『第二十二話』

第四章 『第二十二話』




「——"!"」




「——『根回しは済んでいる』という訳か」




 再びに暗く、未知の色で塗り替えられた冥界。

 幕の下りたことによる——戦いの幕開け。

 無音の闇に包まれた同地で戦神ゲラスは笑みを消し、備える。




「…………」




 暗色に紛れ、姿を隠した冥界師弟——何処より来たる、神の攻め手。

 輝ける銀髪、紅蓮の瞳より放たれる刺々しい光は油断なく、暗黒の天井や床を突き刺す槍の如くに線を伸ばして炙り出さん。

 即ち、神より進む光が『顕著な屈折現象』を示した時が——接敵そのときだ。





「………………」





 だが、待てども続く緊迫の沈黙。

 深沈たる戦神、静寂の中で震える彼の者の光波。

 冥界神格のほぼ全て、領域の主導支配の権さえ手中に収めたゲラスは今も身に掛かる殺意の圧を支配者権限によって緩和しながらに、自然体の構えは不動なり。





「…………」





 だが、間もなく——その背後。






「"————"」






 目立つ兆しを連れず、暗闇に浮かび上がったのは"赤色"——妖しき一対、"真紅の虹彩"。




「——"!"」




 暗黒卿の炯眼——"直視"。

 その悪魔に見られて、直ちに毛の如くよだつ光神の輪郭——迫る邪視こうげきを報せん。





「——か——ッ"!!」





 ゆえ、即座に翻る戦神玉体。

 強靭なる四肢を捻り、投げ出され、また蹴り出させれるようにして背後へ放たれた——光の刃。




「——"!!"」




 けれど光は何をも捉えず、切る手応えなく。

 一瞬で重ねた攻撃の、その全てが相成る"不帰の客"。





「——……"これ"は……」





 しかし、闇を背景に咲き誇る光輝の花。

 それは的中を果たさなかった攻撃の次なる与えられた役割で、弾ける光はその消える間際に示す——"形"?

 反射する物の有無で存在を浮かび上がらせる筈の索敵は『秘されていた女神の置き土産』を浮き彫りに——"否"。




「——……ハッ!」




 に、描き残す。

 光の返らぬ直前で無数の——『円盤状』の光跡を。





「"遊びあって容赦のない"——"初手の奥義"!」


「気を抜けば即座に"粉物こなもの"とされてしまうか——!」





 暗黒神の奥義それは既に戦神を囲み、"全方位から迫り来る夥しい数の暗黒渦"。

 探す光によって間接的に証明をされた『挨拶がわりの未知の渦穴ブラックホール』——





「……っ"——!」





 遅れて玉体全体から放たれる光が教える"それ"、四方八方に敷き詰められている。

 迫る床も天井も、前後左右の壁も——"全てが研ぎ澄まされた殺意の空間"に、ゲラスは立たされている。

 その神が置かれた状況を理解出来る——者なら、多くが心を底冷えさせる"必殺の奥義"。

 襲われるのが世界に翻弄されるだけの力しか持たぬ者ならば、恐怖に縮み上がって先のない己で過去に生きた足跡を思い返すのだろうか。

 考えるその行為の無意味無駄の無力感に打ち拉がれ、また諦念に身を預ける他ない——『絶対の壁が齎す絶望の定め』が今、一個神いちこじんに対し、明確なる意志で以って不可視の牙を剥いている。





