『世界で最も自由な者⑦』

『世界で最も自由な者⑦』




「——よ〜うし。これで無事☆解決!」




 今や姿をなわと変えた光の龍。

 神に放たれしそれで一纏めにされては"瞬時の敗北"という理解不能に座り込む山賊たちを、眼下。




「後はこの、一龍打尽いちりゅうだじんにしたものたちを——」

「ま、待って下さい! さ、流石に、"命"までを取るのは……」




 敵の攻撃を防いだ実績を認められ、村人の多くに褒め称えられていた少女アーデはその包囲から急ぎ、脱出。

 ソルディナの腰元に収めた"聖剣に手を伸ばそう"との仕草を見て咄嗟に『賊であっても』と処遇への再考を促す。




「……アーデちゃん」

「……何せ私も"身寄り"がなければぬか、若しくは……"良くない行い"で命を繋ごうとしていたかもしれない"紙一重かみひとえ"」

「……」

「だから、自分とある意味では似た存在を『ただ運が悪かった』と斬って捨てるのは心苦しく……いえ、でもだからと言って、"どうすれば"とのハッキリとした考えがある訳でもないのですが——」

「いえ。アーデちゃん。"ボクの方でも斬り捨てるつもりはありませんよ"?」

「え……こ、"殺そうとしていた"のでは?」

「"いいえ"。そのために剣を抜こうとしていた訳ではないのです」




 それは少女で『"聖母の如き恩人"が手を汚す様を見たくはない』との私情で出た言葉なのかもしれないが、けれど今でその心配はいらず。




「それにだってやはり、ボクの方でも"いたずらに命を奪う"ことへ……"痛む思い"はありますから」




 剣の柄に伸ばそうとしていたのとは逆の手で神は携帯電話を生成し、大都市の評議会へと電波を飛ばさん。




「だからこその殺さず、私的に罰さずの捕縛」


「またそうしたら、こういった人間界の問題解決のためにも設けた組織がありますので、今から其処に連絡を——もしもし? 護教騎士団ごきょうきしだんですか? こちら『グランドマスター』ですけど」




