『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!⑤』

『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!⑤』




("…………")




 円形である地方競技場スタジアムの中心。

 初挑戦で辿り着いた『決勝』という大舞台おおぶたいに浮き足立ち、逸る気持ちで既に余裕を持って会場へと入った青年。



(……自分の記憶が確かなら、"あの人"は……)



 だが、決戦を前にしてもこの者で悩むのは目前の試合だけでなく、先日で恩師に指摘された『面識のある相手』の存在が気掛かりで一戦への集中を阻まれる心。



(……試合前に考えても仕方ないか)



 しかしけれど時は待たず、波を感じ取る体には間もなく昇降機の稼働する音。

 人々の勝敗予想が会場に飛び交う中でも暫し周囲の声を忘れて考えに耽っていた青黒は、観衆の騒めきが一層に『ひそひそ』と質感を変える頃で対戦相手の登場が近付いていることを把握し、また何とかで『意識を切り替えよう』と深く息を吸って、吐き。




(謝礼それは——決勝が終わってからにしよう)




 再度、『自分は大丈夫』と作る微笑で頷きを送る先には女神ら。




「……我が友が楽しげで何よりですね」

まったくその通りかと。……『あの者の勝負に向ける情熱を私の身でもじかに味わってみたい』との思いはありますが——うむ。こればかりは仕方ありません」

「……はい。"友しか知らぬ幸福"の追求がため、暫し我々はその純粋な見守りに徹しましょう」

「……ええ——」




 その緊張しつつも今を楽しめている様子をアデスとイディアたちでも深く喜び——。





仕方しかたが——ありませんから」





————————————————





 けれど、目を掛ける者の晴れ舞台を観戦する彼女たち。

 その観客席の裏でか——か。





「——……"仕方"が、ありませんからね」





 諸々で真偽なぞ不明瞭だが、それは今に於いて重要でなく——"偶には非力の癖して出しゃばる働き者を労いたい"、"他者をばかり気に掛ける者へ己の無力を突き付けるよう教えたい"。

 "敗れて屈する様も見たい"、"私だけに重い感情を向けてくれる必死な顔"もだって——『何もかもを占有したい』・『知悉ちしつしたい』と思うのも、仕方なし。




「……でも……」




 でも、そうは言ったって"愉悦ゆえつ残虐ざんぎゃくに、嗜虐しぎゃくで騒ぐのも酷くて仕方がない"。

 だから、"互いにこぶしやいばや、アレソレで身を打ち付け合う"こともしたくて——でも、"そんなことも仕方のない"。

 全力全開での力量に差がありすぎる我々では一瞬に事が終わってしまって——けれど、から。





「……今では違う」


「『遊び』の中にこそ——"方法はある"」





 だから、何処ぞの闇より出でて会場の通路を歩く少女の形。

 進んだ先には競技参加者用の昇降機リフト




「"……"」




 其の鉄板へ足を乗せては上昇する中での変装ドレスチェンジ

 足取りも振る舞いも軽やかに、『所詮は遊び、然れどの気兼ねなく為合しあえる』との身軽。

 側頭部の結わえた白髪を解き、間を置かず以前で青年がしてくれた『編み込み』を保存していた情報かたから呼び起こして、ちゃっかりの"逢瀬"に備えた装い。

 また『健闘を祈ったり、讃えあったりで握り合うかも』の手では清潔の薄布から、より清潔の厚手に新調する暗黒の手袋グローブ

 その準備を進める顔では待ちきれず上向く口元をねて水平、一文字。

 更に上の目線では斜線交差X状のダークグラスに紅の魔眼を仕舞い込み——下ろした髪と腰元からの漆黒の布をなびかせる者。





「"この時"も待っていた」





 "全力で打ち合える"、この時を。

 "横に付き添って立つのも面白く、けれど向かい合って攻める・攻められる"——"圧倒するのもまた楽しきことでしょうから"。





————————————————





「"……"」





(——"!")




 故に、一人ひとり一柱ひとはしらを構わず。

 少なくとも今は同じ競技参加者のいちとして勝ち上がり、青年の前に再び姿を現す感応操者インダクター



(……近くで見るとやっぱり、そうだ。この人は——)



 上がりきった昇降機で立つ『伝説の再来』に益々と沸く会場。

 その黒衣に身を包んだ小柄は誰にも正確な認識をさせぬまま、対戦相手となる初心者が待つ方向へと進み出し——その確固たる足取り、揺れる小さな肩に跳ねる白髪の麗しきこと。

