『第十一話』
幕間の章 『第十一話』
「——お待たせしました。イディアさんとアデスさんの協力もあって、ささやかですが今日の料理の完成です」
「椅子も一応は用意をしてあるので……どうぞ、座ってください」
「ありがとう!」
「……失礼します」
三角頭巾と前掛けを外し、それらを畳みながらに着席を促したのは青年。
彼女が戻ったあの後、今や追加分の材料である鮭も焼き上がって台の上の整理も終了。
面を平らに整えられた石造りの三つの椅子、その並ぶ真中にイディア、次いで左端にアデスが着席して——女神たちの眼前では完成した料理が位置を取る。
(……ふぅ)
「……では、遠慮なく召し上がってください。あったかい物もありますし、どうぞお早めに」
「はい。ですが、その前に改めて今日の招待と教導に感謝を——有難うございます、我が友」
「いえいえ」
「……私からも先に一応の礼を。報いようと努めた女神の好意を
「アデスさんまで、そんな——後は、料理がお二方のお口に合えば……言うことはないんですが」
『山菜のお浸し』と『キノコの味噌汁』、そしてメインの『鮭の塩焼き』——丸皿や椀に載せられた料理たちが朝の日差しを受けて輝きを放つ正面で交わされる会釈。
遅れて右の端に座るルティスと隣のイディアでは揃いの総髪が、残るアデスでは右側頭部の結い髪が揺れて——それらは丁度、物事の開始を告げんとはためく旗のようでもあり。
実際に
「きっと大丈夫だと私は思いますが……では、それを確かめる為にも早速、頂いてみますね」
「はい。お願いします」
個別に配られた大皿に鮭、小皿に山菜、お椀に汁、後はお冷やも補充されて健在——青年は一汁一菜が配分の都合上で比較的に少なめ。
並ぶ料理を見れば『些か物足りない』と考える者もいようが、しかし朝食として見れば中々の決して悪くない内容で。
何より原則として食を必要としない女神たちにとっては十分に希少価値のある光景に、先ずは美の女神の手が伸びて行く。
「そしたら……お味噌汁を先ずは一口、頂きます——」
「……」
(…………)
横目で見守る中、始まる実食。
イディアは伸ばした両手で湯気の昇る椀を持ち、二度ほどにキノコ浮かぶ褐色の汁へ吐息を吹きかけ、円の縁へと瑞々しい唇を添えて——汁を飲んだ。
(後ろでアデスさんも飲んでくれてるみたいだけど……)
「……どうですか? 度々自分用に作ったりしてたので、味に大きな問題はないと思いますが……」
「……はい。問題なんて全然——"美味しい"ですよ、我が友……!」
「! ホントですか——?」
「勿論です。汁と具の甘味や旨味がそれぞれにちゃんと染みている"良い味"だと、私は思います」
「……お口に合ったようで何よりです」
(……よ、良かった)
口元を品良く手で覆い隠すイディアに笑顔の評価を伝えられ、内心で湧き立つ安堵の感覚。
他者に手作りの料理を食べてもらう機会が久しく存在しなかった青年はそうして杞憂に終わった心配を小さな溜め息として外へやり、己も己で味を確かめようと椀を持つ。
「具のキノコは
「地元の人はその噛む時の感覚や音で『ボリボリ』と言った風にこのキノコを呼んだりもするみたいで、食用として人気の理由もその辺にあるみたいです」
「"食べている"という"実感"……のような?」
「はい。適度に噛んで顎も動かすので、人ではその程良い感覚と疲労が満腹感に繋がったりもするのかもしれません」
「成る程。"空腹"を満たす、その感じが……
「……そしたら俺も失礼して——頂きます」
駄弁りを挟み、喉で流す汁の熱。
次いで、女神にも配った三叉の食器で具を食べて。
(……うん。やっぱり固すぎず、柔らかすぎず、味付けも大丈夫だ。失敗じゃない)
菌類の持つ不快にならない程度の滑りと、齎されるボリボリとした歯応え。
所謂キノコの持つ甘味と旨味とを染み込んだ塩味と味噌の味が際立たせ——暫くぶりに運び込まれた食物で震える、青年という女神の口内。
人であった頃よりも鋭敏に冴え渡る味覚が刺激され、思わずに瞑る目。
"目覚めの一杯"は玉体へと染み渡り、直ちに水の糧と相成り行く。
「……アデスさんも、どうですか?」
「……概ね、先の女神と同様の想い……『美味しい』と呼べる物の味でしょう」
「……! あ、有難うございます」
「そしてこの、舌を"ひりつかせる"感覚の由来となっているのは……『塩』とやら、でしょうか?」
「はい。虫除けも兼ねて塩を少々、使っています」
「……成る程。では、これが塩の味……俗に言う『しょっぱい』……」
「……?」
(なんだろう……もしかして、"しょっぱい"のが気に入ったり……?)
