『開幕—競覇拾信祭—④』

『開幕—競覇拾信祭—④』




「……」




 不遜にも声を、しかも神に対して罵るような意味を表したのは——会場中央の神ら誰でもなかった。




「"死する法"は愛がゆえ鏖殺おこない?」

「……」

はなはだ重いのだ、"悪鬼外道あっきげどう"。"邪悪の化身"が」




 その声出すみなもとは、寧ろ鎮まりかえった場内で客席。

 襤褸ぼろに身を包んで何者か、痛烈な批判で響かせる再びの罵倒。

 戸惑う心ながらに一部が聞こえた青年でも次第に心境は穏やかでいられず。




(……っ)




「「「…………」」」




 けれど、他の神々でも尊敬に値する大神女神を馬鹿とされて。

 しかし、"神に口を挟まれる出来事"がでもあったから、発言者には一瞥もくれずの静観。





「畏れを知らず。神を知らず」





 ならば、その組み分け紹介、真っ只中。

 順番としては後ろから二番目にあたる暗黒勢力への案内中、失礼極まる口を挟んだ先の何者かへ——今に対抗をした別の口は。




「どころか何をも知らぬくせによくも言う。その偉大なる神が『只の悪神あくしん』などと」




 先まで音響設備の出力もしていた透き通る女の玉声でなく——進行を与るソルディナは時間の管理・調整の為に時計を見ていた。

 だからして、"何処からか太く重くの低音"は激昂の内容を論じ、しかし張り上げずの厳粛に。




「奴という女神なくして、"何をも終わらせられぬ"者ども」


「然り。"彼の大神の力添え"なくしてお前たち、何も——誰をも殺めることは出来ず」




「それ即ち、"親の仇"や"陵辱者いむべきあいて"、自らの最も嫌悪・憎悪する者と、——ということ」


「『お前の最も嫌うもの』と『お前』は、"同じ世界を未来永劫で共有せねばならぬ"という悲しき事実に他ならず——」






「——終わりなき、"死のない世界"を残酷そうと知れ」






 "魔を統べる王"を侮辱され、返す言葉で此処までを言うのは誰か。




「生きていれば見るのも堪え難き顔と対面の可能性は常に在って、ならば冥界の神なくしてお前たち——命には"無限の闘争"が待ちうけるのだ」




 姿のないままに場を乱す者。

 それは、今で冥界神を慕う青年でなく——青い彼女は動揺して、恩師の寄せてくれる冷たい暗黒に安心をもらう中途。

 また他方、同じ対象を私淑ししゅくする戦神グラウでもなく、大鎧は不動。




「"————"」




 だが真実として、その重厚に包まれた内側では恐ろしく冷ややかな銀の目は苛立ち。

 鎧に縛られても自由を求める心が、"消せぬ憧憬"のほのおでも燃えて。




「ならば、お前たち生きとし生けるものにとて、果たしてそれは『絶対の悪』なのか?」


「裏付けのない自己本位の解釈をして恐れているだけでは? かも知らぬのに……勝手なことを」




「「「…………」」」




「死者と二度には出会えぬことを『絶対に忌避すべき断絶』と捉えてはいないだろうか?」


「意味を言い換えて『断絶』を『最早誰とも会わずに済む』とは考えぬのだろうか?」


「『命とは他者と関わってこそ』と、安易な直結の心理で考えてはいないだろうか?」




 で、あれば。

 皆が押し黙る中でも"好き勝手をやる者"。

 皆に開かれた場所で、暗黒へ抱く並々ならぬ思いを"打ち明ける者"は限られた。




われの中ではそのよう、『関係性の鎖から解き放たれた断絶』を"幸運"と捉える己もいる」




「……」




「"故にも"、吾が最大の好敵手」


「敬意に値するそれは、"全てを慈しむ王の中の王"。凡ゆる生命を殺したとて、尊厳を犯さず」


「けれどまた寧ろで、もしや魂を"安穏あんのんとした永遠の眠り"に就かせているかもしれぬ慈愛の王へ——恩知らずども」





「お前たちという他者が為に、強大極まる世界へ単身に逆らった——"稀代きだいのロックスターッ"!!」





「……」

「"世界そのものへ無言に立てる中指"! それを! ——『あこがれをそしるだけ』と!?」




 よって今よりは、その発言者から『最後のチーム』紹介が始められる。




「其処までの認識阻害、掛けた覚えはないというのに……新しく『しつけ』が必要だろうか?」




「……始まっていた。言った通りに熱烈だろう?」

「……ともすれば知識おれ以上の執着かもしれん」

「だったら、ほら。無知むちも念の為でとっとと装甲車なかに引っ込んでろ。今のお前で王の光、只の火傷ではすまないだろうからな」




 と言っては『苛烈な親』としての側面を出し始めた光の気配。

 それを察して他の王を知る神々で癇癪かんしゃくじみた強火を警戒した防壁シェルターも生成——からの退避も始まろうが。




「神はお前たち一人一人に言語をちがく乱すことだって能う……"ほんの一瞬に可能"なのだ」




 整理しよう。

 暗黒の御業が世界で『死』という不変の常識となった今で、"それを成した恐怖の大王を認識できる者"とは?

