『エピローグ 前編』
『エピローグ 前編』
星の輪郭を臨む場所。
水で青き惑星より突出する槍の如き、柱の如き最高峰の
『——"む"』
その成層圏に打ち付ける"波"は神の"
不可視の渦より吐き出された光の神——『ゲラス』の、重厚なる身が近くで落ちる音。
『…………おぉ——これは……』
また音を聞き付け、同じく波を発するのは光。
動き出して神殿の中より出でる
"その者"——今は喉も口も持たぬが故、"自らの玉体そのもの"を震わして波を、作りし。
『——これは、これは……』
『光よ——神よ』
『
親を楽しむその球、その光。
それはまさしく"悪の親玉"にして——なれども"善の起源"。
忌むべき毒持つ親としての己を自覚し、それでも尚に"自他の嘆きさえ楽しむ邪聖の神"は。
『見目麗しく変わらずとも——失われし輝き』
先に『こ』と呼んだ戦の神に向かって漂い、道すがらで——"光の輪っかを三つ"。
光球である自ら、その一つを潜れば——二本の
『
『
二つ潜ればその人型。
内に宿す満点の星空——"
『今や
仕上げで三つを潜り抜けたそれ。
三つの光輪を通る中核の光跡——それは横倒しとなった『王』の字が如く。
『
『やは——/——ん、んっ"……——"うむ"」
喉も含めて"肉"を編み、固めた己で"新たな真実の体"を獲得——姿を顕す神性。
「……やはりは"闇の力"——我ら光にとっての脅威」
「
「吾が『
「——……"いや"……」
「『
「——『アイドル』にして『
「『
「女神——『アデス』——ッ!!!!!」
喉や口は勿論に声帯の試運転も兼ねて張り上げる声は
半ば場の思い付きで言葉を選んだその者、その神は——倒れ込んだ男神と"よく似た威容"。
仮に並び立てば人の誰もが『親子』か『兄弟』だと見るであろう——丁度戦神の顔に十年程の歳月を付加したような肌の引き締まる重みが血縁の窺わせる——しかし
目に見える形で顕現を果たした者は、そのまま——。
「——っ"……、ぅ"ぅ……! 、っ……ぁぁ……——」
光を纏う神々しき身と腕で倒れ伏した神を抱えての——"
「……なんというっ……"
頭頂部に稲妻の形を立てた銀の髪。
やはりは揺らめく銀炎の如き己を小刻みに震わしての"啜り泣き"にて——。
「……なんと、いう————」
神は——叫ぶ。
「————"
溢れる光の粒子は天の落涙。
連動して世界、地上全土に降らせる豪雨。
時に命を潤いで救っては、時に命を飲み込み殺す——恩恵も災害も神の力。
"戦時の行方不明から生還した覇王"の——その事実を喜んでは。
また帰還の後で悪政を敷く魔王に挑んだ事も合わせての『称賛』が——鳴り響く。
「熾烈な大戦、生き延びて」
「"消滅"の疑いから舞い戻った
「しかもその先で狙うは更なる"神殺し"——"王殺し"! ——『
「フッ……——ハッハ!!」
「『王道』が過ぎるぞ、神よ!」
「やはりはお前も『王』か——『覇王』!!」
歓喜の色で唄い上げて。
言いながら、一糸纏わぬ何者か。
「自らの
「お前の挑戦は吾にとっても"夢の道筋"——"王の
「……しかし——」
立ち上がる。
「此度、お前に"それ"を果たすこと——叶わず」
「吾が思うに……お前は——『真面目が過ぎる』のだ」
「自らの存在をひきつぶし、揺らぐ粒子となって世界に隠れた光の神よ」
抱えた腕でも男神を持ち上げ、伸ばす膝。
「現宇宙、お前以上に"神らしい神"も少なく」
「より"遊び心"を……とまでは言わずとも」
「それこそ——"不真面目"にも己という
「……」
自らが『むすめ』と呼んだ対象の——その時の『女神グラウ』の
「……兎も角——」
「
「吾は決して——嫌いではない」
慈しみを向けても腕中の対象は変わらず。
魔に討たれて沈黙する柱を抱えての——歩き出し。
「今は
「なにより今、こうして『存在を容認している』こと、それ自体が——」
「"変性した世界"の、創造主たる我ら大神の注ぐ——"愛"なのだ」
付加された呪いの重みごとで美丈夫の巨躯を支えながら。
しかし、右に左にと。
同じく美丈夫で前に向かって出される脚。
その長脚が付け根——人で言うなら『秘部』に該当する部分を"自前で発する謎の光"で包んで。
神は"
「既に、"吾が万華鏡"は失墜したお前の——"新たな無限の可能性"を夢見ている」
そうして、止まる足。