「……でしたら、お浸しと鮭も是非、食べてみてください。今日は
「……心遣いに感謝を」
促すよう言って、青年。
客神たちが不必要に憚ることなく食を楽しめる雰囲気を強調する意味も込め、並べた小瓶の中から醤油の物を手に取り。
その適量を掛けた一口大の翡翠色——山菜のお浸しを先駆けて口に運ぶ。
(——
「……こっちは苦味が特徴的な美味しさですが……何と言うのでしたか、こうした"少しの苦味"が心に残る感覚は……」
「……『ほろ苦い』?」
「! そうです——そうだと思います、我が友。今なら舌に鈍く染みる感覚が独特で……けれど癖はあり過ぎず、水気とお醤油で"すんなり"と喉を通る味わいが快くに思えます」
そして、青年の狙いが功を奏したかは分からぬが先達の女神たちも倣うよう山菜の浸しを口にして——嬉しくも
招かれた側の彼女たちは食事の経験が人より乏しいであろうにも関わらず、然りとてそれを問題とする様子は殆どなく。
共に平然とした様子で上品な手つきを披露、何も溢さず汚さず食べ進め——。
「——そしたら次は……鮭も頂きますね」
「はい。どうぞ」
(——味付けの確認も兼ねて俺も食べよう)
前菜的工程を順調に踏んで訪れる、今日の主役の鮭の番。
たっぷりと塩を振られて神秘の焚き火で炙られたそれは今でも湯気を昇らせており、串を持った女神たちの手の動きに合わせ、熱と香ばしい匂いが漂って。
「……いい香り。塩と火のお陰か、生臭さも殆ど気にならず……美味しそうです」
「実を言えば素材の質は余り良くないんですが、今回は塩の力を沢山お借りして仕上げたので最低限の味は付いている筈です」
「十分な火の通りも確認済みですので、後はこれも口に合えば……」
「食べてまた、感想を言いますね」
期待に輝く黄の瞳。
間を置かず、言葉を言い終わるや否やイディアは鮭の切り裂かれた腹から覗く桃色と橙色の魚肉を目掛け——かぶりつく。
「——"!"」
「——……お、"おいひい"です——我が友……!」
そして、美の女神が見せる反応はまたも好意的。
新たな経験を今まさに積む彼女は目を見開いて、咀嚼する口を隠しながらに歓喜。
星の引力に逆らわんばかりに上を向く異彩メッシュの髪は黄系統色の濃淡で波を見せ、弾む女神の心を表現。
「……はい。そこまで美味しそうに食べて頂けると、俺も嬉しいです」
「——お魚とは、扱い次第でこんなにも味が変化するものなのですね……!」
「通りで、海や川が熱心に信仰の対象となる訳です。こんなにも美味なるものを育むというのは、やはり凄い事ですから」
「……全くです。俺も、命や世界の神秘には何時も驚かされてばかりです」
(……生き抜いて、今日まで命を繋いだ鮭——頂きます)
次いで、友に釣られて感傷的になった青年、"世界への敬い"にも似た感傷を胸に。
今は女神として過去に置いてきた飢えの空腹が故でなく、"味への郷愁"によって食欲を湧き立たせ——遡上を終えた生命の残骸を口にする。
(……これも大丈夫だ。美味しく出来てる。幸い、この世界の調味料も"安価な割にかなり質がいい"から、俺の知ってる味に大体は寄せられた)
(……変わらず口寂しさの方は、十分に紛らわすことが出来るだろう)
さながら"工場で作られた大量生産品"のようなムラの少ない"均質化"が成された風味を舌に感じ、けれど虚しく残る望郷の念。
落陽めいた鮭の赤茶けた焼き目を眺める青年は、限りある生を終えて尚も輝く死したその姿を前に複雑な思いを晴らすことは出来ず。
先も正解も見えない現在の世界で、今は黙々と口を動かし続ける。
恩師と友の側で、"心は一人孤独"に。
————————————————————
そうして、時は過ぎて行き——。
「……ふむ。魚にこの様な一面があるとは。調理者と合わせての
(……褒めてくれてるのかな……?)
