『スケベ教典を破壊せよ⑤』
『スケベ教典を破壊せよ⑤』
「……」
「……
「……有難うございます」
その後の大神では数秒の黙る間を置いて、されど導き出された結論は膨大な情報処理に基づくもの。
「青年では右。美の女神では左に着ける
各位が議論の有用性を弁えた話し合いの末では——性の乱れによって命の発生が多くても都合が悪いのか。
冥界の神格たるアデス。
大神の間接的な助力が洞窟内に結界を張り、徒歩にて付き添わぬまでも"危険物解体"の力を貸してくれることとなった成り行き。
「武装した人間の数は司祭を取り囲む者で——
「そのどれも
俯瞰の大神が脅威度を告知してくれる間にも、美神と青年で移行するのが影に馴染む頭巾や面頬も確と着用して"有事に即した形態"。
強大な神秘を纏う全身で『黒』を基調としながらも、其々で差し色の『黄』と『青』が引き締める威容。
切り替えてに臨むのは『
今や数奇の巡りによって『認識改変の力を持つ兵器』に改造された——"イディアの春本を破壊せよ"!
「我が友。細かい部分は暗黒の女神で気を遣ってくれますので、"無血"を狙う我々では堂々と正面から"お譲り願いましょう"」
「分かりました」
「手順も"単純であって応変"の『
「了解」
件の教典は極まった神により思考を操る厄介な力を持たせられ、気怠くてもアデスがその相殺までを協力。
よっては実働で若者らが『接近』や『奪取』の主体とならねばならず、『神の護衛』としての青年が防御を担いつつ友の進路を確保せん。
「なれば此れより削り出す
「「「「——"美少女ッ"!!!!」」」」
「……開始を急ぎます。"十秒後"」
「"……"」
水が
"友の危機"を知って久方ぶりに湧き立つ青の闘気が瞳に髪に、立ち昇りもして柱。
「「"——"」」
直前に後ろ目で頷きあってから一息の間を置いて——流水が神の立ち位置を変える。
「——
青を湛える長身を先頭に、その背後から身を反転させて鈴を振るような声の通り。
「——!? ……な"——
「貴方で『教典』と崇めるその表現物は皆の手に余る物。また"本来の持ち主であった者"としては身の安全の為にも『我らへ移譲を願いたい』と」
「何をも言うかと思えば"持たぬ物の所有"を語るとは……厚かましくも我らの此れを"性遺物"と知っての狼藉か……!」
「……」
「
「……当該の作の——作者そのものであります」
「——っ"!?」
段の高くなっている氷上に躍り出ては、同じ舞台で教典を守らんとして陣を作る人々との対面。
一応に真実を話す美の女神で己の要求も口に、されど認識を操作された者たちと穏便に交渉が済むようなことも本気で当てにしてなどはおらず。
"持ち主として破棄を決定したのに残存する物"を眼中に捉えては『下手に出るだけ徒労』が言い分の正当性さえ有しての強気。
「温情で聞いてやれば何を、馬鹿な——続けて
「真実であります」
「真実であれば、尚のこと! 美しき理想を記した『ぬけせいけん先生』が
「者ども——
(っ……! ——
間もなく起こった"気の早い武力行使"さえ大体は想定の通り。
続く展開も範疇に、警備で慌ただしくも持ち出すのが宛ら"
そのまま然しての間を置かず、鈴声の主と最も近い場所にいた一人がお呼びでない語り手へ振り上げた力で先陣を切るが——。
「っ——戦いに来た訳じゃない! アレは危険なんです!」
「——邪魔をするな!」
其処は護衛の青年。
硬質化した水そのものの素手が美神への攻撃を阻む。
「"理想を阻むなッ"! 上下の何方からも
「"————"」
「——っ、な……!?」
「は……?」
「み——"
受け止めた手では這い寄る水が瞬時に高める圧によって武器の破砕。
また間髪を容れず続ける流麗な動きでも人の目に留まらぬ速さが水の尾を引いて。
空間を行き来した流体が数の差をものともせず、武装した人間の得物全てを破壊して——護るべき友の側へと回帰。
「な、何だ、我らの周りで何が起きた! それに、"今の力"は——"はっ"!?」
「……」
「……」
「良く見ると、"二者で口元を隠しても美少女"!」
「眼差しだけでも
(……また何か驚いたように言ってる)
「我らの崇める助平の神そのものでは——!?」
「いえ。ちが……います」
「"手本として美少女同士の交わる儀式を示しに"……!?」
「『違う』と言ってますでしょう」
「ならば、真に作成に携わって教典に預けた言葉も知っている筈——『気持ちいい
「ごふ——ゥッ"」
『い、イディアさん——!?』
『だ、大丈夫です。過去の私が考えた本当に
『は、はい。でも無理になったら言ってくださいね……!』
作中から表現を引用されては
(……やっぱり殆ど錯乱しているような状態で話にならない。何より、これ以上イディアさんの傷口を広げる訳にもいかなくて——!)