眼下に雲海広がる——山頂の
「数多の禁忌制約も——丁度良い"転機"となろう」
「果たしてお前がどのような"変化"を——遂げるのか」
「——至るのか」
「どのか細き未来を——掴むのか」
独言りながらで動かす腕は、平然と。
自らの作品を抱えたその腕を下に、傾け。
「——"頑張れ"」
「"頑張って——みせよ"」
崖下に。
ゲラスという直系の神を——
「……"衰えを知る"」
「故に我ら——老いを知らず」
「『老い』さえ置き去りにする神域の速度」
「まさしく『おいつけぬ』神速に乗って"劣化"さえ"変化"に——"進化の兆し"として迎え容れようぞ!」
「止まらず、また止めること叶わぬ"永遠の挑戦者"……!」
「我ら『神』で共に——"果てなき
落下して行く自作を前に——唄う、高らか。
終始気絶で無言の戦神はその間も『折られた剣』たる玉体を山肌に幾度となく打ち付け——起伏の段で階段を転がるよう落ちて——敗者を飲むは白き雲海。
「……"急げよ"。
「いや——今は只の神」
「"若々しき老兵"よ」
その転落の様子を見送った神の光顔。
寄せられた光の粒たちが頰を伝って妖しく歪められた口元を経由して、霧散。
「……加えて再出発の、"変化"の時とも分かり易くする為——」
その後は『追加の着想』で戦神の体へ——目よりの光線を追い打って、浴びせ掛け。
「吾からの"餞別"も——与えておく」
そうした身を焦がし、実際に形を溶かすような神の温情で以って"一つの激励"が終わりとなった時。
「そして」
「"
涙のような何かは打ち止まり、神の晴れ上がる表情と連動する世界。
掛けた声に合わせて一頻りに降らせた雨は止み、忽ち星の全天に広がる快晴の空。
「『何方に転んでも良い』と」
「『あわよくば不死の法を再建しよう』と静観を決め込んでいたが……うむ」
辺境でも夜を払い、明けの光で見遣るのは。
「……
"この神"でも見通せぬ未知の領域——所在不明の暗黒世界。
「実に"見事"だ——"渡りの川"よ」
透き通る自らの玉体を『レンズ』として指先に集める
集めて作る——陽光。
「
「"誰もが永久機関"の——我ら共に生きるこの世界で」
「夢の破れることを知らぬ永遠の夢想家」
その指が示す先——女神が護りし都市ルティシア。
「自立した神の、新たなる誕生を——祝す」
そうして間を置かずに収斂の光——発射。
その天よりの祝福が降り注ぐ都市で掘れば直ぐに岩へぶつかる三等地は一等地に——いや更に上の"
邪魔な岩という岩は砕かれ、栄養となる物質に置換。
また直ちに神の威光により、既に飢饉を経て育ちの早い作物が新しく植えられた畑に品種改良の波は突如到来し、『もりもり』と足早に芽吹く何かの芽や茎や葉——放置されていても半ば自動で実りを約束されし作物。
その異様な光景を目に、朝早く畑で作業中であった人間は急に生えだす植物たちに驚いては泡を吹いて転倒し、傾く後頭部を
「……そう——『生誕こそは祝福である』」
「川水が目指すもの——都市の……"守護神"?」
「"いじらしき命"に寄り添う……"いじらしき神"」
「……成る程、組み合わせの美学」
「"同様の神"と——"我が
腕を組み、想うのは——"棄却された
分析・思案の対象はその片割れである新米女神の"青年"だ。
「非力ながらに吾が有望の未来視を覆してみせた決意に行動——評価に値する」
眼光の向く先を都市から川に変えての訝しみ。
「ではしかし」
「その決意・決行を導いた——"動機"とは?」
「突如として消えた存在——恐らくは冥界に立ち入れた——"その理由"とは?」
「……既に算出し終えた予測、
瞑目で瞼の下、走る電光。
「巧妙にも『新世代』という吾が奸策に便乗したのが彼の戦神であった……それはいい」
「だが、未だ晴れぬ謎多く。今に問題となっているのは——」
「吾やお前たち——関係者であるアデスやゲラス以外の『何者か』が女神ルティスという神に"別の文脈"を——意図を載せているということ」
「その由来、辿り着く先はやはり『大神』か——『否』か」
潜む敵を探すよう——鋭く背景の宇宙へ右往左往の目配せ。
「"後者"であったとすれば災厄も災厄——"世界の根幹を揺るがす事態"なり」
創造の神を出し抜かんとするは何者か。
紙の
「それは……『暗黒神』によるものか?」
「原初の女神は自らに向けられた水の