 大王とは、未知を纏って存在感が希薄の神アデス。

 ならば、その顕れて話題の対象に出来る者といえば、やはりは同様にそれも"極まった神"。

 大神の認識干渉に真っ向から抗せられる者とは——同じくの、"大神"であったのだ。




「……だが、まったく……今の振る舞いは、"憧れを馬鹿にされて冷静でいられぬわっぱそのもの"」




 そう、恐れ多くも。

 今度は神々の王に対する批判的な口調——また別で話す観客のそれも、やはりは王。





「しかして、"最低最悪の魔王"」

「……」

「"XYZエクシーズちゃん"は、それ以上——いや、それ以下のない最低りょういきで世界を背負えたとして」

「……」

「『下敷き』の如きお前は、"自らの創る魔法まほう"で——





 そうだ。

 降って湧かせた星幽体アストラル、薄光が好敵手の横を通り過ぎる時に——"世界で他の誰にも聞こえぬ情報ことば"を管理者へ投げ掛けたのも王の化身。

 初めに暗冥の神へ口汚く罵ったのも、それに対して抗議の意を見せたのだって——同じく。




「いや、それでも『奪う』ことは、如何いかな大義名分の下にだって許容をしてはならない」


「しかし、神を縛る法はなく、認められず知らぬものへの適用もまた雲掴くもつかみ」


「では、如何いかんする? 我々はどのようにして神を、世界という全てを捉えれば?」


「"あやつ"、遅いな。てぬぞ」


「GO! GO! 好敵手こうてきしゅ! 吾が最大——好敵手こうてきしゅ!!」


「それが分からず、自ずと考えさせられるのも、また……"未知との遭遇"——"物事の深い味わい"ということなのだろう」




 そして今に、それら次々に客席で立ち上がる人型の中では——真面目に批判的な奴もいて・擁護する・苦悩に悲嘆しては・その他で茶化すよう・勝手に納得するような者もいて。




「——"王にとっての女神"とは第一に、わたし!」

「よ〜しよし。『遊び』ですよ、『遊び』」

「"君臨する唯一"も、我が王であって——」

母神ママゴッドですよ〜」




 神々の王から女神アデスへの強い関心を示されて荒ぶる愛娘ラシルズは——瞬間に側へと移ったソルディナが銀髪を手拭ハンカチのように食われながらでなだめる。




「すまぬ」


「頂点の在り方を示す今で、振る舞いに言動は些か相応しきものでなかったと自覚し……だから——」





「————」





 都合よく記憶の処理も完了。

 会場にいた様々の化身が隠していた虹彩異色オッドアイの煌めきを持ち出し、その彼ら彼女たちは誰かにとっての家族や友人や、時に恋仲の者たちでもあっただろう。




「だがそして、"感謝"も捧げて欲しいものだ」

「……」

「アデス。お前が絡むと往々にして世界は辛気臭く、暗く沈んだ空気感となるのだから……吾が光明ライト側面サイドで明るく、バランスを取ってやらねばと、骨は折れ」

「……」

「けれど大神。真実として狙いは、"その均衡を破る"こと」




「破っては今の中途半端ちょうわが永遠に続く理由もなく——世界で、"唯一絶対の王権"が確立する」




 分かれていた化身ら、自らの正体を思い出す時。

 目覚めた者たちで観客席の集合から外れ、高く連なる階段を降りて会場の中央へと集まりだし——自覚の元で一まとまりに成ろうとする輝きの中から。





「そう、即ち此処に権限せし『おう』は、暗冥大神に続いて同格のわれ、"我ら"」





 残る走者一組、急先鋒きゅうせんぽう




大取おおとりは賭博師とばくしにとっての"朗報"か、"悲報"か』


『これまでに名の挙がっていない大物おおもの二柱ふたはしら、残す参加者も二名にめい、されど




『其処までを言えば"事の次第"も……お分かりでしょう?』




 化身の数々が光と変じて、中央で集まるその者たちに代わって紹介の文を引き継いだソルディナの声が唱える。




『因りて先ずは、お呼びしましょう——"吾の名"を!』


は『輝きの王』で、やはりの王の中の王キング・オブ・キングス!』




 光が通る道筋に尾を引き、その流線数多は『りゅう』が渦を巻いて集まるようにも見え、一つ一つが集合によって筋繊維を束ねるが如く。

 表象として『無』を超えて『無限』、其れは『無限の光』——縦に連なる三重光輪の元に集いし光、その内側たる中軸に立ち上がる柱で『世界の柱』を体現する『王』の字形。





『たぁ〜〜いし〜〜〜ん————"!!"』





 そして今に、競走——。

 転じては『競争』の場面に現れる姿が『戦の神』めいて近似の神は。






「————"『ディオス』————"ッ!!!」






 力強く、先までは思考に纏まりなく。

 理不尽を感じさせる物言いの様が『天災』、正しくの"神"。

 注目の光を浴び、自らでも電閃を放って会場中央のお立ち台。

 暗室の中で誰よりも眩きは——英雄然とした美丈夫。





「……王は——"みなのもの"」





