『お好きですか、女神②』

『お好きですか、女神②』




 この日のために増設された陸地が舞台となって開かれる——"創作家たちの祭典"。

 展示会、発表会、即売会……etc。

 行事の持つ意味合いも複数で、会場の入り口から並ぶ住宅や乗り物、絵画に彫刻に衣服にあれやそれや。

 それら創作家たちが己を絞って捻出した多種多様の創作物が勢揃いする今日、その一角。




の勝ち」




 空調の効いた箱の一つでは自由度の高い展示発表会。

 黒ずんだ(?)作品の一つを前にして話し込む者は三者三様。




「やはり、"形ある物"では一日いちじつちょうがあるゆえ、此度の一位いちいも遠慮なく頂戴させてもらおう」

「…………」

「くっ……! テーマ被りで、しかも明快なインパクトでも評価に遅れを取ったが……まぁ。二位にい紐付ひもづけられる"ぎん"もまた吾が好みであるからして——いいだろう」




 小柄な少女の左右で見目良きグッドルッキングの巨躯。

 頭頂部に『稲妻』、三本柱が作る『山』、また残る者では右の側頭部に『鎌』。

 各位かくいで頭髪に特徴的な形——定冠いただく『クリエイター』たちも好日こうじつの祭りに参戦だ。




「結果として最優秀の一位はお前の『星をいた宇宙戦闘機』——『スターシップ・ギャラクシーデストロイヤー』」


「それに次ぐ二位がわれの『パワーパワーのぶつかり合いッ!』——『ギャラクシーゴリラ』」




「そして、三位さんいが……——」




 その三者の中にあっての稲妻が眼前に置かれた作品を再度に見定めんとし、光顔こうがんを傾け——。

 だが話の主題となる物体の作者、"真中の少女"に視点を合わせては他の二者が見切れるが故、その顔容を今は明かさぬままに話を進める。




暗黒おまえさく——『黒炎石こくえんせき』」

「……」

「只の黒い鉱石を、しかし見る角度で変容する光の反射が『揺らめく炎』のように切り出した絶技ぜつぎ

「……」

「だが寄せられた評価『よくわからん』、『見えん』、『よく分からないが何処から見ようとしても"形を捉えきれぬ"ということが魅力的であるからして——』……等々とうとうの」




「"諸説あり"での、三位」

「……」

「神の視力でじっくり、がっつりを観察すれば何となく……五千兆回以上の色調変化が行われているのがぼんやり見て……取れるような気がする」

「……」

「だが、そんなおびただしい回数のグラデーション。まじまじ見られては正気も失われよう」




 批評を述べる者で冷静な抑揚の声は太く。

 その横で反論もなしに黙す作者の少女は直立不動。




「技も執念も素晴らしけれど、色々な意味で恐怖の作品」


「物が何処から来て、また何処へ向かうのか。時流を読み取る『タキオンアイズ』で見てようやくに"凄い"と分かるのだ」




「……」




「過去を、完成までの過程を超高精度で想像して初めて手が込んでいると分かるが……しかし——審査員はそのよう過去を見る目を持っていないのだぞ?」

「……」

「それを『どうしろ』と。"審査員に審査が出来ぬもの"を提出して」




 今は二位の立場から、三位の女に。

 天空の王者は地下になぞらえられる領域の王にげきを飛ばす。




「まさか大神たいしんくせに『ひとの心が分からず』とでも——いやいや、宇宙の化身。『かつて人でもあった頃を完全に忘れた』とは言わせん」

「……」

「剰え『"つばめ"と遊ぶ』ことにかまけて大神われら会合の場。『創作に手を抜いた』ならば……"ちがう"」

「……」

「"魔性"らしくても解釈がことなるぞ、"鋼鉄の処女"。……けれど『敢えての見せない美学』というのなら……まあ」




 神々の王が『燕』と呼ぶものは此処で恐らく性別を問わずの『若者』?