「却って反撃の
「でなければ女神の象徴たる奴——『アイドル
「知らば既に他の柱が黙ってはいない——吾を含めて」
「……しかし、その場合。
「際立った"特徴"、何かしらの"要素"や"魅力"を新顔の女神が有することになるが……果たして」
「……どうであるにせよ——"
「渡りの川よ。お前は一体——」
「——何者だ?」
「…………不明の
「なれど——
一通りを言い、崩す腕組み。
「それ故に、愛さぬ理由はなく」
「無謀な挑戦に向かい、自ら背を押した者よ」
「お前の輝ける世界は今——此処に」
前に掲げる光の両手で詰める距離。
左右の其々で伸ばしきる人差し指と親指の生む直角は対角に配置され、指先合わさって形を現す一つの長方形。
次に、光を操る神はその四角を己が視界に捉えたまま——"パシャリ"。
瞬き一度で川を撮影。
そうして眼下から切り取った自然の風景を一枚の写真として手に持ち——輝く眼差しや光や電気によって川水の——"奥底にある内情"を覗こうと試みる。
「"追い込み"というこの時機での"滑り込み"」
「"意味深な不確定要素"について一つ、探りを入れておきたい所だが……——」
しかし、手にした写真は見る見るうちに。
撮影者の意図に反して"漆黒"で塗り潰され——黒炎で燃え、"余計な詮索"は塵とされた。
「……こわやこわや」
「『正面からの正攻法以外に
「そう言いたいのか——暗黒神」
「『
「『未知を知りたくば——来たりて取れ』と」
だが、暗き宙を背景。
邪魔をされても——いや『故にこそ』一層に燃え上がる白銀の光炎。
「……フッ——いいだろう」
「降りて臨もう、好敵手!」
「間近で我が存在、危険に晒してくれる! 精々に首を洗い、待て……——」
自らの首を撫でた後に襟を正そうとしての動作。
けれど何をも摘まぬ指に神は——自身が無防備であることを今になって思い出す。
「——……いやしかし、折角の寝起きだ」
「その前に先ずは『どの顔』・『どの装い』で行こうか……時の移ろい・流行りを確認しようぞ」
「『お洒落』を好むのは吾も同じ。共通の話題は弾む
「……うむ、うむ。そうしよう」
「そうと決まれば……クックッ——」
そして、対等に張り合える相手がいることに強熱で、再会を待ちきれぬ想いは笑いの声となり。
「……クックックッ! フハハハハ……!」
「——フォハハハハハハハ!!!!」
「そうだ! いつ、いかなる時も——」
「世界! どのような状況であろうとも——!」
「明るく——楽しく行こうではないか!」
情動に合わせ、激しく波打つ眼光——神の瞳。
「今こそ来たれり——"神判の時"」
一対の"左"では——
「さあ——さあ!」
「始めようか——!」
残る"右"でその色は——"宙を流れる銀の河"。
即ちの
その神秘の眼差しが"照らす未来"に神は"何を見ている"?
「決めようぞ……!!」
「この
「"
「——む!」
だが、口上これからという所。
無限の光を表す三つの光輪と、その間を貫いて立つ柱——やはりは象徴たる『王』の字形をした神殿の前で神を遮る声。
「"我が王"————!!」
「この
"視覚外"、背後から迫る"光速の体当たり"。
それは攻撃ではなく抑えきれぬ愛情の発露で、独りごちていた神の顔面を目指す抱擁の予備動作であった。
「誰かと思えば——ラシルズ! 吾が
「はい! むすめのラシルズです!」
「……いつから此処に?」
「数百ぐらい前からです。王の昂りを感じて急ぎ、目を覚ました次第です」
だが"光速の突撃"——既の所でひらりと躱され。
"ほぼ同時に"腕で首根っこを掴まれた"金髪二つ結びの長身女性"——『ラシルズ』と呼ばれた女神は玉体を宙吊りにされたまま威勢良く問い掛けに応じる。
「……では、要らぬ震動で起こしてしまったか。それは悪いことを——いや、違う。そうではない」
「?」
「そもそも
「——♪」
「話を聞かんか。ニコニコと可愛く惚けても無駄だ。吾は甘くない」
「"一帯に張られていた防壁"、それを『お前はどうしたのか』と聞いて——」
「"壊しました"」
「……」
「"破りました"」
すると娘と呼ばれた女神、勝ち誇る二つのVサイン。
その得意げな顔に対して眉を顰めて辟易するのは彼女の大元たる神であった。
「……簡単に言ってくれるが……
「故に例え"天才"であろうと
