『大地の化身も女神さま②』

『大地の化身も女神さま②』




「"大地の母"として生まれ、けれど当初に『親と子の関係をかろんじることなかれ』と忠言ちゅうげんたまわっては感じ入り——」




 独言どくげんの女神で左右から秋の稲穂いなほめいて垂れる編み込み茶髪——腰にまで及ぶ長髪の束で混ざるメッシュは蒼海を思わせる青に、若草の緑。

 眼色も茶、褐色とも。

 背丈は例に漏れなくて美神に負けず劣らずの長身で、けれど山の如く隆起した胸は神々の中でも最大級。

 土の表象はLandにして、その何処か瓜科うりかを思わせるややLongながめの乳房は衣の前面で天幕テントの構造も作り、更に下部では大地に根ざす大木のよう裾の広がる薄茶のドレス。

 その並べば立ち姿でイディアやルティスの若者たちとも"女神のかた"で近しく、何処となく似てもいよう星の化身が——地母神じぼしん




「故に未産みさんの私——しかして遂に"見つけてしまった"やも」




 一先ずとして不調の友を川辺に寝かせてイディアは戻り、その美神と合流して語るのが同世代の誰より古い女神の『レイママ』だ。




「……"川水の彼女"は、大丈夫なのですか?」

「あ、はい。今はその"大事ないこと"を伝えるために戻ったのですが——当事者によると『少し休めば問題なく』、『なので乳搾りは我々にお願いしたい』とのことで」

「……ならば、良かった。星に流れる彼女の状態を優先し、申し出も快くうけたまわり……だがそして——"しくなってしまいました"」




 だが、続け様に言葉を並べる彼女で今も不動の視線——注がれる先では身を崩した青年。

 その寝転んで休む一点を穴の開くほどに見つめるレイママで髪の青に緑は明滅。

 肩を微かに上下させながらの荒い息遣いも続いている。




「……欲しい?」

「預けてはみませんか」

「……"我が友を"?」

「はい。むすめにしたい——いや、『星の子なのだから既に我が子ではないか?』と、思いまして」




 既に目的地へと到達していた両者で牛の乳を搾り始めながら。

 けれど母神ぼしんで波立つのは衝動。




「胸も熱く、我が方で用意はでき……ここまで『世話を焼きたい』・『必要な物を私から与えてやりたい』・『飲ませてあげたい』と思ったのは初めてかもしれません」

「待って、待ってください」

相手方あいてがたも私と出会ってから転がり落ちる……そう、まさに"何かへ落ちる"ようですし……」

「話を聞いてください。女神レイママ」

「バブりき、オギャりくるって貰うのも……一興かと」




 己の世界に入り込んで目の据わる女神はそうして、次の美神の呼び掛けで漸く視線を話し相手へと戻す。




「——"レイちゃん"」

「——まぁ……! 今まで貴方が呼んでくれなかった愛称ですのに……どうかしましたか?」

「それは此方の台詞です」

「?」




 しれっと、けろっと。

 親しく呼ばれて返す微笑みを浮かべたまま、可愛らしくの首傾げ。




「要は"助けを必要とする不安定な様に琴線が触れた"と?」

「はい。更には女神イディアばかり世話を焼いていて『いいなぁ』、とも」

「……」

「『助けてあげたい』・『守ってあげたい』……下から大地で『がしり』と支え、『大気で包み込むように優しくしたい』と——心から"庇護ひごの欲求"が湧き立つのです」




 黄褐色と褐色で似通った色合いを持つ女神たちは慣れた手付きで牝牛めうしの張った乳を搾り、話しながらも容器の一つが間もなく満たされるかという所。




「なんといっても、あそこまで足元の覚束おぼつかない神は初めてですし……時に『はは』として語られる貴方でもどうなのですか?」

「気持ちは……分からないでもありませんが」

「では、挟み撃ちの形で私とも仲良くしませんか?」

「いえ、だから落ち着いて下さい。女神」

「……駄目?」

「駄目かどうか以前に、最低限そういった"好む意の表れ"を相手にも見て取ってから……す事の説明と提案をすべきでしょう」

「……旅の道すがらで多くを学んだ貴方が言うのなら……そうすべきなのでしょうか」




 イディアの聞く限りでも、『突然の別離でまだ親元が恋しいだろう不安の若者』と——『溢れる母性で包む他者を求める地母神』はある種の組み合わせ美学ベストマッチ

 このままレイママの走り気味な思いを許せば、ひょっとして両者でねんごろの関係になる可能性も——それなりに、高く。




「……」




 いや、"それ自体は特に問題がない"?

 だが、"友の感情が眼前で他者に注がれる様"は見るに——何かねたましい? うらやましい?

 兎角で貴重な"理想の共鳴者"を横から突然に奪われるようで心は、痛み。




「……控えます。美神あなたから学んでも反省します」

「……はい。やはりそういった衝動が呼び起こされるのも多少は理解が出来ますが……今で、私までもが母性のがわに傾けば、それこそ我が友は——とろけて、起き上がれなくなってしまう」




「なので、抜け出すこと困難な至福と快楽かいらくの渦へ軽率にいざなうのは……極力に避け」


「仲良くなりないのなら少しずつ話をして、健やかに関係を築いて行くのが望ましいかと思います」




 同世代の中でも時間をかけて倫理・道徳についてを学び、であるからして模範的立場にも在る美の女神。

 現実的な落とし所を目上の者へと言って示し、はやる神の気勢をなだめてから蓋をした牛乳容器を持っての立ち姿。




「……分かりました。自然と甘えてもらえる神になれるよう、頑張ります」

「……ええ。しっかり順序を踏めば大きな問題には成り得ぬでしょうから……多分」




 青年の変調をとうの昔に察知して状況の報告を求める暗黒へ——簡易的なものを先から伝えつつ。

 しかし戻ってからは『彼女に何と言ったものか』とややに頭を悩ませながら、広く幸福度を高めるために関係の調節へと奮闘しよう。




「でしたら、後は女神レイママに先ほど言っていた調理器具を幾つか持ってきてもらって……残る作業の合間にも軽く話をしましょう」

「はーい。うふふ。私、女神イディアの色々なお話しが大好きなので、楽しみです! ——では、行ってきま〜す!」


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