『期間中の活動方針について②』

『期間中の活動方針について②』




「では、期間中の大まかな方針は以下のようにて、決定とします」




「「"——"」」




「以前に話していた『食糧や水の配布支援』を移動しながらの基礎とし、各地で集まる者たちからは時々に話を伺う形式」


「そうして多く命の喉腹のどばらを満たしつつ、旅で立ち寄る先にて相談された大事おおごとへは我らでしっかりと対処法を考えましょう」




「「はい」」




 斯くして、覇を競う拾信の祭にて身の振り方を決定とした女神三柱。

 拠点の大広間から繋がる新設の扉の先では新たに『製造』や『販売』で使える空間を暗黒大神は忽ちに作成してみせ、案内された青年らで機体トリケラの脇腹の辺りに併設された其処では上下で開閉式の窓から都市の行き交う人々は見える。




「時には形から入るのも心を切り替え易く、"如何にもな移動販売"を行いたい場合も此処を自由にお使いください」




「我が友! "仕切られたこの空間"も何か『秘密基地』のようで胸が弾みますね……!」

「は、はい。それらしい雰囲気で……所謂『キッチンカー』や『フードトラック』と呼ばれるものは、その"特殊な乗り物"の感じも不思議な面白さがあると思います」

「確かに『特殊車両とくしゅしゃりょう』などは音の響きだけでもワクワクと、"趣き"のあるような……私でそのような気も体感によって増してきました……!」




 その料理に必要な機材や道具を揃えられた『調理場ちょうりば』を主な機能とする場所では、下見に開けてみた窓へを『移動販売』という初めての試みに瞳で星を輝かせる美の女神。

 虹色の髪で黄や橙の朗色を濃くするイディアで、宛ら"目にするもの全てが楽しく思える"ような『好奇心旺盛な少女』の側面。

 歳で千を越えて"あどけなさ"も兼備する彼女のお陰は窓を閉じてからも空間に光源をくれるほどに——"新しくことの始まる雰囲気"、明るく。




「……そうしたら、作る食べ物は広く親しまれる『パン』の形式で主要な献立も用意するとして、種類は"新しく開発"もしなくてはいけませんね」

「基本として同分野での裁量は我が弟子に任せます」

「……でしたら、定番の品目として五つほどを既に作れるものから選定して……始めは少しずつ、後々のちのちで余裕があれば新規に枠を拡大していくのはどうでしょうか?」

いのでは。着実に進めようとする姿勢でも問題はないのでしょう」

「……はい」




 大神恩師からも計画の御墨付きを貰い、安心を重ねた青年でも愈々いよいよは祝祭に向けた作業へと取り掛からん。





「……そうと決まれば早速、先ずは練習がてらに作れるものを作ってみようと思うのですが——」





「食感に味や栄養素なども、"どの生き物が摂取しても大丈夫"なようにしたいのですけど……また、力添えをお願いしても?」

「……まったく、青年は我儘わがままさんです。有ろう事か"大神このわたし"を都合のい何かと思って——ですが、応えましょう」





————————————————





「——ほぼ満点です」


「水は勿論にこの全てが青年の賜わしてくれた手製、味わい深き情報」





「因りて私にとっては濁すよう言うこともなしに……小遣いは足りていますか? 増やしてもよいのですよ?」

「い、いえ。現状でも足りてますので大丈夫です。そんなに貰っても使いきれませんし……」

「己をわきまえてもいる。良きです」




 その後ではイディアにも調理を手伝ってもらい、アデスへは夢のような栄養成分の実現を窺いつつ暫くの生地を捏ねても——。

 また焼いても——自作を味見してもらったり。




「そして、我が友の基本的な骨組みとなる考えはしょくに求めるものとしてシンプル——『味わう者で美味しいことは勿論に健康でもあってほしい』」




 今では『卵』や『納豆』、『玄米』や『乳製品』に『七房バナナ』といった"栄養素を多分に含んだ食物"を参考にしつつ——新規に混成ハイブリッド的な未知の素材を創造神から用意してもらい、それによって各種のパンを仕込んだ運び。

 既に女神たちの完食した定番の献立は『あんぱん』、『クリームパン』、『カレーパン』、『焼きそばパン』、汎用性の高く自由に使える『食パン』など——どれも試験的なこともあって極々単純な作りに思えるが、それ故にこだわった味の調整が神の舌をも唸らせる人気の品目。




「私でも味わってはその設定を守り通せているように思いますから、暗黒の女神も保証した通りに商品としても申し分はないでしょう」

「有難うございます」




 青年で『社会的な労働が難しい』と知って以来は恩人たちのためで他にやることもないので趣味の料理に一層の時間を割き、故に幾つかは既に商業販売も見込める領域へと到達していた。

 よって今後はそれらの改良を怠らぬままに、この先でも見て取れるだろう多様な幸福ニーズを満たす一助となるよう『新たに数種類のメニューを開発しなければ』と取り組みを続けんとして。




「それなら次は『販売』や『包装』などでも意見を頂きたいと思うのですが」

「勿論です。知恵をお貸ししましょう」




 水の操作によって商品を囲む透明な包装紙の案を己で示し、直ぐには実物も用意してもらう神秘。

 実際の販売形態などは『接客』も色々と怖い事情があるので原則は先達の助言に従うとして——女神たちの交わす議論は一段落いちだんらくを迎える。




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「……"普通に遊んでる"みたいな感じがするんですけど、一応は競技中なのに、こんな……『のほほん』としていても宜しいんですか?」

