『スケベ教典を破壊せよ②』

『スケベ教典を破壊せよ②』




 現在——世を生きる民草を助けて執政に相応しき神を決める競技の祭り。

 その期間中では神話に語られた名立なだたる存在が揃って参加する奇跡の中。

 "女神の体に人の心を搭載した青年"でも『都を曳く』という大きな一度を終えた後では精力的に。

 各地を走り行くのは暗黒と美の女神たちに護られながらも駆る漆黒の三本角トリケランダー

 大陸を飛行によって横断しては、時に干魃かんばつへ雨を降らし。

 大海を滑るように渡って時に活火山の噴火した直後の危険な流出物を水で冷やし固めるまま——大気圏を超えて星の外、噴出の上昇によって放逐ほうちくに連れて出たりもしての順調。




「——"周囲に人的生命体の反応を確認"」

「「"——"」」

「よっては我々で休息も終わり、問題がなければ外へと降りましょうか」

「「はい(大丈夫です)」」

「……では、向かいます」




 そうして、万能の暗黒が隠密に処理する数々の案件の他で、前者と同様に多能な美神という友の力も借りて青年の奮闘も目立ってきた道中。

 光景では宛ら光学迷彩のように隠れ、加えては物理的な実体さえ掴み所のないかすみの如き機体から降りる柱の三つ。

 玉体のたけでは小・大・大の順に。

 今回も人の集住を主な目的地に転々としながら飲食物の配布や暮らしへの貢献と引き換え的に得た情報を辿り、吹雪ふぶいて物資の供給が心配された氷雪の村落へと至らん。




「……話に聞いた通りの豪雪地帯。村の外では道という道も雪に消えて……出入りだけでも大変そうです」

「……確かに」




 美神の後に続いて凍てつく外気に接しては、横に並んだ青年でも足下で白に沈み込む感触。

 地理的には切り立つ連山と流氷を載せる川に挟まれるような位置。

 積雪を嫌ってか、その背景の霊峰と似た鋭さを持つ家々の屋根が透き通る空色を貫く情景を目前。




「……それなら『除雪じょせつ』とかもどうでしょう? 一応は自分で重機の真似事も出来ますし、それなら滑落かつらくのような事故も減らせるかもしれません」

「……そうですね。単純に雪を除くだけでも体力的に時間的な労力や諸費用の面でも貢献は期待できますから、良いのではないでしょうか」




 主に精神へ配慮しての休息も済んでいるから観光気分もそこそこに。

 首を回すルティスとイディアの若い二柱で降り立った現地の状況を流し見て『支援が必要であれば成さん』との気構えが意見を交わす。




「行うのであれば私も指揮的な役割を中心にお手伝いしますよ」

「有難うございます。……他には『防寒の道具を』とも思いましたが、そういうのは"残ると危ない"のでしょうか?」

「……判断が難しいですね。『成るく格差の拡大を助長せず』・『成るだけ関連する者の多くが助かるよう』としては『公共』などの理想的な範囲を見極めねばなりませんから……もう少し情報が欲しい所です」

「……了解です。そうしたら今回も在住の方々の様子を窺ってから詳しい内容を、また後で——」




 青年の素朴な発想では『寒冷地で毛布をはじめとした防寒グッズが定番』と早くに思い——けれど『すぐに消費が難しく形として長期に残る物は与える影響の予測が困難で怖いから』などとも、今日も今日とて尽くさんとする慎重。

 そばに近い博学の女神に助言を求めつつ『形に残りずらくて助かる物は何ぞや』の案を出すことで悩み、『他者のため』であって更に正確を言えば『既に"他者を想わざるを得ない自分"のため』でもあって——。





「————大丈夫ですか?」





 すると転瞬——青年で変えた立ち位置。

 今し方まで食料支援の段取りをやるにも『先ずは目の前の社会を仕切る体制や人口分布などを調べん』と、足を村の方向へと踏み出せば先まで踏んでいた雪で女神の痕跡が消えた時。

 神の知覚で接近してくる水気の揺れを察知しては——流れるように動いた玉体が何処かに道を急いでみぞれに転びかけた少女を受け止める。




「——え、あ……す、すみません」

「いえ。私の方は大丈夫です。貴方にもお怪我などはありませんでしたか?」

「は、はい。どうも……貴方は……?」

「旅の途中で立ち寄った者なのですが、食料の調達の為に何か物との交換もしたくて……ですので、近隣の人の集まる場所などを知っていれば教えて頂けると嬉しく……」

「…………それ、は」

「……他に村の代表者の方だったりは何処に行けば会えるのか、そういったことでも構わないのですが……」

「……」




(……?)




