『第十六話』
第四章 『第十六話』
時は——地上で夜の帳が下りて、間もなく。
「ふん————ッ"!!」
弾ける赤熱。
身に絡み付く暗黒の手を振り払い、
光の柱——戦神ゲラス。
「……此処が——『冥界』」
本来の
暗冥大神によってその身を何処かの暗がりに落とされた彼の男神は自ら放つ反射の光を頼りに早くも未知領域の分析を開始。
そうして浮かぶ自身より離れた場所、後方にて浮遊する大岩の上で——"倒れ伏す少女の形"を知覚して言う。
「"貴様の領域"か——アデス」
「…………」
その比較的小柄な形は微動だにしない女神の——冥界の創設者であり管理者でもある暗冥大神アデスそのもの。
巻き付く鎖や紐によって自由を制限されたその体には依然として、呪いの根幹を成すと同時に干渉を妨げる"蓋"としての機能を持った聖剣が背から胸を貫き、深々と突き刺さったまま。
それに対して戦神は重圧が解けた隆々筋肉の肩を鳴らし、背中越しでの語り掛け——しかし、女神は答えを返さずに"沈黙"。
岩に突っ伏した姿勢のその表情、その権勢は今も——"未知数"。
不気味な程の静けさの中、今に世界を震わすのは光の波動のみである。
「……だがしかし——"これ"は驚かされた」
「まさか"星の中に
「……
闇を照らす灯台の如く、光の柱。
誰もがその存在を朧げに知りながら、しかしその全容を誰も知らぬ『冥界』を観光で見回し——止める視線。
光る神の注視する先——"空間に穴を開けたように佇む黒色"の——否?
一見で詳細は不明だが『光を返さず色も分からぬ不可視の球形——のようなもの』あり。
また"
その渦から外れ、下方に位置する何処かの
「……だがそして——"理解"もした」
冥界の中核と思しき球形はその真中を貫くようにして上下から『なんらかの物質』を放出。
その高速で吹き出す物の摩擦は冥界に"微かな燐光"をもたらす光源ともなって、周囲で物質は暗き黒の世界で照らされ、光を反射。
要約して、冥界の"輝きの渦"を形作る様はまさしく暗い宇宙の——『暗い銀河』のようであった。
「霊魂の集積——圧縮——分解の法」
「それ即ち『冥界』——王の熱を世界より引き剥がす
「"
「——クッハッハ! 成る程どうして! "頭抜けた才"だ! "狂った女"だ……!!」
そんな様な暗色冥界銀河を前に驚いて——けれど神で高まる熱。
兵器を良く知る戦争の神は歪めた笑みの顔。
「"偉大な発明家"でもある大神の、その馬鹿げた
「……ククク……! そうだ! この"力"だ……!」
「この——"波"だ」
暗闇を照らして
「この————"熱"だ————ッッ"!!!」
打ち震えて声高に——叫ぶ。
「貴様があの星に夜を、この世界に死の概念を生み出してから、一体どれほどの時が経ったのだろうか——」
「貴様が生ける
「オレはあの日、あの瞬間! かつての貴様の振る舞いに"世界を滅ぼす輝きの道筋"を見た……!」
「心の底から欲したのだ、貴様のその力を! その——熱を……!!」
"吸い取って増長を続ける気炎"のままに。
弱って動きでも黙す女神に向け——"隠された
「我が身『世界を滅ぼさんとする願い』を持ちながら、しかし一つの真実として——"今の光では
「単純な火力の差は勿論、奴が保持する『
「——だからこそ、故にこそ」
「秘策が——神々の王という『無限の光』に相克する『無限の闇』を炉に
「貴様という神を平らげて変換——更なる『無限の
「"王を超える"ことが——必要なのだッ!!!」
"目的を明かされながら"、振り返る背後。
眼下では今この時も——光子の剣及び鎖紐を伝って収奪の神に力を——"神気を奪われる女神"の姿は倒れてあり。
「……だがしかし、"苦労"もしたものだ」
「
「また貴様とて、光の届かぬ孤高の——"絶対強者"」
湿る語調、思いの吐露。
「しかして、だからこそオレは貴様にとっての"
「隙のない"究極の個"から——"脆弱な群れ"へと」
「下準備として手頃な人間どもを離散させ辺境に追いやり」
「"あの川"——"冥界と隣接する渡りの川"に熱意を注がせた」
「"信仰"と言う名の"神の設計図"を作らせ、仕上げに恐怖で以ってその揺り籠を揺らし——新たな神に産声を上げさせたのだ」
「"何より喧騒を忌み嫌う貴様"の真横に——自衛もままならず喚く『ひ弱の幼な
波立つ感情に呼応するかのよう光は漏れ出て、駆ける稲妻——巡る、戦神玉体。
「唯一の誤算、"失望"であったのは貴様からあの細葦女神への食い付きが予想以上だった事だが——それも最早、
「オレという——"新たな大神の誕生"を前にしては」
不敵の笑みで張る神の気。
今新しく彼の者の両腕に宿る
領域創設以来、これまでに只の一度もその"願われた役目"を果たすことのなかった——"信仰によって形作られた後付けの力"は既に移譲が果たされた。
「フッ——今この時も、瞬間瞬間に我が身我が力、"我が光は最盛を更新し続けている"……!」
「っはっはっ!! "まもなく"——"まもなく"だ——ッ!」
「同格に至る今や
「"第四の大神"——直々にその"存在証明"としてくれよう……!!」
その力を得る勢いのまま——女神の倒れ伏す大岩へ光速瞬間に降り立つ戦神ゲラス。
溢れんばかりの全能感が心身を躍らせ、気を大きくされたままに"勇む足"。
『"格下では触れること叶わぬ大神の域"へ己が真に到達することを実証せん』と。
彼の者、一歩一歩で伏した暗黒の大神へ向かう足取り——栄光に至る道筋を踏みしめては味わい、その距離を悠長に詰めて行く。
「まさか寝ている訳ではあるまい。その涼やかなる
既に目前では、暗黒が岩に作る黒の染み。
傷口から溢れ出したと思しき謎の物質、その溜まり場——中心でうつ伏せに倒れる女神の下へゲラスは難なくで到達。
「玉容は——今こそ」
そして翳す重厚の右手。
光の波動が掴む女神の首根っこ。
いや——言葉の響きこそ何か可愛らしく聞こえるかもしれないが、高位神の
では、『全身凶器』とも言えようそれに何故、軽率にも男神は触れているのか——接近して触れてしまったのか?
未だ敵の状態は未知数で、つまり戦も未決着だというのに何故——"戦闘神格は気を抜くようなことを"?
「歪み、果てる——」
"迂闊"の、その答えは——"今に示される"。
「
うな垂れた状態で宙に浮かされた美しき少女の形。
戦神の空いた左手より伸びる赤光が鋭利な刃となって女神の顎下へと添えられ、勿体ぶるように悠々とアデスの顔を持ち上げて行く神は『早過ぎる戦勝記念』とばかりに色白の表情をあらためようと試み——気付く。
「"…………"」
確と見開かれ、"敵"に——即ち
音もなく、予備動作さえなく。
己に"差し向けられた神の視線"——光の玉体を捻り、圧殺せんとする邪視。
認識さえ汚染する大いなる神の『毒』が回り、"身を曲げられる今"になって漸く——。
「——————"?!!"」
学ぶ老兵は、その全てを。
仕組まれた大神の罠にその全てを——"罠に嵌められながら"『毒婦の計略』を悟るのであった。
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