「宜しいのです。先述したように私がなかば自動的でも真面目にやっていますので、はい。でも」




 次には、機体から飛び出して。

 本や資料で学んだことだけでは実際に世の動きが不透明な部分もあるので、細部も詰めたい今では実物のパン屋の見学。

 陳列された商品は勿論に内装や販売形態なども見て『自身の研究・企画開発にも活かせるか』と、昼時はれつの出来る人気の店。

 女神らで足を運んだ其処では『研究用に』と流れで一品を買ってしまったものの青年で食物の全部を食べられず。




「再三に言うよう寧ろ我々で青年が遊んで楽しんでくれますと嬉しいのですから……作業に区切りが付けば息抜きとしても時間に『遊びのゆとり』を持たせましょう」

「それならそれで、気楽に出来て有り難くは思いますが……」




 緑あふれる公園。

 長椅子で共に座るイディアに『甘いチーズ』のパンを食べてもらっては若者たちで中。

 驚かないように希釈された風味や食感の情報を大神の力によって青年が送信してもらう一時だ。



(……濃厚な甘さで、美味しい)


(でも、こういうのを自分で作るとなるとちょっと"冒険"な気もするから……次に増やすのは無難に『ジャム』や『メロン』の辺り……?)



 また風景には屑籠くずかごからあふれたのだろうパンの残滓ざんしを見たり、それをとりねずみむ様子。

 そうした食物の行先一つを見て『やはり落としても問題のない素材にするのが無駄もない』との得られる実感。

 故に『最悪は捨てられても誰かしらの益に』、『放置されてもそれとなく養分となるよう』——『何よりは誰の害にもならぬよう』と"試行も続けねばならぬ"と心持ち。




(……普通は犬猫いぬねこネギ類が駄目だったりするけど、今回は我儘が効くから——やっぱり人以外ひといがいでも、"誰にとってもの栄養"となるように成分とかを引き続きアデスさんにお願いして、なんとかしてもらう)




「……」




(そうしたら基本的に、俺が考えて決めるべきは『味』や『食感』といった"色んな需要"に応えられるように、献立で種類とバランスを意識することで——)




 "皆を幸せにする方法"などは未だに皆目で検討も付かず。

 完全それは兎も角として——食べることわりに生きる皆で腹が減っては何をも出来ぬくらいに苦しく。

 よって此処で『食べられること』・『美味しい物を好きなだけ』は多く広くの『"食事を必要とする生命共通の普遍的価値"』と捉える青年も、その不足しない最善に至る道筋をくうを見つめながらに考えてみる。




「また『誰かのこと』を考えていますね」

「——あ……すいません。また何か話を聞いてませんでしたか?」

「いえ。ただ考え込んでいたようですので、一応に心配の声掛けを」

「それは……はい」

「恐らく"私も含んだ他者"についてでしょうから、取り立てて責めることもしませんが……」

「……」

「それこそ女神イディアのように『美味びみ』とは何かで苦悩をしてもよい」

「……?」

「そういった"漠然ばくぜんに感じられる物事と向き合い考える"のも環境から視点を変更できる"旅の魅力"が一つでありますから」




「悩みながらで『幸福探し』も私と一緒に努めましょうと……今は、それだけ」




 この世界で永久機関は既に成立してあるから『食物の循環連鎖』や『労働』なぞは茶番に等しく。

 けれど、『若者の姿勢も虚無にあらず、これまでの事実として他者を想う見事』と恩師に温かく見守られる中で——そうこう日常をしているとの、"異変"。





(——"!")





 感知。

 視界の端に収めていたトリケラの近く、雨でもないのに大粒の落ちる波の調子。




「……我が友? 急にどうされました——」




 故に即座で非日常へと切り替わった気は、直ぐにも立ち上がった青年で視覚でも補足した『涙を振り落とす人の姿』へと向かわんとする。




「あそこで人が——"子どもが泣いてませんか"」

「そのようです」

「なら……"自分が行ってきても"?」

「ええ。"我が弟子の初陣ういじん"かと」

「……っ(——まさか、"俺にも何とか出来そうなもの"を選んで……?)」

「貴方が向かわないのであれば『魔王の私』で対処に当たりますが……ついついに"威圧"をしてしまうやも?」




(でも、だからってアデスさんがわざと泣かせるようなこともない筈、"ない"と信じて——だったら!)




「——兎に角、行ってきます!」

「っ! わがとも——私も付き添います!」




 それは『手始めに丁度よく』、パン屋を本格的に始める前でアデスが青年に"素通すどおし"してくれる初の依頼。

 その主は、泣きじゃくる少年少女から。

 "水道管に詰まって出られなくなった飼育動物ペットの救助"を請う涙声に『自分でも何かを出来そうな内容』で不謹慎にも安堵を覚えつつ——『いいや、一大事には違いない』と現場への案内を頼んでから地を駆けた。




「——"鼓動が聞こえる"。血液の循環に、酸素も取り込めているから呼吸もまだ、大丈夫……(早く来れて良かった)」


「安心してください。これでしたら自分でも何とか助けになれそうですので——」





「そうと決まれば早速——!」





 そして、流体化で直接にくだの中へと向かった青年女神、流れる水の化身。

 進入する中で思ったよりも動物こねこの数が十匹近くで多いことに驚きつつ『救助優先で管自体を破壊してしまうかも』と心配をしたって——後から来て補修に気を回してくれる恩師の力も借りて、無事に水で優しく包んだ猫の押し出し完了。

 その救助を果たし、信仰ポイントと共に感謝の言葉も貰って胸中は——『他者の笑み顔』を見られて、晴れやかに。



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