『開幕—競覇拾信祭—⑦』

『開幕—競覇拾信祭—⑦』




 円形競技場、中央。

 突然の対戦車擲弾による狙撃で爆発に煙は上がり——未だ熱のめやらぬいま




「しかし……おいおい、また『乱入者』か」




 暗殺を狙われた光輝の者。

 既に他の大神が『しれっと』の隠形おんぎょうで人の認識外へと身を潜めた中。




「今度こそは吾でなく。けれど"世界への叛逆はんぎゃく"では『宇宙への粛清命令オーダートリプルシックス』もあって——」


「兎角——お前たちにとっては"一遇いちぐうの絶好機"」




 銀河長髪ぎんがちょうはつを振る様がくすりの匂い立つ煙を晴らす。

 先までもやのあった場所から差す光の輪郭、"荒々しい男神"としての神王ディオスを世に表しながらで神は言う。




「因ってからには吾でも事情は窺え……しかし」


「"間もなくの出走スタートを邪魔されたから"には、"参加する神で対処をせねばならぬ"のだが——」




「誰かで、その成敗——」




 意見を言い表しては場内の神々を見遣り、されども『困りげ』に寄せる銀の眉。





「「「「「…………」」」」」





「——……"頼めぬ"、のか?」




 王へ諸神から返された答えは沈黙。

 神の誰も『面倒の極地』である大神と邪視を合わせようともしてくれず。




「……ならば、この場には獣や怪物に、悪疫退治で名を馳せた者も居ようが——」




 よって、親しみや友情も示されない無言から暫く。

 賊への対処を買って出るのは、"集団に於いて些事を任される下っ端"から——では、なくの。





「いやいや、"この場の責任者"が正しく——責任を持って対処に当たろう」





 開幕にち込む頂点、単純シンプルぎゃくの張り。

 これもまた"王道破り"の——"王道"。






「即ち、






 刀剣はじめに刃物や重火器の類いを一切所持していない両掌をわざとらしく開き、逃げも隠れもしない姿勢。

 堂々にも声明者へ詰めようとする距離は寛大にも神で『歩み寄りの姿勢を見せん』と言うのか。




「ともあれ、光輝の場。晴れの日」


「どんな台詞も照らされる場面いまで、先ずは情景も輝いての交換とでも——」





——"超常の神"!」


「それ以上を寄れば巫山戯ふざけおまえの、自らが『子』と呼ぶ数々のぞ!!」





 しかし、此処でも王に返されたのは、申し出を取り合おうとはしてくれない冷ややかな峻拒しゅんきょの言葉。

 神を見下ろす高さが通路口の付近、今し方に聞こえていた放送と同じ声はテロの首謀者と思しき女性から。

 その差し詰め『脅迫』の主張を言われて見れば、人の長年に暖められていた作戦で観客の数百や数千が軍団の構成員によって捕まり、その喉元に刃物を突き付けられる"人質ひとじち"となっているではないか。





