、"要求する神々の王に対面を示すため"にも競技の方で何かはしたのですか?」

「文句を言われても面倒ですので一応は。私で少し」

「"女神ウィンリルの単独"で?」

「……見かけ上は我々で行ったように『土地の岩石除去』や延いては『農地転換』を実績として残しました」

「実質としては"孤軍奮闘こぐんふんとう"のようなものですか」




 けれど、聞けば『古き女神たち』——代表者を除く構成員は王がいないと輝きで活力の失せる女神と、以外で力の扱いが困難な女神。

 そうした組む彼女らの性質の都合上で活動という活動の実績があるのは『ウィンリル一柱だけ』とのこと。




「それに関しましては本当に我が身へ『役立たず』と言われても……自身で納得によって返す言刃カタナも御座いません」




 その謂わば『ワンマン』ならぬ『ワンピラーチーム』となっている事実。

 上述の非協力的な実状へは近場で耳の痛く聞こえていた当の戦闘神格グラウからも釈明の意が差し込まれる。




「真実として殆ど出走開始から今の今までを、"ただ座っているだけの置き物"」


「『あおげば消し飛ぶともしびに果たして何が出来ようか』——"私"で判断を下すことは難を極め……面目めんぼくない【◞‸◟】」




 自虐的に語るのは、この場で最も背の高き柱。

 それでも長い脚で膝当ひざあてなどを折り畳み、左右の腕に装着された鋭利な星形のたても内側に寄せて縮こまる威容。

 耳と尻尾のある神は宛ら『叱られる犬』めいて、自覚が『負い目を感じるべき』との振る舞いか。




「……またそれでも"容認"して頂けることへは感謝の至り」


「よっては世辞なしに"私の先を行く若者たち"で、その果たしてきた活躍に感心していた所であります」




 でもは『戦いの神』としての与えられた役割を知る者たちで無能を責めることなく、寧ろ『慎重な判断の積み重ねによって不介入を選ぶ』のだろう努力へと大神では賞賛の微笑み。

 またその微笑まれては暗黒を直視できないグラウでも美神や川水たちの『都市を微細に動かしたり』や『火山の猛威を宥めたり』——今し方で部分的にも知ったのが、時々で『人の複雑な心情』に配慮したこまやかの活躍。

 それら当事者たちから聞き知って"偽りのない賛美"が、兜を通した小波しょうはによって世に漏れ出す。




「……本当に凄いのです。女神イディアも、我が同士も。少なくとも私に二者のようなことは出来ません【><;】」


「何せから、それを……『壊さずに優しく』などとは、何という"力加減のみょう"なのでしょうか」




 色がどうの形がどうの、性別や種類がどうの——それら関係なく『己以外を壊せば壊れるチリカス』と見做みなして"公平"の本心が震える。

 放つ波の照射によって対象の破壊も可能な獣の耳が震え、嘘偽りなく『壊し難い魅力』への高まりに"全身を武器とする女神"からも今は敬意の色が表出するのだ。




『……やはり多少なりとも物言いが『物騒』に感じるかもしれませんが、これもまた"彼女の平常運転"』

『……はい』

とげがあっても悪気のある訳ではないのでしょう。ただ我々とは視点が違って、別の透き通るような見方の……例えるなら『戦力せんりょく』で見極めるような評価基準を彼女は主たる軸にしているのだと思われます』

『……はい。『分かり難い』というのが何となく自分でも分かり、ちょっと怖そうなのも大神アデスさんで慣れていますから全然、大丈夫です』




「……加減かげん加減かげんも本当に難しいですよね。私などは他でやはり"破滅的な"……偶に暴れようとするめがみの力を相殺そうさいするぐらいしか出来ず」

「……それだけでも多大に貢献をしていましょう。の女神を放っておけば幾つもの国が滅びかねませんから」

「……そ、そうでしょうか? "私でも誰かの役に"……?」

「少なくとも暗黒わたしは『眩し過ぎずで喜ばしい』と感じています」

「"…………"」

「そのように優渥ゆうあくの貴方と今日は御一緒できても心から嬉しく思い……はい」

「……い、いえ」

「日頃から我が弟子の参考とさせて頂く旨もありますし、礼の一環を兼ねつつ貴方にとっても楽しめるおもむきと努めましょう」




 そう言っては魔王から——かつて己を貫いた閃光へ、今も熱意を向けてくれる強大の相手へと表情と口での思い遣り。

 場の最高齢でありながら蠱惑に白黒で少女の形が気さくに手を振ってもみせてくれたので、その直線上にいたグラウは暫しの硬直をしてしまう。




「しては、女神ウィンリルで他に何を? 何か遣り甲斐のあるものは見つかったりしませんでしたか?」




 そうしてアデスが顔の向きを最も身近なウィンリルへ戻しては、彼女の『補正式』の神格として求める"合理"や"効率"を掘り下げんと話をする。




「"あれ"は行わないのですか?」

「"あれ"?」

「カチカチ、とした?」

「"カチカチ"?」

「以前にお見受けした"延々と作る焼き菓子"のような物を配ったりはしないのですか?」

「しません。あれなるはただの暇つぶし、『誰かに食べさせよう』という物でもありませんから」




 "彼女にとっての最たる補助対象"であった女神——『好奇心で走りがちの女神テアなき今で時間を持て余していやしないか』と、お節介な老婆が構ってやる。




「また億が一にも競技を制して頂点へまつり上げられてしまっても、どうしろと」

「?」

「貴方のような大神から世界の主権を譲られても困ります。確たる展望もなくて仕様がない」

「貴方の望む『効率化』などは一つ、世界運営の指針になるのでは? ……いん、ふら? その整備していた姿も私のまなこで確認していますが」

「……他の形式的な作業も土砂災害で崩落した道の補修、謂わばその『輸送路』がこれまた元より凹凸おうとつの酷かったので平らにならした程度です」

「成る程。では、『些事さじ』であると」

「そうです。ただ人の"非効率"を見ていてもので、少し補正をしただけ。深く関わるのも面倒ですから、それ以上を特には」

「……ほう?」

「……いえ。『仕様もないものが仕様もないまま』、円滑の筋道を見えぬままに放置されても『在るべき物が在るべき場所にないしき空白くうはく』のようで落ち着けず」





「因りては食料供給の道が復活したばかりの人へ」


「空腹で碌に仕事の能率も上がっていませんようでしたから、くだんの菓子も適当に投げはしましたけど——何ですか、"その笑み顔"は」





 数少ない近似の時間感覚タイムスケールを持つ者としても、"積もる話の吐き所"と大神女神でなってやろう。




えらいです。様々な事情を抱えた同じ組みへの配慮も併せて……"優しい"のですね」

「……あ? 本当に何なのです? 今日はやたらと褒めて……"大神にお褒め頂いてもうらを感じて逆に恐ろしい"でしょう」

「ですが、我が方でも負けていませんよ」

「……?」

「『販路・輸送路の確保』や『食料支援』は、似たようなことを青年たちで他にも色々とやっていますから——"負けません"」

「"負けて構わない"のです。我々では」


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