『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!⑦』

『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!⑦』




「……大丈夫ですか?」




 決勝戦"敗北"からの午後。

 それでも色々を忘れて没頭した駆け引きへ、その充実した思いを胸に座る腰掛け。

 帰る前には青年で女神たちと合流し、また『気の抜けて暫く動き辛いから』と休憩の時間を貰って物憂げの表情に差すのは斜陽の茜色。




「今日は青年、一層に頑張っていましたから……何か食べたい物などあれば、暗黒わたしが手早く用意しますよ?」

「……いえ。食事は大丈夫です」

「……」

「……ただ——」




 その断る言動は応答も確かで、けれど目線を合わせてくれず。

 何処か"心残り"の有りげな様子に暗黒女神が寄り添う大会後の一時ひととき




「——あの方……『ヨミさん』へは対戦終了後の挨拶ぐらいしか言えませんでした」

「……」

「彼女は自分が燃え尽きてほうけている間に、気付いたらもうお帰りになったみたいで……もう少し何か、お礼が出来ればよかったんですが……」

「……"あの者"とまた、『逢瀬を重ねたい』と?」

「……可能なら、もう一度。会場で別れる際には彼女の方でも"再会"を祈ってくれましたから、自分が次の全国大会を観に行けば会えるのでしょうけど……」

「……"負担になってしまわないか"と懸念を?」

「……」

「まさか、ともすれば少し……"何かあの者と親密な間柄になりたい願望"が今日で貴方に芽生えたと?」




 やたらと青年の思いを確認してくる女神は——なんだ。




「それは……"いや"——」

「……」

「——"そういう"のは、その……まだ、考えられませんよ」

「……——『』……?」




 よく分からぬが、女神。

 そうして"可能性"でも『感じたから』? のサイドテールが大回転するいこいの場へは、化粧室へと化粧を直しに行っていた美の女神も再合流。




「お待たせしました——お、おぉ。何か"女神が荒ぶっている"ようで……これは、どうしたものなのです? 我が友」

「これは……恐らく"動物が尻尾を振る"ような表現の一つで、よく見ると"輪郭の暗黒"にも"好意的な色"が見えますね」

「……分かるのですか?」

「"自分が見分けを付けられる"というよりは、"アデスさんの方で多少の違いが見えるように"してくれていますから、後はなんとかその"慣れ"で、少し」

「では、つまり"古き女神の方で何かを読み取って欲しい"と?」

「恐らくは」




「なので、そうした時は"表現のわけ"を尋ねて、更に掘り下げてあげると"もっと喜んでくれる"傾向にありますから、此方から話を聞いてみましょう」

「……お願いします」




 そうしては、不完全な部分的でも己を青年に知られる暗黒女神で若者たちに『ニコニコ』とした微笑も見せながら、察するに"話を聞かれよう"との様子。




「どうしたんですか? アデスさん」

「我が弟子」

「言うなれば何か"嬉しそう"です。しかも今日は先程からやたらと、いつにも増して"世話を焼いてくれますけど"……それと関係が?」

「"貴方が晴れの舞台に立った"のだから世話を焼きたくなるのは当然です——そうして今日の貴方も控えめに言って『最高』でしたからね。"近くで見ていた私"でも奮闘に胸が熱くなってしまいました」

「……では、それで嬉しく、『自分の試合を見て喜んでくれた』という?」

「ええ。また何よりは『我が弟子が嬉しげで私も嬉しい』と……そう、"内なる"でも余韻に再確認を重ねているのです」

「……ど、どうも(?)」

「苦しゅうない」




「……しかし、"逢瀬それ"は、"親密それ"は…………」

「……?」




 一通りを若者に聞いてもらっては『ふふん』と。

 夕刻に先んじて夜のような色を持つ神は満ち足りた顔、けれど何故かに続きを口籠もる暗黙。




「……我が弟子」

「?」

「我が、"弟子と"……?」

「……(楽しそうだから暫くこのままにしておこう)」




 "精神に退行たいこうの気はあっても証言を信じる限り青年で実質的な年齢は二十にじゅうを越えて"——"ならば問題はない"?

 いや、"そもそも暗黒わたしという神を縛れる法はなし"。

 いやいや、"世界に法を定める神こそが私"だからやはり問題は——などと考えているのかは引き続き外目からで分からず。




「——ところで、美の女神」

「?」

「突然ですが貴方は『け』についてを、どのように考えていますか?」

「……それは、"哲学的な問い掛け"でしょうか?」

「そう捉えても構わず——そうですね。宜しければこの後で、貴方の見識もお借りして我々の間に議論を起こしましょう」




 けれど、未知の女神。

 涼しく真面目な顔で黙考していた彼女は徐に美の女神へ『抜け駆け』についてを問い、その"意味深"にやや怯えるイディアとで——過ぎる、談笑の時。




————————————————




「——……(……ふぅ)」




 青年ではそうした、拠点に戻った後でも話したがりな女神たちへ礼を言って別れ。

 今は一日の気疲れを自分用の浴室で落とした入浴の後。




(…………"準優勝")




 柔らかい寝台へと横になって、その横向きでも見る物は勉強机の上——すっかりに色を戻した『ミズチマル・改二』と。

 その機体の横に置かれるのは優勝者の物と比較してちょっぴり小ぶりな『準優勝杯』の姿。




(……初挑戦で準優勝このけっかは、我ながら…………うん)




 それらは、殆ど事務的な"睡眠"や"性的なアレソレ"のためだけであった自室に加わる——"楽しかった記憶"。

 また組み上げて、勝ち取ったその形は『己で何かを成し遂げたということのあかし』でもあったから、見るだけでも楽しく。




「……頑張った」




 "半端に人心を持つ元二学年の男子高校生女神"でも——眺める顔はやはり"達成感"などで嬉しげ。

 誰も見ていない孤独にあっても"自然な笑顔"だって浮かび。




「……負けたけど、頑張った」




「自分、割と頑張っ——」

「——我があるじ

「"!" ——お、お手伝いさん……?」




 三度の音で叩かれた自室の扉を青年が内側から開いて、其処の通路側に立つのは恩師の姿を取ったお手伝いメイドの有り様。




「はい。今日は『就寝しゅうしんなさる』ということで、その前の確認とご挨拶に伺いました」

「あぁ……先ほどお伝えした」

「どうでしょう? 今の所で目立った不調は御座いませんか?」

「……はい。今日も一日、お陰様で調子はいい感じがします」

「それは何より。……ては虚勢でもないようですので、確認の方は問題なく」

「……」

「では、予定通り半日ほどしてから起床のお声掛けを致します」

「お願いします」

「——うなされていた場合も迅速に駆けつけて夢を覚ましますので、ご安心を」




 その手短に。

 安穏の時で『目覚まし』を頼まれていたお手伝いが丁寧に一礼して所定の部屋へ去り行く頃をさかいに。

 斯くして眠ろうとする青年で暗めの照明は消さず、つけたまま。




「では、失礼をして……おやすみなさい」

「……はい。今日も有難うございました」




 遊び疲れた者。

 静かに笑みを湛えたまま久しぶりの安眠へと微睡まどろむ。





(……頑張った……————)





 一連の娯楽による快い疲労感で、穏やかに。

 意識は内心のなぎに沈み、暫し誰にも邪魔されぬ時へ——青年の持つ傷心は隠れて休みを知るのであった。



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