『開幕—競覇拾信祭—⑥』

『開幕—競覇拾信祭—⑥』




「そうして皆よ。今の僅かな時で神に沈黙をくれ」


「お前たちも常日頃から絶大の恩を受ける星へ、その水の惑星に姿を変えた神へと『黙祷もくとう』を捧げよう」




 そうしては開幕式も終わりが近付き、走り出す前に決められた最後の予定が黙祷もくとう




「結果として大戦で失われた唯一の神。しかし勇ましく戦っての、献身」





「我らの生きる今現在に時を繋げた功労者の神、『女神テア』へ——王たちからも暫しの祈りを頼む」





 頂点の神が『穏やか』な側面を見せ、これには複雑な心境の女神グラウまでも従って誰もが静まり返る世界。

 諸神をはじめとして各地で目を伏したり、伏さなかったり、大地に跪いたり、桶の水を掬ってみたり。

 星を構成する空や海や大地に、母体より芽吹いた草花へも黙して各々が想いを捧げる様は自由に。

 件の女神と縁故えんこのある大神ガイリオスに、その最期へ立ち会った暗黒の大神からも定められていない表現の方法が様々。



("————")



 細かい事情を知らぬ青年では、よく分からず。

 しかし、『知らぬ相手とはいえ今の世界や己の体があるのも星と成った女神の存在あってなのだろう』とも思う彼女。

 自他で多くの命にとっての『身をくれた母神ははがみ』へ複雑で、捧げる適切な言葉が浮かばずとも——それでも。

 苦しむことがあったとて『今を生きていられることの幸運』と、それへの『偽りのない感謝』を胸に黙る。





「——……皆で、御苦労」


「その示してくれた協調へ、頂点の神よりもしんに感謝を捧げる」





 そして、王が発した終了の合図に皆の多くと同じよう瞑目していた顔を上げる。




「"旅立つ前の最終確認"です」




 上げ終え、目蓋も開いたその矢先。

 前に立つ柱から次の指示は——予定通りに若者らを導かんとするアデスの見返り声。




「話し決めた通りに順序を踏み、各位で己の状態を見直してください」

「「はい」」

「先日に述べたよう場合によっては貴方がたにも"大役"を担ってもらうことになりますから、慎重且つ精密に」




「下手な誤魔化しも利かず。正確な情報を私でも拝見させて頂きます」




 指示した内容は出発の前に行うと予めに決めていた『健康診断』のようなもので、対しては事前に流れを教えられて納得も示していた二者。




「分かりました。……では、我が友。一緒に向かいましょう」

「はい。アデスさんも、また後で」




 従順の態度が乗り込む機体トリケラ

 なだらかな背で中央の床に設置された移動用の渦ワープホール——見慣れた拠点へと直通。

 そのまま医師風の分身の下での案内、されるがまま。

 青年と美が受け始める測定やら診断やらは事実として、"二柱の不安定な神格"を同時に運用するに当たっての、その制御できない"危険性"を最小限とする為の工程が暗黒の管理下にて順を追う。




「……」




 そして、そのよう『排せる危険を排そう』と。

 勿論に"先見の明"も持った大神が、自らのむ繊細と日頃からその不安を支えてくれる美神を場面の裏に——"直後"のことだ。






「"ぬ"——"狙撃ソゲキ"ッ!」






 起こったのは、光の輝いて目立つお立ち台に向けて、"飛来物"。

 四方八方から爆薬のたっぷり詰まった扁平な菱形が標的への着弾に爆ぜて——上がる轟音が直ぐさま吹捲ふきまく炎熱の風に乗って。




「"対戦車擲弾たいせんしゃてきだんを複数"とは、いやに"情熱的"じゃないか——いやいや、考える間もなく当然か」


「"世界を創造した神"とは即ち『理不尽は数多の根源』でもあって……表舞台に姿を現した瞬間を"暗殺によって狙われる"のは」




 直撃を受けても損傷の見えない大神。

 ディオスの仰ぎ、見遣る方向——いや、円形に臨む会場の複数箇所。

 既に王の『吾が子』と呼んだ観客も"人質ひとじち"に。

 乗っ取った司会の部屋を介して場内全体を、狙撃を敢行した人の軍団名『ゼンザコ』からの声明が鳴り響く。





『——我々は"故郷が炎に包まれたあの日"、"全てがはいとなったあの時"……家族も、友人も、あまりに多くのものを失った』





『故に、。"世界に理不尽をいた諸悪の根源ども"』





『「大馬鹿おおばかかみ」が——"大神たいしん"!!』







『お前たちが遂に姿を顕わした今日こそは——"全ての邪悪が終わる時"!』







 人の狙うは、"大神相手の大金星だいきんぼし"。

 不埒ふらち逆賊ぎゃくぞく復讐者ふくしゅうしゃ——『テロリスト』たちが世界の秩序へ押し掛ける。




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