『スケベ教典を破壊せよ④』

『スケベ教典を破壊せよ④』




「……一頻ひとしきりに怯え、けれどまた我が友の示してくれた友愛によって思考も落ち着いてきました」




 そうしては、雨降って何とやら。

 二者の関係も再度に良好落着で纏まり、当初の予定を進めては事態への対応を検討する段階フェイズ




「兎角、稿本こうほんとはいえ私の作品が危険なことに使われるようでは流石に看過できませんので、何とかしなければ」





「——美少女! 美少女! 美少女! 美少女ならざるは美少女にず! 性義せいぎによって駆逐くちくすべし!」





「……愈以いよいよもって言動も過激。直近では人体の成育段階にある者まで巻き込まれては大変です。一生ものの変化を軽率にきたしかねない」

「……はい」

「回数を重ねて快楽こそが絶対の目的に成り果てても行為に於いて重要の『相互の同意』さえ何時いつしかないがしろにされる未来が迫る」




 イディアに合わせて自身も岩陰から上に顔を出す青年で、会合の場に見覚えのある少女も確認。

 第一の村人として情報をくれた彼女のような年齢でも『そういったこと』は負担が多過ぎるからと、危うげに人心も案じる。




「何より、私が空想上の世界でえがいた物では『ほうみなもととするに不備があり過ぎる』ということ」


「それ以外で『性』をどのように捉えてさげすもうがとうとぼうが思うだけなら他者の勝手ですが……今回で、"アレ"は……"全人類美少女改造モノ"——美少女同士が乱れまぐわう作品は経世けいせいの参考として非常に危ない」




「……ええ。人で遺伝子の継がれる仕組みも良く知らぬだろうに、なんということを」


「剰え『美少女』などという"究極的には定形の無い概念"。決まった形で降霊こうれいあたうと本気で、盲目的に言い張るのなら……あの法家ほうか気取りの者ら、"あぶないおんな"です」




 述べた所感で危険性を補足した暗黒も頷き、概ね三柱の女神たちで『対処の必要性』が意を同じく。




「表現を『美しくないものは存在しない』、『存在してはならぬ』などと取られても危殆きたいなれば……時に、今がまさにそうなのでしょうか」

「女神の芸術がむなしいあだとされたな」

「……はい」




「……それにしてもまた、イディアさんで"凄い題材"です」

「……題材選びも順当に『美少女とやらを沢山描ける物を』と思いまして、だから"真っ先に己で手掛けるべき"と制作を決めた作品」

「……」

「持ち込んだ当時の編集の方にも『処女作にしては刺激パンチが効き過ぎている』と着目して頂き、その為か幸いにも商業での初掲載に至った思い出も……あるにはあるのですが」




「それでも、視線の先にある私の作……初期の、下描きも下描き」


「表題も結果的にお蔵入りとしましたが安直に『色目いろめ』と『式目しきもく』を掛けて紛らわしく……けれど『決まりごと』の意で此処まで真剣に取られるとは思ってもいませんでした……」




(……イディアさん)





「——神性しんせいのこしては"性遺物せいいぶつ"! 利用が我らに示す進路!」





「やかましいですね」


「今に見れば見るほどあらに感じる部分も多過ぎる。それを崇拝に使うなんてもってのほかでありましょう」




 口振りは気丈に振る舞っても、本心からの探求の作が乱用されて遠い目。

 異彩の髪では力も抜けるように憂色ゆうしょくが白い麗神の横顔。

 友が見せる悲嘆の色では"助けて遣り切れない思い"に『寄り添おう』と言った青年でも切なくなってしまう。




「ですからも本当に、何とかしなければ」


「個神の憂慮でも、我が友に当時の勢いで決めた筆名ひつめいでも見られようものなら……よ、"世の終わり"めいて……」




(……そんなになのか……)




「仮にそうなれば、また私でどうすればいいのか分からなく成る程に衝撃が、動揺を……連れてきてしまい——」





「広く世に進出しては美少女の導く主権を手に……だが、彷徨える我らに教えを授けてくれるこの聖なる教典。説話が尻切れで終わっていることからも分かる通り、僅かに紙片ピースが足りていない」


「よっては当面の活動目的。この教典の巻頭と巻末に記されていることからも"作成者の名"と思われる『ぬけせいけん』——我らにとっての"預言者"とでも言うべきその者の足跡そくせきを辿り、近い将来でピース・オブ・ゴセイパイを集めて教えを完成させよう!」





