『開幕—競覇拾信祭—②』

『開幕—競覇拾信祭—②』




「これは……女神ウィンリル。ご機嫌よう」

「……ごきげんよう」




 外からの声で青年らの組へ訪ねてきた者——それも同様に"女神"、前で斜めに揃えた緑の髪を持つウィンリル。

 ファンの回る空調服を着込んだ彼女を先頭として、後ろに鈍色にびいろの狼めいた耳と尾を生やすのが大鎧のグラウ。

 やや離れた場所では建築物の柱の陰で不貞腐れる金髪に白ドレスのラシルズもいて、そのどれも長身で麗しい彼女たちへは青年とイディアで深く挨拶の辞儀。

 また間を置かず代表者であるアデスが乗機のトリケランダーから飛び降り、小玉体の形を顕しながら自身への呼び掛けに応対する。




「貴方から私のような者を訪ねてくれるとは」

「"御相談ごそうだん"が、少し」

「……聞きましょう」




 その暗黒神格の方でも動かす足は来訪者へと歩み寄りを見せ、背後の若者らへ『待機』を命じる手振りは同時に"密談"の環境を整えてから話す。




「貴方と、並びに背後は光の二柱ふたはしらでも……催しに参加を?」

「はい。天の寵姫ちょうきである女神ラシルズはともかくとして……"我々では参加へ脅迫きょうはくを受けている"」

「……」




 今は世界でアデスとウィンリル、そして知己の若年たちに軽く手を振るグラウでのみ認識可能の時間。

 今し方で確認されたように今回の催しへ『出走者』としての参加を求められている彼女らで、その競技直前の"世間話"からは——"暗躍する大神の思惑"について。




は、"光の王から"か」

「ほぼ間違いなく。化身からは"神の熱"を感じました」

「要求されたものの詳細は」

「あくまで要求をされたのは『参加』であるので……"その臨む姿勢や成果は問われない"と思いたいのですが」

「……明瞭の願いが参加である以上、『そのほかでの制約は生じないだろう』と暗黒わたしでも思い……」

「……」

「……しかして、仮に庇護ひごが必要となれば遠慮もなく」

「……助力を願っても、宜しいので?」

「利益との交換になるだろうが、貸せるものもあるやもしれん」

「……御言葉おことばかたじけなく」




 そうして、外部に漏らされず手短に終わる秘密の会話。




「手始めには我が方でも当事者へ、それとなしに。主催の大神相手へ確認を取り次第で連絡する」

「頼みます——……と言いますか、乗機こんなものまで用意して貴方では割と、"乗り気のある"……?」

「そうかもしれませんね……どれ、少し試験的に其処を走らせてでも見ますか」




 大神の厚意に与れた緑髪りょくはつと鎧姿では表明する謝意。

 長身の二つが小柄にこうべを垂れた後、あくまで『問題のない日常』を見せんとするグラウが蚊帳の外に待つ女神たちの下へと【^_^】——兜の前面に映す表示にシンプルな笑みを浮かべながら近付いてくる。




「……女神イディアに我が同士どうしでも、再びお会い出来ことを嬉しく思います」




「此方こそ。女神グラウで変わりなくを喜び、常日頃からの恩恵には感謝を」

「こんにちは。グラウさん。自分の方でも貴方にお会い出来て光栄です」




 その全身を包む鎧で威圧感はあっても友好的の様。

 対しては複数いる花の如き女神たちに馴染みの少なさやおそれの多さ、"会話に混ざり難い疎外感"のようなものを感じていた青年でも声掛けの計らいはしんに嬉しく。




「これはまた、丁寧に有難うございます【m(_ _)m】……そうしては、女神アデスの下で貴方がたも……祭事への参加を【・・?】」

「はい。おんに、ゆえもあって」

「成る程。でしたら私の方でも故あっての参加となりますが、どうぞ改めて……今回は場の共有を宜しくお願い致します」




「……同士の方でも調子は、如何ですか?」

「はい。お陰様で……今は全然大丈夫だと思いますが、またご迷惑をお掛けしてしまったりの時は、すいません」

「いえ。寧ろ迷惑などは、"器用きようでない私"の方こそですので……【>_<】」

「……そのようなことは」

「……けれど、不肖ふしょうの身。あたうことは限られていますが、もしものその時はお互い様にて願いましょう」

「勿論です。自分の方でも、宜しくお願いします」




 見守る側の古い女神らでも気を利かせ、場の中心を預ける暗黒は『次に』と、今もいじけた様子のラシルズの気に掛けに。

 残るグラウは同士へ『また宜しく』の挨拶で、美の女神とも仲良く作る空気感。




「……」




 他方、孤独フリーとなったウィンリルは極神の作る輪の何方にも寄らずの中間——"件の青年"とあまり目を合わさず、言葉もかわさないようにの身振りは"警戒"だろうか?

