『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!⑥』

『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!⑥』




 戦場フィールドに飛び出て、序盤。

 樹木の一切なく、しっとりに赤ばんだ水と砂の作る荒野、上で暗色宇宙の間近に輝く恒星複数は連星。




「"…………"」




 その殺風景に立つ白を基調はミズチマル。

 それでも青年の自機周辺には堆積した丘や山々があり、前回の準決勝を見る限りではその物陰——『闇よりの強襲』が相手の主な戦法と思って拳を握り、構えて続ける警戒体勢。



(……考えることはシンプルだ。使える神の権能はない)


(だから——ただ"相手の攻撃をいなして"、"自分の攻撃を当てる")



 先日で見たその奇襲の全てを思い、それに対する対応動作も今日までに色々を考えた意識。

 カメラを日切りなしに右へ左へ慎重に動かし続け、見て取った情報を基に思考の内で構築と更新の周辺状況——それは宛ら"空を舞う鳥"が如き俯瞰ふかんの視座。

 なれど広い視点、故にこそ『敵は奇襲を警戒する"その裏"をかいてくるかもしれず』と機体で心身を凡ゆる方策への備えも続行し——"その矢先"。





(……どう、————"!!")





 一帯をなぎ払う——極太の赤光しゃっこう

 敵の位置を炙り出して、当たれば必殺の初手牽制。




「——っ"!」




 狙いが大雑把なそれを青年の機体が跳んで避けては動いてほこりを散らしたミズチに向け、フィールドを山々オブジェクトごと刈り取って迫る"ジェット大鎌"。

 その着地を狙う風切りの刃も仰け反って紙一重にかわし、更に動作の終わりを狙って続く第三の手はとうに大筒バスターライフルを使い捨てた——"恒星を背にする漆黒の影"。




『重量倍加!』




(——!! いきなり、ふだを——っ"!)




『耐久強化!』




 上空から敵の急速落下して振りかぶる縦回転の大鎌。

 その猛烈に走る車輪の如きを先ずは青年でも"防御"の、いや"攻防一体"の札切り。

 両腕に備え付けの大楯おおだてが火花を散らしながらも受けきっては、流し——流す勢いを利用して側面からの反撃として蹴りを繰り出さん。




「"……"」

「——(これを、けてくる……!)」




 けれど、対戦相手のダークも咄嗟に鎌のつかで地面を叩く勢い。

 棒高跳ぼうたかとびめいて鮮やかに跳び退きては反撃より逃れ、接敵から初の応酬を終えた者たち——共に"敵の隙を少しでも見逃すまい"とつらが向き合う一瞬。




「"——/——"」




 互いに適切の対応を迅速な判断で選び、実際として行動に移せた者ら——"やはり強者"、"一切の油断がならず"。

 分析の視線は大地に足を着けて立ち直る数秒の間も鋭く、飛んでいた鎌の一振りが担い手に帰り一対に戻った今だって、何は起こらずとも緊張の間合い。

 其々の得手——己から突っ込んでは空回りをしがちの為に、ならば『受け流して作る隙の受動のスタイル』、"反撃カウンター"。

 ——型の由来不明は有利を作れるまで深追いなしの『暗殺めいた奇襲・待ち伏せ』のメインな、"小戦闘ゲリラ"。

 であれば勝負を分けるのは両者の交差した時で、『ファントム』の研ぎ澄まされた一撃を『ミズチ』がいなせるか、どうか。

 これより続く攻防で互いに『敵が己の得意に乗ろうとする』流れをどう阻止し、また何より『自己の勝ち筋をどのように通す』のかが解くべき問題だろうと。



(でも、どうにかして隙を——)



 己が勝利に至る軌跡を内心で無数に描き続ける者たち。

 緩慢な時の数秒を経て再開は"流れの始点"とする、また『手の内を明かさせる』ための細かなやり取り。




「……」

「(隙を——)——!」

「……」

「——(作れるっ"——のか!?)」




 暗黒黄泉守あんこくよみのかみが新たに札で『拡散化』の効果を載せた射撃を、身を隠す遮蔽物によって防いだり。

 一対大鎌ダブルサイスは上下を対称に持ち手を重ねて回すと、繋がる刃がを描き"変形のゆみ"にもなって。




(っっ————"手強てごわい"!)