 飛ばした先は『守護の女神』の御膝下おひざもとの光神を祀る都市『グラウピア』だ。




「——え? 『そのような区分はない』? あ〜……"時代が違う"」


「ならば王剣アレです——"この聖剣のいななき"が耳に入らぬか」




『ケン!』・『セイ!』『ケン!』・『セイ!』




「——う、『煩い』? 『そんなふざけた音声が真に聖剣であるものか』? えぇ〜大小の少年少女も夢見る本物ですのに〜!」




 伸ばしかけていた手で逆手に聖剣も持って真作の音を鳴らし。

 それでも些か"命令の正当性"を証明するのに手こずっていたようだが、次の瞬間には"自らの分け与えた魂へ呼び掛ける勅令"の行使。




「ならばならば、都市の祀る"女神の直系"」


「真に国をおこした即ち"開祖"の者ですので、く——『』」




 開祖として繋がりのある護教騎士団に連絡を入れて捕縛した賊の引き取りを頼む。




「座標も既に送りました。適当な盾持ちを数人つかわして事態の収拾に当たって下さい」




 そうして——ぴ・ぽ・ぱ。

 生成した携帯端末を用済みで粒子と変え、訳が分からず口を挟む間もなかった少女へと向き直る。




「……と、言う訳なので」


「呼び掛けも済み、数日以内に場を収めてくれる者たちが村を訪れるでしょう。"盾を持った騎士"の姿が目印です」




「で、では……殺さずとも身柄を?」

「はい。その騎士の方々が連れていって罰則を決めるでしょうし、それまでの間はボクの縄でガッチリ縛っておきますから、御安心」

「そ、それなら……良かった。何か良く分かりませんでしたけど手配まで、有難うございます」

「いえ。大した労でもありませんので。"好き"でもやっていることですので」




 そうして光顔こうがんを緩ませては、腰を折り。

 神からも目線を合わせて、お褒めの時。




「それにしても——アーデちゃん。キミも『みなのために』とよく頑張ってくれましたね。天河のお姉さんも熱で感じ入るものがありましたよ」

「い、いえ。私はただ夢中で貴方様の教えに、手筈を整えてくれたから出来たことで……一人ではどうにもならず、それに対しても深い感謝を」

「相変わらず見上げた心持ち。しかも先には"己へ暴力を向けた者たちをおもんばかる"? ……フッ——『害されても害そうとはせず』」




「かつて神は"人の素朴"を『競う他者を痛ませる獣性であり野蛮である』とも定めたが……其に抗うも人の理知」


「それも一つの善性……"善良の形"ですか」




 また何か勝手に納得。

 善良の苦悩へと収穫を得ての満ちたり顔で『ならば収穫も得られましたので』、『そのお礼と言ってはなんですが』と追加の贈り物を賜わさん。




・・・




「——わわっ!? 村でこ、こんなに何か頂いて……これは……『ハイパー学習指導要領』?」

「それは『学校教育』に関わるものの"決定版"。他でも概ねを手順通りにやれば発展まちがいなし」




 その後も損失(霧払い)補填や文明の発展——『教育制度』に『法律』に『権利思想』にと。

 多くを纏めた『聖典マニュアル』を設置し、『先ずは学びの場。学や教養と呼ばれるものがなくては何を持っても扱いきれず』とも説いた"文化英雄"のソルディナ。




「でもでも私利私欲で色気を出しすぎると……"大変なこと"に」


「果たして健やかに成長して、人々を"良き営み"へ導けるかどうかは……"キミたち次第シダァイ"」


「……ある程度のこういったことは自分の力で成し遂げないと大して意味がないとも思いますので、はい」




「貴方がたは貴方がたの、各位で『おのれ幸福論こうふくろん』を探してください」




 人に手を振って、村に背を向けて。

 寒期に適した農作物の導入で働き口の凱旋などもして——皆の母は幸せを願って去らんと。




「わ、我らの生活を支えてくれる様、それはまさしく"大地の化身"!」


「けれど、何か『死』のような"ことの終わり"までも振りまく在り方は……ともすれば我らの、あの方こそが世の奥深くは"冥界の——」









いな、其処の村人。"彼女あれ軽々けいけいにこういったことをしない"」

「あ、はい」

「共に超意識ボクらは似て非であり、またけれど彼女は鈍重どんじゅうであっても何より慎重しんちょうの——と言っては苛烈の側面、熱苦しく」




無闇むやみで弾ける前にも、ボクは此処らでおいとまを——」





「お——"お待ちください"!!」





 けれど、出会ってから丸一日にも満たない付き合いなのに別れが寂しい少女で呼び止める声。




「アーデちゃん」

「お別れの前、最後にまた礼を言わせてください——村共々助けて頂いて本当に助かりました。有難う御座います」




 応じては足を止め、見返りの麗神。

 深い辞儀の後に顔を覗く笑みを喜び、己も朗色を浮かべながら去り際に少女と交わす言葉。




「そして、貴方に言われてからまた少し考えてみたのですが……やっぱり少しでも『貴方と近しいものを見てみたい』、『知りたい』との考えは捨てきれなくて」

「……はい」

「だから、もっと歳を重ねて成長が出来た時に言われた通りで自分の将来をじっくり考え……それでも『あいどる』? を目指したいと思ったら、その時に『挑戦の道を選んでみたい』と思いました」




 それは、"将来"や"夢"の話。

 術師として村を守らんとした少女は『それでも機会があれば恩人の見る世界を自分でも知りたい』との、現時点での伝える思い。

 その密かに『再会の時を得られるのだろうか』との窺いへも返される答えを待って——不安と期待に震える波を知っての神は言う。




「……うん。それも"貴方の自由"です」

「……!」

「砂糖属性の術使いとなったキミには"色々な未来"がある。その力を有効に使って、それこそ『砂糖菓子の職人』になるもよし」




 "自由の道を行く先達"として、"親"として。

 今は人に合わせた視点から『喜び』もあれば『悲しむ姿』さえ視える瞳を閉じて——また開けてから祈ろう、"明るい未来"を。




「そして『力を使わぬ』のさえ自由。何せ時に『魔女』の如きを恐れた者たちに追われることだってあるかもしれませんので……その時かそれ以前に村を出て、此処より"芸能"の栄えた場所で『アイドル』を目指してみるのもいいでしょう」

「は、はい……!」

「キミとボク。"同じグラビアの分野で頂点を競い合う"のもまた、一興」

「……"!"」

「……まぁ。ボクの方では既に『大きな催し』で『司会』の役も決まっている"売れっ子"なのですが……」




「……一度でも『求めたい』と思ってしまったら、『求める』しかありませんよね」


「時に涙だって溢れるだろうけど……"おのが感情を揺り動かすもの"を知ってしまえば——『自由を求める心』は止まれない、"もう己で欲さずにはいられな"いんだ」




 たとえ"数年先から消失"で視えぬ道があったとして——『それでも今はグラビアアイドルをやりたい』と心の底からを願う者。

 永遠に背負う『自由』に苦しみ、でも内に漲る各種熱意の炎は絶えず、絶やさず。

 自らへの挑戦を喜んでは、その挫折する悲しみでは憂い——混ざりものの神。




「力の使い方をより知りたいのであれば今に来る騎士団に従い、その教えの門を叩け」


「どの道を行くにも出来ることを増やせるに越したことはないだろうから……また何はともあれ貴方も"自由"に、"貴方だけの幸福論"を探して」




「こ、"幸福の論"? ですね……! は、はい!」

「それこそは"吾が課せられた意味での至上命題"。身の願いにして——"世界を魔の手から救う唯一無限ゆいいつむげんの方法"」

「ゆ、"唯一"なのに"無限"ですか?」

「ええ。難しいかもしれませんが、"過去に正解がなくとも皆で考えなければいけない"ようです」

「そ、それは……また」

「勇者の一人や百人がいた所で恐怖の魔王アレは全く打倒の叶わぬでしょうから……明るい未来に希望のため、貴方も協力してくれたら嬉しく思います————では」





「?、?? ——と、兎に角、ありがとうございましたー!! ほんっとう、にっ! ありがとうございましたーー!!!」





 大振りの掌へ対しては女神で淑やかに手を振り返し、今は見る子の嬉しそうな姿。

 "幸福論の探訪"。

 その一つの現れを喜び、笑顔を少女の記憶に残して"次なる場面"に王は去り行くのであった。





・・・





「"答えの未だない悪問あくもん"を投げ掛け——"けぬなら"『皆で死ぬか』」




「"けるなら"『皆で幸せになるか』——全くの"理不尽"……!」




「"何方に転んでも大願は成就する無敵の布陣"! 其れこそは吾ら"大神の得意技"よ!」




畜生ちくしょう智将ちしょう! それにしても奴で投げる問いが重過ぎる、勝ち気にも程がある……!」





「吾が最大の好敵手は末恐ろしく、まさに『最低最悪の魔王』にならんとする者よ! ——ハッハッハ! フォハハハハハハハ!!!」



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