『秘奥の目覚め②』

『秘奥の目覚め②』




「——と。このよう『性別を問わずに神は意識体を作り出すことが可能』であり、過程では『熱量とその方向性・指向性が重要な役割を果たす』と説明をして」


「また大神以外では『二つ以上の要素を掛け合わせるのが基本』となって、しかし実際の行為、その内容は多岐たきにわたる」




 黒板を背に、教壇上。

 老いた魔眼に眼鏡を掛けての女神アデス。




「必ずしも"まじわらせるような密着"は、要さず」


「『完全混合』や『神経接続』の物理を知って、その可能とする条件さえ整っていれば……"既に命が生じた世界"で『誕生』は現れる」




 正面の生徒席に座る青年と向き合って、教師として振る舞う古き神。

 特設の教室で授ける保険の講義は今日で既に十五回目。

 今し方で、これまでに聞き知った内容の理解度を確認するための"筆記試験"を通過した青年に対し、今は総まとめの時間。

 特筆して留意すべき『神の有する産みの力』についてを御浚おさらいし、加えて以後の注意点についても訓告している。




「一連のそれこそは当世の法則が一つであり」


「起こる事象についてを説いた、その後で——」




「"例外の私"から"例外の貴方"へ——"個神的な考え"」




(……)




 子を持たぬ者から同じく持たず——持てぬ者への、"生殖を目的としない性的接触"の注意。




「第一の"推奨"」


「——当事者間の関係性や利益の遣り取り、愛情の種類や有無は兎も角で」


「『可能である限りは順序を踏み、十分に思う気持ちを確かめ合った段階の者たちであることが望ましい』」




「第二の"絶対原則"」


「『性的接触は双方の明確な合意に基づいてのみ行われるべきとする』」




 "了解"の意を頷きで青年も示して、真面目の空間。




「合意を確かめる方法としては『書類への署名』や『隠語』に『暗号』などで当事者の間で事前に取り決めをするのが望ましく——"雰囲気よりも明確な合意・同意"」


「最近に学んだ言葉を用いるなら『いんふぉーむど・こんせんと』と言った『十分に説明が為された上での同意』が極めて重要であると私も思います」




「……はい」




「またやはり自慰的な処理行為も私的な空間で完結していて……何より"望まぬ苦しみを抱える者がいない"のであれば基本的に問題はないでしょう」

「……」

「文句を言われる筋合いだって……いえ、言わせません」




 そして、鏡面を拭いた後で老眼鏡を暗黒に閉まっては。

 言い切ったアデス、席を立ち。




「節度にさえ気を払って頂ければ女神の管理下でも自由は保障されて」


「そう言った所に口だけでは何とでも言えてしまい、けれど『無限の自助努力を求めるだけ』もやはり、"酷い"でしょうからと」




 教室の出入り口に姿を消して、直ぐに戻る彼女で後ろに続くのは——"同じ女神の形"。




「単位取得の基準を満たした貴方へ」


「私からの更なる支援は——"贈り物"」




(あ、アデスさんが二人ふたり——いや、"二柱ふたはしら"……!?)





「『一分いちぶんいち・"女神"』であります」





 横に並ぶ暗黒女神と"瓜二つ"の。

 白髪に、赤目に、無表情の顔で肌も白く。

 装いでは黒を基調とした簡潔な『メイド服』を着させられ、頭に『ブリム』謂わばの『カチューシャ』を見せるようお辞儀をするのは——まさに『等身大のアデス』であったのだ。




「お、"贈り物"って、これ……"分身"では……?」

「分身ではありません。"別物べつもの"です」

「……これを、此方こちらに?」

「はい。本来なら住居の用意と同時に支給をするつもりが、しょうが極まって今日までを調整に費やしてしまった"もの"であります」




 その一卵性の双子が如き光景は真剣に話を聞いていた青年にめんを食らわせ、『それでも真面目な話なのだろう』と深いまばたきによって意識を再び傾聴に切り替える青黒に対し、"件の物"の説明は以下に続く。




「権利の考え方に配慮しては最も手間が掛からない形として私、"私という女神"を模してはいますが——"凡ゆるへきに対応可能の道具"」


「姿形は勿論、種族や性別。性格さえ細かく変更可能で『奴隷』のようにも『家事手伝い』のようにも、『秘書』や『執事』のようにも使える傑作けっさく




「私という大神が作って——"用途を決めるのは貴方"」




 慎ましやかな胸を張って、得意げに。

 以前の料理支援と同様に"人外の大才"は自らが護る青年に『喜んでほしくて』言っている?