人質それが分かれば『神殺しの刃』の前に貴様という神の身を差し出せ」





「……」





「今日でこの"腐った世界を変える"——"人の物とする"為に」





「……"変える"」





 だが、郷里や親族を失った人の憎悪に燃える眼差しも突き付けられる今で——それでも、"余裕を失う訳がない者"。





「……確かに、"神の中の神を打ち倒せば世界は変わる"だろう」


「それこそ、倒れ伏した神を"新世界の土壌"にして穀物や果実のたぐいを無尽蔵に湧かせることだって事実は可能だ」





 光の神は既に相手の耳元。

 "こえの仕事でも本職の領域"にある大神は、それ故に発声もすぐれての"声優せいゆう"。





「可能性は皆無ゼロでなく」


「だかしかし、その僅少を知るには簡単な数学すうがく——いや? 『さんすう』であるかな?」





 高貴にしてゆうなる音の伝わりは、"星幽せいゆうの王"から正しくの"玉声"。

 左右に上下を含む凡ゆる方位から人の体の芯を震わす波音も優しく。




「幼くも、吾が子らよ」


「『お前たちが人質の首をさばく速度』と『吾が光のそれを阻む速度』で」




「そのまさって速いのは、果たして——」




 音の遅れて届く人の認識で粟立あわだち、身震い——それら"頂点の引き起こす自律感覚の反応"。

 人質を取っていたテロリスト全てを、逆に羽交い締めするよう光の化身たち。

 密着した背後から、両耳へ——どころか身体中の穴という穴へ注ぐ。






「「「——?」」」






 何処か妖艶にも危険の漂う甘い男の声が囁き——剰え"胸奥の熱"までも掻き立ててくるのだ。





「——? ——!? ♡……ッッ"!! げ、幻覚——照明や音響機器の誤魔化し——詭計トリックおどかしているだけだッ!!」

「んん〜? "トリック"〜〜?」





 そして、羽交い締めを振り払い攻撃してくる相手へは——軍団員の全てに背後を取っていた分身を瞬時に一纏ひとまとめ。

 本体と思しき光の玉体でも振り下ろされた剣の刃を薄光が『ブォン』と不気味に音を立てる回避。

 断ち切れぬ感触はかすみの如く。




「小細工であろうとなかろうと、世界に存在する以上は『神秘だってものことわり』なのだぜ?」




 子を想う偽りのない愛、会えて嬉しくの温かな笑み顔。




「故に真実として此処で一つ、その神秘を分かりやすく言ってやれば——『みず』がある」


「"水という物質"は多様な物をうえに、時にうちへと含んで……速く、遠くへ」




「更に具体例を挙げれば人の『血液けつえき』を成すのが最も身近で、その"生命維持"的な観点からも重要性——"身にみて"」

「——"!?"」

、分かるだろうか」




 笑いながら、相手へ向けた軽くの指差しから——目にも留まらぬ不可視の斬撃。

 慈悲ある手加減が軍団長の頬へと浅く切創せっそうを刻み、視覚と痛覚で認めさせてやるのは話に出した"実物の赤色"。




「其れ、水辺で貿易が行い易く、故にこそ物で構成される文明も——"進化は加速する"」


「変化を速めて発展させる『液体えきたい』の力でもあり、言い換えては『流体りゅうたい』の凄味すごみを表す『循環』の例え、一つ」




「ふざ、け——!」




平易へいいな呼び方をすれば『運ぶ』ということ」


「そう。運んだり、送ったりの力は物を上に載せて、時に内へと含んで——」




