『宇宙で一息③』

『宇宙で一息③』




 食事の終わった途中からは比較的近場にいた『ゲスト』も参加しての"無重力体験"。

 各位で暗い周囲に合わせて朧げに輝く眼色がんしょくは赤に青に、黄に——青白くもある銀に。




「わっ!? わわっ——」

「[┗(^ ^)┛]大丈夫です、女神イディア! 私がついてます!」




 訓練も兼ねての『遊泳』、先までの惑星を離れて現在地(?)は星々で満たされる海の只中。

 無限の天体を背景にしつつ美神は銀狼の鎧まとう女神グラウに連れられて、バタあし




「私達は私達で行きますよ」

「は、はい」




(『"大地を踏み締めることに慣れている"なら足下あししたに水を張って』……『常に足場を自分で用意する感覚』——)




 一方の冥界師弟。

 指導を受ける青年女神は操る水の噴射を利用して推進・姿勢制御へ気を払いながらに正面で待つ恩師少女の形を目指そうとしていた。




「そうです。以前からも特殊な環境での立ち回りを教えていましたが、要は己の周囲に慣れ親しんだ水を展開さえしてしまえば……後はいつもの如く、『泳ぎ』の要領で」

「……出来てます?」

「はい、上手じょうず——此方こちらですよ」




(気を抜くと近場の天体に引っ張られる感じ……それに、止まり所がない浮遊感(?)も少し怖いけど)


(……でも、自然と浮かんでられるのはなんか、身軽で……楽な気もする)




 その様は丁度、水泳の先生に指導されるような位置関係。

 手は繋いでいなくとも前方から不可視の力に引かれる形で宇宙を泳ぎ、だが横目にも下目にも明星みょうじょうや輝きの渦が巻く中でも会話によって間延びの時空は広がりを見せる。




「……楕円形だえんけい渦巻状うずまきじょう……細いレンズみたいなのも、銀河?」

「はい」

銀河そこで光っているのが、恒星?」

「殆どがそうでしょう」

「……二千億を超える数が一つの銀河に?」

「はい。単独でさえ貴方の力を優に超える物が……あのように沢山」




 遠目のイディアは浮遊する岩石群を器用に蹴って見事な立ち回り。

 また目が合っては手振りを見せる横、他愛のない雑談は『ふわふわ』と無重力に浮かぶ師弟。




「……収縮して光が?」

「ええ。……ですが貴方は其処までを言葉に起こす専門家でもなく。これまでの前提を覆す例外だってあるにはありますから……簡潔に言っては『物を集めて"ギュッ"と潰せば熱くなって輝き始める』と、今はそのよう単純に考えてもよいでしょう」