 "まとになり易いひらけた空間"を忌避しては、しかし辛辛からがらと飛び込んだ先も"物陰の暗殺に適した場所"に他なく。

 けれど誘い込まれるばかりでなくとも『誘い込まねばならぬ』青年の方は必然として受動の中で足掻く形にならざるを得ず。

 腰元から取って苦し紛れに迎撃の短銃も、青の光は直進で何をも射抜かずむなしい。




「……"!"」

「く——っっ"!」




 そう、やはり積み重ねた経験の差もあって早くも上回り始めたのは暗黒の操る"幻影竜機子"——ファントムアキシオン。

 軽快に短銃からの光線を揺らめいてかわす分厚く重厚の威容は、されど暖簾のれんの如く自然な回避をして。

 だが『負けじ』とその回避動作を読んでのミズチが先に置く見越し射撃——はじくのは、布を掴む小手先で特殊加工のみの




(——対閃光防御たいせんこうぼうぎょか!)




 多大な重量のかさむため動きが鈍く、動作時間あたりの燃料消費も大きくなりがちの使い所が難しい——要は"熟練者向け"の対閃光防御それで防いでから。

 間を置かず、アキシオンで手首の捻るよう力を利かせて投げる、連結した鎌弓かまゆみ

 恐るべき回転はジェットに自律稼働して百八十度に光弾を撒き散らし、その猛威にたまらず岩陰に避難した青年の——うしろ




「——◆◆」

「"!?" (しま——




 既に『待っていた』と言わんばかりは先回りして暗所に四つ目。

 その四つの赤がミズチを正面に捉え——"光り出している"。




「ッ"————あ"ぁ"ッ!!」




 だから、その四つテトラ複眼の隙間から射出する赤の眼光線アイビーム

 これも事前に見越して高く構えていた盾によって辛くも受けた衝撃によって後方へと突き飛ばされ——けれどその攻撃を受けた後も続く、手に戻された鎌の追い打ち連続。




『ジリひん!』




「……"!"」

「(——っ——このまま、じゃ……!)」




 黒の手袋で指先が掴む札、しなって投入の盤面へ。

 当たる攻撃の『敵の燃料消費を倍加』させる札とで盾越しでも"じわりじわり"に余力を削り、『防戦一方では埒が明かない』と何とかで攻めに転じる——"転じざるを得ない"青年は。




(なんとか——"一瞬"を!)




 防御にかかり切りとされる腕でなく、回す腰元から蹴り出す脚。




「——"……"」

「っ——!」




 これに対して推進の噴射を前方に向けて後退の姿勢を取りながら避ける戦闘のアキシオン。

 攻め立てる『追手おって』のがわが交代するのを嫌うよう、再び飛び向かわせた鎌は予備動作の振りが大きく。

 前がかりとなる青年はこれも跳躍で回避して、その武器自体に"自律の機構"があるとも知っているから、かわした後の背後にだって注意を払い続け——。




(————"鎌がない")




 けれど、小銃の作る弾幕で動きを制限しつつ機を見て鋼線ワイヤーにて敵機を絡めとらんと考えていた青年。



(何処、へ——)



 その鎌が一向に戻ってくる気配がないことに疑念と"嫌な予感"を抱き——抱いたその頃には、




————————————————



「——『"落とし穴"』だ」

「"!" ——我が友……!」



————————————————




「っっ"——!」




 前がかりになり過ぎた意気が機体の動きにも現れてしまう時。

 着地の敵へ仕掛けようとした近接戦闘の拳——掌で威力を斜め下に逸らすよう受けられ、アキシオンの返す一撃は僅かに生み出した隙を狙っての回転かかと落とし。




("あれ"——は————)




 そしてその太脚の振り下ろす重い反撃を盾で受け、衝撃を上から逃すようミズチマルの向かう下。

 気付けば空中に飛び出していた機体の下で——が"回っている"。




(——"みず"だ)




 それは水だ、"水面みなも"だ。

 下方ではその水中渦巻——あらぬ方向、いや。

 狙った所の『あるべき水底』に"潜水せんすいしていた大鎌おおがま"の作る——





(いや——"かま"だっ!!)