 ならば今し方の語りはただ思うままに感情をぶつけるだけではない——"秘匿された情報"を指摘した『揺さぶり』の意味合いも兼ねるか。




「魅惑のおもむき。みだらであってもみさおかたく」


「孕みしは矛盾で全てに迫る様はやはり……失敬。爽やかな競争の場で語りに熱が入った」




「……」




「纏めると吾が最も口にせんとしたのは——『凄い物』との指定されたテーマで"客観より主観を"、"自らが作りたいものを優先し過ぎた"なということ」


「因りて残念だがこの傑作、人の身で僅かにも実体を掴める者はおらんだろう。神とて余程に観察眼のある、それも"大層な物好き"でなければ」




「……」




 対して、言われる女の方では例えに近しい鉄のつら

 眼光鋭い大賢に何を言われても動じぬ様はこの者でも広い度量を表す証左だろう。




「まぁ……なんだ。大神われら、生まれながらの合体戦士。芸術で当時の世界一を欲しいままにしたこともあれば、りとて同時に美術系の試験に落ちたこともあろう……そんなこともあったさ」

「……」

「だからそのよう無言むごんして落ち込むこともないのではないか——と。やっぱりちょっぴり煽った所で吾は時間だ」




「この後で其方そなた、光の大神に予定が?」

しかりとも。吾の方ではこの後も色々と展示・即売の物を用意していてな。その売り子も兼ねて多様な"色変いろがえ"も楽しんでみんとするのが……今日きょうである」




 三本柱のアホ毛に言葉を述べて立ち去らんとする者で周囲の空間に引き出される無数の段ボール箱。

 神々の王は口元で笑いながらに肩を相手へ向ける動作でお開きの承認を求める。




あいわかった。では、余の方も学会の発表に顔を出す腹積りで、今日の所は開きとしよう」

「? これからの発表というと……なんであったか?」

「『ハイパー物理学』。その、"素人質問"をしに」




 別れる提案を承認した今回一位の巨躯は軽くそれだけを言い残して歩き、場を去るのも一番。




「……軽々けいけいに恐ろしきことを言う」

「……」

大神それと知らずとはいえ『物理の王』が御前ごぜんで発表。しかも、その道で先頭を突っ走る者から質問なんてされるとは」

「……」

に恐ろしきは大神。けれどあれも同じ学徒を愛する形だろうか」




 残る二者の、古くからの知り合い同士は言葉を交わしても視線は合わさず。




「……まぁ、そんなこんなで会合の主題である『異界侵攻プログラム』ついても『変わりなく』との報告はとうに済み」




「今更に吾も挨拶をはぶいて去ろう」

「……」

「ではな——」




 もう一つの巨躯、稲妻。

 立ち尽くす小さな背中に声を掛けて次なるこの柱も去らんとし——。




「——いや、待った。物忘れ」




 映像が巻き戻るような後ろ歩き。

 冷笑なき深刻な音調で王から王への質問は飛ぶ。




「時に健忘けんぼうでもあるのが大神の辛い所……"更衣室"は何処だったか?」

「……男性は二階の東端とうたん。女性は一階の西端せいたんだったかと」

「……"大神われ"はどうしよう」

「……その場で申請は必要ですが個室の貸し出しもそこいらで大量にやっている」




 側頭部の白髪が指差す先——人の係員が訪れる人々に書類を手渡して個室の利用案内を説明する様はあり。




「把握した——サンキュー!! ロックおばあ!!!」

「……」

「お前でも"うっかり"には気を付けろよ。さもなくば『バッサリ』? いや『グッサリ』と行かれてしまうからな——吾らは」




 筋道を教えられた者でも謝意に振られる稲妻の髪。

 去る二者である一柱の老神は先進知識による助言ちょっかい、またある柱は変装しての即売に走り——残る老婆は三位の自作と向き合いながらで"大敵たいてきへ注意"も払って、時を過ごす。


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