『第二十六話』
第四章 『第二十六話』
(なに——が————)
気付けば触手に掴まれ、守られ。
渦への急速落下で爆発の中心から辛くも落ち延び、一応の事なきを得て——冥界師弟。
「……!」
だが爆風衝撃、その全てを殺すことは叶わず。
退避先とした渦中より押し出される形、再び冥界への現出は勢いよく。
「——! ア、デ——」
『我が影より——
「!」
後ろ手に添えられた師の右手が離れる感覚——間際、青年の脳裏に響く"命令"。
(まだ——)
神の
自らの置かれる現状を察し、ルティスは右腕の輝きを剣でも銃でもなく、防御特化の盾に再度切り替え——沈黙。
用意された暗黒土台の上、背を向けるアデスの後方で屈み——"次なる指示"までの待機は今。
(——終わってない……!)
態々に覗き見ずとも師の背中越しに伝わる波動。
周囲では薄暗き世界に溢れんばかりの光——青年女神の座する暗黒神の背後にさえ、熱を携えたその線は伸びて。
「"…………"」
暗黒魔王の見据える先——尋常ならざる光の源。
「お"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"ォ"——————!!!!!」
惨烈にして鮮烈の輝きは組み合いの窮地から脱した戦冥大神ゲラス。
吠え、自傷部位から新たに生やす獣の手が伸びる光の爪で以って交差に引っ掻き、切り裂さかれる空間。
その次元切り口から漏れ出る破滅の光——"網目状"に張られて進行を始め、だが隙間をなくして視界を埋め尽くして迫る『光の海』が如きは——"一面に広がる
「…………」
その攻撃対象とされて、退かぬ女神。
蓑を翻す漆黒で左手に携えられた渦は周囲の背景色さえ巻き込み、織り込んで——描く"螺旋"。
「————"!"」
真正面に突き立て——"暗黒の槍"。
穿ち、割るは光の壁——なれど。
「————"!!"」
海の開けた先は——おぉ、なんたることか。
「"
「——"
無限光輝の玉体より溢れ出る神気が、闘気が。
柱を中心として赤に、銀に、白に——眩い色を混ぜ合わせているではないか。
具現化された覇気、それは燃え盛る光の炎——拡張された冥界を埋め尽くさんばかりの"渦巻き"。
巻かれる光の奔流が集う、赤熱の波の只中で逆巻く紅蓮神格。
練り上げる力に恒星の如き"一つの巨大な球体"としての形を与えるのは——戦の化身にして覇王の極神。
「だがそれでも——『避けぬ』とッ!」
「——"信念"! ——貫くならば!!」
それを前にして余波——
「"…………!!"」
光を見上げる"女神"。
拳を握る"大神"。
覇の道が真正面で立ちはだかりしは——"沈黙の魔王"。
「"諸共に"————!!」
「————"果てよ"——ッ"ッッ!!!!!!"」
「オ"ォ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"ぉ"——————ッ"ッ"!"!"!"!"!"!"」
そして、投げ下ろされる終極光球。
それは人の認識で一つの恒星に見えたとしても実際の中は"輝きの泡"——銀河、銀河団、超銀河団、銀河フィラメント……——等々で満ち満ちた一つの世界。
至高の戦神が悠久の年を経て蓄積した"莫大なる熱"と"絶大なる光"、"奪いせしめた力"も混ぜ合わせ、練り上げては創り上げた——『何か』。
熱量も質量も、人の理解出来る単位では正確に表せぬ——"単位の違い"さえ『誤差でしかない』程の——つまりは無限に等しき膨張宇宙。
『創世の光』——そんなものが。
見上げる程度の『たった一つの極小にして極大の球』に収められ——個神に向け、迫る。
「…………」
故に神色自若、照らされて。
立つのは女神、女神アデス——弟子を背にする師の柱。
彼女は泣かず、喚かず。
真実の光景と真っ向から向き合う王の両手——両掌の渦はより暗く、より速く、より重く。
内なる
「…………——」
集約、魔王の手。
その破滅の祈りを——前へ。
「……————」
潔く、輝きへと突き出し。
同じく破滅を導かんと迫る光を。
「——————————"!"」
装甲黒龍の腕——迎え撃つ。
「、————、、————!、! ——」
接触する光と闇。
女神の前面で不可視の防壁、罅割れ。
殺しきれぬ衝撃、宇宙をぶつけられては当然か。
千切れ飛ぶ黒の輪郭——物質の砕ける振動は安全圏に置かれた背後の弟子にも届く。
(——"!!")
暗黒宇宙を焼かんとする神の爆炎。
受け止める柱で対閃光の膜は剥がれて行き、端々で火炎を宿す暗黒女神。
身に纏う装甲も衣服も破損を目立たせ、伝線した脚衣からは熱に弱い雪の如き肌が覗かせる色。
(——っ……!、!")
