『期間中の活動方針について①』

『期間中の活動方針について①』




「——いや、世界秩序われらだった……!」


「"強者の負担"は出走時間にも差を設ける『後発スタート』であるからして——それまでは本当に、御手柔らかで頼みたいぞ!」




————————————————




 そうして、各チームは会場に大神二柱の『ワールド・オーダー』だけを置いて出走。

 残る大神の暗黒女神に率いられる青年たちでも速やかに場を後とし、今で排気の音もなく静かに空を飛ぶのが三本角の漆黒——『ダーク・トリケランダーX』。




一先ひとまずは我々の方針、今後の振る舞いについてを話し決めましょう」




 向かう先、手始めには近場から。

 会場から地続きの都市テノチアトランへと『様子見』に『指針決定』を兼ねた会議の場を求め、眼下に『山』の字形をした広大の陸地を眺めて。

 トリケラの背の甲板かんぱんにあたる開放の部分で話す女神たちは降下の際に機体へ鳥が触れたようにも見えたが——すり抜けるようで何事もなく。




「当然に、我らの神。大神太祖たいしんたいそガイリオスこそが全一ぜんいちに違いない」




 公共の自由駐車に止めては、外で潮風が揺らす香草と合わせって爽やかな酸味の匂い。

 植樹されたものや艦船の積み荷からも薄い柑橘系の香りが程よく。

 以前に足を運んだ高層建築の立ち並ぶ機械的なものでなくとも、三つの塔を頂点とする紺碧こんぺきの神殿を中心とした編み目のような区画整理が美しい水上都市的な風景が広がる。




「その他大勢が『絶対的に劣る』とまでは言えないが……『天』と『地』に『海』までも揃える勢力と比して力不足は否めぬだろうから、"順当の結果"になるであろう」




 その神秘が色褪いろあせず息衝いきづく中へ、降り立つ女神たちの此処は『人々の反応も見たいから』と比較的に民衆へ開かれた港湾区画。

 温暖な気候で涼しげな格好の者たちが行き交う光景は一月ひとつきほど前に『世界の創造主を名乗る実在の神』に"突拍子もないこと"を言われても続いている日常。

 少なくとも同地で大神ガイリオスを主だった信仰の対象とし、また日頃からその恩恵たる無限ほうふの資源に与る人々で大きな混乱はないようであった。

 "神との繋がり"を『現実にある自然のもの』として捉えているから今更で『勅令じみた声明』に驚きすぎる程の違和感もなかったのだろう。




「……ルティシアは割と"わいわい"してましたけど、比較的に此処は"静か"ですね」

「『神が訪れた』と知らぬ限りは平時と変わらず。何道どのみちで『信仰に寄り添う』のでは、"今も日常は断絶なく続いているもの"なのでしょうか」




「言ったよう何かあれば直ぐに慣れ親しんだ場所へは戻れますので、ご安心を」




 その平和な様子を前に安堵を覚えたのは青年女神のルティス、黒に青の混ざる長髪を持って川水の化身は自らの神体と信仰の本拠から離れた今。

 隣に立つ黄褐色とにじの髪は美神イディアと微笑ながらに言葉を交わし、その友好関係にある二者へと後から声を掛けたのは此方も同じくの麗しき神の姿。




「アデスさん」

「そうしては、取り敢えずで闇雲やみくもに走り回っても徒労に終始するだけでしょうから……混乱もない現在地で先ずは何時もの拠点に入って、話し合いを」

「"——"」




 背の高い若者らと比しての小柄、けれどその実は最高齢の老少女アデス。

 刹那の対処療法的であっても『他者に幸福をもたらさんとする試行錯誤を決して"馬鹿な無駄"とまでは切り捨てず』——根本的な問題解決は自らが狙う『生命の根源たる大神の根切り』と、魔王の複雑な事情は置いて。




「実を言えば私の方で『大まかな活動方針』は既に決めているのです」




 捻れた渦ワープホールに共同作業者を先で通した彼女。

 後入りの黒衣で頭巾を取り払う仕草に色素の薄い白髪は揺れて、黄色い花の耳飾りは今日も青年の目を引く差し色の鮮やか。




「其処までは話を聞いていませんでしたが、既に女神で何かを、"お決まり"に?」

「然り」




(……なんだろう?)




 そうして見開かれる深紅の魔眼の後では主神リーダーから諸神メンバーへ——『作戦』とでも呼べよう大神の思惑が明かされる。




「……と言うのも、これから我々で始めようとするのは以前に話をしていた"膨化食品ぼうかしょくひん頒布はんぷ"——」




(……膨化それって)





