『もし誰もが働かないといけなかったら労働に適さない青年はどうすればいいですか?①』
今も続ける支援で、お膝元の都市ルティシアに荷を下ろす青年女神。
「毎度、どうもね」
「いえ、こちらこそ——では」
既に知己の少女へ配給を済ませ、先にそちらへ寄ることで『まだ下ろさないといけない荷がある』と厄介になるのを避け、家を後にした健脚。
今し方で市場の役割を兼ねる広場、比較的安価に纏まった量の食材(暗黒産)を売り付けては——次の行いへ。
(……後は——)
今では常に女神たちから守られているとはいえ以前のような
都市の近況を確認するために研ぎ澄ます感覚は、中心部の広場で井戸から汲んだ水を飲む仕草——水質にも"毒性"のような問題がないことを見つつ。
また直ぐ様に壁の内側で跳ね返る音の波へも
(————……
拾い集める情報。
嬉しいことに其処で聞こえたのは他愛ない日常の会話が主で——しかし、その中の話題一つ。
「——"あの人"、まだ働いてなかったの?」
(——"!")
己を言い当てられたようで身の引き締まる思いの青年。
これまでのよう『個人たちの事情を深く立ち聞きするのは決して上品ではない』と、だから今日も大抵の話で概要を掴めた所で立ち去らんとしていたのだが。
既に聞こえてしまった"気になるもの"は、警戒の為にもある程度までを聞いておかねば心が落ち着かず。
(……)
「……うん」
「……まぁ、初めの方は
「……」
「……だとしても治って暫くが経った今、"無職の男性と付き合い続ける"のは……やっぱり、ちょっと」
その耳を
そこに座る木陰の中、青年と実年齢もそれ程離れていないだろう若い女性二人の間。
気になっても精々が"
「いえ、獣に襲われて続け様に病を患って、体だけでなく心にも影響があっただろうとは言え……
「……でも、だけども
「"寄り"集まろう、"身を寄せ合おう"の——"ヨリユリ"?」
「"……"」
「……確かにそれを幼少期に約束した思い出の場所で、しかも争い事の騒ぎで不安な時に『生涯を掛けて絶対に君を守る』と言ってくれたのは……情熱的だと思うけど」
話に挙がった『ヨリユリの花』は同地で採取される物の中でも取り分け『生涯をともにしたい』というような——謂わば『告白』の意も込められる贈り物。
だからして、聞く限りでもそういった"人生の岐路"的な重要案件、話すからにはそれなりに親しい仲なのだろう二人。
「……あんまり物を欲しがらない人だから掛かる費用もそれなりで少なくて——何よりも『私に側へ居て欲しい』とあそこまで
「……」
贈られた現物の百合花を預かって、悩みの相談にのる者の方で指先の弄る白の花びら。
数秒を無言で思案していた彼女は事情を話してくれた親密の友人へと、その花を——自らも"複雑な思い"を込めて持ち主へと戻し、"寄り添い続ける決意"の口で表す言葉。
"幸福の祈り"を胸に、密やかな声は風とそよぐ葉の騒めきの下。
「……」
「……やっぱり、困難が過ぎる?」
「…………それでも、"好き"なんでしょ?」
「……うん」
「……だったら、問題は"
「……"!"」
「……"私だって嫌いじゃない貴方"の選択だから……だったら"私の
「ほ、本当に……いいの?」
「……給料が出せなくてもいいなら、"私たちだけの秘密"として話だけでも合わせておく」
(……)
この時で今日は傾聴を『ここまでにすべき』と判断して立ち去らんとする青年。
聞いて何か胸がもどかしく、話の内容も他人事の気がしなくて耳が痛くなった情報を拾い——己でも身を置く現状に悩む心。
「…………有難う」
「……」
「……深く感謝します」
「……昔からの仲だもの」
「……そう言って実際に行動でも応援してくれる貴方を、早くから"友人"に持てて私は……本当に——"幸せ者"です」
難しいながらも『自分たちにとっての最適な幸せの形』を模索して先に進まんとする人たちの声を、遠い背後。
「……」
支援者である女神たちの待つ拠点へ、重く感じられる足取りが今日も帰路に就く。
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