『世界で最も自由な者⑥』

『世界で最も自由な者⑥』




 そうして神より無償の献身は、用心棒。




獣性じゅうせいの荒い息遣いに、下卑げびた熱気が伝わってきます」




 夜が明けての早朝。

 まだ防衛のし易さから村長の家一箇所に集められた村人も幾人かが夢現ゆめうつつの時。

 女神がその家屋を背にしつつ、直ぐ後ろには少女を控えさせながら山賊の本隊を迎え撃とうとしていた。




「ですが安心、お任せあれ。七人しちにんいなくともはしらひとつで世界を支える」

「ほ、本当に私も力になれるのでしょうか?」

「勿論。ボクの視る未来で保証します。頑張り屋のアーデちゃんならきっと出来ますよ」

「は、はい!」




 分泌ぶんぴつつばを飲み込むアーデの手には彼女の身の丈ほどはあろうかという棒——"頂点で真円しんえんが三つ重なった杖"を持ち、それと共に神から授けらて一晩で身に付けた技術を行使の構え。

 練習では大成功とまではいかなくとも指導者に願われて微力ながらのお手伝いに控えている。




「それに言いましても、そこらの山賊なんて精々が弓矢に棍棒ぐらいしか持たぬでしょうから、大した心配はやはり無用——」




 そうこうしていると山の地平からは時折動く人の頭も見えだし、昨晩に"矢を素手で受け止めた怪物"への攻撃——当然に挨拶もなしの攻撃開始。





「無用の瞬殺——えっ、"光線ビーム"——"レーザー"じゃないですか」





 その賊から放たれし、レーザー。

 扱われたのは光線銃ブラスター

 それは標的が当たって"有効の一撃"にもなろう、ある種の"神殺し"。




「あだ——っ"」




 だが、"人の光速"が到達するより速くに気付いて。

 軽く顔面に受けてやって攻撃を天に弾いた王。




「いや、リニアも走っていない此処ではオーバーテクノロジーにも程があるでしょう」


「全く、誰ですか。あんなに危険な物を吾が子らへ流しているのは」




「——……! だ、大丈夫ですかっ!? 今、何か当たったような——」

Lightライト Amplifificationアンプリフィケイション Stimulatedスティミレイテッド Emissionイーミシェン Radiationレディエイション——其れ即ち『LASERレーザー』」

「知らない言葉が沢山です……!」

「つまり訳して『輻射ふくしゃ・誘導放出による光の増幅』——簡単には"光線こうせんの種類が一つ"と思ってください」

「そ、それは大丈夫なのですか??」

「人々では触れぬように気を付けて、熱くて死にます。ボクの方では大丈夫」




 無傷で『痛い』と言う風は赤くなった玉顔をさすり、色を直しながらに流し見る敵戦力。

 出っ張った丘陵きゅうりょうの裏まで見透かす神が見るに山賊の本集団では"レーザー兵器持ちの騎士崩れ"や"大型の古代兵器"までもいるようで、"怪物女"を排除するために本腰を入れている様子。