「ふざ——っっ"けるなァ"ァッ!!」





「それこそは——"物質作用の基本にして究極"」


「我ら神の持って権能けんのう——大神がその"流れ"を創る『始点してん』こそが——ストリーム!」





 次第に音声でも抑揚を熱くしていく神。

 けれども光顔こうがんにて朗色は隠れ、厳粛の目付きも温度上昇から反比例を思わせる冷光れいこう

 その変化、身に宿す刺青しせいの竜でも金銀を煌々しく発色するからには——既に大神でちから発揮はっきが始まっている。





「"我ら光の神の流域それ"は、"水のほぼ完全上位互換たるもの"——」





「より——よりッ!」





「よりを運ぶ謂わば『遠大の宇宙を巡る血液』——それこそが! "血の創始ちから!!"」






「『フォトン・ストリームのちから』——!!!」






 重ねる声の障壁が神殺しの刀身を弾き、そのままの勢力によって回転する身振りで散る粒子は事実としての"散布さんぷ"。

 王の見えざる無敵の手が即座に撒いた粒——集まってなみの創造。

 陸地に居たというのに『波風へ攫われる』ような幻惑を人の身が感じる頃には既に神で溢れた光波フォトン・ウェイブ

 その輝きの海が敵さえ包む光景は『神の胎内に満ちる光の羊水』が如き、真に『親が子を守る愛情』の表出でもあるのだろう。




「——案ずるな。運んでも、運賃うんちんまでを取る気はない」




 次では、立たされる人が己の足裏に大地の支えを感じる瞬間。

 それら敵の数十人がいる全て。

 宛ら撮影ロケ地までの移動を省略カットするよう、余計な物のない開けた空間へと移してやり。




「それよりは——よし、全員そろっているな」




 先までの会場から安全のためで周囲に誰もいない手頃な採石場へと自身も移動を終えた神。

 これより自由の王たるディオスは、己の力を示す前座としての『遊びプレイ』を始めよう。




「『これが見れただけでもとく』と、開幕である程度の元は取っておいてやらねば……まぁ、見て捉えられるかは怪しけれど」




 銀髪を揺らし、外す肩の留め具からサービスの意も込めて布地を減らす薄着。

 腰では帯を締める『武道家』のような装いで、開く偉丈夫の胸元。

 露わになる隆々光輝の玉体で筋肉は波打つかの様、その雄々しき肉のは恐れず。

 自らを囲むように配置した乱入者たちで半神的存在ばかりは聖剣や魔剣の類も多数の只中、敵意の向かう中心地。





「うむ。神をも呪わんとする刃の数々、こうも一斉に向けられては流石に吾でも震えてしまいそう——"ぬ"」





 それら『神殺し』全てが自身へ向けられる立ち位置でも自適に語る王へ——"背後から突然に覆い被さるもの"。




「……これは」

「は——はっ! おしゃべりに無駄しやがって! お前よりも早く、俺たちゼンザコで攻撃は放たれた!」

「成る程。『無敵の自信に満ち溢れた神ならば、わざわざ小石のようなを避けぬだろう』と予測して牽制。しかして最初の攻撃は謂わば標的に"誘導のしるし"を——"匂いや色で着ける"ものか」




 奇襲それは漁師の"投網とあみ"めいて玉体に掛かり、激しい電光スパークを上げながら神を縛りし術の力。

 つまり、最初の対戦車擲弾を用いた狙撃は暗殺の大本命ということではなく、あくまで損傷を与えられないことを前提に"敵へ目印を付与する"『ペイント弾』や『カラーボール』と呼ばれる代物だったのだ。




