『第二十三話』

第四章 『第二十三話』





「——"参る"」





 音さえ置き去りに、神速——多段の連続攻撃。

 それは、戦場を見ることが出来れば光の柱が瞬時に闇の柱の後ろへ——ゲラスが向かい合っていたアデスの背後へ立ち位置を一瞬で変えたように見えるのだろう。




「————」




 未だ動かぬ女神を通過点に——尾を引いた光跡。




「"光速"」


「それは——




 通り越した背後で、銀の炎は揺らめき。

 "既に初撃を終えている"神はうそぶき——"言葉に遅れた無数の衝撃"、敵を強襲。









 言い切り、吹き飛ぶ——女神の玉体。

 秒さえ置かない交差一瞬の内に放たれた戦神"初手の奥義"がそうさせる。




「貴様も、その事実を知っているだろうに」




 一千万を超える一撃が必殺の連続——衝突した、極まる凶器の神々。

 光のそれを受けて尚健在とは即ち、対する大神もまた『重ねた奥義を防御として纏っている』——"鎧袖一触の鎧を着込んでいる"ようなものであり、故に立ち姿で振り向いては、破砕で飛び散った暗黒装甲を眺める戦神。

 接敵の際に掛けられた驚異的な重圧の証左としてくすんだ腕の光——灰色の煙状物質を昇らせる自らの腕を抑え、攻防一体である敵装甲の脅威度を再計算。

 話しながらで直ちに修正を加えた概算を完了させ——『次こそは対閃光防御が施された超重力の壁を打ち砕かん』と。

 明度及び光度を下げた自らが有する王の手へ、より多くの無限を再充填——内部で生まれた夥しい数の恒なる輝きを携え、遠方の敵へ波を送る。





「"緩慢"が——過ぎるぞ」





 その吹き飛ばされた先、広大な空間で力なく漂うのは。

 糸の切れた人形が如き——麗しの少女の形。




「——、………、…、、! —、——」




 人で言う"骨格"的なものも据わらぬ様子のまま。

 徐に動き出しては空中で不気味に起き上がる、それ。

 故障した機械の如き不規則な挙動。

 今に攻撃に晒された事実に遅れて気付きながら、けれど蓑から伸ばす無数の触手状の闇で以って散らばった装甲の欠片を回収。

 そうして守りを補修し、此方も改良を施した後——。




「……——」




 無言は沈むよう周囲の闇に紛れ——隠した存在は既に戦神の背後。




「"…………"」




 渦より這い出る無音の神。

 敵へ向かって伸ばすのは、蓑を巻き込んで更には背景と一体化した『ドス黒き』——"魔王の手"。

 装甲纏いし両掌自体で渦巻く超質量。

 銀に燃え輝く神の頭部目掛けて静かに、猛然と——"暗殺の魔の手"が迫る。





「————"!"」





 が、驚く魔王でその手——敵には至らず。

 攻撃とその対象の間で割って入るよう展開され、女神の進行を阻む——"光波薄膜の三角形"。





「得意の『暗殺』も——"まるで速度が足りん"」





 乱反射する光の僅かな"歪み"によって暗黒殺法の不意打ちを防いだゲラス。

 光る体——瞬時に上下は反転。




「————!"」




 防御に用いた膜をそのまま反撃へも転用。

 勢いのある脚で表面を熱光の膜で覆いコーティングながらの蹴り上げ——打ち上げる小玉体。

 また間髪を容れず掌より追い撃ちの光線を放ち、爆ぜる光炎に飲み込まれるのは女神。





「——…………」





 白の光に飲まれながら——またも奇襲で背後から忍び寄る魔王の手。





「そうまでして——『引き寄せたい』のならば」





 だがそして、再び即座に無音の攻めを気取った戦神は弾性と粘性の特徴を持った膜でこれをも阻み——絡め取り。






「くれてやろう————"破滅の光"を!」






 退去の光速が去り際に残す無数——"恒なる光の爆弾"。

 その全ては命令に従い、動きを捕らえられた女神の手へと吸着して蜂球ほうきゅうの如くに寄り集まって温度、加速度的に急上昇。

 暗き冥界に現れる光の拡大——宛ら"恒星進化の最終段階"。





「っ——————」





 女神の離脱も阻む——今に生み出され、闇を置き換える重い元素たちは次の瞬間——"爆ぜる輝きの産声"を上げて、神を巻き込み。






 超熱持って、新たな星。

 他の多くがそうであるように『攻撃』として——同様に輝く星はまたたいたのだ。