眼前で滅びの熱光に晒され、老成の少女。
"慕う恩師の傷付くその姿"は青年の瞳に痛ましく映るも——今に出来るのは『影から出るな』という指示に従うことのみ。
膝立ての姿勢、心が無力感や罪悪感に染まったとして『次の指示を待つ』他に選択肢は存在せず。
未だ『自棄』は勿論、窮地の今では『
「……、、……、…………——」
因りての呼吸——内なる濁流、律して待つ。
光と闇の鬩ぎ合う最中。
堅持するは青色漲る"即応態勢"。
(————)
水の表面はおろか内面でさえも
余計な重荷を増やさぬよう静か、静かに意志を研ぎ——。
(——"!")
焼き切れ、外れる——髪留め。
暗黒神の側頭部で白髪を結わえていた『交差状の髪留め』——飛んで流れる後方。
(! "これ"は————)
それは丁度、師から弟子の下に送られるよう。
黒の交差斜線をした髪留めは流れて青年の腕に辿り着き——巻き付く。
巻き付くや否や、彼女の内へと溶け込んで——。
(——『波を渡り——戦の神を撃て』)
"王直々の命令"——『魔王の勅令』が下される。
(決行まで、"
作戦開始までの猶予は"三秒"。
それは古き女神が青年に配慮して設けてくれた最大限の準備期間。
(——"
しかして、この期に及んで何かを選ぶ暇はなく命令を拒む謂れもなし。
故に青年の答え、成すべきことは既に決まっており、三で動揺の色濃く見開かれていた目は二の数え時では意を決する力強い眼差しとなって——その強かな変わり様、凛々しく。
("
「「……"!"/——"!!"」」
光球より溢れ出る熱波——横目でする暗黒の一瞥によって捻られ、路を開かれ。
まるで輝きの川、暗き橋が架かるかの如き有様。
また間髪を容れず、向かうべき方向を示す引力に従って加速する女神ルティスの玉体——恩師の影より、飛び出して。
「————"!"」
寸分違わず、波の隙間で橋を辿り——。
光の川、量子の海を渡って——。
青の軌跡、渡りきった先で——急上昇。
(————……!!)
「——! "青二才"——!」
「…………!」
未だ続く光と闇の衝突を一望。
前者の白と後者の黒らしき色が世界を二分し、今まさに力を生み出し続ける永久機関で放射続行の光神を眼下で急停止。
魔王を滅さんとして投げ出した光の熱球、其処に注がれ続ける波の、その源たる『覇王』を狙うべき的として——照準、合わせ。
("今の自分"が)
("持てる力"の——!)
(————"全て"を————!!!)
勢い良く頭上に掲げる右腕。
狙撃の軸は盾、添える左手は補助。
水神は盾に巻く渦を外界にも回して周囲の『もの』——漂う鉱物や気体の
またその抱く安らかの願い、女神たちの祈りに加護、今尚も自らの流す血さえ涙さえ——集めに集めて——圧縮。
「————っ、っっ"! ——ぅ"、ぁぁ——ッ"!」
全力の、圧縮。
碧眼も髪の内色も増幅の輝き。
暗色の冥界に生まれる新たな光源、青。
「はあ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"————ッ!!!!」
青く、同時に銀にも発色の女神。
伸ばす腕に体に、柱を中心として生まれる水が回り出して円盤を描き出す様は神秘。
水という物質の一つの起源は今、此処にある——"球殻状の物の群れ"。
(——届——け——)
(——届いて、くれ……っ!!)
叫ぶ青年の頭上——"歪で薄汚れた雪玉"のような物。
それでも全霊を賭して作り上げる"水軸の塊"は見様見真似で再現——"かつて目にした神の奇跡"。
(
星を編む、天体を創る。
掌で浮かべる思いの結晶——向ける先は暗黒を押し切らんとして手の塞がる"戦の神"。
(————"みせる"っ!!!)
『見たい』と、『実現したい』と。
『そうなってほしい』、『そうあってほしい』と"願う未来"へ向けて——駆けよ、星。
「"——————————ッ——!!!!"」
飛べよ——
なんだっていい——箒の尾で描け、軌跡。
「
「
神の側面。
果敢に荒ぶる炎へと食らいつく青の冷や水は
「「————"!!"」」
その竜か蛇が、
邪魔の差し水を貫き、引き裂かんとする赤き爆熱は炎剣。
「「"ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ"——————————————!!!!!」」
連鎖して爆ぜる物質で冥界は再び輝きに包まれ——罅割れの守り、消し飛び。
「……"!" ————————
"飲まれる闇"——決着の時が、訪れる。
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