『第二十七話』

第四章 『第二十七話』









「——————"はあッッ"!!!」









 発気はっき——爆風によって払われる水霧すいむ

 "それ"は、大神の熱の前ではあまりに儚き物。





「……はぁ、はぁ……っ——!」





「——く、くく……っ! ハッハッハ——ッ!!」





 光の球体に暗黒が飲まれ、周囲をその残滓ざんしたる装甲の灰燼が舞う中。

 "戦いの神"は高らかに、唄う。





「大敵を飲み込みしは"光"! ——"我が力"!」





「爆ぜて散るは"暗黒の花"! 原初にして最強の魔王——女神アデス——!!」





「くっくっく——! フッハッハッハ……!!」






「——フォ"ハハハハハハハハハ!"!"!"!"」






(…………っ——)






「残るは灰と化した女神の残滓を掻き集め、その一切を焼べるまきとし——更なる『王殺し』に燃えるのみッ!」






 揺らめく気炎でさえ笑い、暗黒を爆散させたゲラス。

 されど、警戒は怠らず。

 燃える赤で戦後の索敵は領域の端でくすぶる"青き柱"を尻目に見る。





「実に無力であったなぁ? ——"細葦青二才"」





「う…………ぁ……っ"……」





 冥界銀河に浮かぶ虚ろの碧眼。

 当面の力を使い果たした息も絶え絶えの青年女神——ルティス。





「言っただろう——『小水風情に何が出来る』と」





「……、……、、」





「格差歴然。『焼け石に水』どころではない」


「お前の全身も、全霊も」


「只の一滴でさえ——"神には届かぬ"のだ」





「"オレ"という——"新たな無限光"には」





 想ってくれた女神たちに護られ、辛うじて五体は健在なれど奮闘も虚しく。

 ルティスが全力で放った水竜は神炎の剣によって鎧袖一触——"征伐"をされた。

 練りに練った彼の柱の言う通り、——『川水』の青年では『光宇宙』に大した損耗を齎せず。





「唯一お前に出来たことは……そうだな——」





 暗黒の柱が失せた冥界。

 安堵を得たゲラスは残る水を処分の前。

 無謀にも一応は『戦ってみせた』、そして『足手纏い』となってくれた青年へ送る言葉。

 探す褒賞それは宛ら——『冥土の土産』と言った所。





「精々が——"しずくの一つ"」





 誇顔ほこりがおで。

 常に"莫大な熱を持つ手"を振り、同じく自身の"超高熱の肌"を払うような仕草。

 上記の理由が故、世界に生まれてから只の一度も汗をかいたことのない————自らの光顔近くへ寄せる、輝きの指は今。





「"たったの一滴"」







光神オレに、の————」







 極みの神——"無意識の最適解"。

 ゲラスは自然と気に障る頰の——






「————"!" ——————"!!?"」






「馬鹿な——"水"、だと——ッ!」






「"光の神"たるオレの——玉体に——ッ!?」






 水を掛けても消えぬ炎は神。

 しかし、"炎に炙られても気化せぬ水"——戦神が驚愕するのはそれだ。

 "異様な光景"だ。





「——"爆熱光輝の玉体"に! 水の、触れられる訳——が————!」





 表面温度で熱を上げても蒸発せず、拭った手の指先で付着して離れようとしない"液体"——それは"流動性を持った物質"——





「——! "これ"、は————」





 しかし、

 戦神の下がる隆腕。

 指の上で物質、水の一滴にしては余りにも





「——"違う"! "そうではない"!」


「これが——"こんなもの"が水であるものかっ!!」





 その超常の重さは同じく似た性質を持つ『流体の水』に——『流体?』によるものであった。

 つい先刻、——『髪留め』であった『何か』であった。





「これは液体であって——いや! "流体であっても水ではない"!!」





「これは——この、"色"は————!」





 光で炙られてその透き通った青色は濁り——水の擬態ふりを解除。

 忽ちに"色を失う"かつての髪留め——今の流体で代わりに浮上する色は"暗色"——"黒のよう"。






「"光の返らぬ"——"暗き色"」






 既に片腕の『ひしゃげた』神。

 直ちに圧殺から超光速で逃げねばならぬ。

 重力圏に捕らわれた半身を切り捨てねばならぬ。






「"暗き黒"の——"未知"——」






