『女神A①』
『女神A①』
「——、……、〜"〜"!」
風呂上がりで伸びをして、以前に貰った牛乳と豆の粉(暗黒)から
また
「……アデスさん?」
「やあ」
すると、都合よく居間には恩師。
それも平時なら側頭部で結えている白髪を下ろして——しかも"二柱に分身"をして自分同士で髪を弄り合っている女神アデスの姿はあった。
「……"分身"、してますね?」
「はい。今日は"髪型を変えてみようと思う日"。分かり易く"客観性"が欲しいので増えています」
「……"鏡で見る"ような?」
「そういった認識でも取り分けの問題はありませんね」
だから、その話しかけられて微笑む様子も普段の二倍。
居間に用意された椅子に座り、身近の机に髪留めの数種類を置く人外で愛弟子との交流を楽しむ。
「……ご存知の通り、『分身』などは大神にとっての些事も些事。それは宛ら"複数の指を同時に動かす"かの如く——」
————————————————
「ごせん……ちょう——
「最大の好敵手との『野球勝負』も想定しては『球児』としての鍛錬も怠らず」
また実際、神々の王。
全てを志す者としては言葉通りアデスとの野球対決も想定して"分身ナイン"。
其々が宇宙の質量たる己を背負っての指立て伏せ、五対で十の柱。
その中で銀色女神のソルディナは娘にして
「あの"重い球"。果たして完全なる攻略法はあるものか——」
「見れば全員を『
「……こ、此処にも引っ張るのですか?」
「やり直し」
「えぇ……」
「次は"
「……は〜い」
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「——このよう、然程に難しいこともなく。貴方だって一つや二つは容易に"水"で出せます技」
そう言っては暗黒大神で左右対称の双子めいて互いを披露するような手の動き。
一方の青年では話を聞くその間も冷たい乳飲料を二つの杯に注ぎ、自分と恩師に出して——遅れて『分身にも必要か』と目線の動きで尋ね、けれど『必要ない』と首を横に振られる返答。
「けれど、私で弄っていたは
「……大抵、何でも『似合う』と思いますけど」
「……うふふ。ならば一つの"指針"として、青年にも『見たい私の髪型』で意見を求めましょうか」
「……"見たい髪型"」
「……どうです? 更に、もし良ければ"実際に触れながら"考えて、"貴方の好みを私に反映させる"のは?」
「……い、いいんですか?」
「ええ。今日は『触れても良い』との"
また『どうせなら実際に貴方が弄ってみるか』との提案。
何時もは"肉体的な接触"へ慎重な姿勢を取る恩師に突然とその許可を出され、口にして飲んでいた液体、流し込む喉にも思わず『ごくり』と緊張で籠もる力。
「……でもそんな、貴方が普段から手入れをしている髪の毛——"きっと大切な物"に俺が、触れるのは……」
「大丈夫です。何と言っても貴方は"荒々しく引っ張ったり"をしないでしょう?」
「それは……勿論」
「ならばやはり、許しましょう。『少女』として麗しく、また時に『老婆』として扱って頂いても……それが現実として"優しい"ものであるのなら、私は一向に構わぬのです」
その『ドキマギ』と、"美少女"のよう扱ってくれる様子が老齢ではいじらしく。
未だ微笑み続ける魔性、細める妖しい眼を湛えながら『側に寄って』と招きの手。
「……そこまで仰るなら、失礼して……でも髪型の、変え
「それならそれでの"特別授業"。今日は髪の整え方では比較的に簡単で初歩的の——『三つ編み』などを教えてみましょうか」
「……"三つ編み"」
「
「……」
「"ご
そうして複数が座ることを想定した長椅子に着かせられる青年は、そのやや離れた距離感をアデスの一体が『ニコニコ』と詰めてくる場所に着席。
教授する関係上で師弟が隣り合い、残る一体の分身(本体はどちらか不明)を『
「さあ。遠慮せず、どうぞ——"触れてください"」
青年と付いて編み方を
だから覚悟を決めては一応に『し、失礼します』と再度の断りを入れ、いざ指先から触れる白髪——触れても枝毛などの摩擦が皆目なくて指が止まらない、"質がいいだろう"ぐらいしか若者に分からず。
(て、手触りが……え——こ、こんなに
「「"……"」」
科目とするなら——家庭科?
