『世界で最も自由な者②』

『世界で最も自由な者②』




「——連れ帰って内情を聞き出す前に味見だ! お前にはふたつの意味で『穴』の役割をしてもらおう!」




 男性二人と女性一人の、三人の大人が囲んで一人の少女を詰める険悪。




「や、やだ……っ——」

「お前に選べるものねぇよ」




 不運な少女は近くの村落から少しの遠出で薪拾いに来ていた者で、掴まれる長髪は灰を被ったかの如き鈍色にびいろ

 また全体の外見として十四じゅうしの未熟と成熟の狭間にある彼女は今で運悪く野に湧いたゴロツキに絡まれ、それら略奪のがする骨折ほねおりの殴打に見舞われていた。





「"死にたくなければ大人しくしろッ"!!!」





 既に片脚は腫れて碌に歩けず。

 大声に驚く黒鳥こくちょうの飛び去る羽音に沈む日で暴力的、陰鬱いんうつ陰惨いんさんの展開。

 まだ恋も知らぬ人の純情は今日の暴虐によって"永遠の傷"を負ってしまうのかと思われた——、気も沈むその暗所。




「俺のはもうつばが垂れて——」





。"が子"」





 けれど、そう——これは"神話"。

 昼も夜も何時だって世の闇に差す"光"はいて、"星光きょうきの女神"が顔を出すのだ。




「あ"……? ——なんだァ、テメぇッ"! いきなり現れやがってッ!!」

「まったく、話を伺いに来てみれば……キミいきり立つ"息子むすこ"」

「——ぁ"?」

「性の欲とは確かに欲望であるが故にも行動を支える"無限の力"。『ほっする限りはほっするために』——時にボクも己で燃やすものではありますが……」

「……」




 暴漢の背後から通った玉声、薄暗い森を背景におぼろの光を纏う女体。

 だが、当然として呼び止める声に振り返った賊たちでは『母親ぶる麗神』など知るよしもなく。




「俺たち兄妹におや……"母親ははおや"なんていたか?」

「……まさか。顔だって一度も見たことないね」




 三人の男女が『謎の乱入者』を訝しく見て警戒しつつ互いに顔を見合わせる呆れ顔を前。

 創作物のような"助ける状況シチュエーション"に童心は熱を高めるまま、自説を垂れんとする銀河女ぎんがおんな

 ともすれば神は"信じて送り出した自らの子と実際に話す再会"を『心の底から嬉しく』思っているのかもしれず、その貴重な機会に際しての高揚らしき心が語調を活気に走らせる。




「「「……」」」




「……えぇ、えぇ。『◯◯負け快楽堕ち』しても、"落ちるかくはなし"」


「『ん"ほおぉぉぉ♡"♡"! ◯◯◯◯気"持ちいいのぉ"ぉ"ぉ"♡"♡"♡"!!』——と言って、"崩壊の神格キャラクターもなし"」




「「「……"?"」」」




「何せそれだって"全知"、"全能にある"ということ。だから"そういった気分"であれば肉欲の相手をしてやらんこともなく」


「世界の最強・頂点に立つ・身綺麗みぎれいなだけでは務まらず——性的なことの担当大臣たんとうだいじん好敵手あんこくへ名乗り出た王はボク




 大臣だいじん大神たいしん、それは時に髪色でも銀狼ぎんろうが如き『おおかみ』。

 叡智エイチさえ持って担う王は少し『韻を踏んだか』と思い、"ラップバトル"に傾きかけた流れを戻す咳払い。




「……こほん。そう言っての、結論」




「「「"……"」」」




「"今は他に優先すべき目的があって気分ではない"からして、"賊の吾が子たちで早々に蛮行ばんこうめないと"——」




「……イカれてんのか?」

「"イカれ"だ」

大分だいぶイカれてるよ。コイツ」




「——ちょっと! また下品に言葉を使って! ちゃんとボクのお説教を聞いているのですか!」

「「「……」」」

「今のお母さんは『話をしに来ている』のであって、そういう荒事オイタ看過かんかしませんよ……!」




 蛍火ほたるびを身に纏うかのような女は『プンスコ』と、怒気どきの放つ熱に気流を人でも見えるようにあらわして。




「これは"警告"、間もなくのです。一応は貴方の"ちちにしてはは"でも頑張ってみているのですから『話を聞いて』と——」




「それに"アレ"が母親だとして、もしそうなら今だってあのデカちちは吸ってるぜ」

「言えてる」

「だが違う。そんな訳はない。"実の親に興奮する筈なんてない"から、つまり——『俺がつならそれは親じゃない』ってことだ」




 だが、人外の神が思いを伝えようとしても話を聞かずの三人は更に有ろうことか"狙い"を装飾品などで身なりも豊かな美女と変え——捕まえていた少女を乱暴に木へと叩きつけて奪う順番を後に回すのだ。




「——"!" 吾が子!」




「はっ! 頭がおかしくても体は極上。いくらでも"使いよう"はある」


「だがこれ以上で訳の分からんことを言われても興が醒める。口は開くようにしつつ喉を潰して歯を抜こう」




 そうして盛んな熱気は眼前の美貌にあてられて。

 制御しきれぬ衝動が彼らを"無謀"へ走らせる。




「"待ちなさい"、『待たれよ』と言っているのです。"言語の統一"があっても話をする気がなければ——」

「うるせぇ! 宗教家しゅうきょうかか何か知らないが適当な嘘八百を並べやがってッ!」

「"嘘"など、そのようなこと——」

兄妹おれたちはそういうが一番ムカつくんだ!」





「信じられるのは『金品』だ、『肉』だ——『もの』だけだ!