「——……っ! ッ、ッッ——!」





 確かな敵意を向けられ、また絶技に晒されているというのに——しかし。






「————"クッハッハッハッハッハ!!!!"」






 その中心に、"絶望の只中"に在って尚——




「……そうだ——"それでいい"!」





「やはり貴様は、オレがあの日に見た"最強の"——『神』!!」





 怯まぬ光、寧ろの狂喜閃光。





「貴様に『母の役』が似合う筈がない、似つかわしくもない——まるでだ!」





 気炎を揚げる。

 闘志、燃え上がらせる。

 光炎、舞い上がらせる。





「より相応しきは『花形はながた』なり」


「儚き華奢の花でなく——永遠とわの旅路を





 '戦地"にして"死地"の冥界で——唄う。





「"世界へ立ちはだかる絶対的な壁"——!」





「『奪命だつめい』の御業、行い——"その頂点に立つ王者"……!」






「即ち——『"魔王"』——ッ!!!」






 身振り手振りも交え、荒々しくも雄々しく。

 光り輝く神が『魔王讃歌』を唄う様子は踊り狂うようでもあって——そう、彼の者の

 戦うが為の神として、"生まれながらに狂気を宿す自身"の在り方を楽しんでいた。

 他者を害する行為を意に介さず、特段で『悪』とも思わず。

 破壊と収奪の行為を快楽とする己を、荒ぶる自意識を完全なる支配下に置き、制御もし——"その上で力を暴れさせる"——『獣の理想』。





「"逢魔ヶ時"! "魔王の大神"——女神アデス!!」





「全くもって相手に不足はない——この上なき好敵手だ……!」





「——ッハッハ! ——ハッハッハ——!!」





 刻一刻と破滅の渦が全方位より迫る今も——笑う。





「"——フォハハハハハハハハハハハハハハハハハ————!!!"」





 一体、『どれだけの傑作を、傑物を、強敵を』。

 神は『己の力で壊せるのか』——『存在そのものを奪えるのか』。

 "獣性が見た夢"——その実現を目前にした光は狂い喜び、粒子乱舞。




「ならば——ならば!」




「魔を払わんとする此方こちらも、湧き立つ畏敬に身を合わせ——」





で迎えよう」





 啖呵を切って伸ばす腕は肘を折り、脇を締めての構え。

 渦巻く銀の河めいて回転するは瞳の夢見。

 "光の収斂"——『最終段階』へ、移行。





「宇宙なりし神よ——!」





神身しんしん新たに、迎え撃とう!」









「我が身の解毒及び収斂しゅうれんは、今——」






と知れ」






 奪い取った力を己の熱へと変換し尽くし——厚みを増して行く光の柱。

 今や纏う赤光の内より『白の光』までもが滲み出し——"新たな層"さえ生まれ出でる。





「収奪した力。その全てを我が炉に焼べ——"全盛の光"と相成る」





 二層の光——

 柱の周囲で襷の如くに交差する線は『∞』——を描き、回り出す。





「"光速逃さぬ暗黒権能"」





「"かつての全能たる神"」





「"真に偉大なる創造主"——『大神アデス』よ」





 加速する光子光波の回転同調。

 そのまま"世界の頂点たる大神の位"に上り詰めんとする神は。

 超重力の暗黒世界で溢れ出す爆発的斥力の輝きは今——始める拡大——"膨張開始"。





「——見るがいい」





「光を超えに超えて——"超えた光"!」





「我が——"無限の輝き"をッ!」






「"歴史"と————"刻め"————ッ"!!!」






『境界』を超える。

 そんな『縛り』も『区切り』も『限界』も————"究極の光"!