兎角、"女性の髪に許されて触れる"という『ドキドキ』の初体験。
背後を思って感じ入り、また厚意で出された飲料を触手で持って口に含む女神が横目の先——青年で『うぶな反応』を見せながらも体験授業が実技によって進みを見せる。
「では、教授を始めて……先ずは先にも言った『三つ編み』」
「これはやはり読んで字の如くのものなので、『編む』という行為が入り組んだ難しいように聞こえても存外やってみるとそう難しいこともない」
「少なくとも流れの巻く
落ち着かせる言葉を言ってからアデスは目の前の自分で垂れる髪を掴み、指で流れを掻き分けて三つの髪束を作る。
「なのでこうして、"髪の束を三つ作って"……"左右の束を交互で真中に来るよう重ねる"」
「これだけ。この繰り返しが『三つ編み』」
実演の始まったイメージとしては『川』の字だろうか。
そのよう髪の流れを三つとし、左右どちらかの線を引っ張り、残る線に両側から挟まれるよう上から重ねて行くのが女神の言う三つ編みの作業。
それを師は弟子に見せて、
「あ——見ていて思い出しました。"これならやったことがあります"」
「"誰に"」
「……い、"
「……」
「……
「……失礼をしました」
だが、その未だ真偽不明の記憶が拠り所と知ったアデス。
それでも眼差しを伏せる瞑目で『失った過去の痛みを思い出させるようなこと』をした自分で謝る意思を見せ、青年で頭を左右に振る『許し』の動作を経てから白髪に伸びる手は滞りなく。
「……こんな感じでしょうか?」
「……はい。編み目が少し大きくもありますが……出来ていますよ。三つ編み」
白髪の少女に三つ編みの房はでき、恩師からはその先端へ髪留めを通して固定の仕草。
そう、これだけで三つ編みは完成であった。
「それでしたら基本も出来ていることですので、ちょっとした"応用"も試してみましょうか」
「応用?」
「とは言えこれも、簡単。今し方で我々が成した手順に"一つの工程"を加えるだけ」
すると、髪留めを外して垂直ストレートの長髪に自分を戻しながらアデス。
またも『川』の字のように髪を分け集めては持ち、先ほどの三つ編みと殆ど変わらない動作で応用を披露する。
「一つの?」
「はい。先程の三つ編み動作で左右から髪を持ってくる時に——"頭皮に近い周囲の髪も巻き込む"、言い換えては『
「……見たことはあるかもしれません」
「うむ。女神イディアなどで
「……やってみます」
垂れる三つ編みと僅かに違い、表面に編んだ模様がより"絵的に貼り付く"ような形を取る『編み込み』の様。
実演を見た青年でも後者は前者と然程に手順が変わらないものと知って、早速で試しに掛かり——触れる玉のような肌に、髪を。
強く引っ張りすぎないよう、痛めてしまわぬよう慎重に掬って、編んで。
「……どうですか?」
「お上手。優秀な若者です」
編み込みも、完成。
やはり手慣れていないからか編み目が大きいのは残っていたとして、それは特に問題とはならず。
「また今の編み込む動作で左右のどちらか、"片方だけから髪を掬う"ようにすると『
「より自然に分かれて流るる様は"分水嶺を越えての支流"が如く」
頭頂部の前面あたりから後頭部へ向かうよう斜めに編み、編み。
師弟が左右の両側から其々で進め、先端が交差する場所を手渡されるX状の髪留めで締めて——この片編みも完成。
やはり貼り付けるような"模様の魅力"が其処にはあり、イディアも頻繁に取っている
「……お、お
「……"私"が、ですか?」
「あ——えぇ、はい。実は以前から『お嬢様』のようだと思っていたんですけど……この髪型だと更にそれらしく見えます」
「……"素敵"に思いますか?」
「そ、それは……はい」
「では、"綺麗"ということでも?」
「"——"」
「……"嬉しい物言い"だ。我が弟子も
そうして、編まれての上機嫌。
多様な角度から髪型を見せびらかすようにくるりと、一回転。
「貴方が繕ってくれた今日の、この髪型……"私の中で永久保存をしたい"」
「……」
「……駄目ですか?」
「……それぐらいなら、いいですよ」
「……感謝します」
許可を得て更に上機嫌——"私だけのもの"。
この身この歳になって、あろうことか『世界を滅ぼす魔王』に対しても"付き合いたて"のような遣り取りを"気に入りの若者"がしてくれるものだから——無理もないのか?
「ふふっ」
「不慣れ故にやや編み目が
兎角、話し手を編まれた方の自分へと交代して許可も得た喜びはくるり、くるりと『回転するコマ』のよう。
そのまま回り、跳ねる気持ちはその通りの動作で柔らかの
「——…………」
けれど、沈む小玉体は高貴の姫の如き静か、
足を指先から揃え、祈るように手を組む
「……」
「……寝てませんよね?」
「……バレましたか」
「……"貴方が眠る所"を見たこともなければ……"それを他者に見せるとも思えない"」
「……」
だけど、女神で眠ると言って眠らず。
"無防備を晒して相手の出方を伺う意図"を今や"
「"気分の良い様子を見せて無防備に寝姿を晒す"ことは……試し過ぎですか」
「……」
「またも失礼をしました。"欲を
「……"警戒されて当然の理由"も自分で、複数ありますから……——いえ」
心を遊ぶような魔性、凡ゆる者を敵として警戒する大神。
アデスは謝ってから互いに多くの問題を抱える関係へ——いつからか最早、"どうしようもなく穏やかではいられなくなってしまった双方"を
「ですが実際、例え私は『愛弟子』に対してであっても……"完全な信用"を置いてはやれず」
「……」
「貴方を含む世界に対しても酷いことをする私は……それでも今は、貴方を
「……
「……はい」
静かに『よし、よし』、『御免なさい』と。
"実在も怪しい家族との距離"を思い出して感傷的としてしまった青年へ、触れる手。
「……」
「……」
言外に『どうあっても普通の平穏を与えられなくてすまない』と優しい手付きから伝わってくる思いへ——『そんなことはない』、『本当によくしてくれている』と。
首振りで気丈に返すも、肩の沈む落ち込みの真意は隠せず。
横になる女神、青年に許可を得て頭を撫でる庇護者——女神と青年との間に『理解不能』の『断絶』があっても、今は。
「「…………」」
両者の出来る最大限の距離で歩み寄り、"共に作る平穏"で時は流れるのであった。
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