『スケベ教典を破壊せよ①』

『スケベ教典を破壊せよ①』




 時に『恥』や『秘密』といった——"隠したいもの"。

 思い通りに行かぬことだらけの世界を生きる者では普遍的の、"有り触れた"ことだろう。

 だが、絡み付いてくる過去を悔やむ念はそれがおおやけの場に晒されたことなら一層に当時の沸き立つ羞恥心さえ記憶へと鮮明に焼き付いては消えず。

 ふと思い返しては、苦笑い。

 また笑って済まねば枕に顔をうずめてもだえるような衝動も『恥の回避』といった行動規範が以後の己を形作る一部として刻まれ、故に完全な忘却の困難。

 即ち良きにせよ、悪しきにせよ。

 印象で深い体験事実とは生涯を通じて付き合って行かねばならぬから、生きて歳を重ねるほどに既知は多く。

 その自らの歩んで来た足跡と関連しても"否応いやおうなしに埋没まいぼつから引っ張り出されるもの"、多くなりがちで。




「『ただしさ』とは——"道理にかなっていて心に気持ちよく"」




 様々に挑戦を続けてきた長命ちょうめいしゅであれば尚の事。

 今回の話はそういった『ある者』の"過去に残した作品"から。

 やはりおおやけとするのが何かはばかられる"隠れた努力の結晶"——その広く露見してしまうかもしれない危機。

 ともすればしれない、旅中りょちゅうの小話である。




「其れ、即ち逆説では"こころよいことこそ正義"——"気持ちに良ければ道理に適う"」




 というのも、今まさに肝の冷えるよう。

 ある雪の深く積もる地で、筆頭格と思しき重ね着の人間がひらく多重構造の箱。

 同地では寒冷が故に紙食いの虫も湧かず、箱の中で厳重に封をされていた『物語の形式を取った複数枚の絵』が保存状態も良いまま。

 人に『崇めるべき作品』として丁重に取り出され、仰々しく掲げられては続く波が気温で更に引き締まったような荘重そうちょうの声音。




「なれば『かお』に『からだ」の見目よく美人びじん——"我ら『美少女びしょうじょ』こそが真に世を統べるに相応しき者"」


「そう。性典せいてんにもえがかれてある。見事な図絵ずえで表されては"理想の表象物"であって、技巧は人の域を超えてかみ絵師えし




「つまり神聖によって創造された構想が我らに贈られ、語り掛けもするのだから、よって真に人は——いや」





「"世界は美少女が美少女の因子のみで満たす"のだ」





 青く透き通る氷の洞穴にて。

 起こされようとしているのは運良くも美少女に生まれた人の司祭たちによる——"恐ろしき計画"の始まりであるのだ。





「ここに間もなく、我らの神より賜った性典を『助平秩序すけべちつじょ』の根拠としておこさん」



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