『出走前夜』

『出走前夜』




「……に嬉しきは、遠路えんろはるばる遠い宇宙までの御足労ごそくろう

「……」

「直接に来てくれるとは、思いませんでした」




 長身の美女で立てる人差しと小指。

 銀の女神からは、ロックな悪魔の邪視に捧げるつのの形。




「……」

「"今し方で新しく創ったこの惑星ほし"なら、仮に『まつろわぬ者』が世界に潜んでいたとして我々の遣り取りを聞かれる恐れもなく……故にこそ、遠く宇宙を訪ねてもらった」




 その輝く女で手振りは『歓迎』の意を示しつつ、けれど同時に"王の創りし光輝"。

 油断なく『警戒』や『牽制』の意を持つ百や千を優に超える連星が来訪者を囲み——それに対しては外へ向かい続けようとする光を引き寄せて潰す相殺の力。





「……」

「……」





 自らの顔の泣き黒子ぼくろを撫でる暗黒。

 宇宙に開ける暗い穴と、其処へ吸い込まれるように無数の光が渦を巻いて創る銀河。

 銀河、超えて銀河団——超えて超銀河団ちょうぎんがだんさえ背景に生まれる此処は、とある惑星。




「……そして、"要件"となる話ですが——」




 二者が体重軽くに足を着ける大地は鏡面で、薄く水の張る場所。

 周囲には山々や乾いた陸地などはなく、只管ひたすらに空と水の透明感だけが満たす即席の絶景で、銀や白を髪に持つ者たちの会談。

 片や、右目の銀と左目の濃い褐色で虹彩異色オッドアイの前者は水面にまばゆく美姫として映り——片や、瞳で燃える真紅の後者は光景に影も形もない立ち姿。




「——……その前に、"親心おやごころ"として聞いてみたいこと」

「……」




 麗しき柱同士。

 何人なんぴとも間に割って入ること叶わず、いや、大した酸素もなくて放射線に溢れるから大抵の命は当然に辿り着けぬとして——『誰であろうと邪魔をさせぬ』は外部からの干渉、神秘での遮断。

 向かい合う其々で不可視にも"無敵の攻防一体"を着込み、極まった神同士の密やかな談義。




「……」

「……どうです? ボクの、わたしの……われやして産み落とした聖剣せいけん——『究極聖剣きゅうきょくせいけん』の使い勝手は?」

「"本題のみ"を聞こう」




 先から話を主導するのは神々の王、頭に着ける冠型かんむりがたの髪飾りを揺らして。

 今は女神として『ソルディナ』の名も冠する彼女で、相手の『自己を世界の中心とする力を持っての物言い』に竦める肩。

 しかし『今は争っても仕方ないから』、暗冥大神あんみょうたいしん女神アデスに返された通りで本題へと進まんとする。




「……左様然さようしからば」

「……」

「単刀直入に言って——」





「再び大神われわれで——"世界を走破そうは"しませんか?」





「……」

「吾が『無限の加速』に、暗黒の持つ未知数Xエックス

「……」

「XやYワイZゼット 。また『おもさ』とは『かさねて』発揮される力でもあっての——『無限XYZエクシーズ』のちからを」




 その言葉、勧誘かんゆう

 両者共に花の如き麗神から麗神に送られる"招待"の打診だしん




「残る大神の口からも聞いて、"今後の展開"がどうなろうかは暗黒でも察しがつくだろう」

「……」

「そうです。我ら大神で組む偶像の集まりは、"無敵性の具現"」

「……」

「その最たる表象が一つ、『永遠の女子高生三柱じょしこうせいトリオ』で、"変革の時を迎える今"に」





「今だからこそ——がわへ回ろう」





 そうした、大戦以来再びの同勢力に誘う勧誘は——しかし返答で敢えなく、素気すげなく。




「……断る」




「……大丈夫です。ボクも貴方も若いですからイケます。まだまだ制服、着れます。その服飾の設計も其々で好みに、指定しない自由としますから——」





「"断る"」





 神々の王が良く視えぬ相手へ差し出した手も、相手で取られることはなしに。




「……」

「……いえ、世界たいしんなら『制服を着て遊びたい』と思うことだって、『実年齢より若く見られ、持てはやされたい』と思う日だってあるでしょうに」

「……?」

「……空惚そらとぼけが——……ふんっ、です」

「……」

「それなら女神たち、"時に世界より爪弾つまはじきにされる災厄"を両脇に抱えたまま競うのも、『寛容かんようロック』の貴方らしい」

「……」

「『世界を滅ぼすのは暗黒わたしであって他者でなく』、『故に滅びの因子であっても"些事さじ"として存在を容認する』——そうしたふところの深い、"悪魔的な地母神スタイル"でもいいでしょう」