 ともすれば以前に暗黒大神から言われた『落ちるぞ』との予言が気になって、でも一応はその極神たちとも面識があり、剰え気にも入れられている様子の『川水の女神』とは、『大物たちが魅きつけられる要素は一体どこに?』と。

 徐々に彼女自身でも深まるのは個神的なきょう——いやいや、『暗黒の術中に嵌められてしまいかねない』と、慎重に。

 接触する機会があっても現在のよう、何処か素っ気ない事務的の態度を決めていた。




「『王にとっての一番』を名乗りたいなら……"腐っているひまはあるのだろうか"」

「……」

「真に"聡明の神"ならば、為すべきことも己で自明にありましょう」




 そうして、離れた場所では車庫に年下たちを置いて広場に出たアデス。

 既に沈んだ様子の女神ラシルズに発破を掛けた足、老婆で機動要塞トリケランダーを試験走行に駆るまま——。




「どうなるか見てみようじゃないか」

「……果たして、"機会"は訪れるものか」




 次の次で暗黒が向かった先では、不敵の笑み。

 厚みのあってそびえる体躯は共に偉丈夫の鎧輝く金髪プロムと、学者風の厚手に身を包むのが黒髪のワイゼンで——なにやら"企む気配"を持った男神組の姿もある。




「……男神プロムにワイゼン。その者たちでも参加を?」




「……"未知の神"」

「よくも言う。"大神では示し合わせている"だろうに」




「……して、『三柱みはしらで一つの組み合わせ』が通常の規則なら、"残り"は」

「"中にいる"」




 すると、軽く無視をされても応対の光神プロムが立てる親指——示す後方は大型の四角い輸送車。

 兵器の輸送でもしているのか厳重に重ねられた耐熱の装甲は分厚く、如何にも戦事せんじを想起させるようで物々しい。




「……拝見しても?」

「勿論」

「では、失礼をして……どれどれ——」




 その内部へ、確認で真紅の魔眼が見通す先には『Iアイ』の輝き。

 待ち合いの場の付近ではプロムに、王に放逐されて悄気しょげるラシルズと鉄仮面の如きグラウ——それらの、Iアイ




「——ふむ」

「此度のように集められても"大神なんぞと直接に殴り合う無謀"の気は知友ちゆうの我らでなく……しかし『可能性があるとすれば』の、"やつ"」

「ほう」

「『知識』と『知恵』の神格に続くは、"むちむち"——『無知むち』の神」

「ふむふむ」

「ある意味でなにをも知らず、しかし別の視点からでは"それを最も良く知る者"」

「言われてみれば、大戦かこを知る私でも合点がいきます」




 ひざまずいて両腕を張られ、眼光を隠すように仮面をした顔で、耳の横に垂れるのは長い銀髪ぎんぱつ

 締まる煌めきの腹筋や太腿ふとももにて輝かしき肉感の芸術を持って、それ。

 その何者か——機体に押し込まれ、許可なくの容易には"ある者"の前へ出られぬよう。

 不可視の呪いで縛られた『仮面のIcup女神』の取り扱いについてを、外の神々で再度に少し。




「……それで、色々をやらされるこの機会。折角として"戦闘"以外での運用は?」

「構いません。都度報告をして頂ければ」

「了解」

「しかして、その預かる責任は再起動を願った男神にあり。けれど再三に言ったよう、我が方で危険を生じさせればと思え」

「……御意ぎょいに」

「期待しています」

「……"冥界の神"に『期待』と言われて、それが果たして『無事に済むこと』か、寧ろ『過失の責任追求で魂を取ること』でも言っているのか、分からず……恐ろしや」

「"期待"、しています」




 そうして、古き神々の各々で旧交の温める場へ、いよいよに現れる世界の頂点は——祭事の広報担当"レースクイーン"。




「——筋道プロット予定スケジュール? ……を、見直したら『司会進行』と『レースクイーン』で二重ダブル約束ブッキングをしていましたが……"なんてことはありません"」