「そうして、それら付着物を目指して進んだのが、この『網』——"神縛り"かっ!」

「どっかの馬鹿な神が地上に遺した"本物"だ。だからもう、"神のお前"じゃ逃げられねぇ!」

「お、おぉ……! 確かに神性神気へ抗する波動相殺はどうそうさいの力。神に一定の効力はあろう。作者われが言うのだから違いない」

「怨むんなら一言ひとこと二言ふたことも多いテメェ自身を怨みな!」




 因って戦況、今や形を変えた網に腕ごとキツく身を縛られた王。

 "自由を奪われた"格好は実に"不自由"を象徴する様で、動きを止めた玉体の近くを包囲するのは幾つもの鋭い切っ先であった。




「ああ。対戦車擲弾発射ロケランとは随分に"生温なまぬるい"……『その程度が必殺のつもりだったら——』と、逆に心配をしていたのだが……ちゃんと序の口だったのだな」


「またして、『ただ斬り掛かっても無駄』と知ったからには『先ずは神秘の力を低減させよう』というのも悪くはない」




 しかし、正面に立つテロリーダーの女から魔剣を喉元に突きつけられる今尚、王で語調に余裕は失せず。




「『定番』に『定石』、それらも"王道"」

「黙れ。噂にたがわぬそのにっくき減らず口、今に喉ごと叩き割って——」

「けれど——"単なる熱"なら、どうか」




 その姿は人の視界で不気味に。

 微笑から地続きで震え出す筋肉も"不審な微動"を見せて。




「星の生まれる物理ぶつり。吾が身の膨れる『Iアイ』が少しの束縛でめられるものだろうか」

「……っ——これから殺される、というのに、なんの、訳が分からぬことを——ッ"!!"」




 遂には軋む音を立てる束縛。

 神々の王で『抵抗して拘束を破らんとする兆し』も見え、それを『危険』と判断する人。

 勝利に向かう手応えから"不穏の焦り"を感じながらも畏怖の心を押して——手に持つ神殺しを前へ。





「ぐっ!? ぉ——オ"ぉぉ"ぉぉぉぉ——!!」





 突き刺す喉から光は漏れ、煩く。





「"死ね"! "終われ"!」

『お、お"、ぐ、——ッ"!』





 苦痛に身悶えの悲鳴。

 "間際らしい声"を上げて——。




『お"お"ぉぉぉぉ! ぬ"、ッッ——ア"ぁ"ぁぁぁ————!!』




 上げてやって——暫く。





『ぬ"ァァァ! ぬ、ぬわ〜〜——え、!?』

「——"!?"」

『ほら、もっと何か——ないのか!?』

「こ、コイツ……!」

『——カモン! お前たちにとっての絶好機であるのだぞ!?』





 口を動かさずとも大気に響かせていた声優の声。

 王で『次が何時まで経っても来ない』ものだから、のだろう。





「"大して感じ入ってもいないことに声を上げるのは面倒"なんだぞ! それも"愛だから成せるわざ"——なのだぞ☆」





 穴の空けられた喉を摩り、容易くの完治は美声を戻しての王より。





「もっと出せる本気があるだろう!? 各位で手に持つ武器はなんだ!? どうして今日という日にこころざしを同じくする者で集まった!?」

「くっ!? 『神縛り』に『神殺し』だぞ——!? "死ね"! "死ね"! ——!!」

「そうだ! ! 吾が子!! ——ッッ! が、ァ——ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁぁぁ!!!」

「いい加減にッ、くたばれ!! くたばれよ!! "怪物"が——!!!」

「あ、アァ、ぁ"ぁ"ぁぁ〜——あハァ〜〜♡」





 出走直前の空き時間で『王』の字形の上に『山』という冠を載せて組の表象チーム・シンボルを乗機に彫り込む大神と。

 トリケラに背をもたれて爪の赤く塗る化粧を眺めて楽しむ他の大神らを——他所。

 残る光の大神で挑発が敵の恐怖心を煽り、その刺激する殺意の衝動によって周囲の者たちよりも続いて何本、何振りもの神殺しの武器を受け——刺し込まれる刀剣の数々が正に危機一髪の様子。