「けれど——ぬぬっ」


「これまでの対応からボクを『化け物』と見て"隙間のない弾幕"を張ってきました!」




 だから敵各位の照準が狙うのもソルディナ。

 アイドルの顔を整えたばかりの其処へ襲い来る二の手、三の手、四に五に——四方八方から続く続く、光線の嵐。




「悪くない判断です——ですが」




 だが、賊が敵に回すは真実として『怪物』でもあっての『神』——"光神こうしんの王"。




「——フッ! ハッ!」




 下の地面からを除く幾つもの面から飛来のレーザーへ、その全てへと瞬時に突き出して攻撃をいなすこぶし

 引き絞る予備動作も、前に横にと突き出す本動作も見えぬ瞬間の連続はやはり"見えざる無敵"の一端。

 人の形なら明らかに後方の家屋などへは手が届かぬよう思えるが、『衛星つき』や『スッポン』、『ミリ』も『メートル』も"宇宙の神"にとって大差はなく。

 "星の海さえ自由に駆ける王"から見れば『惑星の中は何処も手の届く近場』なのだから問題はなかった。




「で、でもやっぱり——だ、だ大丈夫なのですか?? 周囲が何か熱くて、光り続けていますけど……!」

「大丈夫、です! の扱いに関してはボクが全一ぜんいちの座を争うから——『"ビーム"や"レーザー"と言えばボク』だから!」




 実際、"個人"に対する攻撃としては絶体絶命の中にあって人々を襲い来るレーザーから完璧に守るソルディナ。

 因りて全方位からの濃厚な弾幕に単独で対処しつつ、余裕の口は適当を言って"見せ場"を設けようとする。




「……くっ! ですがそれでも守勢しゅせいで手一杯……!」

「わ、私は——どうすれば……!?」

「だから"一秒いちびょう"! "たった一秒"!」




「僅かな一瞬でも守りを担ってくれれば——後はボクが攻勢で前に出て、"事の全てを終わらせられます"!」




 何処からか、いつの間にか取り出して扱う『"王権象徴"のゴテゴテした聖剣』の一対を輝かせながら、言う。

 子を思うソルディナは背後の少女へと"攻守分担の支援"を求めるのだ。





「わ、"私が守り"を——」

「レーザーが只の質量兵器——つまりは『投げる石ころ』めくようにボク調整コーティングしますから!」

「——」

「だから、貴方で例の"砂糖のあみ"を作り——"村とみなを護る"のです!」

「——っ"!」





 それは、"少女の持つ皆への思い"と、"それを形にせんとする努力の成果"を見せようとの共闘。

 "村人の守護を少女にやらせ、その成功で以て皆に一層認められる瞬間を作る"。

 現にビームの雨霰あめあられに囲まれ続ける背後で家屋の戸は僅かに開いていて、"何かをしている二者"の姿が観測される場は整い——後は、やるだけ。




「遣り方は教えました。ボクで時間は稼ぎます——"出来ますか"?」

「……っ——、——は、はい!」

「では、共に頑張りましょう——アーデちゃん!」




 確かな頷きを経て、回りだす杖。




「や、やってみます! 『シュガー』・『スパイス』……『いいもの一杯』? わ、『私』は……"そうしたものでも出来ている"?」

「うん! ちょっと教えたのと違いますけど特に問題はありません! その調子で続けて!」




 恐る恐る手探りの手付きと発音を前に、目にも留まらぬ決断的動作でレーザーを弾き続ける聖剣二刀。




承認ヘイ! ——ムゲーン低電離中心核輝線領域LINER!』




「割と余裕はあるから大丈夫! 落ち着いて——」




『ケン!』・『セイ!』・『ケン!』・『セイ!』・『ケン!』・『セイ!』・『ケン!』・『セイ!』・『ケケケン!』・『セイ!』——……!!




「まだまだこの程度で——ボクという聖剣は折れませんよ〜〜!!」




 "覇王"を生みし大神、『究極聖剣』の大本オリジナルは暴れ——。

 その銀炎の柱が背後で——決意が更に大振りで回す術士の杖。





「は、はい!」

「後は頭の中で唱える物の形や存在を強く意識して、『此処にあって当然』と思い……杖を! 回して——『綿わた』のよう! 『雲(蜘蛛)』のよう! 『砂糖』は今で『あめ』の如く!」





 次第に杖先から『ちょろちょろ』と僅かでも溢れる粒子は、けれど神の動き続ける熱の拳と乱気流に乗って——"いと"となり。

 球状に作る流れに等しく集まり、束ねられ。





「わ——『綿わた』のよう! 『雲(蜘蛛)』のよう! 『砂糖』は今で『あめ』の如くっ!!」





 凡ゆる方位でぶつかった攻撃の質量は糖の網に絡め取られ、完全に推進力を殺されて——"落下"。




「やるではありませんか! ——アーデちゃん!!」




 女神の歓喜するその防御は初めての"成功と言える成功"——。

 で、しかし"不慣れの緊張"では一瞬しか持たず——だが、『光の神』にとってはその"秒に満たぬ一瞬"が十分じゅうぶんであった。





「お見事! ならば約定やくじょう道理どうり——ボクが身でもこたえねば!」





 誰よりも速いとき

 神の王は玉指ぎょくしを彩る十の指輪から輝き一つを外して頭上に投げ——其処を目指して天高く掲げる一振りの聖剣、切っ先より投射する光。

 輝きと光——ぶつかって乱反射、乱反射!

 回転の後に全方位——全ての敵に向かって"白銀の光龍"を走らせる!





「そう——そしてッ!!」


「束ね上げたにしきの肉! 肉体を入念に仕上げたら"こんなこと"だって出来てしまうのです!」





 そして未だまたたく間のフィニッシュ!

 既に敵の虎の子たる黒鉄くろがねの要塞めいた古代兵器の下へと潜り込んだ光の粒、集合。

 集まっては『グラビアアイドル』の顕現。

 女神の締まり、また破滅の詰まる二本の細腕が重機を持ち上げては殴るアッパー——天の高くで"花火"と打ち上げ。






凄いグランド! ・鍛え抜かれたビィーテッッド!! ッッ"——! 肉体アァーマー"ァァッッッ!!!!」






 弾ける空の下、賊へ食らいついた龍のあぎと

 無害に舞い散る粒子の村で勝利を伝える祝砲が響き、とうに光の走る制圧は無限の力によって為されたのだ。




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