『世界で最も自由な者④』

『世界で最も自由な者④』




「"————"」




 村を人の視界では隅に置く広場。

 電灯などもないから、すっかり日の落ちて暗い夜。

 普段は木材の整形などに使われている開けた場所で、闇に"ほんのり"身の光る神は敵襲への警戒も兼ねての瞑想。




「……"アーデちゃん"」

「——!」




 しかし、瞼を下ろしていようと知覚は鋭く。

 物陰から話す間を窺っていた少女を指摘した玉声。




「……どうしました?」

「い、いえ。『おさの家に村人を集めるのが終わった』と、報告に」

「それは、ご苦労様です」

「は、はい」




 だが、ソルディナに頼まれた用の伝令が終わっても少女アーデは無言を湛えたまま。

 足踏みは戻ろうとせず、口を閉じたり開けたりでまだ何やら"話したがり"の仕草。




「……まだ用向きでも?」

「あ、いえ……別に大事だいじなことはなくて」

「……"ボク"が気になりますか?」

「!」




 その態度は言われて図星だったようで、気持ちを素直に表へ出せない子の様は父母で愛しく。




「そ……それは、その……」

「でしたら丁度のよい。ボクの方でも待つのは長くて『話し相手が欲しい』と思っていた所ですので」




 助けて興味を持たれた神、"恩人"としての言い振る舞い。




「で、ですが、"警戒"? 貴方様で作業の邪魔になるのでは……?」

「まさか。"ボクの邪魔"を出来る者などうにいませんし、こうして話している間にも敵の接近が分かるようにはしていますので、遠慮せず」

「い、いいのですか?」

「勿論です」




 "警戒の邪魔にならないか"との心配に対しては腕を広げ、歓迎の意。




「……では、お言葉に甘えて少し、お話を」

「けれど、家に戻らずともよいのですか? 肉親にくしんかたが心配するのでは……?」

「両親は……物心ついた時にはやまいで」

「……」

「だから身を預かってくれている親戚の方がいて……でも今はちゃんと用件を伝えてから出てきましたので、少し時間がかかっても大丈夫だと思います」




 座っていた同じ切り株に小さな客を迎え、真実としてはお姉さんと少女であって、また親子の語らう時。




「……"戻りづらかったり"ではありませんか?」

「は、はい。居候いそうろうの身とは言え皆んな優しくしてくれて……」

「……?」

「……その厚意に『自分が返せるものはないか』、『何も出来ていないのでは』と時々心配になる程度で、深刻すぎるようなものは、何も」

「……もしかしてそれで、"遅くまで薪拾い"を?」

「……多少は、そうかもしれません。少しだけ『居場所が欲しい』、『それを役に立って得よう』という気持ちがあったのかもしれず……」

「……」




 父性や母性を無意識に感じさせる王の熱。

 その包容の温度を近くして、親を早くに亡くして預けられた家で居場所に悩む者からも心情の吐露は引き出された。




「……アーデちゃん」

「……な、何を言ってるんでしょう、私。御客人の前で何か感傷に浸ってしまって……それより"聞きたいこと"があって折角、ソルディナ様で貴重なお時間を頂けましたのに」

「? その聞きたいこととは?」

「それは……先に貴方の見せた"不思議な力"のことです」

「傷を治した"アレ"ですね」

「はい。それに今も、何やら脅威を見張ってくれているようですし……」




「だからそれで、もしや貴方は『魔法使い』なる者では? と——」





「いえ。





 だが、今まで優柔であった王は即座に断言。

 今でする"自動の警戒"や"賊を退けた力"に興味を持ち、その相手へ『"魔法使い"か』と尋ねる少女の疑問に対しては明確な否定を返す。




「……ち、違うのですか?」

「はい。幾分"冷ややか"にて、失礼」

「"魔法使い"では、"ない"?」

「ええ。"魔法使いではない"。其処はハッキリとさせてもらいます。ボクは『魔法』に、いえ『魔』という概念には少々、うるさい者ですので」




 対しては施された傷の治療を通して少女が関心を抱く力——この世界で人が『魔法』と呼ぶもの。

 また関連しては単に『魔』とされるものについて大賢たる神より直々の説明。




「そ、それは——早とちりでまたも失礼なことを……大変に申し訳ありませんでした」

「怒ってはいませんので大丈夫。顔を上げてください、アーデちゃん」

「寛容にも有り難く、感謝を。……でしたら、"貴方の見せた力"と"魔法"とは"違うもの"なのですか?」

「然りです。端的に言って神々ボクたちでは『権利・能力を奪う力』のこと——"それこそ"を『魔法まほう』や『魔術まじゅつ』などと呼んでいるのです」

「……"奪う"?」

「"誰かの持っているものを奪ったり"の、"奪う"」




 過去に相対した"不可視の超重"を思い出しながら、王は説明を続ける。




「……"似たような"のをボクらでやってやれないこともありませんが、当初からその『奪う目的』があるものと『後追い』ではやはり、"意味合いが違う"」

「……?」

「だからして『しんに魔法であるもの』以外は神秘であっても単に魔の付かない『ほう』や『じゅつ』と呼びましょうか」

「神秘……『法』や『術』」

「ですが、まぁ。ここで言う『真なる魔法』もあれはあれで奪って、奪って——」




「世界より『見る』や『聞く』や『触れる』、果ては『他者』などの概念を奪い尽くした先で——『"究極"に至らん』とする試みなのですが」


「やはり『ボク』とその『魔法使い』では"目指す目標"が似通っていても僅かに異なりますので、はい」


「『ボクは不思議な力を使っても魔法使いでない』と結論を再び明示し——話が難解に傾き過ぎました」




 かつてたもとを分かった暗黒大神を『それでも彼女こそが魔法の王様』と暗にも言って示してから——向き直す視点を再び人のもとへ。




「これ以上で彼女まほうに対する言葉を並べては何億もの年月としつきが掛かってしまうので、此処までと切り上げ……でも、何故なにゆえでそんな"魔法のようなこと"が気になって?」

「……実は、先ほどの話と関連して……仮に『私も貴方のように出来たらもっと皆んなの力になれるのでは』と、そう思い……」

「……」




 そこで再び目にする"吾が子の無力感"。

 "自身が親のない苦境の中にあって他者を想う"姿勢に『善良』を探す女神のソルディナは何を観たのか。




「それで、その……大変に厚かましくも"ご教授"を、いえささやかでも構いませんので『"手解き"などを私に願えないか』と思い、今日は話を——」





「でしたら——"ボクに任せてみますか"?」





 その"自助努力を重ねては他者への助力"も目的とした見事の在り方、及び『指導』の申し出に対しては——神。




「え……」

「"居場所"しかりで"空間を作る"のも得意なのです」

「? それは……"宜しい"と?」

「はい。実を言っては過去に『おう』を輩出したこともある吾が身。"指導者"としても自身(自信)はあって」




ただし、勢いの余るまま貴方をうっかり『王様』にしてしまっても——」





「後から文句は——受け付けませんよ?」





 感じ入った心が人に"天からの贈り物ギフト"を授けよう。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る