「では、一際ひときわ輝く銀河の、あの"中心"でも……似たようことが?」

「……分かってきたではありませんか」

「更に大きい視点……また小さい視点でも同じようなことが起きて……世界が出来ていたり?」

「……どうでしょうかね?」

「……」

「"未知の化身"である私から貴方に、"全て"を教えることは出来ませんから」




「それよりは……どうですか?」

「?」

「今は私に護られた状態で、しかし周囲から伝わる"波"の感覚は?」

「……ありますけど」

「どのような?」

「……展開した水を"揺らす"ような」

「ならば良きです。"水にもたらされる変化"を意識して、その感覚を忘れず……更に磨きましょうね」

「……」

「今日も『女神の胸』へ視線を取られてはいませんでしたから——"引き続き"」

「……はい」




 スペース・アデスは膝を抱える姿勢で上下左右。

 身を『くるくる』と回転させながらに話し、青年と上下を逆にした状態で真横に付いては暗い眼の圧力だ。




「……でもやっぱり、の状態でも全然動けてるじゃないですか」

「……"?"」

「生身で宇宙」

「……よく聞こえませんね。大気のない宇宙で声を響かせることは出来ませんよ?」

「いやそれも、今まで聞こえるようにしてくれてたじゃないですか……?」




 離れた場所ではスペース・グラウも馴染みの環境で軽快。

 鎧の各所から放出される粒子は鮮やかに銀色で、だがそれでも比較的に冷えた宇宙で程よく冷静となった思考は極神同士で通信も可能とする。




『……いくら馴染みの環境とはいえ、今に過去未来の時間跳躍よことびはあい変わらず、出来ませんね』

『戻る過去は消えたのだ。後は先に進むのみ——今は厳酷げんこくの宇宙で若者の学びを助く時なのです』




 そうして密やかに交わされた意思疎通。

 交信が終わると師弟から見て遠方の一等星のようであったグラウ——イディアを担いで一瞬に合流を果たす。




「さすれば、我が弟子」

「?」

「『軽いの』でも『重たい』のでも構いませんので"みず"を、出して下さい」

「……それはいいですけど、なぜ?」

「"恒星を作る実演"で使います」




 再会に手を振り合う青年と美神の前で原初の女神は軽く言ってのけ、共に古い神の間で決めた"知識の実践"を此処に見せんとする。




「……危なくはしませんよね?」

「勿論。我が弟子を巻き込んで——それこそ"水の貴方"そのものを材料にしようなどとは考えていませんから、ご安心を」




「引き摺り込まれないようにしますし、与える加護で熱に身を焼かれることもなく」


「単純な大きさで圧倒されるのも怖いかもでしょうから……"掌の上で留めます"」




 そうして、安全への配慮も約束されては青年が手元で作る水の塊。

 重いそれはやはり前回の戦で見せた水風船のような形のまま暗黒に寄せられ——握る掌の中へ。




「ですがそれでも、学徒らにとっては中々に貴重な観測機会でありましょうから……よくよく見ておくのが賢明かと」




 圧縮は、まさしく片手間で起こす核融合。

 女神の掌の内部で高まる凄まじいまでの熱。

 凝縮エネルギーの変化、加減をされて指の隙間から光は漏れ出し——まもなく開かれた掌の上に"出来立ての円球光源えんきゅうこうげん"はあった。




「……さらりとやって見せますけど、どれか数字の後ろにゼロが何十何百の質量を……本当に? 掌で収めて……?」

「それが、大神」

「……時に『神』として同列に語られるのが恐ろしい程です」




 博識故に大まかな恒星の質量へ想像が及ぶイディアは異彩の髪で血の気が引いたような薄青を見せ、高位の神が為せる御業へ畏怖を示す。




『……大丈夫なんですか? アデスさん?』

『なんです。我が弟子』

『"手札"、晒してません?』

「……恒星生成このぐらいは古い者なら誰でも出来る"公然の技"ですから、はい」




(『はい』で済むのか……)




 イディアに顔を覗かれてグラウも首の縦振りと[( ̄ー ̄)(ー_ー)]の表示で見せる『肯定』の意。

 そしてそのまま大神の掌で更に掛ける圧力は星を急速に発達させ、じきに示されるのは一つの終焉モデル。

 球体の形を輝きの反射が見られぬ暗い状態に落とし込んでは合わせる両手、すり潰し。

 女神は開いて見せる掌で"危険な物体の処理した事実"を微笑みながらに明らかとしたのだ。




「しかしそれでも、基本的に第三世代あなたがたでは我々のような監督者不在で天体作成を試みるべからず」


「また事前に教えてさえくれれば、我々には適切な環境を与えられるだけの用意があります」


「なので、学び知ったことの実践・実験は周囲の状況にも気を払い、成るく"他の誰にも迷惑の掛からない"形で行うべきを理想としましょう」




 斯くして大切に護られる者たちでは以後も興味深い天体についてを質問し、世界の不思議に馳せる思い。

 疑問を抱いては、その転々と実際に足を運びなからでも未知を知り。

 そうした神によって整えられた学習環境は本当に得難い贈り物として『健やかなる成長を導かん』と、"破滅の力"を持つ神々でも指導に努力が見受けられる中。




「……いいですね?」


大神わたしとの約束です」



 

 其々で模索に、試行錯誤の連続。

 今日も学んで時を過ごす。



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