「自制を願っても『他者の命をどうこうしたい』という欲求は在り、しかし"軽率に破滅を齎す行為なきよう"以前から開発を進めていた物」


「"これ"が、貴方の要望に応える」


「口頭質問の形式で各種設定は変更可。更に細かく自身で調整をしたい場合に備え、説明書きも用意をして——」




「大神の機能を縮小で受け継ぐ——"超高性能の万能お手伝い"」




 自作の紹介をしながら、指で己の口を引っ張って『鮫の如き鋭利な歯並び』を即席で見せるアデス——その横で模造の作品も同じ動作。

 また歯の間から覗かせる『蛇の如き先割れの舌』も続いて見せ、そのまま模造コピー参照元オリジナルは伸ばす白髪を互いに『b』の形にして『ビシバシグッグ』で打ち合うならいの仕草。




「初期の質感は『人体』を基準」


「体重だって乗られても大丈夫。"可変式"でもあるので『潰されたい』なら"重く"して」





「それに勿論——『胸』だって

「"!!?"——"???"」

「……」





 けれどそう言っては酷似であった関係、青年から見てはまさしく"大きな差異"が生じ。

 言うなれば『巨乳にられたアデス』の形を前にして"見開かれる碧眼"——その"注目の様子"を鋭く横目に女神で、解説の続行。




「実際、既に女神イディアでも試験的な運用は実施済みで、許可を得て利用の例を紹介させて頂くと彼女は日常的に"身支度の支援"や、"芸術的な活動の補佐"——」


「より具体的には『構図の被写体』としてつらを向かい合わせたりで『百合』の立ち位置を取らせ、またやはりは『其処に美は見出せるか』等々とうとうの問い掛け——大神から提供される膨大な内部情報を参照しての『問答』などでも活用しているそうな」




「彼女のその例が示すようこなせる役割は数多く」


「貴方の前でも幾つかの"実例"を、以下に」




 述べるようこの後に示す道具の使い方。

 アデスが指示する内容に同じ顔が従いながら言葉を発す順番。




「——"元傭兵の家事手伝い"」


「『……無事か。御主人』」




 未だ冷めきらぬ煙草を咥えて、手には同じく煙の昇る銃火器を持ち——それ。




「——"探偵事務所で雇われている女子高生"」


「『依頼がないからってなまけていたら、事務所……潰れちゃいますよ?』」




 次には"らしい"制服に身を包み、暇の中で清掃用のモップの柄に顎を乗せての呟き。




「——"捕手ほしゅ"」


「『貴方と心中しんじゅうする』」




 球技で捕手の使う防具を着込んで、片手には捕球用の手袋。

 空いたもう片方の手では投球指示を飛ばす為に色を塗り分けた爪を見せながら、格子状のマスクに守られた表情は冷然と。




「——"付き合い立ての交際相手"」


「『……改めて、よろしくね』」


「『呼び方とか……どうしよっか』」




「……なんか途中で物騒なこと言ってませんでしたか?」

「『共に努めよう』程度の意味合いでしょう。そんな台詞せりふを設定した覚えがあります」




 そのままアデスは手を叩いて実演の終了を知らせ、再び『お手伝いさん』らしい装いに戻させた道具の肩を持ち、向かいの青年に以後の使用を促す言葉。




「そう。物理に通じるならば、こんなもの」


「貴方も目にしたよう入力した情報に基づいての自然な発声は容易く。その玉声は勿論にどんな楽器の音さえ作り出しては響かせられる——傑作」


「先述の通りの『多機能』であり、各種の悩みに対しても『相談窓口』として利用が可能」


「持たされた力は実際の対処にも役立ち、大元である女神わたしに連絡を入れるかも都度で選ぶことが出来る」




 乳房を大きくのままに『えっへん』と胸を張らせ、また其処に集中する若者の視線に対しても魔性は——優しく。




「使い道、そもそもの使用するかどうかを直ぐに決められずとも置いておくだけで『観葉植物』のような効果は期待できるから」


「"道具"のこれ。神がさきか、人が先かは兎も角に——『命なき人形にんぎょう』」


「"遠慮はいらない"。




「だから」





「好きに、使って」





 何処かあでやかに、若さへと語り掛ける。



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