————————————————————


















「——っ"」




 身を焼く熱の痛み、顰める眉。




「くっ——」




 亜光速の神気噴射により辛くも爆発から逃れ、咄嗟に飛び込んだ渦を介して世界の裏手。

 異空間に隠れ潜んだアデスは直ちに新たな暗黒を集めて編み、吹き飛んだ両腕の損壊部を補修。

 新造の両腕を更に鍛えた竜鱗装甲で覆い、戦いに於ける次の手へ——。





「——"フォハハハハハハハハハハハ!!!"」





 だが、逃げたその場でも響き渡る光波・振動。

 渦穴が閉じるよりも速くに"避暑地"へ飛び込んだ光が女神を追い、その迫る光線の内から——"波を泳いだ神"が這い出て来たる。





「"久しい"なぁ! アデス!!」





「——っ!」





 そのお呼びでない襲撃者へ——壁で隔てるように向かわせる暗黒の霧、闇の雲。

 先の暗黒渦や魔王の手と同じく暗黒大神の攻め手は本来そのどれもが『不死身の神さえ殺す』"必殺の絶技"。

 その"技の冴え"は例え苦し紛れであっても、また相手が高位のいたたきで並ぶ戦の神であっても変わらず——"変わらぬというのに"。





「"フッハッハッハ! ——フハハハハハ!!!"」





 やはりそれでも、"神は笑う"。

 一撃でも真面に拝領すれば即座に命運の決する極まった攻撃に、その連続に正面から晒されながら。

 "至高の戦場"にて——新たなる大神となった神は笑い、迫り続ける。





「——お"ぉぉぉぉぉぉォォォ"!!!」





 闇も黒も——かわし続け、いなし続け。

 光炎の旋風、また毒の霧を焼き払い——女神への急接近を果たす神で目前には少女の腹。

 その装甲に覆われた先を見据え、引き絞る隆々の光腕——重厚の柱に赤熱の電光が迸る。





「ッ————ぬん"ッ!!!」





 そして放たれた神速の重拳。

 暗黒大神の認識を再びに置き去って——撃ち込まれた女神の体は『くの字』に折られ、衝撃と共に彼方かなたへ。





「————そら——ッ!」





 その彼方へも先回りで光は追い迫り、続けての撃ち込み。





「————はあ"ぁぁッ——!!」





 幾度も幾度も右の拳、左の拳。

 吹っ飛ばして、先回って——神の移動で繰り返し描かかれる光跡は稲妻の如く。

 全霊を込め、神の業。

 魔王の神経伝達さえ遠く過去のものとするは"光"——"光を超えた光"。

 一撃一撃に、『超光の力』。

 その"神々の王"とも"破壊の神"とも細部で趣が異なる『覇王の強熱』は女神に撃ち込まれ——また暗き小玉体を構成する『未知の物質』に"刻み込まれる痛み"、"記憶"——"記録"。




「————っ……! は、ぁ——っ"……!」




 冷ます対処をせねば永遠に身を焼き続ける痛みを全身、押されに押され。

 遂には吹き飛び続けて次元の壁に激しく身を打ち付け、しかしてそれを突き破りながらで漸く攻撃の勢いを殺し、冥界の宙で停止した女神。




「っ"……、…………!」




 抑える胸は文字通りの燃えるような感覚。

 外部から撃ち込まれて光の力、内より漲っては暗黒玉体を散り散りにせんとする勢いは凄まじく。

 しかし、けれど——"若者の手前"。

『頼り』となる己の存在を示そうと凛然に立ち上がり、仕切り直しとばかりに闇を纏い。

 再び、世界の裏側に回り込もうと——。





「————のがすか!」





 矢先での走る稲妻——追尾の雷。

 超機動の電撃戦闘は敵に十分な暇を与えず。

 常に押し潰されぬよう寄せては返す光の波動、神の拳は雲霞くもかすみを払いて再度再度に叩き込まれ、激突によって繰り返される異次元への強制退避——及びの強制退去。

 外殻に光の膜を展開した覇王の手、暗黒玉体を撃つたび。

 聖拳それは——"根源たる白光"の輝きを増して。





「どうした——どうした!」





「大神の力は——そんなものかッ!!」





 猛々しく吠えるは戦冥、超光ちょうこうの神。

 聖剣としての己が与える攻撃——無敵の守りに創る切れ込みから膨張の力を幾度となく標的に送り込み、じわりじわりと蓄積をさせ——先述の退避退去の一連の流れが更に四度繰り返された後。