 見惚れる青年でもいよいよ間近となった相手の姿に過去の記憶が一致して、試合開始前の挨拶にでも来たのだろう当事者を前には"確信"を胸にの問い掛け。




「今日の対戦相手が、貴方——いえ、"貴方"は……まさか——」

「左様。貴方の戦うべき相手は——"わたし"だ」

「……!」




 一方の尋ねられた少女では一時的にダクターグラスを外し、露わになるのは美貌。

 長い白髪に冷酷を思わせる暗く鋭い赤目で、けれど口調で柔らかな物腰も持つのは■■■——。




「……?、"?" や、やっぱりあの時の——"裁判"の時の……!」

「……」

「転びそうなアイレスさんを助けてくれた——『補佐官』のひと……!?」

「はい」




 その背格好も声質も、まさしく。

 思い出した青年で都市の少女が戦神の計略に巻き込まれたあの時に、責任の真偽・所在を明らかとする"裁判で神の補佐をしていた"『補佐官』にあたる人物だと思い至る。




「然り。"あの私"です」

「——よかった! あんなことになった後で、貴方もご無事だったんですね……!」

「ええ。当時は神の力によって難を逃れ——そうです」

「?」

「戦火の近く裁判の手伝いをしていたのも、またこの数ヶ月で貴方の前に現れては再三に『ふぁいと』の心得を説き、また不遜ふそんにも闇をかたっては玩具を悪用する組織を貴方と共に壊滅させて検挙に導いたのも——"この私"なのです」

「——え"!? そ、そうだったんですか……? でも確かに良く見れば、お姿や機体の印象もその時の……」

「はい。"私"。『ダーク・ヨミノカミ・エックス』——よりに良く見て、以後のお見知りおきを」

「は、はい。改めまして、どうも」




 その補佐官——今に『暗黒黄泉守えくす』と名乗る者とは青年で、神の戦火に巻き込まれて以来の再会。




「——そ、そうしたらやっぱり、良かったです! えぇと……実は貴方に……」

「呼びや覚えが困難の場合は『ダーク』や『ヨミ』や『えっくす』と、無理をなさらず貴方が気の易い名称でお呼びください」

「わ、分かりました。……では、"ヨミさん"」

「……なんでしょう?」

「前から貴方にはお会いしたかったんです。裁判や少女の怪我をしそうな時、また今さっき知りましたが教導でも助けてくれた貴方に……『その礼を言いたい』とこれまで思っていて」

「……」




 簡単に礼節で口にする言葉は勝負事の前だと言うのに破顔一笑。

 今で礼を言えての安堵、無事と幸運を祈っていた青年は一つの憂いを解消して青の瞳さえ奥で微かに潤ませて言う。




「でもその機会がなくて、名前も知らなかったから……今日は、お会いできて本当に良かった」


「本当に、色々と有難うございました。貴方のお陰で自分は今、まさに"今日のこの舞台"に立つことが出来ているんです——有難う御座います」




「…………構いません。礼には及ばない」




 その『心から他者の安寧を祈っている・そう出来るのだろう姿』には対面直撃の魔王少女でも感じ入るものが多々、あり。

 だが、『構わない』と言っての感応操者インダクター

 対戦する此処では『実力さえ見せて貰えれば結構』と、狙い通りに憂いを払ってから余計な肩の力も抜きにかかる巧者。




「そして何よりも今は、"決勝"の場。"我ら感応操者インダクターの敬意は全力によって示される"」


「故に、例え感じ入る再会であってもその同士が出会ったならば……"為すべきことは一つ"」





「今日は"全力"で——"共に楽しみましょう"」





「……!」

「少なくとも今で危険なことは何もないでしょうから、どうか気楽に」

「……はい!」

「……良き返事です」




 切り上げ、影のある者への言葉。

 今も続く『変わった日常』の中でも努める姿勢へ温かく、微笑み掛けられた当の青年でも『全力で楽しもう』と引き締め直しの表情。

 暗黒ダークでも青の色で意識の切り替わったのを見て取り、また赤に染めるグラスを掛け直す振り返りの際、歪む口角。




「……しゃどー↑……コホン」




 "向かってくる好みを捻じ伏せられる時"にたかぶりながら——対面に立っての両者、機体配置。





「——『シャドー→マターマークサーティーン・ファントムアキシオン』」





 呼ばれる漆黒、暗く見える"影の物質"——"四つ目"の赤き妖光は機体。

 最大の特徴は頭巾から覗くその複眼テトラと"片角かたづの"。

 及び感応操者が付けるそれと似た隠れ蓑を全身に被り纏う、輪郭を隠すのか隠せぬのか怪しく不明の左右非対称——『マークフォー』以来の伝説が今再び、インダクトロンの歴史に姿を現さん。




(……頼むぞ。ミズチマル)




 対する青年でも、いよいよの決勝を前、青く染めたグラスの下は一時の瞑目。

 顔面に鋭い波線を描く"牙持ち"の『ミズチマル・改二』をシャトルに配置してから——最後の深呼吸。




(————"よし")




 そうして精神的な安定のために息を整えてから波の穏やかな心情、凛々しく。

 碧眼、正面の好敵手ライバルを見据えて。





「『ダーク・ヨミノカミ・エックス』」

「——"!"」





 燃える両者のインダクター。

 競い合う対戦開始スタートへと、飛び立つ。







「"くぞ"——/——"きます"!」





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