『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!②』

『闘争≠競争・インダクトロンファイト!!②』




 模型玩具への遊びに誘われて興味を示し、青年が女神たちと共に足を運ぶ場所。




「ここが『クレーターシティ』……インダクトロンに関わる者にとっての"聖地"?」

「左様であります」




 其処は都市全体が既に特設舞台が如く円形の窪地『クレーターシティ』。

 先述した玩具『インダクトロン』の生産・消費が盛んな、その関係者にとっては正に『聖地』とでも呼ぶべき実験都市の一地点。




「……! 見てください、我が友。駅前にも何やら大きい機体ものが飾られていますよ……!」




 同行してややにはしゃぐ美の女神イディア、彼女が進む駅前広場にも二足で立つ巨大な——周囲のビル群に負けずの威容を持ったRed・Green・Blueカラーのインダクトロンは置かれ。

 他でも聖地との言葉通り高層建築からの垂れ幕やラッピング車両、歩道で縦孔ホールの蓋や行き交う人々の衣服など。

 そうした音だけでなく見た目にも賑やかな都市の彼方此方あちらこちらに玩具と関連する装飾の見られる中、人差しの指を空に向かって立てる暗黒少女。




「でしたらそもそもの——『インダクトロン』とは何か?」


「その黎明期れいめいきも知る私から再度に簡単な説明を、少し」




 青年たちが目的とする販売店舗へ向かう道すがらで、女神より件の玩具『インダクトロン』についての概要が改めて説かれる。




「その"名称"については時代を古くしての元来、"特定の要素に反応して力を生じさせる物質"。または"その物質からなる構造物"のことを言い……此処では特にそうした物体の中でも力の蓄積や放出・消費によって手で触れずとも動くようとなった『人形』や『模型』の形で知られ」


「その神秘的な有りさまへの高まった人気からは主に『模型玩具』を指す代名詞としても定着をしたのが——今日こんにちの『インダクトロン』なるもの」




 手短に語られては、ビル群の間で建築の支柱に縄の巻かれた『やしろ』と思しき場所、其処に祀られるインダクトロンの姿も横目に。

 そのかつては"神的かみてきな信仰の対象"でもあったのだろう歴史を実際として目にしつつ進める足取り。




「また起こりも数百年前の此処、けれど実を言っては大神たいしんによって誕生したのが一連の様式であります」

「……大神アデスさん?」

「私ではない。同領域の支配者である大神が自らの研究と趣味を兼ねた行いで作成し、その得られた知見を『娯楽』として民にも分け与えたのが……今で"このよう"に相成ったのです」

「……! 凄い品揃えです……!」




 気付けば目前となった大型の専門店へと身を入れ、店内で間もなく光景に広がったのはズラリと陳列された模型の箱や完成品展示の数々で、圧巻の並びに息を飲む若者ら。




「——げえっ! ここで『無敵ムテキ』から『加速カソク』!? 制限カードでコンボかよ!」

「へっ! 切り札は最後まで取っておくもんだぜ!」




「あれは……」

「そうしてあれが機体を戦わせる『ファイト』。今では六歳程度から私のような者までの幅広い年齢層、老若男女を問わずで楽しまれているもの」




 透明の薄壁を隔てた別室では同じく透き通る筒状の制御空間に入って戦場フィールドへと送り込んだ機体を戦わせる少年少女。

 その実際に競い合う様子を見ながら『ファイト』とはの説明が以下である。




「各々が作り上げた機体に例の大神が物質反応の調整を施すことで可能となる対戦競技」

「コントローラー……手で扱うような制御器具はないんですか?」

「手で押したり倒したりの物はなく。主に機体の操作は脳波のうはによって行われ、目に掛けるよう頭部に装着された機器がその読み取りをしています」

「……進んでますね」

「ええ、比較的に。そして操縦の道具はあくまで人間から発せられる程度の波長しか読み取りませんので——つまり"神々われわれでもひとと同じ条件で戦える"」

「……それなら確かに不公平を気にせず出来ます」

「はい。我々に脳があるのか・ないのか。あるとして何処に幾つかなどは諸説ですが……それならそれで必要な分を用意すればいいので大事なく」




「……塗料の種類もこんなに沢山——! これは……!」


「『凡そ千六百八十万せんろっぴゃくはちじゅうまん色に光り輝く』……!? 画材としても興味深い物ですが、値段は——……さ、流石にお高い」




 変色する髪を"お洒落"として認められる地域でそれを隠さず。

 店内でイディアが手に取った貴重品の価格設定へ髪の薄青で驚きを表す横、簡易的な観戦席に座って話し込む師弟では競技規則の簡単な説明が次だ。




「他では『山札やまふだ』や『手札てふだ』の概念もあり、それを扱うのがいた手。自らの選び取った札を手動で盤面ばんめんへと置き、様々な効果を発揮させます」

「さっき『無敵』や『加速』がどうのといっていたのがそれですか?」

「そうです。各位が事前に選んだ十枚の山札の中から手札は初めに三枚が配布。使用によって消費がされ、補充は一定時間ごとに一枚を引いて為される」

「……」

「けれど、同じ札を複数で積んでいない限りは山札の全てを使い切るまで一度使ったものは補充がされないので、留意を」

「……それなら、仮に初めから一気に強力な三枚を使って押しきれなかったりだと……補充までの時間が相手にとっての大きな有利となる?」

「左様。札の種類は数あれど、どれも主に機体への特殊効果を付与するもので複数枚の同時使用も可能で……要は『動きの発想』と『札の切り方』が勝負を分ける"重大な要素"となっています」




