『秘奥の目覚め③』

『秘奥の目覚め③』




「取り敢えずで部屋の前に向かわせておきます」




 単位制の講義を概ねで完了して、約束の褒美である『万能お手伝い』を二階に見送る大才暗黒物理学者。




「返品も勿論に可能でありますが、折角に用意した"力作りきさく"ですので……使って頂けると嬉しいです」




 儚げに笑んでも。

 自作した『人形の利便性に青年が溺れる』であろうことを見越しても魔性は、平然と。




「……さて、そう言ってから次なる主題は『貴方の視線』」


「『今よりもしっかり、めんと向かって相手と話せるようになりたい』——との願いに対しては、如何いかんすべきか」




「……講義を経た今で、その思いは変わらず?」

「……はい。やっぱり"失礼がないように"、自分でも『改善は必要』と思いまして」

「……ふむ」




 神々の王をはじめとした複数の女神たちから指摘される若者の『胸へ向かう視線』をどのよう扱うべきか——口元に寄せる握り拳で悩む仕草。




「……私としても『完全に悪いことではない』と思いながら、しかしその点で"付け込まれる"のも気に入らず」

「……」

「我が弟子は『大きいのがお好き』ですからねぇ……」

「……どうするのがいいんでしょうか」

「……ともあれ適切な対処を探るため、先ずは"現状の調査"に"分析"からでしょうか」




 言いながら、自らの胸板を『ペタペタ』と叩き。

 これまで適当に動かして見せていた『巨乳の人形』に対する視線が自分に向けられるそれより『熱っぽい』ことにも気付いている暗黒少女。

 大して言葉にとげを表さずとも、少しばかりに口を尖らせながらは提案だ。




「やはり"私よりもあの人形"に対して食い付きはよく……どの程度まで『大きいのが好き』なのか」


「どんな対処をするにしても詳細な情報を集めてそれから、"落とし所の方向性"を定めたいと思います」




「その為の調査……分析」

「はい。その形式としては簡単な"試験"を、少し」




 そして、指導者の神は教壇から降りて生徒に接近。

 自分たちの間にある机を横に退かし、椅子に座った青年と立ち姿の少女が向かい合う形を作る。




「今から私が『自身の外見に変化を起こします』ので、貴方は『変化に気付いた時点で率直に変更点を指摘』してください」

「変化というと……服とか、装飾とか?」

「そんなところ。その気付く反応速度を計測して判断材料に用いますので、宜しくお願いします」

「……分かりました」




「では早速、一回目を始めます」




 そうして、向かい合う状態のまま。

 両手を青年に対して開くような姿勢でアデスは試験を開始。




「——はい。"変わりました"」

「…………"髪型"?」

「そうです。ゆわえていたものをほどいて下ろした単純な、変化」




「初回ですので簡単にしてみましたが、これで流れは分かりましたね?」




 まさしく目にも留まらぬ早技。

 髪留めを外して白髪を流した彼女は青年に『理解』の頷きを見てから進める。




「では、次——"変えました"」

「…………?」

「……」

「…………あ——"くちべに"?」

「はい。濃いめの物を塗ってみたり」




「で——"次の変化"」

「……"耳飾りが片方になってる"」

「左様。髪に隠すよう外してみせたのですが……良く見ていますね」




 先まで尖っていた口は次第にはしゆるび。

 けれど難易度を上げる次からは雲行き、怪しく。




「でしたら、これは——"どうでしょう"」

「……」

「……」

「…………(……どこ?)」

「……」

「……! つ、"爪の色"」

「違います。爪化粧それは先週からです」

「え……」

「正解は"深履ふかぐつを短い物に履き替えていたこと"」




「爪の色付けは先週で美の女神に塗って貰ったもので、『見る機会は幾度もあったのに貴方が今の今まで気付いてくれなかったもの』です」




(ひぃぃ……!)




 全身の装いを殆ど黒に染めている女神で、足元で行われた同色の履き替えを即座に察するのは青年に難しく。




「次に進めるぞ」




 赤の眼差しを暗く、空間に穴が開くよう重くもする恩師で次に起こるは"本命の変化"。





きます——"はい"」

「"!!"」





 "二十センチほどに盛る胸部"へは迅速、神速。

 無言であっても直ちに指摘で注がれた——視線。




「——っ!?」

「正解。お気付きの通り——です」

「……」

「"素晴らしい反応速度"。"今日で一番"のものでした」

「……」




 褒めるような言葉に反し、古き女神は無機質の真顔で——。




・・・




 似たような流れを繰り返しての、数分後。




・・・




「——はぁ、はぁ」

「耳飾りに鎖をはじめとした『揺れ物』への変化が次点じてん

「……っ!」

「"膨らむ形"のころもも好き」




 動いてもいなければ大抵の運動で疲れ知らずの玉体で、それでも青年は肩を上下の息遣い。




(あつ、圧が……凄かった)




「だがやはり第一は『大きく膨らんだ胸』に対する視線ものが"最速"」


「"死にのぞんで増大した欲心"は捉える反応を"神の領域"に引き上げ——どころか"神界しんかいでも並び立つ者のいない"『無二むに』は大神わたしの前に現れた」




 一頻りの調査を終え、けれど若者の持つ"ありふれた性癖"は今や『人知を超越する執着』に。

 試験の分析によって謂わば『神の中にあっての唯一無二』と、程度のはなはだしい『この者だけの際立つ個性』と目されるに至っていた。




「……と、兎に角それで自分は、どうするのが……?」

「……"視線だけ気付かれなければいい"のでしょうか……どうしましょうか?」

「いや、そう言われても……」

「いっそのこと整えるなら……視線の制御も兼ねて『膨らみ』や『揺れ』に鋭敏えいびんである事実を……?」




「いえ、若しくは? 試験でも反応の速度・正確性が顕著なそれ……ややともすれば……」




 その『乳房への執心』を目の当たりにして瞳を暗くしていた女神。

 世界でずば抜けた多識たしきのアデスは誰に話しかけるでもなく『ぶつぶつ』と呟き、次第に暗色の眼差しは明度を高め——。




「……"試してみましょう"」

「……?」




 深く頷いては、結論。




「"強いる"という意味でも、"正す"という意味でも『強制(矯正)』は不本意であり……故にこれもまた"提案"です」





「"その差異"——?」





 "傑出したへき"から通じて『更に己を知っては制御のすべも会得しよう』との試みが——。





————————————————





「——"これ"は」





 "欲心から湧き上がる"——『青年の可能性』を呼び起こす。





(——、—、、……、—! っ"———"!!")





「そうだ——乳房の"膨らみ"に"揺れ"から転じて『膨張』と『振動』」


「同様に丸みを帯びた物質で、波動の変化を——『水』を基準に捉えよう」




 訓練の最中、炎をまといし熱拳ねっけんのアデス。

 その眼前で煌めく青の泡、無限に湧いては青年の周囲で炎熱を知り。




水泡世界すいほうせかいに"膨らみ"を、"揺れをよ"」





「っ"っ——、っ"っ"……ッ!」





 それは、"愛欲の起こす奇跡"。

 人心じんしん根深い青年で『念』も『想い』も『無』には出来ず——ならば、時に"反対のみちを行ってみよう"。





「"捉えて離すな"」


おのれの、"おのれだけ"の——」





 狂いし発想は魔王。

 その"魔を統べる神"のもとで『神にも人にも成りきれぬ半端者の青臭い若さ』は——。






——『奥義おうぎ』を」






有念有想うねんうそう』のままに『空前絶後の高み』へと——のぼらん。





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