 先までは崖上、落ちてちょっとした"滝壺"はそれ故に高低差の少なく。

 因りて着水までに上への推進を果たせなかったミズチは、"敵が巡らした狙い"の通りに『落としの渦穴』へとめられて。



(っ"——急いで、射線を……!)



 ワイヤーで咄嗟に取り付く岩で踏ん張り——しかし、殆ど止まるその動きは見逃されず。




「"……"」




 黄泉守が自身で手繰り寄せた"絶好機"。

 同じ崖下でも滝壺の外、水面の上から四つ目の睨み付けて合わせる照準。

 ——"流れの中心へまとおのずから引き寄せられて来る"のか。

 ——それとも今のよう"流れからの脱出を狙って鈍間のろまに賭ける"のか。





「……"!" ——————」





 熟練インダクターは何方どちらでもいい。

 何方でも実行に移せる技量があるから——"今でより早く確実な停止の的を狙らいし眼光"。





(————だっ!!)





 だが、寸前。

 何を思ったか青年は勢いに飲まれる今でまさしく"命綱"であったワイヤーを巻き取り、『そうか回避のため』としても当然に暴れる渦の水流へ身を持っていかれて。




「……"その場を凌ぐ"か?」




 一応に『照準を再び合わせる時間を稼いだか』、『悪い手ではありませんが』——そうまでも相手が評価に思ったかは未知なれど。

 続け様の次、渦の中心で回転を続ける物に目掛けて放つ線状——"鎌に絡ませるワイヤー"。




「……なれど」




 そのもがく様に思うこと——『そうして回転を止めようと? ……いや、暴流つくりし噴出機構じぇっとはその程度で止まる筈もなく』——

 それは真実として更にさきの『逆転を目指す次』のため。

 青き瞳でも輝きが失せていない青年は引き回されるのと"同じ方向に"——"なんと自らの自機でも背を押すように"推進機構を働かせ、たちまち至る最高速。

 その最中、盾の先端から伸びるは青光。

 これまでの戦いで一度も使わずに隠していた手の奥から、刃を左右に張って——、ワイヤー。




「私からは逃げら——」




「ッ————"!!"」




 故に放り出されての飛翔。

 "逃げられないなら向かう"——ミズチからアキシオンへの、水底から遡って跳び出す飛翔。

 また宛ら回転のバイがいより突き出す二刀にとう、訛ってはまさしくベイからのブレードは——"失敗を恐れず挑戦を楽しむ心"の、"ホビー"だから出来よう全力の試みアタックであった!




「れ——」





「——お"お"ぉ"ぉ"ぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「——"!"」





 その幻影ファントムを捉えんと向かった、大神の反射神経ならば緩慢に過ぎる攻撃。

 されど、今日の為に暗黒が用意した"擬似人脳ぎじじんのうにとっては処理の追い付かぬ"高速スピンアタック。

 刃の直撃を辛うじて隠し腕の突き出す短剣で防げても、回転の稼いだ威力は到底に殺しきれるものでなく。




(——"つぎ"!)




