『矛盾の女神②』
『矛盾の女神②』
『まさしくの"お礼参り"。彼女ならば私が不在となる
『どうぞ。息抜きも兼ねての"小旅行"。
『勿論、節度を守って』
————————————————
そう言う訳で。
更にはアデスが『
「……この先に『グラウ』さんが?」
「はい」
"戦神襲来"という前回の有事で助けてくれた礼を言うため、その"盾を貸し与えてくれた女神"を求めて森を行くルティスとイディア。
先を行く美神の導きで現在地は都市グラウピアの近く、聖域として辺りの人にも知られる"
先述の通りで『返礼』と『小旅行』も併せて『後ろ盾を頼む』意でも既に
加えて、恩を感じる青年が『良ければ料理を振る舞おう』と当初は考えていても『彼女はそういったことはあまり』とのことで、よって背負う袋で持ち物も少なめに『話をしてみたい』との要望に応じようというのが今日の歩みである。
(……あの都市も大きいな……)
空の機嫌も今日は良いようで、上と横からの青色は
傾斜に生える樹々の緑を行きながら。
横目で見える景色の内に穏やかな海と、その恩恵を受けて近場で栄える大都市を眺めながらの
「あの時の自分に"盾"を貸してくれた……イディアさんが尊敬する方?」
「そうです。私が
「身の安全を護ってくれているという意味でも、見識を深める機会をくれたという意味でも——
「女神グラウの下で私は数十、数百年と時間を掛けて過ごし、彼女の助力で
両者、歩きながら。
始まった会話を楽しみたい美神は僅かに進行速度を緩めて友の斜め前へと位置を調整。
誇らしげに見える表情、虹色の髪は黄緑だ。
「取り分け、"未知を既知へと置き換える"
「それは
「実際、幼い頃よりそうした経験を積むことが出来れば、知らぬものを前にしても学習の道筋は見え、"
「その謂わば、"知識を得る方法"を私は早くから学べた」
「己が何を知らず、また知ろうとして」
「先ず知らんとするためには何を、どうすれば良いのか」
「知らぬを学び、"知ることの重要性"を——私は、彼女から教わったのです」
その柔らかな笑みは喜色。
饒舌の語りは慕う者たちが顔を合わせることへの期待ゆえか。
「その学び、己でも培った知識獲得の方法論は
「また貴方のような『他者に優しく在ろう』と努める素敵な方との出会い、その行いに示す興味も以前から湧き立たせ——今日のような日を現実のものとしてくれたのです」
「——と、弾む気持ちで長々と語ってしまいましたが……兎角」
「女神グラウは私がする『美の探求』、その"起こり"を担ってくれた私にとっての大切な——"尊敬する方"なのです」
要約する語気も確かに弾み、その女神としての発生当初を思い出して浮かぶ美神の微笑はあどけなく。
"既に彼女が千年を越えて生きる"という事実を見る者で忘れさせる程であった。
「ではまた……今のイディアさんが優しい、素敵な方である——その基礎を固めてくれた方、という?」
「ふふっ……そうです、そうなのです! 我が友……! 私にそうした在り方を自身の言動で示してくれた、きっと貴方とも気の合う『優しい方』だと私は考えていて……」
「……そう聞くと自分も、今からお会いするのが楽しみになってきました」
「えぇ、はい! 楽しみです……!」
(……本当に嬉しそう)
因りて、つられて笑み顔となる青年でも心は軽く。
盾を貸してくれた女神で、けれど『収奪戦神ゲラス』と同格に語られる『戦争』及び『破壊』の神への
(それに、イディアさんがそこまで言うんだから……——"大丈夫")
(やっぱり、ただの悪いような方ではないはず)
以前に聞いた話では少し怖いような気もしたが『信頼する友の大切に思う存在』ということで、まだ見ぬ相手へも一定の信頼を胸に。
(いや、それ以前に……自分の方こそ失礼がないように気を付けよう)
安易な先入観や決め付けで相手を傷付けてしまわぬよう『慎重に言葉を選ぼう』とも考え続けて——話もそこそこに進める足。
(——……
鬱蒼とした森林に差す木漏れ日。
自然と口を閉じさせるような
周囲には
「……大丈夫です。我が友」
「……?」
「彼女の周囲、女神の有り
その野生環境をイディアに囁かれるまま。
かつて獣の王たる神獣を優しく調伏したことで獣たちから奇妙な眼差しを向けられる神秘的な空気の中を、そうとは知らず。
されどの誰も
「
柱の如きそれ。
四方八方に巡る根が大地を支えて天井となりし
「——神よ」
「予告の通りに参った者。我は
「……では、"横におわす者"が」
「はい。今より
女神イディアの声を受けて、反応の
「……心得た。暫し待たれよ」
「はい」
「念入りの調整を終えてから動きます」
「
地下の暗中にあって恒星の如き浮遊の光は
(……彼女が……——)
瞑想に
覇気を振り切って、若者たちと同じ地平に降り立つ威容。
全身には
(——ぐ、"グラウ"……さん?)
背丈は並ぶ長身の美女より高く。
兜から縦に伸びる耳の形と腰元から落ちるふさふさの尾で毛髪は銀、更には両腕から伸びる爪の如き鋭利が思わせるは"
その"鎧をまといし獣"が如き様は何をせずとも
「かねてから話は女神イディアより伺っておりました」
「……"詳しい内情"までは話していません」
「あ、ありがとうございます」
「それに、彼女も大変に思慮深い神ですので……大丈夫ですよ」
初対面の極神を前に硬くなる水はイディアに耳打ちをされて、深い瞬きで挨拶の為に作り直す顔。
先に友好(?)の意を示してくれた相手の姿勢を確と目に焼き付けんとし、それでも"見覚えのある物"を発見して止まる視線は光神の右腕に注がれる。
(あれはもしかして……"あの時の"——)
「私の"これ"はお役に立てたでしょうか?」
「……!」
「『物は使いよう』とは良くぞ言ったもので、貴方の身を無事に護り通せたならば、我が光栄の至り——いえ。それより先に、私から始めた挨拶を切りの
女神の両腕に添えられた盾は鋭く。
やはりは色味も戦場の冷徹を思わせる銀で、青年が使用した時よりも『矛』らしい
以前に川水が渡りに際して借り受けたものは一つであったが今では左右に同型のものは見え、その一対の光輝もまた"見えざる無敵"の一種なのだろう。
「失敬であります。
「故に再度、改めましてのご挨拶」
その神は[> <]から[ _ _ ]、果てには目尻の
「お初にお目に掛かります」
「私が女神イディアの言う"指導者"……に、一応は当たる女神」
「名を、『グラウ』と言う者です」
"破壊の神格"でもある彼女は努めて言葉も世界に表すのであった。
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