「次、次! ——"その次"は!」


「続き続いての次なる一手、"重ねて五千兆の連撃"は——!!?」





 しかし、それなのにも『被虐性愛マゾヒストの側面』で次第に喜びで満ちる顔。

 笑顔、大きく。

 "めった刺しにされて網の中で光る変態"の玉姿ぎょくし——恐ろしい。





「フッハッハ!! 『神殺し』に対しての『神殺かみごろごろし』——それも出来ずして何が『万能を超える神』か!!」


「そうだ! 仮にとて——という?」





 そして己の『無敵を示さん』との神。

 まるで負けず嫌いのわっぱは防戦にも飽きて"反撃の番"に転じよう。




「もっと本気で、大真面目にやってくれよ。大神殺しを誓いし軍団『余興の雑魚供ゼンザコ』」


「仮に神を殺せたとて。『神殺し』、『王殺し』、『親殺し』……それで終わるな若人わこうどよ」




「"一分一秒に必殺の手を緩めるな"。それこそが、不遜にも"大神にさえ敵と見做みなされる究極"——『好敵手』や『吾が傑作たち』のしていること」




 喜色に震える筋肉美マッチョが自発の光で輝き出す。




「正に戦いの神が如く、勇猛果敢ゆうもうかかん疾風怒濤しっぷうどとうちょうの付く電撃戦でんげきせんでもなければ極神に傷は通らぬものと思え」


「因りて、今のお前たちの刺殺きつけのお陰で寧ろ、吾でも内なる『肩凝りの神格』は殺され……うむ! 大いに助かったぞ!」





「肩も軽く、今日も元気だ! ——吾が子の聖剣が美味い《うまい》!」





 理解不能に怖気付いて攻撃を躊躇った数人、その者たちの震える手で残る神殺しも玉指の引く動作で王は身に寄せて——たるの如き厚い己へ突き刺し、燃焼を開始。





「美味い感情ものを馳走してくれた礼だ。返しに『吾が光』もあじわわせてやろう」





 高める玉体の熱、歪む大気と光の加減の中。

 神器の数々を溶かしては自らの永久に力と戻す吸収。

 熱の上昇を分かりやすく頭髪の色にも輪郭で赤熱、身に開いた傷口より漏れ出す紅蓮粒子。




しからば、見て分かりやすく髪色を、一旦は『くろ』と変えて」




 宣言通りに変えてみせる光の波長並列スペクトル

 合わせては眉毛や瞳の色さえ頭髪に等しい色へと変化。




「これより示すのは、"吾という光の神の在り方"——いや、此処で『かみ』とは言い換えて『シン』、からの濁る『JINジン』として」




ひかり——其れは『シャイン』」




超光ちょうこう——其れは『スーパーシャイン』」





「即ちのが——『Sエス』・『Sエス』・『Jジェイ』」





 しかし次では忽ちに黒髪も変化。

 徐々に黒からは神王に連なる男神プロムや女神ラシルズと酷似した様相への染色。

 揺らす大地と起こす突風の中心で変わっては逆立つ髪の輪郭から、毛の根本からも印象的に最たる神秘——"黄金おうごん"。





「それはスーパーァッ! シャァァイン! ————ッ"!!"」





「——"ジン"ッ!! ——2ツー! ——3スリー!!」






「——!!」






 王は『ジン』の掛け声で金色こんじきに、『ツー』で髪は更に逆立って周囲に激しく迸る電光。

 また『スリー』では眉を消して目つきいかめしく、しかし荒ぶる長髪は"更なる変身"を残して動きを止めない。





「暴れる強大の力なら、破壊神グラウのよう"けものの尻尾"を生やすのも雰囲気はあって……格好のよく」





 穏やかな気質も見せて言いながら。

 次第に激情で燃える赤も眉ごとに取り戻し、熱で形作る風を網ごとに吹き飛ばしながら——完了した変身で神はくれないに染まる。





「けれど直接に触れては熱いだろうから、控えめに……念の為で手袋てぶくろに、あしふくろも装着して——"よしッ"!」





 燃える赤髪で意気込み、神気の放出。

 人を畏怖によって自ずから後退させ、妖艶に立ち昇る屈折が陽炎ヒートヘイズピラー

 光を超えて、光の神。

 それこそが超光スーパーシャインディオスは身支度の出来た己で耳飾りを揺らして、腕組み。