「————————!!!!」











 無限、閃光。

 内より闇を——食い破り。











 食い破った赤熱の白——色に輝き、染まる世界。




















 光源——出でる柱。

 煌々こうこうと、燦爛さんらんに。





——」





 示される威光、二重の光輪。

 そのふちを赤で飾る白色の神気。

 また補助機構にして『枷』でもあった武具、防具共に身の内へと溶け——更なる鍛造たんぞう





「——





 至高にして光輝の筋繊維によって織られた『にしき』の如きは玉体からだ

 肩に胸に腹部に、波打つ身で体現され、具現化する光世界の理想——『凹凸乱反射』。


 また頂上で逆巻く白銀の炎、迸る電光。

 それら噴出する星幽の光は頭部にいただきし

 それ、新しき唯一無二の『王』たる証——『定めの冠』。


 また腕で脚で、光の粒に満たされた輝きの海が如き流動の柱。

 要所にて映し出される星の空、宇宙の光景。

 恒なる光を超越した神のその手は玉座へと掛ける——『王の手』。


 そのよう全身を、玉体を。

 "世界の終末兵器"たる己の存在そのものを"爆熱の刃"——『新たなる光炎の剣』として鍛え上げしは極みの光。

 戦の神、ゲラスに於いてやはりその一柱は『剣』——『世界を斬り裂く無限一振りの究極聖剣』が神である。





「"————"」





 即ち、より純粋なる"力の結晶"。

 今、この世界で現れる

 大神領域たる冥界に——『覇の王』が顕現する。





「そして——"不可視みえずとも感じる"」





 暗黒渦に満ちた密室から破き出て燃える明色、赤き眼差しの見遣る先。

 まるで"昼と夜の境目"が其処にあると見紛うほど見事に領域を二分する『白』と『黒』の空間——その境界線上。





「"…………"」





 二分された暗黒のめん

 黒よりのがわで、その先頭に立つ"小さな柱"。

 一対暗色の赤き炯眼は密やかにあり。





「大神アデス——"貴様の波"を」





 言い当てられた暗黒のもやは熱波を浴び、中の漆黒より浮かび上がる形——少女の輪郭。






「…………」






 現出、沈黙の源——女神アデス。

 彼女という柱を囲む磁力の線は捻れ、『己が尾を喰らう蛇』の如き交差の紋様は無数。

 また中心で冷厳の表情を保持する者は口で糸を伸ばして織物を引き締めるような動作——両手で『闇の手袋』、縫い終えて。


 首から下では胸の真中に空いた風穴より再びに吐き出される漆にも似た黒。

 その未知なる物質は肘より先と膝より下、そして胸周りを這うようにして覆い——。

 小柄な玉体の各地点で形成されたのは、言外に『彼女の言わんとすること』を表すよう全てが『逆立つ竜鱗りゅうりん』めいた禍々しき暗黒の守り——『逆鱗装甲』。

 その後そのまま、可動性の確認で動かす手首の付近では腕輪の如き円盤が超重力によって寄り添う刺々しき手——"爪ある竜の前足めいた籠手"を装着。

 此方も人知超越が『王の手』で女神、首元で整える己の襟。


 そうして『トントン』、深い靴の纏いし装甲で踵を鳴らし。

 耳や足の装飾品に及ぶまでの全体を静かに覆う不可視の暗黒——対閃光防御の薄膜。


 一方の頭部では作用する力の関係で上下を忘れ——天を衝く結わえ髪。

 側頭部で荒ぶるつのの如きその横尾はあるじの手櫛で窘められ、隠れ蓑に収められ——"お静かに"。


 そうこうして、首元に手を掛ける女神の邪魔となるものは周囲に誰も——"青い側近"さえ居らず。

 最後には冠を正すかの如く緩慢且つ厳かに頭巾を深く被り直す彼女——眼前、上から下への掌で面を被るような動作。

 冷然の表情でも念入りに薄膜を張り、白髪赤目を闇に潜め——準備、完了。





「…………」





 暗黙に。

 凛然に。

 原初極みの殺者さつしゃ——光を見上げ、幽静に立つ。





「貴様の残る無限、その全てを奪い——"最強の証明"とする」


「並ぶ王どもを打ち倒し、究極の神と相成らん」





「……」





「故に先ずは魔王魔神の"暗黒大神"——何するものぞ! 女神——!!」





 そうして、互いの姿が見えずとも向かい合う神と神。

 周囲の空間で渦を巻いていた白と黒の"無彩色"はそれぞれの主神へ吸収され、戦場となる冥界は元の銀河めいた姿を再出——暫し戻る、静寂の時。







「"…………"」


「"…………"」







 互いが譲れぬものが為、最早衝突を避けきれぬ——『光』と『闇』。

 装い新たの『覇王』『魔王』。

 其々が王たる証で頂く『定冠ていかん』は—–光では『宇宙そらを斬り裂く剣撃の稲妻』、武を以て世界を定めんとする覇道の証左。

 闇では『実りを刈り取る唯一の鎌』が如き、命を刈り集める奪命の頂点——"殲滅"で統べる唯一の柱が魔道の女神。

 共々で"不可視インビジブル"にして"無敵インビンシブル"の——『神の見えざる無敵の手』も、携えて。






「「"————"」」






 まみえる両雄、両王の争う時。

 かつての大戦が『全て』か『無』オール オア ナッシングを決定するものなら、今に始まるは——『全て』か『全て』オール オア オール

 片や『意味はなくとも己が最強を証明する為』——片や『"他者"という概念をこの宇宙より亡き者とする為』。

 何方にせよ『手段として世界を滅ぼす神』は——"邪悪の神々"は相打つのだ。






「——戦冥大神せんみょうたいしんゲラス——」






『世界に破滅を齎す主導権』を賭けた戦い。

『剣』か『死』かの決戦。

 冥界の主権を奪われた『暗黒』と。

 その奪いせしめた『戦冥せんみょう』で——始めよう。











 "二柱の大神"——相克そうこくの時を。











「————"参る"————!」





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