 なんと事故めいて衝突された機体は斜め下の地面へ——激突。

 そのインダクトロン歴数ヶ月の初心者が妙な動きから一転、窮地からは攻勢の様。

 それも剰え『伝説の再来』に手痛い一撃を見舞ったのを見て『本当に、優勝を?』、『このままの勢いで全国大会に?』——だのなんだの一層に盛り上がる観衆。




「ああ、女神! 我が友が巻き返しました……!」

「……"やってくれる"」




 見事な反撃を受けたのに、いやともすればの『私を受けに回らせた……?』、『青年が私を攻め立てた』——"待ち望んだ攻勢"を痛く味わって当事者までも歓喜に歪む口元。




「……」




 間違いなく変化しはじめた流れ。

 そして、押し込まれていた青年が逆流を起こし、その『不利に傾くか』と一時の離脱に移るためでは立ち上がろうとするアキシオンの——"眼前"。





(——"次")





 既に、ミズチが到達している。

 拳を引いて構えている。

 決断的な動作で盤面に投げた『高速化』で直ぐ様の追撃は四つ目に斜線を絞らせぬようの激走。

 足の生えた蛇の如く青の軌跡——疾く不規則な蛇行をしてきて巧妙に獲物を逃さず。




「——(——"次")」

「"!"」

「ッッ("畳み——掛けて!!!")」




 ここから繋げる己の王道コンボ、勝機を引き寄せんとの水流が如き寄せては返す正拳の連続。

 怒涛の連撃が敵の身を守ろうと手に戻した鎌の一つ——続き二つまでもはじき落とし、攻撃の勢いが狙い通り地面に刃を突き刺してジェット自由の無力化。

 更に敵機の腰元で交差する腰紐の如く眠り、再び起きて短剣を持たんとした隠しの腕も——見知っていたが故で事前の予想していたタイミングが『ワン』、『ツー!』——ね上げて。





「("そして")——"!"」

「——」






(————"フィニッシュ決める!!")






 四肢の払い除けたこの瞬間、遂に作って見せた間隙。

 炉心のある機体中央を刃を生やす正拳が貫かん——いや決意の切っ先が既に大気ごとを装甲へと到達。

 その過程で円形に穴の開く気体の光景が外部からも見えるよう一心に、貫いて。





(っ————)





 けれど、未だ全容を蓑で隠す——。

 左右非対称の神秘的な敵機で——のは。




(っ——"いや"——だ!!)




 それは、二本の腕だけでは——"装備"などの分かり易い見た目的なもの





「本当に——"良き力"だ」





 そう、今に流れを変えるは"ハジケ"の力。

 切っ先を進められた一部の装甲は『切り離し』のパージ。

 そのまま今度は暗黒で、鎌や水に続いて機体までも回転、それも手を支えにの倒立とうりつは頭部を下にしてのよこ回転——暗黒でも傾きかけた流れを『変えよう』・『壊してしまおう』——ブレイクダンス。




「——っ!? (これは——」

「"……"」




 それは戦い方、"隠していたスタイルへの移行"。

 切り離した肩まわりの重装甲を散弾の如く弾ける攻防一体とし、また武装は全て『崖っぷち』に追い込まれるまでの『はったり』——共に換言はからの本命。

 単なる体術、それは"近接格闘"。

 弾け飛ぶ破片に勢いを戻されるミズチで猛烈に回転する敵の太脚を肩口に受けては跳び退き、着地を追い撃つアイビームわ感じて反射的に傾ける顔の——頬を掠めて背景の山、爆ぜる音は遅れて。





「「"——"」」





 またも向かい合う両機体で爆風を、近く。

 今や風の勢いで上がる頭巾、露わになる暗黒のそれはつらでも変化が起きていた。




「"私に"、をさせるとは」




(——なんとしたたか……! やはり、"格闘も"……!)