 しかし、"届いた一滴"は既に。

 擬態して蝕むは既に——"勝敗の明暗"を分けていた。






「——"謎の物質"」…"』






 のだ。

 のだ。

 神は——







の、————」■■■……"』







 重圧で作り変えた世界、回避に必要な時空を限定。

 補足した熱源を前、引いた左手を一切の躊躇なく突き出し——。






「"…………"」

「貴、様————」






 神の前『足』、即ち『手』に『纏い』付くそれ——

『水差し』・『裏切り』・『足手纏い』の"策"。

 深々と差し込まれた"大神の刃"。

 光輝玉体を貫く"魔王の左"によって——"師弟の策"、此処に"完遂"。






「「"————"!!」」






 そして光の振り向きざま、最後の攻防。

 それぞれ一対の赤き炯眼、瞬き。

 再びに至近距離で衝突する邪視と邪視——魔眼と魔眼。

 だが、致命の有効打が決まりし今、その勝負を制する者は当然に覇王——ではなく。






「————"!"」

「——ぐ——がぁ、ぁ"ぁ"ぁ"————ッ!」






 結果。

 魔王の邪眼圧力によって罅割れる夢見の光。

 戦神の瞳で輝きは砕け散り、"明光"もまた彼の者より失われた。






「"ぁぁ"——"ぁぁぁぁぁぁぁ"—、"ぁ"———"ぁぁぁぁぁ"——?!! ——!!! ——! ——」






 その目や口より溢れる光は激しく明滅。

 玉体は痙攣し、体内で握られた魔王の手が目当ての力を吸収し終えるまでの狂気。






「——!、! 、、—、————」






 ふと、意識とともに沈む動き——光は、薄暗く。






「————————————————」






 象徴たる輝きを失い、敗者——沈黙。






「…………」






 その間も獲物に刺し込んだ手を放さなかった女神は冷厳の色。

 五体確かな小玉体は竜鱗の如き暗黒装甲、及び黒い長髪のようでもあった蓑を脱ぎ捨てた軽装である。

 そうした彼女の変化は状況から察するに、戦神が放った渾身の一撃を凌ぐため——"熱"か、"爆発"か、何らかの"反応"を引き金として瞬間に自ら"装甲"を吹き飛ばして破棄することで損害を——。






 いや——正確な仕組みや理論は"分からぬ"。

 分からなくても構わない。

 "知らずとも"、それで良いのだ。






「…………」






『暗黒権能』——唯一大神の司る『暗黒物質』。

 その本質、正体は——。


 ——

 ——なのか?

 ——なのか?

 ——上述のなのか?

 ——いや、なのか?

 ——将又、のか?


 何が『真』だとも『偽』だとも、漆黒の担い手は明言をせず。

 そして断言もせず、秘されているからして——"未知の神"。






「…………」






 確固たる決意での黙秘。

 真実を覆い隠す暗黒の神——『魔王』は今、此処にいる。





「…………——」





 刺し込んだ左手から奪われた神格と権能——奪還。

 同時に敵の力、その殆どを奪い取って極みの戦神を無力化。

 用が済んだ左手を抜くついで、気を失った神の陰る玉体を辺りに投げ捨て——まばたきの後、瞳に浮かぶ数多の十字。

 女神は己に似つかわしくなくとも暗色の赤で光を再浮上させ——『冥界』及び『死』と——そして『その先の夢』を見続ける。





「——…………」





 そうして十全の力を取り戻し、小玉体。

 右の手中に収めていた戦神渾身の光球、握り潰しての瞑目。

 死者の魂を守り、自らの弟子を守り。

 また超光の神に対処しながらも守り通した世界に神格は再び創設者の元へ。

 それら全てを並行にこなして、女神——宙に立つ大神は。








「失せろ。覇王」








 今し方の喧騒が嘘であるような寂寥せきりょう世界。

 魂の眠る終極の地で未知の力は神を討ち——。






「お前の齎す『破滅』も『終焉』も——が描く『理想』には程遠い」






 悠然にて、魔の王。

 "邪魔者"の口を閉ざしてからの荘重そうちょうなる宣言で以て極神戦闘——此処に、『終戦』と相成るのであった。






「世界に終わりを齎す者」






は光でなく——"闇"」






「"私"という暗黒の神が、この宇宙を——」







永遠世界えいえんせかいを——閉ざすのだ」





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