「わ、わがとも……わがともっ」

「……"大丈夫"ですよ。イディアさん」

「わがとも……?」

「こうした事もあろうかと"直前で聴覚は遮断しておきましたから"」

「——わ、わがとも〜〜!」

「正直には少し聞こえてしまった気もしますけど……これぐらいで自分は貴方を見捨てたりしませんよ」




「勿論、事態を収める何かしらの協力も約束します」


「これ以上自分から深くは聞きませんので……"良き友でいてくれる貴方の平穏のために"」




 切なくなって、しかし。

 それでも"傷心の友"を前にしては青年で奮起せざるを得ない。




「イディアさんの尊厳を守らないと」

「わ、我が友が未だ私に尊厳を見てくれている……!」

「"——"」

「ならば、結果論とはいえ迷惑の当事者としても……恥ずかしがっているだけではいられません!」




 そうしては異様な状況の中でも"親友を想い合う固い結束"を前に、監督者からも言葉。




「然り。私が『青年を今回の件に関わらせても良い』と思った理由は複数あれど」

「(アデスさん……?)」

「第一が、というのなら、彼女の尊厳——"守ってみせろ"。我が弟子よ」

「"!" ——はい!」




 後押しを受けては碧眼で明度を落とすように視覚も機能を落とし、宛ら深海に近付いた暗色が水の波動感知を主体に視る世界。

 友である美神の"見られたくない物を極力で見ないようにぶくに頑張ろう"。




「——……とは言っても、こんな状況は一体どうすれば無事に……? 人々でもまだ決定的に危険なこともしていませんし……」

「確かに"内輪に向けた発言"だけでは青年の言う通りで目立った害はなく……しかし実を言って此処で、既に"我々の対処すべき問題"となっているのが一つ」

「? その一つとは?」

「"例の作品が今は改造されて危険物となっている"こと」

「か、"改造"……?」

「何処の神王だれかは知りませんが手を加えられたことで物体から特殊な波が放たれ、それで以て"周囲の認識を改変している"」

「——!?」




 頑張ろうとした矢先に対策を練ろうとした身で思わず大きめの声。

 それでも無論、暗黒の加護があったから遮音についても問題はなく。




「そうでもあるが故に本来は破棄されていて然るべき物——脅威を除く意味でも何らかの"処分"を下すべきでしょう」




 それでも他者の後付けとはいえ"認識改変能力を有するに至った自作の春本"に当惑するイディア。

 言葉に詰まる彼女はこめかみを抑えながらに目を閉じて、一時は情報の整理に専念の構え。




「具体的な方策は『える』なり・『作り変える』なりで構わず」


「計画の立案は美の女神の意向を基礎としますが——即ち実行すべき任務が『現行の教典破棄』」




「私でも手を焼く速度で認識を"色狂い"に改変するものですから、暗黒でも効力を抑えるのに多少は骨が折れるのですが……さてや、如何いかんせん」

「……と言いますか、異常な熱に気圧けおされて今の今まで忘れかけていましたけど、思えばそもそも——もしかして、"住人たちが大した違和感もなく過激な話に順応している"のも、改変それで……!?」

「うむ。気を落ち着けば青年にも感知可能な通り」

「——あっ。言われて確かに冷静になると……"ビリビリ"きてるのが分かります」

「"以前に遭遇した魔剣"のようでもあるか。人で『美しいものを愛でたい心』が無理に引き出され、『美ならざるを排除せよ』と狂気の使命に呑まれている」




(……思ったより大変そうだ)




 努めて状況を理解しようとする青年は『苦しんでいる友の代行を果たさん』と健気。

 認識改変で闘争バトルを仕掛けられている師を側に、左右の反対側に座して体重を岩に預けたイディア自体も気にかける。




「そ、それなら、これから自分も行ってなんとかで……イディアさんの方でも気は大丈夫ですか?」

「え、えぇ。ご迷惑をお掛けします」

「いえ。そんな」

「ですが、言いましても此方には『いざとなれば宇宙の構造を書き換えられる大権能だいけんのう』もいてくれることですし……精々"はらはら"と気を揉むのは初期の作を見られた私ぐらいのもので——」





ちなみに暗黒わたしは出向きません」





「……アデスさん?」

「この辺りで二者を待っています」




 だがすると突然の報知、美の女神が『部分的に責任のある者なれば』と律儀に対策会議へ復帰するや否や。

 なんと"若者たちにとっての頼みの綱である大神アデスが協力に控えめな姿勢を見せてくる"。




「どうして……?」

「最低限の護りは引き続き私で担いますが、詳細を省いても"大神を名指しするような計略"——"きなくさい"」

「……?」

大神あれそれ大神女神たいしんめがみの権能を艶笑えんしょうに使わせることで格の零落を狙っているのかも知れず——"罠の香り"」

「そんなことがあるんですか?」

「ともすれば複雑な事情を抱える二者にとっては今更であって、だとしても新たな"政治闘争"に巻き込むようでも『悪い』とは思うのですが——此れは政治せいじにして、何よりせいに纏わることなのだ」

「アデスさん」

「よって慎重に臨まねば」




 つまり以下に続く文も要約すると——"世界的な視点からは些事"に気怠げのアデス。

 それでも最小限の助力で『保護者の役割は果たす』と約束。

 動きでは以前に用立てて貰った自分専用の水布団ウォーターベッドを広げて横になり、此方も同様に水の詰められた枕を抱えて——それら『悪魔との契約』で獲得した"対価"を示しつつ。

 即ち、『不用意な請願を重ねては"魔王"によって全てを奪われかねない危険性』が残ることを顕著にしてやってから青年との交渉へ臨む。





「単純を言っても、例え『あがいな法』が施行されていようと・なかろうと……"命は勝手に"、それも"秒に億や兆を超えて増え続ける"から——『神の視点では其れ程に差を感じない』のもある」





「……ですから偶には過度な面倒を見るのも休み、生徒の自助努力を重んじて野に放ってみるのも良いのでは?」

「そこを何とか……もう少しだけでもお願いしますよ」

「……」

「貴方が分かりやすく付き添ってくれないことには本当に"心細い"のですから……せめてもう少し、お力添えの約束を」

「……考えさせてください」



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