『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!④』

『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!④』




 ファイトを映えさせる演出によって照明をややに落とす会場。

 観衆の騒めきが暗所に満ちる時で準決勝に臨む選手たちは既に各自の定位置へと着き、その挑む一人は『コブトリ・デ・チュウネン』——チュウネン村のコブトリさん。




「…………」




 彼は『家族の為に』と仕事を一筋、二十年。

 けれど『仕事ばかりで家族のことをないがしろにした』と妻から離婚を突き付けられ、すれ違った心だけでなく身も離れた離縁から今日で数週間。

 その大きな生きる目的や意義を失った彼はただ貯まっただけの資金を当初の目的から外れてはいない使いみち、即ち『養育費』として妻子に払いつつもそれ以外に然してやることのない日々を送り——だが、そんな心と時間に穴のあいたような時、偶々で店舗の前を通りかかって思い出した"幼少の記憶"が、インダクトロン。




「……よし」




 どうせやることもなく、けれど金はあって『酒に溺れるぐらいなら』と——選んだ復帰の道。

 すると、あれよあれよとトントン拍子に今で至ったのは公式大会の準決勝。

 期間の空白ブランクがあったとはいえ、"資金はあって無職のファイトに専心できる環境"は実際有利に働き、今や離縁まもなくの打ちひしがれた中年の顔は何処へやら。




「——"頑張ろう"」




 勝っても負けても人生が劇的に変わるでもなく——しかし彼の楽しく燃える瞳に、活力。

 "何のために生きるのか"? その一人の人間には正解なんて分からなかったけれど——今は"生きる"のが、『過去を思っても自由に羽ばたける"この娯楽"が楽しかった』のだ。




「……?」




 だからそうして意気込んでの瞑目から瞼を開け直すコブトリの、彼の向かいに突如として現れたように見える準決勝の相手は、黒衣の——女性?

 風貌も大まかな年齢も、存在そのものが遠目では何か意識して確認しづらいが小柄のようだからの"少女"?

 兎角、『女性インダクターが珍しいものである』とそれなりのインダクター歴を持つ者は思いつつ、しかし『固定的に物を考えすぎるのも』と古い価値観の自認と改め。

 何より『公式大会の初代王者は女性であったとか、ないとか』とも過去に聞いたこともあったコブトリは、『この競技で性別は実力決定の絶対要素ではない』と——昔から一つの事でしか注力の難しい己で。

 ならば『せめて相手が誰でも今に全力を尽くすのみ』と信仰する神に——そして何より別居の妻子に"尽力"と"正々堂々"を誓い、手に持って再度に眺めるのは心情として広くなった家の奥底で眠っていた機体。

 それを現代用に再調整した、人間的な目鼻顔立ちを有する懐古的レトロでも英雄ヒロイックな愛機を——筒状のエントリーシャトルへセット。




「頼むぞ——『ウルトラアルティメットゴールド』」




「"……"」




 同時には、対する少女の機体も配置。

 彼女の手袋グローブの手が置いたのは夜闇やあんめいて漆黒の機体——襤褸布ぼろぬのの如き対閃光防御を身に纏う太きはば

 その頭部も布で暗中に秘され、けれど隠しきれずに突き出た輪郭は片側のみのつの

 全体としても何故か左右非対称で怪しく、起動に際して不気味にまたたく赤の四は眼光——四つ目テトラアイ





「「"……/……"」」





 片や、幼少期からの付き合う思い出。

 片や、場の管理者から許可を得て——拾い、組み込んだ廃棄物も利用の作。

 そうした二者で初心者ながらも決勝に進んだ若者の待つ舞台へ。





 "対戦開始"を告げる振動音。

 その挑む切符を賭けたファイトが此処に——火蓋を切られた。





————————————————





「——っ……!」





 して、放り出されたファイトフィールドは惑星外縁。

 無重力で漂う岩陰に隠れながら機体に挿し込むバッテリーパックでエネルギー充填はコブトリの愛機。

 けれど、その黄金の機体で銃を構える警戒の姿勢はくことが出来ず。

 "厳戒"の理由——いざ戦ってみれば"命を刈り取る鎌"めいた得物に、"死角の闇より襲い来る神出鬼没のファイトスタイル"。

 それは、まさしく"死の神"——そう、覚悟をしようがしまいが突然に訪れる終末の恐怖。

 死を思わせる暗色の容貌と立ち回りから想起した渾名あだなは『死神しにがみ』であって、過去にいたとされる"同名の伝説"を知っていて騒ぐのは古株のインダクターたち。




「——……『死神しにがみ』……伝え聞く"初代の有りようそのもの"。機体も、その動きまで……恐ろしく」

「『シャドーマターシリーズ』……!! ま、まさか本物——リスペクトではないのか!?」

「そんな、まさか……! 存命なら"婆さん"なんて歳じゃない!! 仮に"しんの正統後継者"があったとして、孫の孫の……更にその孫の代の筈っ!」




 現在の戦場で時たまに姿を見せた機体が過去に活躍したレジェンドインダクターたちの機体を参考としたリスペクトモデルの、その独自に作り上げた『オリジナルナンバー』との推測が優勢として盛り上がる中で——しかし誰にも、当の真相を確かめる術などなく。