 漸く初めて真面まともに顔を合わせるミズチマルと——ファントムアキシオン。

 白に波線の牙持ちを睨む後者は顔面でも色の暗く。

 その『中心に目のある方形』を四個組み合わせた文様——鋭利な『菱形◆四つ』は間に斜線の交差を走らせる『X』で、割れた仮面の下にはきば

 外気に晒された片角と時を同じくして、一部では青年と同じ素体ベースを使った『りゅうつら』は現出し——けれど互いに対面でも、時を待つ理由はなく。





「————っっ"!!」

「……! ——"!"」





 両者が後ろ手に燃料補給の予備カートリッジを『用済み』に落とす刹那で——対戦再開。

 僅かに先では『得意の接近戦で』と実直でも本気に踏み込んだ白の牙持ち、迎え撃つ黒の近接。

 身を近くしては『掴まれるなどで邪魔』の蓑をねじり切る両手が拳闘家の装い——『ボクサーグローブ』めいて、まとい。

 装甲を減らしての身軽、けれど拳に添える赤き粒子の煌めきは"血飛沫ちしぶき"の如くで切り裂く風。




("速く"、"鋭く"——っ、"重い"!!)




 直撃で食らわずともしなう腕に布の攻撃は"鎌鼬かまいたち"めいて——頬を更に掠めての微細な破損、二撃の逸れた背後では岩に切りつく十文字。

 だが、『ならばやはり遠距離でも流れを取られる』と踏んで——まだまだ一層に"踏み込む覚悟"の青年ミズチも負けず。

 反撃に移行して、近接と近接。

 盾の流線構造で微かに触れてやる布拳を滑らせ、入れ替わるよう肉迫の己は肩を削られながらも懐に潜り——抜刀正拳青光ばっとうせいけんあおひかり




(っ"——隠し腕で防いだ……!)




 だが、対してのアキシオン。

 もはや隠さぬ腰元の腕が紙一重でビームの"真剣取り"を敢行。

 融解する一対の副腕はもう使い物にならなくとも攻撃が到達するまでの時間を稼ぎ、稼いだ時間で受けようは脇腹。

 勝敗の決する中心を貫かれるのを避け、そのまま『肉を切っての骨を断たん』とする意志がミズチを抱えるようにして放さず。

 抱擁しながらも無慈悲に打ち込むひざ——ひざ




「——っ"あぁッ"!!」

「……"!"」




 だから堪らず、体当たり。

 機体破片の飛び散る中で距離を開き、それでもカメラに捉え続ける相手は穴の開いて焦げる腹に——他方はひしゃげた、さっきまでの流線も腹。

 よって両者、敵機が確かに損傷を増やしていく様を見ても取り『勝利は近付いている』と——また『流れを完全に己が物にする』ためで再び直ぐの接近。




「「——"!"」」




 交錯、応酬。

 殴り蹴り、押して引いて。

 体勢を挫かれても見越しでふかす推進力が浮かびながらの反撃を可能とし、"人体では困難"・"玉体ではその必要が薄い動作"の数々はそれでも熱に包まれる会場で小気味よく。




『『耐久強化!!』』




 敵の攻撃をかわしていなして、時に受けても体勢や形状の流線を利用して最小限の損傷とする者たちは同じ効果内容、ほぼ同時の札切り。

 しかしけれど、格闘の練度は青年に助言を与えつつ操作も教えた『謎のインダクター』であった暗黒の方が確かに上で、『ならば、"引き"といううんも絡む要素を』と——もう一枚の追加。




「——っ!」

『低燃費!』




 真正面の間近にて、四つ目の朧げに光る中での決断。

 押される時でもならばせめて『残存燃料の消費レースでは自らの分があるように』と立ち回っての競争は、顔面からのビームを撃たせまいとミズチからひたいを打ち合い——潰れる顔が小規模に爆ぜて鱗の剥がれる瞬刻。




「「"——"」」




 機体としても操者としても高さで似通った戦況の眺め、両者は同じ『勝利』という目標へ向かわんとする目線で——補充のカードを引寄ドロー




(補充分を——"引いて"!)


(——こっちの手札は"二枚にまい"。ならこれまでに同じ数を切った"相手も"恐らくは——!)




