『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!③』

『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!③』




 斯くして、初の自機を完成させた青年。

 その後間もなくで遊びを楽しもうとする心はファイトにも興味を示し、ある程度は手加減をしてくれた恩師の指導もあって操縦と勝利に更なる喜びを知って——。




————————————————




「足場の悪い——溶岩地帯に追い込んだ!」

「あの新参者ビギナー、もしかするとこのまま——決勝に……!?」




 日々で続ける練習をしつつ着実に腕も上げ、機体もその感応操者インダクターの成長に合わせて兵装の取捨選択に性能や形状の改修を繰り返した——『ミズチマル・改二かいに』となっての、今。




「——ウォォォォ!!! いけぇェーッ!! ビギナーダクター!」

「タフに快進撃っ! みせてやれェェェ!!」





(相手の手札は恐らく一枚。自分の札は残りが何であっても大抵は返せる!)


(なら——だ!)





 意を決しての挑戦、参加登録エントリーした初の公式大会準決勝。

 青黒の者は右手に掴んだ札を決断的動作で正面の読み込み位置に通す、それも二回にかいの——『脚力強化』と『加速』は思い切っての連続行使。




(——"決める"!)




 火山だらけの溶岩地帯。

 限られた足場を転々と跳ぶ白に青に、また細部で黒の彩色を新しく施された機体が新生ミズチマル。

 その以前より更に装甲を厚く・重くした腕が手首の内部機構から射出の鋼線ワイヤーで引っ掛ける——追い込まれた敵機の足。




「依然、我が友の優勢です! このままを行けば……!」

「……最後まで油断なく仕留めきれるか」




 模型や競技へ美的に興味を示して友と一緒に初めようとするが、けれど美術・美学のあれこれで『凝り性も過ぎて機体が完成しないだろうから』と。

 故に大会では応援と観戦に回るイディアと、その横で同じく見守る恩師アデスの意識が向く先——数ヶ月に渡る修行やインダクトロンで人々の営みを脅かそうとする"闇の玩具組織"との戦いも経て、それら激戦を潜り抜けての地区大会を勝ち進まんとする熱意の碧眼あお





(行け! 俺の————"ミズチマル"!!)





 決意で瞬間に詰める距離。

 赤熱山肌の黒ずんだ背景で、操者にも似た青の軌跡を線で描く眼光。

 飛び込んだ敵の懐では最後まで勝利を諦めず腰元から近接用の短剣を引き抜こうとする敵の——最後に取って置き発動した『無敵ムテキ』を『模倣コピー』で実質的に相殺。

 そうしてそのまま続く一瞬の連続、互いの交差はミズチの蹴り上げる短剣。

 その勢いでする横の回転は集める力を肩へ、腕へ——反撃の間を与えず胴に打ち込む掌となりて。




("————")




 内部へと完全に通した衝撃が中核の炉心を砕き、動きの止まって眼やエネルギーラインから光の失せる相手の機体——響く試合終了の振動音ブザー




(——……か、勝った?)




 拍手と歓声の湧き起こる会場で未だ実感の希薄な夢現ゆめうつつ

 見上げる電光表示——映し出される愛機ミズチマルと『勝者』の文字で漸くに結果を自認。




(……"勝てた")




 それは周囲の讃える様子からも分かる、見事な立ち回りにての勝利。

 初参加としては上々すぎる決勝進出の場面で、当事者は締まっていた凛々しき構えを緩める一息。




「……や、やっt——」

「お疲れ様です。ルキウス選手。機体を対戦開始時の状態に戻されますか?」

「——ぁ、よ、宜しくお願いします」

「かしこまりました」




 その後では係員の修理確認を求める声に怯えた返事。

 認識や記憶を誤魔化す暗黒の加護があるとは言えあまり衆目に姿を晒したくはない青年、なので頭巾フードonで口元にも覆う面頬マスクの展開は続行。

 その競技規則レギュレーションで許容される姿で着用にも問題のなかった目の周りの薄い青色——装着者の虹彩によって色の決まる青のダクターグラスを外してから、客席の女神たちを探して気の抜けた目元の柔和な笑みを見せる。