「……えぇ、上等。やはり『魔王』は、相手に取って不足なし」




 誘いが峻拒しゅんきょされるに至った一幕。

 断りを入れられて不機嫌になろうとした王は、けれど『好敵手にする解釈の一致』に喜んでから"次なる展開"についてを話す。




「して、そうとなれば世界を試すことから主立おもだっての趣向は変わり、"我々で競う"ことになるのですが……そもそものそうした場を提案する"動機"は」

「……」

「其々で勝者が——"相手の王が持つを手に入れる"」




 漂わせる空気感。

 深刻シリアス軽演劇コメディで地続きとするまま。




「何故なら理由は、互いに情報を直隠ひたかくすだけとして、それで力を合わせる情報の開示や協力によって対処可能な手段みちを見落とせば……"間抜けも過ぎる"から」


「故に、"双方にとって状況が不利益"と成りかねない此処いらで一定の取り決めの元に合意する……"一旦の手打ち"とする機会が欲しいのです」




 ソルディナの張りにつやのある掌が叩いて音を出すと。

 その波が完全に返らぬ方向からも、"一考の余地"を窺わせる問い掛け。




「其れ謂わば、簡単な"賭け事"」

「"賭けるもの"とは」

「対象となるのは——『女神ルティス』について」

「……」

「その"情報"、互いで同じものを求め……此方ではあの者について、"直接に尋ねられる場"などが欲しい」




 ソルディナの適当に手振り、王の力で集める足下の水は浮遊。

 その流体、操られる空中で宛ら『試験管』の内に収められるような形。

 そうして、銀の女神が指先の炎熱で炙る透明はそのまま膨れ上がって——蒸散。

 その水は世界に混じり気のない身の潔白を証明し、世の何処かに去らん。




「……」

「……やはり、良くを分からず。未だ知らず」

「……」

「世代を起こした吾で覚えなく。その不明な点も多数の第三世代アレは……なんなのですか?」

「……」




 対しては、時流を読み取る力の満ち溢れたまなこが睨んでも。

 周囲で星が沸騰したとて——暗黒で震えなどは微塵もなく、創世の神を前にして堂々の黙考。




「……」

「……まさか本当に、"ただ愛神あいじん"では、ありますまい?」

「……」

嫌々いやいや。"貴方ともあろう神"が、"しんに王のうつわ"が——!?」




 寧ろ、冷静さを失うように語気を強めるのは神々の王の方だ。




っっして……! 単なる『情婦じょうふ』として"気に入り"を飼っている訳ではないのでしょう??」

「……」

「……そんな、『嘘だ』と言ってください」

「……」

「貴方という女神が『おやつ』感覚に? 『摘み食い』を——そんなっ! 気の向いた時にあめを転がすようなっ、なんて……!」

「"……"」

。"処女神しょじょしんの究極"は、そんなことッ! いや! 誰がなんと言おうとボク的に、貴方がそうをしてはならぬの——」





煌々こうこうしくうるさいぞ。女神」





「——"!" ですが……!」

「どの道で輝皇きこうは真実に至れず。そのように遊び呆けること、認められる訳もなしに」

「しかし——」

れもない。『く話を進めよ』と言っている」




 その明度を増して病的な面も覗かせ始めたソルディナ。

 自身の好敵手と認めた相手が渾然一体の神格であっても『性に関わることを良しとしたくない』彼女は、しかし己より小柄な女の形から注意を受けて。




「……」

「まったく、『光の神』というのも疑わしくなろう"遅滞ちたい"よ」

「……そ、そうですわよね。振り返って見れば……そうでしたわ」

「……」

「大神なら叡智えいちに愛護の情もあるでしょうから不安は拭いきれませんが……今の脱線は確かに、吾が身の責任でありました」

「……」

「ごめん……あそばせ」




 だから銀の花の形、しおらしく。

 ある一面では魔王支持者アデスファンガールでもあるソルディナ。

 発生した怒られに、玉体の明度を戻しての仕切り直し。




「でしたら……こほん」




「……」




「……当然に、川水をかくまう貴方では……調べて"色々"を知っているのでしょう?」