 然り、命のやり取りでない。

 また誰も痛みを伴って手足のひしゃげたり、血も流れぬ

 そのように『安全な遊び』だからこそ青年も本気になれた、女神も全力でその者を潰しに行けた。

 だから競って争う其処にいたのは心の底から高度な駆け引きに遊んで、"楽しむ二者"に他ならず。

 それ以上もそれ以下もない意地のぶつかり合いは既に互いで早くから札を切り、経過した補充への時間を考慮すれば手札も恐らくは三枚から今し方で切り合って一枚の減った——同数の二枚。

 ならば『使わずに、使わせる』先に相手の手札をからにさせてからの、己が手札に持つ『連撃強化』に筋道の繋がる勝機を見たのは——『これで!』——見開く青の目。




「ぐ、っ"……ふぬ"——!」

「——付き纏ってくれる……!」




 燃料分で時間的に余裕のあるミズチはやや劣勢でも泥臭く、敵機の足を掴んだりで離脱をさせない。

 もう"勝利に向かって走り始めた"のだから、その遠ざかる"仕切り直しはさせまい"。

 そうしてそれでも未だ潜伏へ一旦に逃げんとする幻影の一枚目『脚力アップ』の跳躍を——青年も一枚で『射程距離拡大』の効果を載せた長距離砲ロングレンジライフルの狙撃が一回、二回。




「——っ"」

「——(掠った!)」




 慣れたものの偏差射撃はかわそうとされつつも腱の辺りを熱で擦り。

 欠けて姿勢制御が不安定になった機体の自由落下する、その分かりやすい着地を狙う、三回目——。





『ブースト強化!』





(——)





 その着地の硬直を補う為に切られた二枚目——相手で現状最後の札。

 アキシオンは射線から軸をずらさんとする動き、背面から暗く赤い炎を吐き出す機体は転がるように至る浅瀬。

 その水際では青き空の連星を背景。

 浜辺に張った水面へ重量の落ちる衝撃に飛び散る水飛沫——機体の直ぐ横は青光に射抜かれ。





『連撃強化!』





「——"!!"」

「……っ!」





 其処へ、続いて飛び入った者。

 同地同浜どうちどうはまに影はもう一つ。

 狙った射撃を回避されてもその相手の手札が空となっただろう様を見て迅速に駆けだし、つんのめりかけた勢いでも距離を詰めてきたミズチ。

 予想から比較しても『相手の手札はゼロ』で、燃料も僅か。

 一方の『自分は一枚』で有利なら『今が攻め時』として——急接近から、"短期間に攻撃を当てる度に威力が上がる札"の特殊効果を掛け、押し切ろうとの流麗な動作が襲う。




(——"がさない")




 まだアキシオンの爪先に隠し持っていた暗刃あんじんを冷静に盾で弾いて。

 反撃に回し蹴り右回転、続いての左回転——飛ぶ飛沫を動きの気流に乗せる熱意、"押し切らん"と。




「——ッ」




 だがだが、この若者にしつこく追い立てられ、攻めては攻められ、その追い詰められて尚——いや、諸々のシチュエーションが故にこそ苦境でも妖艶に笑うか魔王。

 瞬間、この為にも逃げ回ろうと稼いだ時間の老少女は"背水はいすい"の場面を楽しみながら、"ここ"で——で引き当てる『二枚引き』の超強力ちょうきょうりょくカード。




『ダブルドロー!』




(————"ここ"で!?)