「"攻める時"と"守るべき時"を見極め、その瞬間に札の"使用"か"温存"かも迅速に下す状況判断——その相手ともする"駆け引き"がこの競技の最たる魅力の一つなのです」




 頷く白黒の老婆で機体周りの話も少しをしてから口頭での小難しい語りは終わろう。




「またもう一つの大きな魅力である『機体』では主に動物で言っての脊索せきさく脊椎せきついの辺り——中軸ちゅうじくとも言った正に機体中心を通る『物質の循環を破壊される』か、その全てを消費し尽くしての『動作停止』でも


「その部位を覆うことのできる装甲は枚数がある程度で決まっており、厚さは自由ですが分厚いほどに重量などで活力——動作に必要な謂わば『燃料』の消費も増加しますから、お気をつけを」


「持たせる装備は『えんとりーしゃとる』? ……対戦開始時の"機体を運ぶ容器"に収まるならば自由に持参して良く。予備の燃料も持ち込みは可能ですが、やはり積載量は増すほど動作時の消費も増える」




「……成る程。無闇に凄いことをやろうとしても上手く行かないんですね」




「うむ。派手さや見目の良さばかりを追求して足が早くに止まるのは、少なからずの初心者で見受けられる浅慮」


「他にも多くの『射撃』は熟練者ならば時に一方的な攻めとすることも出来ますが、大きく外せば浪費にしかならないため……より動作の消費が少なく当たれば堅実に敵を仕留められる『近接攻撃』——延いては『接近戦』が対戦の主流となっており、高度な射撃戦は中々見られるものではないようです」




 そうして丁度に、見学へ行っていたイディアも戻る頃で今日の本題へ。




「その他、細かい注意点もあるにはありますが長々と話しても情報量で気は重くなってしまいますから……コホン」




 早口になりかけの説明も程々にいざ、青年の"自機じき"を見立て。




「此処に来た目的。貴方の物を選びましょうか」

「初心者におすすめの物とかはあるんですか?」

「そうですね……既にある程度で完成した物や部品を購入、その自由な組み合わせで機体を作るのが取っ付きのし易いでしょうか」




「大まかに分けて部位は上から『頭』、『胸』、『腕』、『腰』、『脚』」


「腕と脚は組み易さや動かし易さの観点から考えて一対ずつが基本ですが、規則からの強制でもありませんので『蜘蛛』のようにしても良し、『百足むかで』のようにしても良しの——自由」




 機体の種類は様々であれど基礎の部分では共通の規格が採用されているから部位の付け外す『カスタム』も容易なインダクトロン。

 その並んだ箱の数々で比較的に大きなものには機体一式が、小さなものには頭部だけや腕だけ、武器だけなどの入った痒い所に手の届く販売形態。

 それら数えきれないほどの組み合わせという無限に思える可能性を前、流し見をする青年でも"己の気に入り"を探す碧眼は一層に星が輝いて。




「例え誰かと等しき組み合わせを採用しても簡単な配色の変更や何気なしに付ける装飾で其々の個性も見えてきますでしょう」


「だから難しく考えず、どうぞ。青年の好きな物を」




「……組み立てには何か、専用の道具などは必要ですか?」

「完成品やその部位ごとを嵌め込むだけなら特には要らず。模型らしい工程として細かい物から組み立てるのも、極論としては線材せんざい切断用の工具……『にっぱー』? さえあれば事足りますでしょうか」

「ニッパー……これですね」

「はい。最近の多色成形たしょくせいけいの技は凄いですからね。今では着色さえ大きく省略は出来て——でしたら折角ですので工具これは新しく物事を始める青年へ、その"祝いの品"として私の方から代金をお支払い致します」

「いいんですか?」

「——構いません。また次に道具へ手を出すとすれば切断したあとを整える『やすり』や、同様に仕上がりを良くする『みぞ入れの塗料』あたりがいいでしょうか」




言挙ことあげした物以外でも後から必要となれば私の機能を引き継ぐ『お手伝いさん』が用意してくれるでしょうから……気軽に、困った時は聞いてみるなどしてくださいね」




 "遊ぼう"といった良い意味で"気楽"の青年。

 基本として自身より多くの知見を持った年上たちの助言に従いつつ自分の好みで形や色などを大まかに選び、貰ったお小遣いでの購入。




「後は出来る限りで"左右対称"を目指すといい。非対称ですと重量や空気抵抗などの機体に掛かる負荷の計算が、ややに面倒で」


「端的に言っては考慮しなければならない要素が増えますので、駆け出しの初心者は左右で大きな差異を設けぬよう、心がけを」




「……分かりました。でしたら自分の買い物も一通りは済んだので、次はアデスさんの——」

「いえ、配慮には及ばず。"私の機体もの"は個神の興味で以前に作成しておいたものがありますので、拠点に戻ったらそのを青年にもお見せしましょう」




————————————————




(——……よし)