(周囲の人は
目付き鋭く。
素早く手と手を交差させたような動きから外側への振り——指の間より染み出して創出した水手裏剣の
「飛び道具!? しかし、何処を狙って——"!" 動け、な——」
わざとに人体を外しては背後の影を縫うよう——縫った其処から直ちに水を肥大化させた分身で司祭を含む舞台上の全員を羽交い締めによる拘束。
「怪我はさせませんから、落ち着いて……!」
「えぇい! "美少女によって支配される"ことは霊類の夢なのだ! どうして真理が解らんのだ……!」
「そ、そう言うわれると多少は弱いですけど——いえ、それでも危険なんです! 親や子の将来も熟考せず
「
『——"今の内に"……!』
『了解です! それでは——』
少しでも傷付けないためには『安全を保証しよう』との意で言葉の遣り取りも青年で限定的に受け付ける。
また一方のイディアでも、"友が人を取り押さえる力加減が僅かにでも楽になるように"と万が一の可能性を皆無へと減らすためにが詰めの一手。
「——今でこそ、"人の集まりを解散させる力"を使います」
目立たぬ為に大神より授かった"認識阻害"の効果を下げるのが、
「我が身で
輝ける"女神の微笑"。
距離を近くして優柔の声を掛けられては気を引かれぬ者も本当に僅か。
通りすがっただけで国を傾かせた実績もある玉容が、振る頭で黄褐色の髪に耳飾りの揺れ物も活かして注目を集めながらの歩み。
「"視界を奪う
見た者で崇高な目的も高潔な理想も何処かへ忘れ去られてしまうような衝撃は、既にその"幾つもに到達したのだろう完成"を美の化身に見て自らの徒労を悟りし泡の如く。
頭髪の黄、しかし混じる異彩が白・黒・灰の無彩。
それら気を帯びる髪や肌の質感、滞りのない曲線を描く肉の魅力についても特筆すべきことは多すぎて一々の描写さえも追い付かない。
「よっては我が友のように
何より観測者次第で感じた事実の変わる——その者の内側で理想の想起を促す『限りの無い
「グワー! 美少女オブ美少女! 教義によって従わざるを得ない……!!」
「身が豊かに実って……けれど何か触れることさえ見ることさえ——"不完全の己が美を損なう"ようで
「亡き
「な、何だ、"この感覚"は……見れば往々にして"助平をしたくなるのが美少女"というものでは……ない、のか——」
「……必ずしも、そうでなく」
後は青年の抱える法衣でも脱力、"その隙に"。
「『美に於いて決まったことは
目的の物へと辿り着いた美神は着用していた黒の手袋から炎が教典を呑み、塵も残さぬ焼却。
同時には認識への無茶な干渉も停止し、活性化の疲れに眠ろうとした人々が硬い氷の上を水に抱き止められ——破棄の任務は此処に完了と相成るのだ。
・・・
「やはり、『夢を見る』ことまでを神は禁じず」
「思想自体も裁くものではないので、行為に関する項目に厳格な年齢制限と相互同意の条文を強調して追加し、女神イディアのそれと差し替えた物としておきました」
「お疲れ様です」
「此度も多くを有難う御座います。女神」
「うむ」
「また人でも、これまでは『美少女を囲いたい』という欲が強化され、"それ以外を許容しない"方向に意を押し進められただけでしょうから……強要がないのであれば美少女信仰も大いに結構とします」
「押し付けにならぬ範囲を守る限り、理想の思索を自由に続ければよい」
解決後のまとめでは助平の声に満ちていた空間から脱して一転。
眠る人々をそれとなく村の家に戻してもやり、物言わぬ寒風が引き戻す現実で事件の顛末を知る女神たちが何とも言い難い冷静の空気。
「……」
「……」
「……冷静になってみると、"不思議な体験"でした」
「……?」
「……なので、その……"今回のような件"でも自分に何か出来ることがあれば、遠慮はなくても大丈夫です」
「……我が友。終始で貴方の気にかけてくれる計らいも身に沁みて嬉しかったです……ありがとう」
「いえ」
「……これからも、どうか宜しくお願いします」
「……はい」
春画の処分に付き合えば、また何か芽生える奇妙な友情。
青年たちの関係は今日を経て新たな質感を得ることとなり、両者のともに
"その求めへは色々を叶えてやりたい"
それでも親密の深まりでは相互に思いやれる範囲を増やす"怪我の功名"にも繋がったのだろう。
「それでも、我が弟子。貴方は友を想う本心から気遣いの言葉を口にするのでしょうが……熱気に浮かされる今では『誘い文句』と取られかねない」
「
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