 その小さな村人、顔の下半分さええりの覆う外套と厚手の帽子から覗く髪は白桃色。

 見た目から判別する年齢は青年と馴染みのあるルティシアの少女と大して差はないだろう十三や十四あたりの女性。

 その焦っていた様子で呼気を白くする人間は女神たちが同地で接触する"第一の村人"であり、『丁度よく話を聞けるか』と川水で期待も高まって——しかし、息を整えた後でも何故かに歯切れは悪く。

 雪が積もって交通の便が悪ければ立ち寄る外部の人間なども少なくて『多少の警戒は致し方ない』と思っても、"寧ろ怪しいのは変に黙る少女"の方でもあって。




「——ひとで、何をくことが?」

「今日は"司祭を兼ねる村長"より我らの新しい決まり——『ほう』というものの公布が為される"記念の日"なのです」




 話を早くする為に従わせる権能。

 率先して背後から進み出る暗黒神アデスの質問。




「では、"記念"を祝して何処かに人が集まると?」

「はい。我らの"秘密の会合"。外に漏らしてはなりませぬ」

「"場所"は」

「村のほど近く、山の手にある氷の洞穴ほらあな

「"其処で何が行われる"のか、知っているのか」

「『誓いを立てる』とだけ。『産み増やす支配の為に』」




(……それは……)




 "法の施行"はそれだけを聞けば往々にして秩序の更新を祝うべきと頷けるも——けれど掘り進めれば"隠れるような動き"で不穏。

 直前に少女で口にされた言葉も言い表し難い"妙な気配"を漂わせ、『これは正に神で対処にあたるべき何かがあるかもしれない』と変調の空気。




「"他には何を"」

「いえ、何も。民に詳細を知らされるのが今日でありますので」

「……然様さようか」




 そうしてそばで聞いていた若者たちでも手応えを得る頃には、大神で記憶を調整してから引き止めていた少女を解放。

 その後では人の姿が先述した通りに家と針葉樹の並びが利用可能な進路を示す山の方向に向かうのを見届けてから——互いの世界で目に見えて『警戒』の意思疎通が分かるようにもルティスとイディアで大神と同様に頭巾を深くして自己の気配を更に潜ませた。





「……」

「……女神アデス」






「"跡をつけて様子を探ってみましょう"」






 ・・・






 斯くして、怪奇的でも状況を先んじて俯瞰しているだろう大神アデスが妙に言葉を少なく偵察を決定。

 その判断には未だ納得のいかない青年たちでも『確かめて危険そうなことが何もなければ』と、先を行った少女と不凍ふとうの血流の集まる気配を頼りに辺りを刺々とげとげしい樹木で囲まれた如何いかにもな奥地の穴を発見。

 間を置かず進入もしては、息の一つも吐かず。

 厳密に言えば星の大地に接してさえいない密かな足取りを止めたのは——人の集まり五十ほどを視界でも捉えた所。

 透き通る天蓋に床に、月光の反射されて意外な程に明るい内部。

 念入りに場へは飛び出さず暫し岩陰から推移を見遣る柱が三つ。





「——よくぞ集まってくれました」


「この山陰やまかげ洞穴どうくつというもんくぐってはまさに大地で女陰にょいんとおって聖地」


「また教えを授かり一新いっしんの己で外に出ても、新たな門出かどでに相応しき原点のよう





 間のよく始まった語りでは多くの人間と比して一段と高くなっている足場、装飾を付けて豪華な紫の装いの人間。

 集まった人へと語る役割から鑑みるに先程の話に出た『司祭』や『村長』と呼ばれる者だろうか。





「そうしましては記念の日。我らで以後に捧げるは処女の血」


「棒で突くよう綯交ないまぜにしては、世に創出される新たな法で真の秩序を敷かん」





(……これは……"信仰"?)





 その整った顔の口で現される言葉。

 青年で幾度かは耳にしたことがあるも幾つかは常用と離れて意味を取りづらく、耳に不透明を聞いて一層に騒ぐ胸中。

 それこそ学ぶことにも関心のある早熟の青で"世の成り立ち"や"生命の起源"を取り扱うことの多い『神話』のような世界観——"性的な要素も頻出する"とは既知に。




(…………どう、すれば)




 だが、仮に血を流す『生贄』や『侵略』のような行為が目の前の集団で推奨されていたのなら——"自分はどうすればいいのか"。

 果たして『人を助ける』とは今の自分が置かれる"難解な状況"でどのようにすべきかと深刻に思い悩み——。





「因りては、その法にとっての根拠となる"原物げんぶつ"さえ此処に——衆目の前に示される時!」





「"————"」

「……? (あれは——)」

「……」





 けれど、真面目に臨んでいては次の場面。

 変化の起こる瞬間には——"誰よりも早く光景に面食らって絶句の美神"と。

 状況が理解出来ずに硬直する青年に、真顔の恩師で三者三様。

 受け止め方に差異のある彼女らの眼前。

 司祭の持ち出して高々と掲げて人に見せるのは、色がせても"人と人との一糸纏わぬ姿で絡み合う様子"が神の視力で遠目にも分かる"絵"——複数枚が重なって"一冊の書籍"とでも言える。





「今日を境に集いし我ら、聖典を目撃して結束する意は——"美少女こそ至高"!」





「「「「"美少女こそ至高"!!!!」」」」





 そう、其れ、つまり——やや風化した春画しゅんが

 つやのある内容が反射する光の中心で掲示され、剰え歓声を受ける『教典きょうてん』としての扱いが渦中に燦然さんぜんと輝いて現出したのだ。






「"産み"! "増やす"! ——"助平万歳スケベバンザイ"!」






「「「「産み!!! 増やす!!! 助平万歳スケベバンザイ!!!!」」」」








「——あ……"あの絵"は——……!!」

「……(い、イディアさん……?)」






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