女神たちの正面ではどの皿・椀も載せる物の量を減らし——食事も終わりが近付いて。
「"素朴"……とでも言うのでしょうか。女神達の手掛けた
「あ、有難うございます。お口に合ったようで何よりです」
(……良かった。表情は余り変わらないけど、アデスさんも少なからず『美味しい』と思ってくれたみたいだ)
冴え渡る感覚器——神の味覚は青年の期待以上に働いてくれた。
並んでいた料理のどれも——それが例え生命力を使い尽くした間際の鮭であろうと——先達の女神たちも『美味』に味わってくれたことがこれまでの感想から窺え、主催の青年は此処にまた一つの安心を得て、自然と浮かんだ物柔らかな表情で話にも興じる。
横に座るイディアの後頭部で結い紐を解く仕草と揺れる
「どの料理も美味しくてつい、沢山食べてしまいました。……けれど、我が友は少な目で本当に良かったのですか?」
「勿論です。イディアさんとアデスさんが食事を楽しんでくれたみたいなので、問題は何もありません」
「お二方が喜んでくれるのは、俺にとっても喜ばしいことですので」
つぎ直したお冷やを『ちびちび』と。
それぞれが水を口に含んで後味を調整しながらに微笑んで語る。
「……私や女神アデスの喜びを貴方も喜んでくれると言うのなら、やはり私は……『貴方と出会えて良かった』」
「……?」
「内心はどうあれ今、『他者の幸福を"呪う"のでなく"祝う"事のできる存在』——そうした"優しさ"を持つ貴方と出会い、こうして互いに親しむ友の間柄となれたのです。それを『良き巡り合わせ』と呼ばずして何と呼びましょうか」
「イディアさん……」
「叶うのなら、我が友。貴方も私と過ごす時の中で心に良いものを感じてくれていたら、嬉しいのですが」
「それは……はい。俺も同様の気持ちです。色々と気に掛けてくれる貴方たちと——『イディアさんと出会えて本当に良かった』と俺も心の底から思っています」
隣に座るイディアという
相手の寄せてくれる親愛の表現を喜び、同じく朗色で、同種の心情を言葉として表した青年——しかし、"秘密"を抱える彼女の胸奥は"痛み"を残す。
信頼や関心を異彩放つ髪の緑や橙、黄の混合色で見せてくれる友の在り方は——"名を隠す者"には『眩し過ぎる』ようにも心で"痛く"思えていた。
「……お浸しや味噌汁のおかわりも遠慮なく言ってくださいね。残り少ないですが、全部食べてもらって大丈夫ですので」
「はい。有難うございます、"我が友"」
(……"友")
(……イディアさんは信用を置いてくれてるみたいだけど……本当の俺は……)
「……」
「——? ……"♪"」
「!」
だが、影の差し掛けた青年へ——美神、花笑み。
それによって心に熱を帯び始めるのを自覚する水の柱は慌て、火照る感情を冷まそうと飲み干すお冷や。
身も心も接近する熱っぽい雰囲気を変えるために思案を巡らし、果てで求める助けはアデス——今となっては安心感さえ覚える見慣れた表情の頼れる師へ、縋り付くように掛ける声。
「……」
「あ、アデスさん。そう言えばなんですけど……」
「……?」
「今日の朝——いえ、今も朝なんですが、さっき川に行った時、大きな"熊"を見ました」
「
「それでその熊は何か、蜂の巣を取ってたんですけど……」
「……」
「何故か蜜を舐めて食べる訳でもなく、"腕に塗り込む"ような動きをしてたんですが、あれは一体……?」
やや強引に師への質疑で話題を転換。
それに対して動じぬまま——弟子の心を知ってか知らずか——やはり表情の読み難い女神は淡々と応じてくれる。