「——ぬぅんッ————ッ!!」





 下から突き上げる拳で跳ね上げられたのは、か細くも妖気放ち続ける防御の腕。

 油断ならぬ女神の暗黒嘔吐を——"先に置かれたそれら恐るべき攻撃"を見事掻い潜り、戦神の腕にて渦巻く炎。






「はあぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"————!!」






 不可視の物質を切り裂く轟音で魔王の胸部へ向かう覇王の拳——柱の、芯へ。






「ッッ"——————ア"ァァッ"!!!!!」






 真中を捉えた一撃で揺さぶる大神玉体。

 粒子から粒子へ、伝える振動は絶対防御の内側で連鎖。

 引き起こす数多の誘爆は溢れる光となりて、女神を囲むよう立ち昇るのはやはり柱——拡大する光の柱。






「——————————






 魔を焼け、闇を払え。

 溜められた力に飲まれる邪神は『竹に閉じ込められた姫』の如く——全方位から身を焼く永遠の光に包まれた中。









「やはりは——"てきとした神"」




 だがそれでも輪郭を留める原初の神性。

 不格好ながらも爆発の勢いに外への方向性を与え、巧く攻撃から脱して冥界へ転がり抜けるアデス——その影の動きを、戦神は鋭敏に察知。




「——だが!」




 逃すまいと追う一瞬の時間。

 自由落下めいて弱々しく下斜めに向かう女神を標的とし、照準補正と光熱収斂を兼ねた畳の如き光の膜——展開多重。

『世界の化身である大神を討ち滅ぼさん』と。

 呆れる程の防御力と馬鹿げた自然回復量さえ凌駕する極みの威力を絶え間なく浴びせ、以って『戦勝の結果を掴まん』と。





「しかし! 永久機関ぶつかれば——!」






「耐久にも——限度があろう!!」






 交差させる腕は加速器。

 内で向かい合わせる掌の間——光波圧縮。

 間を置かず動目標を追い、戦の柱は空間の亀裂を越え、再びに進出する冥界は黒。






「これで————」






 対照的な背景の色を背に回し回して、終極閃光。

 これよりの一撃、『間違いなくに不死身の大神かみを殺すだろう』との意で宣言を以て——。






「————終わり————」






 ——






「——だ…………」






 、爆ぜた。

 戦神の予期せぬ場所で『何か』が、その攻撃の放たれるより少し、





「……"成る程"」





 しかも"闇"でなく——

 極太の光線を放たんとしたその直前に対象のアデスではなく——銀炎が『青い色』を









 状況の変化に際して攻撃は中止され、微振動を終えて呟きの戦神。

 先の一瞬で自らが纏う光の炎に極僅かにかすめ、また瞬間でを知り——己が光炎の輪郭、その最も外側の縁より昇る白煙を一瞥。





「"折れやすき細葦"」


「"脆弱の柱"」





 冷まされて失われた極めて少量の揺れ——些事に過ぎぬ程度の熱量を即座に充填しての見返りで光の神は立ち消えるの、そのかつては液体であった『水』の先に——"色"を見る。






「"青二才"が————"女神"!!」






 その色はやはり『青』——"青き狙撃手"。












(——あ"——)




『自らが的を射た』ことに驚く丸い瞳も、またとしも青き女神の姿。

 場違いにも"宇宙を滅ばさんとする極みの神々"が衝突する戦場で再び——流れる川水の柱。

 "偏差射撃"の起点として放つ青光の盾は——女神の『ルティス』は。





 その内心は兎も角。

 繕い貼り付けた『してやったり』・『狙ってやったり』の実顔まことがおで——青年。






(————"!??")






 神に——見出されるのであった。



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