 中指を下として札を持つ、滑らかな指遣い。

 敗北の近づく窮地からそれでも逆転を諦めぬ意志が彼女でも迅速に、可能性に繋がる宝札ほうさつを盤面に置いて——"圧縮"の引き寄せた追加の二枚でを見せつける。





透明化とうめいか!』『無敵ムテキ!』





「な"——"!??"」

「——"来たか"」





 もはや引いた札の内容を確かめる間もなかった、だけれどの思い切り。

 連続どころか、左右の腕が交差したようにも見えたほぼ同時の読み込み——"デュアルスキャン"。

 その極まった技、引き運と度胸の見事に良すぎる振る舞いは、その確率や難易度を知る者たちで言葉を失う静寂をも一時いっとき熱狂の渦に呼び込んで。





「……あれは——!」

「『透明化インビジブゥ』と『無敵インビンシブゥ』——"死角から襲う死神"の、伝説の『ビジビン必殺コンボ』だ!」





またも——"くぞ"」





 透明に姿を隠す幻影。

 高度な状況判断と中々目にかかれぬ熟練の動作に再び湧く観衆の中、ひっくり返そう形勢。

 追い込まれていた者が鋭く牙を向き、寧ろ手札のない状況で『不可視』と『無敵』を凌がねばならぬ青年の窮地を作り出す。




(っ——なんとかっ! 負けないように"耐えろ"!)




 その見えず、またインパクトの瞬間に反撃してもノーダメージで有効を取らせてくれない暴威。

 アキシオンではこの明らかな有利に際し、燃料の残存で劣るからもして——最早この時をこそ『詰め』に逃す手はなく。




(耐えて、耐えれば——!!)




「……!」

「くっ……っ、っ……!!」




 盾に注力させる一撃、二撃、三と四では緩んだ機体の脚を透明な様は太刀風たちかぜを引き連れての挫き。

 特殊加工の布で取り分け鋭くなった手刀で裂傷を負わされ続け、今や左腕も生える肩口の根本から断ち切られる、ミズチマル。




(まだ——!)




 だが、しかし。

 その『組み上げた自機』と『勝利』を信じて戦う感応操者インダクターもまた補充分に賭ける思いは——『その時を待っていた』とばかりに力強く、"補充可能"の緑の表示が出た場所へ瞬時に伸ばす腕の先。

 先端の指が最後の機会を掴み、引いて——。





無敵ムテキ!』





「——"!!"」

ッ!!」

「"!?"」





 引き当てた『無敵』の力。

 同じ超強力の輝きを見に纏い、まだ近くの透明化した敵を残る腕が大雑把でも抱え込み、絶えぬ気力は開口して噛み付く——きば




「ぐ、ぐ——ぬ"ぬ"、ぬ"……!!」

「見事に……"食い下がる"——!」




 相殺した力のまま食い付いて、放さず。

 のがさず、災い転じて何とやら。

 結果として札の使用を後手に回った分で余裕のある効果時間として活かし、呆れる程の執着は一方のアキシオンで光景に色を戻す——透明効果の終わりさえ、導き。





「は……っ——ッア"ァッ"!」

「、……! 、——」





 その同時から少し遅れるだろう相手の無敵効果も。

 光輝の失せて終わる直ぐ——仕掛ける精一杯のフィニッシュムーヴは蹌踉めきながらの振り下ろす斜め斬り。

 青の刃、振り下ろして——片角をへし切りながらもその障害物で勢いを減衰されて肩からを裂く威力には至らず。

 油断も勿論に息つく暇だってない。

 却って刃が食い込んで反撃に掴まれようとする右腕は、敵を蹴り飛ばしながらで無理矢理に戻し、互いに倒れようとする中でも仕掛けた側が故に極々わずかの差で早く立ち直るのは——隻腕のミズチマル。





「……っ——」





 とうに線状の目も割れて満身創痍の有り様。

 だが、青く刃の伸びる盾の機構が、同じく満身創痍に膝を着いたアキシオンの前で引き絞る——構え。





「っ"、————"!!!"」





 引いたその構えを、迷いなく伸ばす。

 一直線に目掛ける先には敵機の炉心ど真ん中があって——遂に決着の瞬間が、






「「"————"」」






 ひび割れた膝の、負荷を掛けて折れる脚部。

 廃棄物を拾って直したが故にどうしても亀裂の跡は残って——そこに掛けた負担。

 "敢えての破損"が機体の位置をずらして紙一重、突き刺ささんとする直撃——回避。







「…………」

「——…………(————っ……」







 左肩で攻撃を受けた反発の勢いがまま、突き出された右。

 無敵も切れた一瞬に。

 事切こときれたミズチを——アキシオンの手刀が貫いていた。





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