「……まさか」




 それは今まさに戦場で、愛機に繋がる意識で立つコブトリも同じ。

 だが勝利でなく相手の素性を気にかけては勝てる試合もないと彼は知っている。

 故に、まさかまさか——『本物の初代が存命であるものか』と対戦中の彼も理性では割り切って、構え。

 けれど一方で、何時いつしか——"一つの真実"として準決勝に到達してきた"強者"、それも"伝説を匂わせる強者"との対戦に中年の胸だって高鳴り。




「"……"」




 高揚の中でも切らさぬ集中、高鳴っても比喩的に潜める息。

 先刻から気の抜けようとする動作の起こりや、そのしまいを狙って攻めてくる相手を『今度こそ見逃すまい』と神経を研ぎ澄まし——すると、"其処で漂う岩石群の一つ"。




「……——"!"」




 コブトリが油断なく目を凝らしていた周囲その中の一つから、ふわふわとめんを替えて自然な動きの作る角度で覗いた——"四つ目が発光"。




「——ッッ"!!」




 即ち奇襲の眼光線アイビーム

 警戒で気付けた人間は自機で重装甲の金色は赤く変色して高速起動の回避。




にがすか——!!」




 また間を置かず瞬時に攻勢へと己を切り替え——『拡散化』!

 切った札も合わせて撒き散らす散弾粒子、直ちに離脱から潜伏に戻ろうとした『影を炙り出さん』と。

 振るだけで物質の流れ、『気流を自在に作るジェット推進器付きのあのかまが危険だ!』と。




「——其処そこッ"!!」




 黄金が拡散の効果と合わせて飛ばす弾幕、逃げ場のなくなった漆黒で回転によって防ごうとした大きな鎌を、その持つ手ごとに吸着。

 延いては左腕をも周囲の岩盤オブジェクトごと絡めて身動きを制限し——間髪を容れず、残す右手も網状を意識する弾丸で周囲の岩に貼り付けて。




「これで、決め——ッ"!?"」




 今こそが『好機!』と狙い撃つ収束の粒子砲、遂に決着を付けんと思いきや——"素早く走った電閃でんせん"。

 金色を目指して一直線で向かったのは敵腰元から飛来の、"非ビーム短剣"の煌めき。




「ッ——"かくうで"!!」




 その短剣で最後の射撃兵装は力の溜まっていた所を貫かれて暴発、爆散。

 ならば残る近距離用の長剣サーベルを抜いて『絶対にこの機を逃さん』との決意。

 その意志の表れ、推進機構をふかした爆風の中からの急進。

 対しては進行を阻まんとして次の短剣も敵機の隠していた腕より素早く投げられるが——『それぐらいならっ、まだ!!』





「押し切ッ"————!!」





 しかし、短剣は二つ。

 投擲して先行する一つが直進する機体装甲に突き刺さり。

 後からのもう一つがそのつかの背を後押し——押し込んでの、"赤暗いやいばが至る炉心"。





「——て…………」

「"……"」





 加速した勢いの余剰で緩やかに向かってくる敗者の機体を。

 隠し腕の切り裂く縦横は拘束を断ち切って、振り切って——相手が岩盤に沈む様を身かわしで過ぎる横目。





「……」





 激戦後のちりが漂う宇宙空間。

 翻す襤褸より赤き粒子を排出の四つ目が——勝者としての立ち姿。





「……寸分違わぬ見事の腕前。負けました」

「……も、しんまさしく強敵であった」





 負けた中年男性は燃え切って、開いた口。

 しかし、ここまでで"取り戻せた情熱"と"伝説の再来を目の当たりにした感慨"は観衆の拍手に見送られる中——笑顔を伴って、

 一人でも愛機と共に誇らしく、コブトリは舞台を去るのであった。





・・・





(……あれが、俺の戦う……決勝の——)





 そうして、眼前に繰り広げられた好勝負に思わず息を呑んだ青年で決勝の相手は謎の少女。

 その下方を眺める客席と、去り際に視線を見上げ返す勝者で。




「「"——!/……"」」




 碧眼とダクターグラスを染める赤の眼は交差をし、両者が準決勝を越えての——"地区大会決勝戦"。



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