 顕現せし、長い髪に銀河を宿す大男。

 異色の瞳には星を抱き、形とした肉体の胸や背や腕に金銀の竜をかたどった刺青いれずみが現在進行で化身から集まり、その身に屏風の如き芸術が刻まれる中での台詞。




永久無限えいきゅうむげんを皆に分け、与え」


何時なんどきも注ぐ光は稲稲いねいな妻妻つまずまでもあるからして、それも——なのだ」




 振動過多が喉から放つ雷鳴にて、大気さえ怯えるよう。

 光り物を幾つも付けた耳を揺らして、髪からは光の反射。

 また全ての指でリングを嵌めた掌を、その天を目指して昇らせる動作が神の合図。




「そして、やみばんは去った。吾が子らで安堵に声を出して良き——"上げよ"! "歓声を"!!」




 全一で強大と知られる神の顕現を前に情緒を破壊された人々で声量、沸騰。

 その合わさる力が大地を震わして、上へ目を向ければ神の象徴たる天も走る光の波線に騒ぎながら、主役へ色を譲るように割れる変異。

 そう、いつの間にか天蓋全開てんがいフルオープンの会場、付近に海を臨む同地。

 場内からも程近くに見える『生命の羊水』としての"母なる海"までもが割れ——いや、"その水を二分に割っているのは神々の王ではない"。





……!」





 海を割って、しかもあいだを走る者——"神"!

 前で二輪、後ろで一輪は王権象徴の輪を回転駆動の乗り物。

 その鋭角エッジの効いた馬のような形状に跨り、今まさに己の進行する目先にサーキットを形成しながら——爆走、大神ガイリオス。




『すまぬ。普通に遅れそうであった』

『フォハハ! ほぼ時間ジャスト! それも遅刻しそうになっては未だ車輪の発明もない地域があるというのに——高速道路サーキットを駆けおって!』

『本当に申し訳ない』

『いや、全面的に許そう。伝えた出走のときには間に合って、それに数十億の一回ならば十分に『優等生』の範疇はんちゅうであり……何より機体の調整を今の今まで頼んだのは吾なのだから、強くは言えん』




 普通に開幕へ遅刻しそうなので拠点とする海底神殿から納品物にそのまま跨って急いでいたら——何か勝手に盛り上がっていた周囲へ、取り敢えずは最後の柱で手振り。




「そうして! 今まさに海を割りてきたるのが、他でもない吾の!」




 前傾姿勢にて海を割り、目的地まで直通に描く道筋を駆け抜けて——会場に颯爽と飛び入っての滑らせる車輪の登場が、残る大神。




「——待たせたな」

「全くだ。つい今し方まで吾が己の神格を分離して支離滅裂をやらねばならなかったが……うむ。結果として、これは、これで」




 神王の横に停車しては流れる腕の動作が被る安全帽ヘルメットを脱ぎ——星の重力に逆らって立つ三本の頭頂アホ毛、構造色の黒髪。

 全体として玉体に有する形に思想は表れて、物質世界でロマンの溢れる偉丈夫ビックボディ




「けれど、待ったその甲斐もあってか、仕上がり見事。良き車輪ホイールは吾という宇宙の搭乗にも耐えるものか」

「間に合わせた。当初に想定されていた三柱みはしら乗りを改造。言われた通りに真中の最上部での女神をいただく特等席も設けてはいたが——」




 今も重く跨るのは三輪自転車に見える乗機、『ドゥーブル・デュアル・バイクゥントゥス』。

 最上部では女神アデス用の上座かみざまでを用意して、しかし敢えなく断られたので——王権を表す三輪を残したまま『二』分割の『二』機を『二』柱へと用意。




「——余としても『合体ロボットのようで格好いい』とは思い……」




「……」




「けれど急な仕様変更を願われて察するに……どうもこの光景では、またも振られた様子」

「ああ」

「何度目か」

「数えていない」




 その神鉄の馬が如き機体を前、等しき背丈。

 髪では『稲妻いなずま』と『三叉さんさ』で阿呆あほうの毛も分かり易くあって、全体の雰囲気として似せた丈夫の姿で並び立つ双璧。




「我ら光と闇では相容れぬようだ」

「しからば、"大神同士でまみえる機会"。それもよかろう」




『——そして、役者が出揃ったからには改めての御紹介』




 連なる山にて雄姿ゆうし

 賭けの倍率は最小の、即ちは"最有力"の大本命。





『最後に出たのは! その名はチーム——『ワールド・オーダー』!!』





「構成員は『大神のディオス』と、『大神のガイリオス』で——我ら、"現世界げんせかい秩序ちつじょ"」

「極神の二つで組む」

「"強者への負担"は俗に言う『ハンデ』として、頭数は二柱。しかし『絶望に挑んでもらわねば』……だから——許せよ?」





 その並び立つ事実が世界の勢力均衡パワーバランスに於ける過半数。

 挑戦者チャレンジャーたちを前にして、






「世界の過半数を握って"容赦なき決意"の表れ——お手柔らかに、頼もう」






 "不敵"の笑みを見せるのだ。




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