 明度の高い真紅の眼差しが未知の光景に戦慄するテロリストへ声から向かわん。





「——

「「「——"!??"」」」

「"けぬ合体の戦士"が——ォ!!」





「セイ——"ぬン"ッ!」





 攻撃でも——敵へ向かう。

 動作の起こりで身をくねらせ、拳を引いて熱で揺らめく光景。

 奇妙にも腋を締めた構えは、その実で既に超速が動いた一秒の過ぎ去った後。

 それは"擬似的な時間停止"のよう、人の誰にも追随あたわぬ領域での出来事であった。




「どの色でも『王は王』で本領は発揮できるだろうに、色の違う程度で力の絶対的な強弱は生じないと言うのに……王様もよくやる」


「しかし、果たして"いじめるようなアレ"が本当に『親』の振る舞いか?」




 重なる音が衝撃波、エンタメ重視で分かりやすく。

 凄さが伝わるようにも一撃一撃を遅らせて、密度も低めた数百の小打ジャブが多段ヒット。

 呟いたプロムや神々に遅れて見る観衆たちで征伐の光景は、『神が踊る』ようにも見えただろう。





「"神の速度"! ——食らってよくよく覚えていけ!!」





 粒子が雪めいて散るよう見栄え良く腕を振って。

 また動作の止めも明瞭ハッキリとさせて音のなる大気——『バリッ』と。

 声でも身動きでも、権能でだって起こす各種の震えに振動が『バリバリ』と世界へ。

 これまで示されたように演技もたしなむ『俳優』にして『声優』にして、また熟練の『踊り子』でもある大神の手足や頭。

 描く光跡を尾のよう引きながら、時に腰付きを艶冶えんやに動かしてまいが鮮やかに逆賊の全てを吹き飛ばさん。





「そしては"あめ"! ——からの"むち"!」





 神が力を見せると決めれば最早人の立つ瀬はなく、胸に抱いた疑問を口で台詞とする間も与えず。

 早々しては神速の、きりきり舞に出発の時間も近付いて終わらせに行く前座。

 未だ若さ漲る十の指先に形を表すとうの結晶が瞬時に飛ばす飴玉あめだまの形で敵を撹乱し、勢いのある玉が各位の腹を打つ重撃の後で口に放って参加賞の甘味を馳走。

 慈悲深き王からは『気の疲れた時などは取り敢えず甘い物を』の甘ったるい流れで、また間髪を容れずに回すのは腕だ。

 標的らを撥ね上げ、ねるねる練られる糸状の光がそのままの延長線で穴の空いた揚げ菓子——ドーナツリング状の極小銀河を形作っては、牧童ぼくどうめいて放投ほうりなげ

 人の集合を回転から一纏めに、拘束。

 身動きを封じられて無力と化した敵の軍団を前——"必殺技"を撃ち込む用意は整った。




「安心してくれ。勿論、手加減はしている」




 滑らかな動作が口に咥えて外す片手の袋。

 その露わになった木目の細かい煌めきの肌で、外される物は指に装着していた宝飾品の一つ。

 摘む動作で取り外して、金剛こんごういし——握り潰して、破砕。

 粉末状へと戻した素材の『はい』を玉体の周囲へ振り撒く。




「『死を与える』は神々の王の責務でなく……『命の落ちぬ世界』とは吾にとっての理想でもあるからゆえ」




 その不審な動きで背景に負いし日の輪グローリー

 王の光輝から正しくの金剛塵埃ダイヤモンドダストが光を微細に反射して掻き集め、収斂しゅうれんの目的地となるのが手袋を嵌め直して突き出す片掌。




不殺ころさずの努力も惜しまない。歳を重ねた今も『峰打ち』の研鑽けんさんは続けている」




 突き出す方向では、いつの間にやら未来いまに置いた神速の連撃が拘束のドーナツボールを上下左右、四方八方。

 人の集めたそれを撥ね飛ばし続けながら、現刻の神自身では変えぬ立ち位置で掌のエネルギーが吸い込む機械のような音でも気味の悪い高まりを見せよう。




「……しかし、困るのだ」


「この程度の奴原やつばらが『自らを霊類れいるいちょう』などと思い込んでいては……『宇宙のたかも知れよう』というもの」


「因りて統合宇宙の『恥さらし』どもへ注ぐ叱咤の活流。激励の意も込めて、慈悲は深く——」




「今日というこの日のため——"前座のための人生"を良くぞ生き抜いた!」