「……?」

「『知らぬ』・『存ぜぬ』ととぼけるな。仮に世界でとするなら、"未知のあれ"は——その『有力な候補』であろう」

「……」

「世界を始めた我ら、『原子』に『分子』さえもたらした創造主たる大神が良くを知らぬとなれば——"それだけでも疑うに十二分"の、





「……」

「そうして現に貴方は、恐らく件の対象を『警戒すべき』として——"すみやかにつばを付けた"」





 揺さぶりを掛ける者で、今も当の青年の所在は掴めず。

 一方の暗黒でも、その年若い青色を包み込む力は星を遠く離れた今も優しく捕捉して『渡すまい』の駆け引き。





「"……/……"」





 突如に湧いて出てきたような『青年女神』という存在を。

 その有する『世界を揺るがす秘密』を先に"確証"として手中に収めるのは——何方どちらか。




「……兎角、光と闇に、間を取り持つ大賢で知恵を合わせれば、より鮮明に見える真相ものもありましょう」

「……」

「光を忌々しく思う神にとっても敵の更なる手の内を認める好機にもなろうから……うむ」




「やはり嘘を言わずの表向きには、『大神以下の者共を試す』」


「力量をはかる意味合いでももよおしは——『まつり』です」




 互いに此処では譲歩を引き出せぬ平行線と見て、次第に大神同士の会談は現時点で下すべき結論へと向かう。




「古来より引き続き、"共通の敵"が確認できれば協力するのも吝かではないからして……この祭事はそうした『調査』の一環」


「延いては、真実を早くに知った者から動き出せるという——即ち『主導権を誰が握るのか』という"争い"でもある」




「……」




「最も面白き、"可能性"を有するのは誰か」


「"次なる覇権"も巡って争う……先頭にして頂点の一位を競って・走る——"競走きょうそう"」




 ソルディナは美貌を持って言いながら、彼女自身の玉体を包み始める銀炎。




「故に、ならば」

「……」

「同期の女子高生としての協調よりも、てきとして覇を競い合うならば……より——




「此度はボクで——"いな"」





「『おう』としてのわれで『苛烈かれつの側面』を出すとしよう」





 神の熱は己の喉や外性器の乳房、更には性別それさえも——溶かして。

 また自他の境界線を破る変身——太く、厚みのあって雄々しきは『爆ぜる風』のフォームブラスター。

 それは、大神を構成する"偏った見方"の一つ。

 輝きで細部の輪郭が確認出来ない程に荒々しけれど、身振り手振りするのはほのお




「片や——愛する子を何処ぞへとさらわれ続け……嘆き、悲しみ、憤怒ふんぬおや


「片や——この世界に於ける『女性』という概念の。無許可に参考モデル原型アーキタイプとされて近似きんじの命を産み出され続ける者」




「……」




「そう。共に憎悪して激怒だってする理由があって……しかし、"腹を割り合って認め合いもした仲"」




 銀に逆巻く爆炎、化身。

 先の一瞬まで水に満ち溢れた星を今や熱砂乾燥の大地と変貌させて——光の波が言う。




「憎み合っているだけではない。憎んでいても容認だってあたうのが……"広大なる王の器"」

「……」

「今も昔も、理想を探し求める共同作業者。互いに防ぐえきのある危機に際して——『乗る』か・『どう』か」




「……」




「得意の無言。如何どうとでも取れようが、然りとて今で何らかの反応も見せぬなら『肯定』——『祭りへの参加』と見做みなす」






「「…………」」






 そうして、大神たちで置かれた——それは暫しの沈黙。





「……」

「……"決まり"だ」





 互いに大神。

 "言って聞かぬ暴威の化身"を一定の取り決めルールに置けるとなって。

 其々——"己の野望"へ突き進む。




「勧誘交渉は決裂」


「しかし一方、"立合たちあい"の場は成立と相成った」




「……」




「最も可能性に満ち溢れた優勝者。その手にする特筆は今後の世界における意志決定の比重、"一票いっぴょう格差おもさ"」