 今は善なる女神、瞳の右に銀で左に男神プロムと等しき褐色を湛え。

 以前から着ていた水着の格好を調整アレンジして星柄、閉じきれぬ胸元でも健康的な"憧れ"を見る者に対して前面に。

 手に軽く持つパラソルでは、己という日の光を他者の認識で集中させるために背景隠し。




「『ならば同時にやってしまえ』の神が、ボクなのです」




 光る、銀の河が如きに冠を模した髪留め、揺れる耳飾りは三つの光輪。

 また乳房でその輪郭として一つ、乳輪としてを一つ、更には乳頭の輪郭で一つ——其々が王権を象徴する円環えんかんでありながら、三つ合わさっては無限光むげんこう

 しかして左右でその二つ隣り合う乳の姿はインフィニティ




「……"!" "奪われた左目"の概念がうずく……"この近付く痛み"——おまえ!」

「は〜い☆ ボクっ娘がママですよ〜?」

「きっっっ——」




 歴史として己が最も早くに『吾が子』と呼んだ男神を横目に手振り、可愛く。

 そのまま気味の悪さに歪める顔を微笑みながらに過ぎて、青年らのいる車庫に接近しようとするのが王。




「"…………"」

「そして、その自由なボクの前に立ち塞がるのが……"魔王"」




 女神のソルディナで、急な方向転換と加速で間に割って入る三本角トリケラに進路を阻まれては足を止めざるをえず。




「"奪いし者"」

「……」

「ならば、"その貴方に良く似た仮面の女神"についても、ご存知の通り」




 無限インフィニティにして膨張インフレーションの神が暗黒の柱と対立する。




「見てはボクでもはらまた——いな


「"究極を形にせんとした手の痛み"。おのが腕を聖剣として、聖剣で聖剣を打ちきたえて神を産み落とした——当時の記憶を思い出す」




 輸送車の方向を流し見て、手で己の腕に敷き詰める玉肌を撫でながら、透き通るような玉声。




「そうして誕生の瞬間に切り掛かってきた、あの頃の情熱、"戦いへの渇望"は……今でも失せず、自らでめず」

「……」

「いつ何時なんどきでも『最強の座を奪わん』と虎視眈々に、寝ても覚めても戦事への専心。後は場に放り込んでやれば勝手に切れ味を増して行く——まさに"戦いの中で進化する"『バトル漫画』の世界観」

「……」

「世界そのものが、神。やはり兵器評論家へいきレビュワーとしての大神から見ても使い勝手がいいでしょう?」

「早く、訪れたことの本題を言え」

「はい」




 身振りも口振りも妖しく。

 背負う傘で愛娘に気取られぬようの立ち回りは、アデスにグラウの極神二柱が睨みを利かせる中でも余裕に明るげ。




「端的に言っては"挨拶"です。開幕式にはボクも力を入れましたので、お楽しみに」

「……天の女神は大丈夫なのか」

「大丈夫でしょう。『自らが王であることを忘れぬ為の式』とはいえ、彼女はボクに執着しすぎる嫌いがありますから……たまにはこうして近寄れぬよう、制約を設けるくらいが程よいのです」

「……」




 そのあくまで『おや』として神へは——大神の中で唯一に直系の『』と呼べる者を持たぬアデスで無言と無表情が冷厳。




「何せ、"過保護に束縛することだけが養育ではありませんから"」

「……」

「期間中の成長を我々でも楽しみに待ちましょう? ——では」




 斯くして、幾つかの地雷を踏み込んでの挑発でも『やはり付け入る隙は然う然うにない』と見てパラソルを振るソルディナ。

 彼女の明るさが立ち去ると——丁度良く場内でも灯りは隠され、暗転。





『お集まりの皆様、大変長らくお待たせ致しました』





 上下するレーザー光。

 流れの変化を目に見えるよう慌ただしく、場内に響く玉声アナウンスでも時の到来がしらされん。






『只今より、拾信祭じゅうしんさい。本日のメインとなる「競覇開幕きょうはかいまく」を執り行います』




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