「……恐らくは『塗るような』でなく、実際に『塗っていた』のでしょう。来たる冬、眠りに備えての活動かと」
「冬眠的な……それと蜂蜜を塗ることが関係している?」
「種にもよりますが、雑食の命と言えど厳寒の季節で栄養を確保する事は困難を極めます。それ故、身体に塗り込んだ蜜を乾燥させて固めた後、それを簡易的な保存食として必要な時に舐め溶かす——」
「そのようにして——この世界の熊の一部は生存に必要となる『熱』を確保しているのです」
「……熱」
「……ふむ。まさしく勉強"熱"心な女神も同席する
「……理数系の、お話?」
「……概ねは」
応じてはくれたが、同時に。
講義めいた小難しい話も始まる予感に、眉の表情で後退り。
「? 我が友はそうした分野が苦手なんですか?」
「……はい」
「……女神ルティスは幾つかの数学的知識や思考、理論こそ有してはいるものの——実際の計算は"不得手"としています」
「……」
(……だって、アデスさんの出す問題は変な記号ばっかりで明らかに難しくて、『高校での選択は文系』……とは、言えないし……)
「……ですが、我が弟子。心配せずとも今回は世界の構造について私からの解説が主体となりますので、『複雑な計算を書いて見せよ』とまでは言いません」
「……」
「確と聞いて覚えて頂けたのなら、それで結構ですので……そう身構える必要もない」
「……ちゃんと聞いて、覚えます」
だが抑、尋ねた青年自身——恩師の話や語り口は嫌いではなく。
寧ろ耳に心地良い声を聞こうと、腹を括って意識を左端の方向へ。
「……学びの時間と言う事でしたら、私もご一緒させて頂いても?」
「構いません。寧ろ、彼女にとって女神イディアの存在は理解の助けとなるでしょうから
「了解です」
「でしたら今は、食事の最中でもありますので、手短簡単に概要を——」
そして間もなくに始まった古き女神の解説にルティスとイディアの若者たちは耳を傾け——。
(——……でも、今は"楽しくもある")
物知りアデスの口から語られる世界の話はやはり青年にとって簡単なものではなかったが——けれど、未知への好奇心で気は弾み。
合点のいく表情のイディアとは対照的に眉根を寄せる川水の女神。
『膨張』や『
(……"こんな俺"と仲良くしてくれる方たちがいて、それが嬉しくもあって)
(特に彼女たちへの"感謝"の気持ちで、胸は一杯……——)
都市では少女をはじめとした人間たちと。
今この場ではアデスとイディアという二柱の女神と交流を深める機会を得た青年。
陽光の降り注ぐ中、今では遠くに感じる"日常的な幸福"を噛みしめ——けれど同時に暗鬱とした心の"痛み"が再発する感覚を"女神でもある彼女"は自覚する。
(……だけど——自分は、"女神なんかじゃない")
("元々の俺"は女神ルティスではなくて……だから、それを伝えずに彼女たちと仲を深めることはまるで……騙してるみたいで……)
苦悩し、嫌悪する。
意図したものではなかったとして、『無害の仮面』を被るような現在の自分を。
(自分は……俺は、肯定的に評価されるような存在じゃない)
(……"品のない"ことだって考えてしまうというのに)
鍛錬で接近した師の柔肌や、今まさに隣で座る友の豊満な肉体に目を奪われてしまった経験等を思い出して、常に抱えてきた良心の呵責にもまた、苦しむ。
(……そんな奴が正体を隠して近づいて、剰え仲良くなろうともするなんて、そんなの許される訳が——許されては駄目だ)
(それは相手からすれば本当に怖いことかもしれなくて……やっぱり、こんな俺に信頼を寄せてくれる彼女たちを騙すのは、もう——)