 先陣を切っての突撃。

 長男と思しきが前に出す掌は肉身を揉みしだかんとする荒々しい手の振り、空気を切って。





「イカれは黙って揉ませ——」





 下品で無慈悲の愛撫あいぶは話し合いを説く女の体へ到達しようと。

 だが、生身の人間が手を伸ばす先にあるのは——あるもの、それは"玉体"。




「……"今はそうした気分でない"と言っていたのに——残念です」




 失意に浮かぶ空虚の顔が自らの子を受け止める。






「ろ——






「……残念です」

「「——?" …………"!??"」」




 高位の神とはで、——それ即ち"突っ立っていてもの自動の迎撃オートカウンター"。

 今の瞬間では剰え"極神の光輝"に触れて、掌——掌から全身へ瞬時に熱は伝わり、男はたちまはいへと——いや、"既に微小の粒子と化して舞った"。




「は——え……っ"?」

「——な、何だっ!? ……何が、起きたッ??」





「……言いませんでしたか——"無限膨張のIcupアイカップ"。それはのです」





 その人であった粒、今でも玉体の放つ熱気には触れられず。

 粒子が自らけるようの光景で、胸元に手を添える女神は言う。




「『Icupアイカップ』や『光速こうそく』や——『』」


「人の言うそれは、神々われらの言うものと波音なみおとこそ似ていても——"意味合いが大きく異なって"」


「往々にしては実態、"はなはだしく"」




 おごそかに、全身で輝きながら語られるのは"真実"、"嘘ではない"。





「即ち只の乳房ちぶさでなく——"はじける宇宙の力"」





 そう、"暗黒の絶対Aエース"に対抗するは『Infinity』にして『Inflation』でもあって——『Infinite Clearly Unbound Power』——"無限にして明瞭"、"自由とかれた力"。

 熱力ねつりきの法則を超えた者では文法なども"自由"。

 そも、"世界を創始する神"とは文法それすら定める"法秩序の源泉"でもあるからして——大神における語の扱いに問題などは何もなく。




「因りてそらの光と付き合うには相応の覚悟と、何より"身を焼かれぬ"・"焼かれたとして耐えられる実力"を持たねば——その対処可能である『知の巨神きょしん』や『暗黒あんこく』でなければの、"不足"」

「……?、? なにを"、言って……っ"」

「『人の吾が子には荷が勝ちすぎた』のです」




 時に『むげん』の表象であり、巨乳の今ではツインの際限なきエネルギーでもある膨張——"その爆熱によって一人を滅した神"は言う。




「常日頃からの"温度にかける情"がなくしては、こんなもの。"粒子の結合さえ神は溶かす"」

「か、"神"ぃ……っ——お、お前! シヌゾーを何処へやった!」

「"肉体だった物"はまだ、ここいらに」





「"たましい"のほうさながらまさしく『墓場はかば』と『究極流きゅうきょくりゅう』で相性の悪く」


「だからボクでも追いきれぬのですが……恐らくは"約束の地"。"慈悲深き神の護る"『冥界』でしょうか」





「う、胡散臭い"宗教"の話なんざ、してねぇ! 小細工で『神隠し』のつもりだろうが、"神様気取り"でふ、ふざけやがって!"!"」





「眼前に立つは『世界の熱』と知れ」





「な、何言ってんだよ"ぉ"……! コイツ、さっきから聞く耳も、もたねぇ……ぃ"、っ"!」

「や、ヤバイよ……や、"っちゃおう"! シニマス!」

「あ、あぁ! ——やるぞ! シヌヨ!!」




 けれど、敵意と恐怖で後退あとずさりながらに投擲とうてきされた刃物もIcupに触れて——いや、例え金属であろうとその表面に纏う熱気での融解、蒸散。




「……"吾が子"」

「ぃ——ひ、っぃ、っ……!」




 超常の在り方を前にして、理解の及ばぬ事象へ声にならぬ悲鳴。

 また熱気に歪む大気では光景の屈折。

 今だって背景の夕空では沈むのに、けれど目の前に"銀のソレ"は現れて。





「そして、どうあっても話を聞いてくれぬのなら……——"原初女神の法を借りて宣言する"」





「お疲れ様でした。吾が子」





「イキり急ぐなら"現世での務め"は終わりだ——"く死して冥界を探せ"」





 逆巻く炎で周囲を満たす瞬間の煌めき。

 上げる間などない悲鳴も光炎へと呑まれて。






「"葬送の時"」






 新たに聞こえた女性の声や瞼の裏にも届くまばゆさで訳も分からず身を屈め、震えていた少女。

 続くだろう痛みに耐えて、けれどその来ない静寂に彼女が恐る恐るで視界を開く頃には——怖い三人の賊の姿などは影も形もなかった。





「——…………」





 孤独に立つのは、王。

 自らの"未だ知らぬ領域"へと送った三つに思いを馳せ、熱きほおを流れる粒子。

 その銀の蛍めいては木枯しに乗って死者と同様に、光の粒も造物主おやもとから去りゆかん。



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