「褒美としてのいとまを、吾が光の悦こうえつあずかる機会で感謝にせべ!」





 そして、高まった光学のエネルギーは完成形。

 空中で"自然に浮遊する球体"となりて。





「これで終わりだ」





 標的の拘束銀河が射線、掌の直線状に来た瞬間に解き——残っていた片方の手も横に添えられ、王の光は放たれん。





「ビッグバン↑——ッ!!」





 "宇宙創世の光"が一端、ほんの僅か。





「ケラウノス→————」





 村を焼かれ灰とされた者たちへ、それら今は賊となった人を——王は、"灰によって打ち倒さん"。






「————""ーーーっ↑!!!!」






 観衆の見守る中、一瞬で空に描く稲妻の波線。

 即座に着弾した強烈の光は賊を荒々しく撫でて——しかし温情にも大気圏内の中途で振り落とし、惑星を出た光弾は天体を容易く爆ぜさせた宇宙そら彼方かなた





「——【V王V】」





 斯くして、勝利したのは当然に世界の王。

 無音にして特殊の光が足早に伝える銀河爆散の光景を背に腕の交差がダブルVピースを決める。




「……」

「……む——終わったか。流石に速い」




 人の慎重に考えを重ねられた計画の瓦解が神によって、テロの実行開始より数分。

 たが、秒を置かずに光の戻った会場では完勝の余韻に浸る間もなく。

 先まで腕に隠していた王の口元で平坦な感情の色は"酷く冷めた"様子であるのだ。




「——"冷却"を頼む」

OKオッケイ




 機械的な——いや、事実としての無気力が適当に作る合成音声。

 気は既に冷めた表情のディオス。

 残す玉体の熱を下げるためで大神ガイリオスに頼んでいた大容器バケツの水を頭から被せてもらい——髪の色も燃える赤から鉄めいた銀へと再調整。




「……考案をしていた時点では『面白い』と思ったのだが、結局は当初の予想を下回る」




 見た目でも冷温に、見るからに冷静となって。

 けれど、主催者としての責務が上方向の指振りで認識改変。

 更に煽った民衆の、"征伐"を讃える歓声を浴びても王の落胆は埋められるものか。




「『空想で思い描く時は最高』に、しかしいざ形に起こそうと筆を進めてみれば実物……往々にして『理想と比しての落差に嘆く』のが、作ることの難しさよ」

「……分かるやもしれん」

「今し方でも興が醒めた。絶望の顔色は吾が目に好ましく映りも……しはしたが」

「……」

「精神的な落ち込むアレソレも自他への失望に思い出して、再来……よって落ち着くまでの暫くは我ら大神でも静かに参ろうぞ」

「よかろう」

かたじけない。迷惑を掛ける」




 指で描いて創る対電ゴムにて、冷める髪を一纏め。

 長い銀河を後方の一つ結びと変えた美男の姿は『——最強! 最強! 神王! ディオス!』と観衆の人々や愛娘の声援を一身に受ける状態で——しかし、やはりそれでも頂点の神で自らの孤独を感じる思いは消せず。

 客観的には"己を哀れみさえする者"は、今日も今日とて『見ようとしても見えぬ者』の存在に焦がれる心を取り戻すのだ。





「……やはり、吾をしんに楽しませてくれるのは……——」





 注ぐ、虹彩異色の流し目。

 己を熱く、使い古された王道でも『テンプレ』の如き『ライバルキャラ』としての側面を引き出してくれる者へ。





「お待たせしました、アデスさん。言われた通りに確認も終わって——う、うわっ。凄い盛り上がりですね……?」

「はい。祝砲も兼ねて大きな花火の打ち上げでもあったようでやかましく……そうしては検査の方に私でも問題のないことを認め、丁度よく出発の頃合となります」





「——……面白く、"吾の自由に出来ない最高の好敵手おんな"」





 そうして何人にも止められぬ神。

 止まらず自由を欲する心は鉄馬にまたがり——ソルディナとしての己が振る旗を合図に駆け出そう。






「吾は、"お前の歩む無限の未来"を——それこそを、たいのだ」




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