アデスとイディアが問答をする隙間を縫い、下がる目線、最早晴らしきること叶わぬ表情の影は差し。
仮面の下から"溢れ出させて"、"ぶちまけたくなる"感情が青年の内で渦を巻く。
(……だったらいっそのこと、今ここで——)
("全て"を打ち明けて、楽に————)
「——女神ルティス。此処までで質問は?」
「…………あ——すいません。少し『ぼーっ』としててよく聞いてませんでした」
「……」
「……ごめんなさい」
「……許します。私も、口を早め過ぎたかもしれませんので」
「……"大丈夫"ですか? 我が友」
「はい。料理が上手くいって少しだけ浮かれてただけなので、"大丈夫"です」
「……」
虚勢を張り、心を押し込めて笑顔の仮面を被り直す。
親しき女神たちと過ごす中で涙に沈む頻度を少なくしていた青年にとって今の幸福な時間が失われることはやはり、"恐ろしい限り"で。
何度何度と水の刃で短く切っても直ちに元の長さに戻る濡れ烏の黒髪を——人間離れした自分という現実を『
今の孤独な女神に——"支援者の存在"という"温もり"を失う危険を冒すことなど、出来るはずもなかった。
「……女神イディア」
「……なんでしょうか」
「唐突で申し訳ないのですが、確か……食事の終わりに何か言葉を——提供してくれた者に対して"感謝の言葉"を捧げる文化圏もあったと思うのですが」
「それは……はい。細かな対象や言葉に差異あれど、食の終わりに思い祈りを口にする者もいますが……また、どうして?」
「……私の話よりも先ずは時間を区切り、そうした言葉を口にしましょう。今の私にはその程度しかしてやれませんが、やはり感謝を明確に表して伝える事は……他者との良好な関係構築において大切だと——」
「"今"、思いましたので」
「……成る程」
既に女神たちの前で料理の皿は綺麗な物となり、上に残るのは三本の串と中骨が露わになった鮭の残骸が二つ程度。
作りに歪さの見える空の食器の数々、彼女らが料理を完食した事実を整然と示し、時の終わりを宣言するのに丁度良い頃合いを見て——アデスがイディアに提案をした。
『思い悩む者へ、せめて謝意を伝えよう』と。
「? いえ、別にそんな畏まらなくても……」
「——分かりました。女神アデス。私もそのように致したいと心から願います」
(あ、あれ……? イディアさんまで急にどうして……)
「いえ、あの……手間は少なかったので、本当にそんな仰々しく考える必要は——」
「"我が弟子"」
「——は、はい……!」
「どうやら食事の礼節については私や美の女神よりも——貴方の方が良くご存知の様子」
「え……? でも、もしかしたらイディアさんの方が——」
「ですので、捧げる言葉の例を私達に示しては頂けないでしょうか?」
「私と女神イディアはそれに倣いますので、どうか——"貴方の言われて嬉しくに思う言葉"を、お教えください」
「……わ、分かりました」
流れる水の化身でありながら再び師の"もの言わせぬ謎の圧"に流され、承諾での返事。
「では……簡潔ですけど、言いますね?」
「「——」」
青年の合わせる両掌の動作を他の女神たちも真似、こうして食事の時はそのままの流れで終わりを迎える。
「——"ご馳走さまでした"」
「「……ごちそうさまでした」」
そして秋冷の、時季にそぐわぬ暖かな風——女神たち。
強く立派であろうと努め続ける青年へ——師と友。
今は温もりを伝えるだけに留めて、当事者より助力を求められる"その時"を——待ち続ける。
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