『魔剣(?)——ダメ、ゼッタイ③』

『魔剣(?)——ダメ、ゼッタイ③』




 向かい合うアデスとイディアで詰まる距離。

 周囲に被害が出ないよう不可視結界を張って、少しの緊張が今の場面だ。




「——"厄介な波動を打ち消す"」


「端的に言って『対抗呪文』のようなものを使いますので……身に触れて、また語りかけます」




 粛々と美神の側面に立ち、腕を伸ばせば直ぐに両者が触れられる距離で事前の説明を済ますアデス。

 対する美神では頷きが了解の意を示し、事前の合意を形成した麗神たちで更に間の縮まる接近が外野の青年では"百合"のおもむきさえ見せるものか。




「では、始めます」

「はい」

「貴方への処理は数秒と掛からず。しかしけれど安全の為、ものを手放すまではどうぞ指示へと従うように」

「——」




 そうしてそのまま、説明した通りにイディアの魔剣を持つ方の腕へ大神の手を添わせる者。

 次には語り掛ける為と黄褐色の髪の間、美神の耳元へ小さな口を寄せ——果たして"性別さえ曖昧な者の間で百合の関係性は生じうるものか"?





「——





 意識で哲学的な思いのよぎる青年の眼前。

 "対魔たいま"の力を有するから魔王で剣そのものに触れはせず。

 しかし、身の接触した箇所と掛けられる魔性の玉声から魔剣の波動は——相殺そうさい




「"!" ——"放せました"」




 イディアで剣持けんもちの腕が一度は大きく痺れるような動作を見せた後、開いた掌。

 そのまま星の引力に寄せられて落下する魔剣は『ポロリ』と。




(——!)




 川辺の砂利まじりに落ちて聞こえる高い音。




(良かった……! これで——)




 だが、放せても落ちてもの——安堵もつか




「イディアさんは無事に————"!?"」




 吹き出す力、つかよりの紫電十字。

 突如、"ねずみの名を冠する花火"のよう激しく魔剣は回転して——溢れる力が危ない!





「——ぅ、うわあっ——ぉぉぉぉ"ぉ"っ!??」

「宇宙の狂気が溢れようとしている——気を付けよ」

「! い、いやっ、急にそんなこと言われても——"!?"」





 しかも、差し向けられた相手を考えれば偶然か必然か。

 独りでに動き回る凶刃はなんと不幸にも"青年のいる方"へと走り出してしまうのだ。




(——こっちにきた!?)




(『"ちちげ"』)




(なんか聞こえる——!?)




 危険を自覚して一層と青ざめる輝き。

 このまま青年が魔剣の力に晒されれば『他者にこそ価値を見出す』傾向や、また恐らく何か『己の足跡そくせきを残さんとする生(性)の欲求』——特に"包容"を求めての『乳狂い』が強化されてしまうかもしれず——女神たちのいる今でこれは、やはり危ない!




(『"谷間たにあいこそは平穏至福へいおんしふくの居場所"』)

「わっ——わわっ!??」




「不味い——我が友!」




 すると、"だから"か。

 察しの良いイディアも『友の"色情しきじょうに迷う心"』を重んじ、既に"欲心を露わにした自分"よりも"青年の体面たいめん"に配慮をする意味で魔剣への妨害インターセプトを咄嗟によって敢行かんこうするのだ。




「! 危ないです、イディアさん! ——下がって!」

「いえ! "私には大したことがない"と分かったのですから——我が友の方こそ!」




 決断的動作で間に割って入った美神。

 だが、他者ともまで明確な危険に晒されたが故にその青年のする気質変化に応じて上がる頭巾——怯えていただけの表情は隠れて。

 覆いが作る陰中かげなかでは青く光を強める目と内髪うちかみ

 また集める水は瞬時に腕で流体の籠手こてを装着形成、表面のうずも護らんとする盾の役割を持つ構え——構えも持つのだが。




「くっ! 我が友の願いに望みに——剣で傷を付けさせてなるものか〜!」




 お構いなしは、魔剣。

 互いに相手の前に出ようと庇いあって『わちゃわちゃ』とする女神たちへ——宇宙の力を持った魔の煌めきが無情に迫るのだ。




「我が友〜〜!!」

「イディアさん〜〜!!」





「……いや、折角に手放したものを再びに取ろうとしてどうする」





 しかし、『いや、待たれよ』と。

 青年で乳房好きの傾向が強化されれば『私に対しても食い付きは更によくなるのでは』——とも、考えていたかもしれない者。




「それに『私がやる』と言っているのですから——"私に"任せてください」




 だとして分別もある老成アダルトの女神は若者たちの安全を勿論に優先。

 側で"他者を護らんとする表情たち"を十分に見て、楽しんだのち

 暗い色の手袋と保護面で玉体に何層もの緩衝材を着けたアデスが魔剣の進路に現れて——淡々と脅威への対処を行わん。




「直接に触れては危ないので、このよう適当であいだに緩衝材を挟み——」





「上手く力を逸らしてから——"遠方にて潰す"」





 回転の刃を振る腕で跳ね返し、暴れるエネルギーを宇宙へと放逐してからの——重圧魔眼。




「……要は家屋かおくの解体や危険物の処理と基本は同じ」


「周囲に誰もいない場所で——"破壊し尽くしてしまえばいい"」




 そのまま、青い空の昼時でも。

 魔剣で星の爆ぜる打ち上げ花火を背景にしては振り返り、再三に説かれるのは『要らぬ・扱いきれぬ物を持つな』、『不用意に物へ触れるな』の教え。




「そして、身に染みて分かったろう。"持て余す力"の恐ろしさが」




 言われて、控えめに身を寄せ合うルティスとイディアでは見せる頷き。




「今後も物品は一定の信頼が置けるすじからのみ受け取って、不用意に獲得をせず」


「それでも『魔剣』のような『木刀ぼくとう』のような……"怪しい魅力の物"が欲しければ私の方で用意をしますけど?」




「いえ。遠慮をしておきます」

「はい。あんな刃物はものはやっぱり危ないから……『魔剣』はもう懲り懲りです」




 斯くして、未だ宇宙で火花が散る光景をはるか頭上。

 書生の女神らは『よく分からない物を拾うのは止めておこう』と改めて共に、今日の一件で心構えを固くするのであった。





「では、説教も終えて一件落着もした所で……"過ぎ去る夏の空に花火"」


「風情を求めては暗くして、簡単に我が弟子の水で作る——『かき氷』などはどうでしょうか?」



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