「けれど宣言通りは当然として、誰の勝ち・負けといった結果に関わらず、互いに——"誰にとっても利益のある祭事もの"としよう」





「其は大神たいしんらしく——"したたかに"」





 斯くして、以前に『川水とは男子高校生のようだ』と——遅かれ早かれ核心に至らんとする凄まじき神の速度が、今では煌々と明度を強める銀の炎。

 神々の王で発揮する神秘の技、全身から世に放たれる光が無数。

 その現在で宇宙を駆ける到達の場所は——命を守り縛る鳥籠とりかご惑星テア

 その空に、海に、地に。

 地上で建造物の床や壁や、微生物も逃さず動物の網膜もうまくや意識にさえ投影されて語り掛ける——"各地への声明"。






『ごきげんよう。世界の——この宇宙うちゅうの吾が子諸君』






「……」






『おはよう。おやすみ、おつかれ。寝ているままでも構わない。全てに通ずる世界の王とは即ち『夢魔むま』でもある故、なにも問題はない』


ひとならばひとの話す言葉のよう、にわとりの類いならば「ピヨピヨコッコッコ」と聞こえているだろう』





 発表するのは、"開催の宣言"。

 広大極まる宇宙で、意識や認識に直接で邪魔する神が眩き御姿みすかた、世界に見せる。





『そして伝える本題は此度、"我ら神話の神々をおもとして一つの催し"を執り行うこととなった』


きそい、信仰しんこうひろあつめる——"競覇拾信祭きょうはじゅうしんさい"』


『なに、大々的でやる"人気投票"めいたものと捉え、その貴重な神話存在の躍動を皆でも楽しむとい』


『適宜で状況の中継は吾でも行い、出店でみせの種類だって用意をしているから』





 それでも、下準備少なくに発動した簡易認識干渉。

 だからそれに一定の耐性を持つ有力な神々に対しても別口で脅迫めいた怪文書は送付され、怪訝に思う彼や彼女らも可能性を示す機会に『出走者』としての顕現が願われるのだ。




きょうは——こほん。げふんげふん。ウォッ"ッ"ヘェん"——ご丁寧なご招待にて、ご参加を願おう』


『延いては詳細日時も追って連絡……いや、こうしたことは思い立ったが何とやら。早くに行った方が後に余裕も出来ようから——』


『——そうとも! 早くに済めば残りを不足に回せたり、対処に備えられたり——何もなければ自由にも楽しめる時間! ゆとり最高!!』





『そうした訳で決まりだ。明日あすの朝は早朝そうちょうから』





『集合場所はアクセスの観点からもテノチアトランとして、これから建てる特設の——』

「"おくらせろ"」

「——!? 何故なぜだ」

「私で若者らに説明の時間が必要だ」

「なにっ! それでは今日が前夜でなくなってしまう! これだけ雰囲気を出しておいて何かそれは、"締まりが悪い"ではないか……!」

「"……"」

「まあ、"前夜"には単なる『事の直前』の意味合いもあるから、間違いとも言えぬからして——しからば大体は一ヶ月後で、宜しく頼むぞ☆』




 願われて。

 決定したのは暗黒から『知るか』と掛けられた重圧で、今日より暫しの先となった日時。

 けれど事実は間もなく歴史の表舞台へ、"無敵の神々"が——姿を現さん。





そなえよ——そなえよ』





『定刻までに下々で伝承に名高い神の、その顕現する事実を心に受け止め……其々で神にを』


『貧富だのどうだのを関係なく、抽選で幾つかを聞き届けて「叶えてやろう」と言うのだから……光栄光悦こうえいこうえつにて待たれよ——待たれよ』





『お前たちの下へ神が、走って向かう』


『寄りて近くに音のない声も届いては、視野の広き者どもでお前らの顔貌かおかたちも漏らさず記録をしているから——勝手に「神の直系」だの、「神と交わって繋がる血縁」だの自称するやからたちも……首を洗い、





『そのうそまことかを確かめる、"本物"が行くから——"待っていろ"』






『フッフッフ——! ゲッヘッヘ——ッ!』




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