「……」

「……」

「……やはり手札をいつの、どの場面で切るのか・切らせるのか。瞬時の判断が重要」

「……」

「また相手の攻め手や手札補充を狙う時間稼ぎにどのような対処が出来るかでも技巧が表され——上々じょうじょうの手を打つたび有利不利が入れ替わる、最後まで気の抜けない展開の連続がこの競技の肝なのです」

「……では、我が友は"上手くやった"と?」

「……ええ。何時いつぞやに見せた真剣の、けれどその中で『遊びを楽しむ』良き表情いろを我々の前で見せてくれました」




 そうして微笑みながら。

 これまで苦しげに戦ってきたばかりであった青年の、今日はその娯楽で見せた奮闘の余韻を味わう女神たち。




「"……"」

「"……"」




「——! アデスさん、イディアさん……!」




 多くを語らずに二柱が無言で頷き合う通用口近くの其処へは。

 修理を終えた機体を回収して直ぐ、勝利の報告に駆け付けた"今日のヒーロー"も合流を果たす。




「勝てました! 今日も勝てちゃいました……!」

「見ていましたよ、我が友。決勝進出おめでとうございます」

「あ、有難うございます!」




「……うむ。我が弟子は今日も頑張りましたね」

「……!」

「私からしても見事な戦い振り。観戦でここまで楽しませて頂いたのも、過去に覚えはないでしょう」

「……アデスさん」




 照れで笑う者を中心に団欒だんらんの輪はでき、しかし指導者としては笑みながらも次の目標を示さん。




「……決勝は何時なのですか?」

「決勝は明日あしたとのことで……分かってます。次も油断せず、全力で頑張ります!」

「……注意の手間も省けたようで……でしたら今日は残りの試合を見てから戻りましょうか」

「いいんですか? 朝からお二方には付き合ってもらいましたし、行きたい所があれば……——」




 青年が目線で立てる窺いへは美の女神で『大丈夫』と首を左右に振られ。




「——……それなら、アデスさんは? 今日は"大神の間で話す用事"があったみたいですけど……」

「いえ。お陰様でその用向きも片手間に済みましたから、私も青年にお付き合いします」

「……分かりました」




 次には『今大会の日程と大神同士の会合が被ってしまった』からと、地区大会参加を見送ったアデスでも予定の確認を終え、新たに三者で着こうとする観戦の自由席。




「重ね重ね有難うございます。ふた……はしらとも」

「苦しゅうない。それより決勝に勝ち進んだ貴方は、貴方自身のことを優先して考えるべきです」




「規則上で他の参加者の対戦を見るのも問題はなく」


「対戦表のもう一つの山で準決勝を戦う二者も先まで貴方の試合を見ていたのですから、今度は貴方が『敵情視察』をする番なのです——そうこう噂をすれば、入場も始まったようで」




 先導して座るアデスは周囲に人の少ない——居たとして引き続き"神を神とは認識できぬ領域"へ動かす白髪、招き。

 そうして美と暗黒で青年を挟むようにして残りを座らせた後、現れた参加者の片方へ目を細める師はおもむろに"意味深"の指摘を述べる。





「——む。これより準決勝を戦う『あ』の"女性"……もしかすれば"我が弟子と過去に面識のある者"かもしれません」

「え……?」





 そう言われ、後から恩師の視線を追って見遣る先——無言で操者の立ち位置に着く"黒衣の小柄"。

 指摘を受けて確かにその有り様に『何処か見覚えのある』決勝進出者の青年が『その正体』を怪訝に思って一層に件の女性へと注視をし——『情熱を抱いたまま、穴のあくほどに見つめてくれる』中で。





(……"誰"? ……いや、そう言われると確かに昔、何処かで会ったような……——)





 残る決勝進出者ファイナリストを決める戦いが幕を開ける。



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