「あの暗黒女神との呪術合戦で鍛えたので」
「……あぁ——"あれ"か。『暑中見舞い』だのなんだので"時節の品"として贈っていた『呪い詰め合せ』のあれか」
「そうです」
「あれで呪いの技を磨いたと?」
「はい。これも
「ですので——褒めて頂けますか?」
「……」
銀の神は無邪気にも褒賞を強請られて『どうしたものか』と当てもなく移す視線。
星へ、銀河へ——目前のラシルズへ。
そうして十中八九『暗黒神によって遊ばれている』、若しくは『利用されている』にも関わらず意気がって褒められることへの期待に表情を綻ばせる女神を見て、取り。
「……まったく、仕方のない」
渋々に漏れる溜息。
均整の取れ過ぎた巨躯が腕を動かし、首元から掴んでいた女神を床へと下ろしての砕けた語り口。
「『吾なしで立てずして何が柱か』——その"自立促す為"、お前という女神を野に
「我が王は"不滅"ですので、何も問題はありません」
「そういうことではないのだが……」
「……はぁ」
「この、開き直ってからに吾が娘よ」
「えぇ?幼年期最長記録保持者。
「! お褒めの言葉、有難う御座います……!」
「……今のもそういうことではないのだが——……うむ」
「これはこれで我が理想。それはそれでまぁ善き
「ならば思うままに、
「はい! 我が王の仰せの通りに!」
「うむ!」
問題が有耶無耶のまま、けれど今一度向かう先を同じくしようと神と神——光の親子?
並び立つ金と銀の彩りは晴れやかにして豊麗なるが、先から言い振る舞いで性質を二転三転させるような『王』と呼ばれた神は——それ故に"不気味"で。
「——
「今より吾は当世の流行、その調査に出掛け、予想よりも早くに防壁を突破して才覚を示したお前にはその褒美として——
「! な、なんと……! 有難き幸せ……!」
「
「はい! 我が『父』にして我が『母』、『夫』にして『妻』——」
「我ら無限の熱を縛る
「その聖域に踏み入っては
「"絶対"! "無敵"! "最強"——!」
「無限膨張宇宙の化身は王!」
「世界を統べる我ら神々の——"王の中の王"!」
「我が王!
「
「お、おおぅ。なにやら急に突然、滅茶苦茶に説明してくれるではないか」
「はい! 久々の謁見でしたので熱の高まりを抑えきれずに、つい……!」
そう。
川や山、海や大地、戦いに美に。
それら特定の現象や概念といった『世界の一部』としての化身が『神』ならば。
『大神』、それは——"大元そのもの"。
かつて存在した世界が圧によって変じ、今で意志を持つに至ったもの。
その体内に含む要素は数知れず、
「そしてまた見ない間に変なことを覚えおって……
「私がそう思ったのでそうなのです……!」
「……こわや〜」
そうした大いなる神、その内が一柱。
"無限に空間を生み出し続ける永久機関"。
"かつて放たれた初手の奥義"、"悠久の時を経た今尚も持続年数及び射程を伸ばし続ける"——膨張世界。
その化身、それ即ち——インフレーション。
有限を強いる各種法則も太古として
今も昔も、"全ての生命が其々一つずつに永久機関を有した無限世界"の代表者が今——此処に。
「……寝覚めも良く、功績を讃える意味でも吾直々に
「——!」
「
「そ、そんな……! ご、
「どうしたものか〜?」
「わ、分かりました! 謝るのでゆ、ゆるじてください……!!」
「——ッハッハ! 悲嘆の色見たさの冗談だ、許す。それよか狙い通りに表情の作り良く、また面白き故——」
「先ずは今日の『欲さんとするもの』を——」
「『年下のお姉さん』!」
「ほう! 中々に中々! だが、"吾"の手に掛かればその程度——」
「いえ。自身を呼ぶ時は『ボク』。他者を呼ばんとする時は『キミ』の——『ボクっ
「全く……キミも手の掛かるヤツだ。けど、それに正面から応えてやるボクの方も大概——か……フフ」
その世界最強、声色変えて。
今は母娘で仲良くにショッピングへと——出掛けよう。
「……そう。
「いぇい!」
「
「そうだ——『お姉さん』に『お兄さん』。『ロリお婆さん』に『ショタお爺さん』」
「また『究極の
「
「因りて、ありとあらゆる
————————————————————
斯くして。
獰猛なる牙や爪を過去・未来・今の日々に研ぐ神々の虎視眈々——権謀術数という導火線が張り巡らせられた、