「——平たく言っては『パンのみせ』なのです」





 言い明かしては冗談の気配なく。

 疑問に応えても論を交わさんとする指導的立場の神。




「……"パン"さん?」

「はい。各地を移動しながら頒布や、時に販売をしたりの」

「……広く親しまれる『パン』という形で、"食料を配る"?」

「『腹を満たす』ことで信仰も地道に獲得は期待でき、何よりは僅少であったとして『今を生きる皆の幸福に貢献もできよう』から」

「……」

「青年でも、"納得はいく"ものかと」




「……それでしたら、私は構いませんが」

「……」

「我が友は、どのように思われますか?」

「……自分も、はい」




 対しては窺いを立てられた若者ら。

 簡単に了承を示した美神の次は、思考に要した時間で視線を一巡させた青年が応じる運び。




「競技を勝ち抜こうとするアデスさんをはじめとして、"誰かのためになる"……なれるなら文句は、全然」


「また自分に何か活躍の機会を与えてくれるようなことも有り難く思い……思いますので、基本的には自分もその方向性に"賛成"です」




 青年、自己の明確な夢や目標がなくとも『世界に幸福が多いと喜ばしい』。

 加えては『其処で自分が一助を担えたら終わった筈の己に価値を感じられて更に嬉しい』からでも、特に反対する理由はなく。




「……ならば、"決まり"です」


「今後の我らではパンを配り歩きつつ、各地で話を聞く方向で各種調整をしましょう」




 色よい返事も認められて、詰めようとするのは詳細。




「……でも、アデスさん」

「?」

「お陰様で幾つか自分でもパンの種類はそれなりに作れるようになりましたけど……でもそれだけでは、アデスさんやイディアさんが『店を出せる』と言ってくれた物以外で質を良くして、量も用意するのはが……」

「勿論に我々でも作業は担いますが、貴方で悩むことがあれば数日や一週間を掛けても構いません」

「それは色々と、大丈夫なんですか?」

「はい。そのかんでも我々で片手間に済む依頼はこなしていますので、心配には及びません」




「"実例"によっても示すなら……たった今で叶えた人の願い、『失せ物探し』の成果がです」




 大神では不安を和らげるように話しながらで手に持つよう渦から取り出して見せる件の"測定容器"。

 透明ゆえに中を伺い知れる内側では"謎の煌めき"が生じる。




「? ……これ?」

おもてで婦人が指輪を失くして困っていたようですので、正にそのものを見つけて送り届けてをあげました」

「え……では、"このキラキラしたの"が……『信仰』の?」

「そのようであり、私も他者と直接に関わるのは気が重いので。こうして隠れながらでも色々をやっておくのです」




 今し方に若者らと顔を向き合わせつつも外部に働かせる神秘の力が——海中に落としてくじらに呑まれていた結婚指輪を発見しては瞬時に持ち主へと返還。

 目に見える動作もなくに涼しい顔のアデスで言ったことの実例を少々で認識改変も交えつつも示し、その匿名であっても行いは結果を計測されて集積物が増えた今で、透明の容器に貯まる『虹色のキラキラした信仰のエネルギー』は"一粒一粒が星の形をした砂"のようであった。




「また他の神でも勝利に然したる興味はないようで、故に現状で最も"真面目に取り組んでいるのは我々"であるからもして……やはり、結果への心配も我が弟子で程々に」


「"大神に立ち向かう大神"で勝算はある。一要素として青年の持つ真面目まじめの視座も借りて——"本腰でない者たちを後の順位に置いて行く"」




「私もこれから頑張りますよ。我が友……!」

「は、はい。イディアさんも改めて宜しくお願いします」




「既に予測で十分に上位を狙える位置が我々。例え後発組こうはつぐみ大神何某たいしんなにがしらが意気を見せても五分五分と言った所でしょうから……はい」




「その場合も私でを何とかしてみせましょう」

「……アデスさんが其処までを言ってくれるなら確かに、大丈夫そうです」

「そうですよ、我が弟子。"我々という未知の力"によって"確実や安定"に賭けた堅実な者たちをひっくり返らせてやりましょう」

「ほ、程々にお願いしますよ……?」

「……大丈夫です。今回では主催者からの『徳政とくせい』も適用されるようですので賭けに興じる皆で負債も増えず——『多少の差はあれど誰もが何かしらの利益を得るからこそ勝ち負けに終わらぬ祝祭』だの、なんだの」




 そうして、容器を渦の中に放って機体の定位置に戻したアデス。

 負債が出来る程に賭博へのめり込むような輩まで心配する姿勢を『をかし』と思ひつつに顔で色の変化。




「……他にも誠実に偽りなくを言って『大神わたし』と『女神イディア』という万能ばんのうが控えている以上で青年の出番は少なく」




 青年に見せる微笑に苦しげな白眉はくびがりも見せ、愛くるしく。




「だから貴方は『隠された切り札』のように外では"意味深な顔"をして構えているだけでも、"戦術的な意味合い"はありますから……」




(——うわっ、触手しょくしゅ)




 しかし、同時には邪神、過保護の心は愛で苦しく。

 生やす暗黒の手の数々で青年を護るように取り囲んで暗く、重たい眼差しを以て言うのだ。




「……一つの本音としては命の有する無限の欲、その剥き出しとなる様に貴方を近付けたくない」

「はい」

「よってはこれまで通り常に包む大神の力が直接的に関わらずとも解決できるものを処理。他者と対面する接触の許可も我が方で慎重に慎重を重ねる」

「分かりました」

「だからも、これまで通り難しく面倒極まることは私に任せ、貴方は貴方の成すべきを一足ひとあしずつに考えて宜しいのです」

「……御親切、痛みります」





「……でも——」





「……"あんまり残酷なの"は、極力でよしてほしいです」

「……善処します。一応に、貴方に嫌悪されては私でも痛む心は在りますゆえ」



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