 作業をするには『落ち着いた環境がいいだろう』と自室に帰ってから購入物を開封し、初心者でも簡単に作れる殆ど完成形の部位ごとから、組み立てへの着手。



(……『頭』に、胸と腰の『胴体』に、『手』と『脚』が……二本ずつ——)



 パチ、パチ、と。

 まだニッパーを使う所もない、部位を繋ぐ単純な嵌め込み作業。

 それも本当に初心者で簡単に出来るものだから、大した時間も掛からず。

 作業開始から数十分も経たずして早くも機体の基本ベース——完成。




(武装は後回しにして取り敢えず全体の形はこれで——……"おぉ"……!)




 厚みのある二本足で勉強机に自立する物体——青年が初めて作った白のインダクトロン。

 組み立ては菓子に付属する小玩具のように手軽で、けれど簡素シンプルながらも掌大しょうだいで立つ『鋼の戦士』の威容をおのれで作り出して童心は——いや、子供や大人がどうのと知らないが、何にせよで躍る心。



(これだけでもそれらしい雰囲気で、何なら置いておく家具にも——)




「久しぶりに私の出番が来ましたね。『適当に掃除をしておいて』とあるじである貴方に頼まれて、だからこれまでもこれからも忠実に"適当な掃除をし続ける"——お手伝いの道具わたしが」

「お手伝いさん」




 その煌めく青に声を掛けるのは壁に寄り掛かって腕組みの姿勢——メイド服を着た恩師の姿に、その声まで同じ万能のお手伝い。




「扉がひらいたままでしたので一言を掛けにお邪魔させて頂きましたが……見ればどうやら模型、プラモデルに興味の様子」

「はい。実はアデスさんに誘われて、自分も初めてみようかな……と」

「成る程。でしたら女神の気配りもあって基本的な道具も揃っているようですし……宜しければ『手伝い』の私が、見栄えの完成度を高める簡単な方法をご教授いたしましょう」




 なので、素で組んだ『素組み』やパチパチとしただけの『パチ組み』と時に呼ばれる現状でも『十分にカッコいい』と思いつつ、余る時間ではお手伝いさんの提案と協力でちょっぴりの手入れも加えてみたり。




・・・




紙鑢かみやすりは目のあらいものから使用し、段階的に目の細かいもので擦ると跡の残らない仕上がりとなります」

「本当だ。凄い綺麗になりました……!」




・・・




「塗装は全体をせずとも部品と部品の境目に少量を流し込むことで……はい。このよう更に陰影を強調した、正に"設計された機体"としてのりを演出することが出来ます」

「お、おぉ……! 聞いてはいましたけど本当に手軽で、印象も締まった感じに……!」

「そうしたら今の見せた作業も、状態を元に戻して主の手でもやってみましょう」

「はい!」




・・・




 その後では表面の取り外し跡を削ってなだらかとしたり、部品の噛み合う窪みに黒で色を付けて陰影を強調したり。

 少しの手間で更に雰囲気が出てきた模型は初心者としては十二分の出来栄えで、またも至る完成。




「因みに主、機体の名称はもうお決めになられたのですか?」

「はい。アデスさんやイディアさんにも相談に乗ってもらい、シンプルですが独特の響きを持つもので決めました」

「……差し支えなければ管理を預かるわたくしめにも、その名をお教え頂きたく」

「勿論、大丈夫です」




 それは初期状態で無着色の白地を主体に、要所で青の線を走らせた——全体の輪郭としても秩序的に整った流線の、太くすべらかな二足で立つ機体。

 これから近距離と遠距離に適した武装を追加で持って支えるだろう腕も厚くの確固、結んで開ける五本の指。

 そう、胴体からは頭部に、二本の腕に脚に流れる青の流線。

 顔も青く光る線形の単眼モノアイに、やや下の口元では斜線の模様が通って引き締まる表情——高波たかなみめいて『ジグザグ』とした『きば』の意匠を持つ面構えが印象的だから『牙持ち』とでも呼べよう作品。




「この機体の名前は——」




 正統派よりも若干で獣に、『蛇』や『竜』と呼ばれるものに近い骨格を持って姿を現したそれこそは——『水の化身を表して響きも独特で格好のいい……私は好きです』と。





「——『ミズチマル』」





 字に意味を載せては『蛟丸みずちまる』の名。

 これから青年が長らく趣味の時間を共にする、この者の"愛機"の名が平穏の自室で呼ばれるに至った。



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