何故か不幸にもその危険な只中に転がり出てしまった一匹の仔猫が如き未熟の存在——渡り川の女神ルティスの出現を機として王は新たな動きを見せ、他の神々もまた——それぞれの思惑を胸に邁進を続ける。
ある者——全知に向かって手を伸ばし続けるが故に未だ知らぬ紫ゴリラの生態を知ろうと。
起きたら先ずはその握力測定から学びを再開しようと心に決め、けれど枯れた学習意欲を貯めるための休眠。
またある者——男神プロムは知友であるその知識神を眠りから覚まさんとして『"崩御"の可能性あり。起きてもらわねば困る』と。
学術都市の奥底で神の眠る資料室の戸を叩く。
ある者——緑の髪を
女神は特段珍しくもない多年草を眺めながら、風を受けて何処ともなく当てのない旅に出た
数多の命を育む今の星で。
"馴染みのある水"に親しんでの、静音のひと時。
またある者——
壁一面と床一面に回路の走る空間、"機械要塞"とでも言うべき自作の中。
其処にいる者の立場を考えれば中心に据えられた座椅子、やはりの"玉座"。
その座った己自身を動力源として形の明らかな物質・潤沢にして無限の資源を生成しながら——網膜に投影した秘密の(都市開発)計画書を眺める意味深の笑み。
夢見の虹彩は暗い海を連想させる青のようでも、また豊穣の黒き土のようでもある
耳の上で妖しく煌めいてみせるのは飾りの如し"三つの先割れ"——『
————————————————————
そして。
この星で真っ当最大級に発展した人の都市。
守護の女神を主神として祀る大都市『グラウピア』では——。
「「「「「「"————————!!!"」」」」」
重なる——
人々、半神、獣たち——都市の壁外で響く戦士たちの声。
周囲には『戦神』の
其処で既に戦いは終わり、半神を中心とした一部の人間たちが降らせる局地的な雨の放水。
戦場に水の降り注いでは熱線を受けて壁に起こった火災の炎を弱め、血と肉の焦げる匂いを過去のものへと変える頃——。
「——、—、、——」
一方、都市から少し離れた——森林。
鈍間な歩みは最前線から離れ、辛くも落ち延びた怪物の一匹。
「、、——、——」
息も絶え絶え。
倒れこむようにして辺りの大岩に身を任せ、けれど力を振り絞って持ち上げる片方の鋏は——『一つでも多くの命を殺そう』と、『奪おう』と。
虫の息で"自らが生まれながらに課せられた宿命"を全うしようと、意識の根幹を成す衝動のままに都市へ向けて開く鋏の刃——間で溜まり行く熱。
「——、—、、、————!!」
誕生初期でない成熟した怪物——収奪戦神の被造物が放とうとするは"最後のあがき"。
間もなくに決死の攻撃は光線となって数秒後には都市の誰かを消し炭に、術師たちが張る護りの膜を貫通して何処かを焦土に変えるのだろう。
「"…………"」
放たれた光線の先、射線上に——"彼女"がいなければ。
"女神"という揺らぐ光の柱が立ってさえ居なかったのならば。
「……」
故にそうして、殺意の光が都市までに光跡を描くことはなく。
怪物の放った光線は障害物たる柱——女神の背によって阻まれ、"燃え上がる赤と青"——溶けて混ざる"紫の光炎"に飲まれ、消えた。
「——、—、 、……————————」
怪物では、その全身全霊の技が無力化される様を見届けず。
全ての力を使い切った命はただ静かに、穏やかに。
引き取る息で意識——沈み行くのは永遠の眠り。
「…………」
すると間もなく周囲一帯、『最早用済み』と払われる火消しの雨雲。
空の灰色が去り際、降る冷雨の下。
雨中に在って一滴の雫さえ触れられぬ"強熱の獣"——"狼めいた耳や尾を持つ大鎧"。
「……」
左の腕に"星光を象った
足の爪先から頭頂部まで、全身を鎧に包む守護の——"戦いの為に最適化された神格"は何を思う。
"殺戮の為に生み出された
「……——」
「"————"」
その思いも、呟いた言葉も。
誰にも窺い知れぬ、理解しきれぬ——"彼女だけのもの"。
大戦の終結した世界を生きる『戦争』・『破壊』の神"で玉顔の表情、"
「…………」
眼光の動きを表示する
"青味"がかった『青白い』とも形容される"灰色"の虹彩が——孤独に、天を仰いでいた。
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