『もし誰もが働かないといけなかったら労働に適さない青年はどうすればいいですか?②』
「——……戻りました」
「……我が弟子。今日も
「お帰りなさい。我が友」
そうして前者は青年が帰ってきて早々にスタスタと歩み寄ってくる暗黒、後者は先まで同じ居間にて暗黒女神と話へ興じていた美神。
特に模型玩具の一件以降、アデスで少女の振る舞いは『
「……」
「……我が弟子?」
全体の暗色系の衣装や斜線装飾の刺々しさ、敢えてに揺れる耳飾り。
恩師で『世話を焼きたい』時期が青年の悩む今と重なり、『現状維持でいいのだろうか』と気にかかる思いはより強く。
「……どうしたのですか? 戻ってみれば、"神妙な面持ち"」
「……アデスさん」
「……もし仮に"悩んでいる"なら……そうした時は好きな物を浴びるのがいいでしょうから、何か要り物のあれば——」
「……"
「——聞きましょう」
歓迎に笑んでいた神。
助力を求められるなり白肌の表情はその喜色を早変わりに消し、二本の足で居間に先導する真面目の聞き構え。
同時には話の空気感を察したイディアも髪色で薄い
「……では、青年。"貴方の話したい"と思うことを」
斯くして、"支援者たちの見守る中"。
まさに"その状況"を思い悩む若者は自身がそうなった経緯と、其処から導出された現時点での率直な意見を述べる。
「……お時間を頂き、有難うございます。ですがその、それほど深刻すぎる話でもなくて」
「……」
「……」
「それというのもさっき、外で都市を訪れていた時に人が……『働かずに生活していくことの難しさ』、『
「「……」」
「だから自分でも、『もっと"自力で稼いだお金"で謝礼が出来たらいいのかもしれない』と……思う所が、あったり」
それは胸に突っ掛かっていた人心の、"社会性動物としての感性"の吐露。
「……そういった感じです」
「……ではまさか、『働かず養われる己を情けなく思って働きに出ることを視野に』?」
「……少しは、はい」
遠慮がちで首を縦に動かす、若いその様。
女神たちでは"甲斐性を発揮しようとする青年"、謂わば『
けれど、茶化すようには
「……そういった心の内があったのですね」
「……気になったので、アデスさんやイディアさんにも意見をお伺いできれば、と」
「……それでしたら、結論から言って——」
そう。
実質的な『ヒモ』の状態を気にして"働きに出てみようとする青年"へは、笑顔を戻した恩師から単刀直入の返事が為される。
「——駄目です」
「……女神。言い方には気を付けた方が宜しいかと」
「なら、あくまで個神の意見と強調しては——"
その二言目では再び笑みを隠して、真剣に。
"冗談で言っている訳ではないと"の表現が魔王で重々しく、声の
「私は否定的です。"労働"なぞに青年を取られたくない、消耗させたくはない」
「「……」」
「"生きる"ことは、ただそれだけでさえ苦しむのに。剰え我が弟子へそれ以上、『これまで以上の苦労を負わせてなるものか』と——既に身を預かる神で決めている」
どうやら可愛がる若者を外の苦労に晒したくない女神は不満げで、明らかに『労働の許可』へは消極的の様。
当の青年でもこういった駄々をこねるような恩師も『可愛い』から嫌いではなかったが、それはそれとして『面倒』なのには違いなくの
(……やっぱり、する必要が大してないのなら、"しない方"がいいのかな……?)
渋柿を噛んだよう、知者たちの議論が落ち着くのを眉根の寄せで待つ。
「そうです。皆は世を生きているだけで大変に働いているのであって、教導に関しても考えなしに辛く苦難へ叩き落とせばいいというものではない」
「……私とて友を危険に晒したい訳ではありません。故に慎重な立場を取りますが、"青年自身が
「……何も過保護や感情的な側面だけで言葉を述べている訳ではない。現実として青年が外へ、しかも"社会で働きに出る"ことは『困難』との冷静な判断でもある」
「それは……確かに我々の助けなくしては難しいでしょうが、心情や思いで悩むなら何処かで"
「……分かっている」
具申するイディアも合わせて意見を出し合い、外の危険や憂いに成るべく若者を触れさせたくないアデス。
でも、そうは言ったとて"世話焼きでもある大神"は聞き入れることもしてあげたくて。
(……)
「……分かっています」
「……では」
「……で、あれば——」
宛ら『余計なことを言ってしまったか』と。
横目に映る肩身の狭そうな元人間社会の住民へは『ならば』と、"落とし所"を探す試み。
「——程よいのは我々から『手伝い』や『務め』を願う形で働きの甲斐、その示して実感の出来る"機会を与える"のが一つ」
「延いては簡単な"職業体験"によって現状で先ず、
試み、それは試しの練習。
歳にして二十を越えた青年は
「結論を考え直すならば、その後だ」
「怒鳴る
「"労働の持つ悪質"の側面を示さん」
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